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【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第3章 離島編

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第48話 詩の看破


「──ふむ、もしかしたら、十回倒したら倒せるとか、そんな感じなのかな? 色々試してみようか」


 黎明の言葉は軽かったが、その瞳は鋭く喰鹿を見据えていた。


 ゲームでプレイヤーが敵の弱点を探るように、黎明はこれまでの戦いを脳内で高速再生していく。分体を倒した時の感触。本体を両断した時の違和感。そして、復活の瞬間に流れた霊力の流れ。


 全てのパズルのピースが、黎明の頭の中で組み合わさり始めた。



(もし、絶対に死なない能力が相手の能力だったら……探知阻害の魔法なんて使わないよね。そんな狡い真似をするような能力でもないだろうし)



 ずっと、黎明は島全体に張り巡らされた霊力の網を感じ取っている。そして、それは巨大な生命体の血管のように、島の隅々まで行き渡っていた。


 そして、その魔法の拠点は紛れも無いこの場所であった。


 

(もし、何度でも生き返れる能力なら、万が一でも負けがないような力だ。そんな対象が本体を隠すように島に感知阻害はしない)



(なら、万が一があり得るような能力なのかな。絶対に死なない訳じゃない、だからこそこの島に隠れるように居たわけだしね)



(これまで、既に二回倒してる。だが、特に何事もないように復活してたな。もっと十回とか倒せば終わりがあったりするのか。例えば命が十個あるとか?)



(それに最初に供島に来た時、戦う前にペラペラ話してたのは焦ってたのかな。万が一が起こり得るかもしれないから、出来れば戦わずに済ませたいから話してたとか)



 黎明は何食わぬ顔をしながらも、頭の中で思考を巡らせていた。ただ、未だに答えに辿り着く事はできていない。しかし、これで終わるわけにはいかない。





「まぁ、とりあえず只管倒してみようかな」




 黎明の言葉と共に、再び戦いが始まった。





◾️◾️



 黎明は地を蹴り、喰鹿へと迷いなく突進した。しかし、次の瞬間に再び喰鹿は人型から歪な巨大な姿へと変貌する。


 復活をした際は人型であったのに、姿を変えれば一気に大きさは十メートルを超えて体も硬くなる。黎明はその巨体に迷わず刀を大きく振りかぶり、その鋭い一閃を叩きつける。


 喰鹿はそれを何本もある巨大な足で受け止めた。ガギンッ! と重厚感のある音が響き渡る。完全に防御をしたと、喰鹿の気分が高揚する。


 ――しかし、その防御は完全ではなかった。


 刀身が大きな足を浅く裂き、黒い血が弧を描いて宙に飛び散る。


「ッ――」


 喰鹿の双眸が静かな憎悪を帯びて黎明を射抜いた。そして、ゆっくりと確かな意志を込めて――御技を、解き放った。



「影の槍」



 喰鹿の巨体。その影が槍のように鋭く伸びた。そして、黎明に向かって飛んでくる。それを紙一重で黎明は避ける。だが、追尾する能力を併せ持っており、槍は黎明を追いかけてくる。




「追尾性、いいね」


 そう呟きながら、黎明は刀を横薙ぎに振るった。影の槍が甲高い音とともに真っ二つに裂け、霧散する。


 しかし、喰鹿は怯まなかった。一つが砕かれれば次が来る。間髪を容れず、御技が連なって押し寄せてくる。まるで潮のように、止めどなく。


 戦いはやがて二人を島ごと飲み込んでいった。供島の森も、岩場も、浜も――その全てが戦場と化し、激突のたびに大気が軋み、地が揺れる。


 どれほどの時が流れたのか、もはや黎明にはわからなかった。


 ただ、刀を振るい、躱し、踏み込む。


 その繰り返しだけが、世界の全てだった。


 そして――その均衡とも言える対峙にすぐ終わりが訪れた。黎明の刀が、巨体な喰鹿に対し斬撃を繰り出す。それはまるで空間すら両断するかのような一刀。


 喰鹿の体から力が抜け、ゆっくりと崩れ落ちていく。やがてその輪郭がほつれ始め、黒い霧となって静かに溶けていった。





「……ふむ、三回目」



 黎明は静かに呟いた。刀を下げたまま、視線を前へ向け続ける。しかし、数秒も経たぬうちに――黒い霧が再び集まり、喰鹿の輪郭が夜の中に結ばれていった。



「……まだです」

「へぇ、復活をする際は巨体じゃなくて、その人型サイズに戻るんだね。毎回変身するの面倒じゃない?」

「……ここまでの強さだとは……しかし、わたしはいくら倒されても無敵です。いつまでその余裕が続くでしょうか」


 喰鹿の声はかすれていた。それでも、その眼差しに宿る光は消えていない。黎明を射抜くように静かに、しかし確かに。


 戦いが再び始まった。


 しかし、今度は短かった。黎明の適応力は常人の比ではない。度重なる打ち合いにより、既に相手の動きを頭に写し終えている。喰鹿の動きを読み、捌き、追い詰めた。まさに圧倒的だった。



 再び刀が喰鹿の胸を貫く。今度は歪な巨体になる前に、黎明は相手を捉える。



「……四回目」



 ただ数を刻む。それだけだった。その言葉と共に喰鹿が霧に還り、そして、また戻ってくる。



「……くっ」



 今度の喰鹿の息は明らかに乱れていた。膝がわずかに揺れている。


 しかし、疲労があるというよりも精神的な動揺が大きいと言う印象だった。そして、黎明は疲労こそないが未だ手探り状態であった。



 だが、偶然にも互いに抱く感想は僅かに似ていた。


 ――埒が明かない。



 黎明の頭の中で、思考が静かに回り始める。こちらを倒しても、何かが生きている限り奴は戻ってくる。ならば、全てを同時に断つしかない。だが――どうやって。



(うーん、埒が明かない。四回倒したけど。このままやっても同じな気がする。相手の霊力が僅かに減ってるけど、これって、効果的と言えるのかな。有限の命ならもうちょっとあっちが焦っても良さそうだけど。もしかして違うのかな?)




(まぁ、もうちょっと戦って探っていこうかな)






──黎明もまた、霊力には圧倒的な余裕があった。



 そして、徐々にだが彼の体の動きも良くなっていく。そもそもスロースターターの黎明が本気に至るまで。



 あと数分ほどの時間があった。ただ、その数分後に大きな動きがあるなど、怪異も黎明もまだ知らなかった。






◾️◾️






 一方、饗島では激しい戦闘が繰り広げられていた。


 志乃、詩、蓮、紅の四人が、喰鹿と戦っていた。少し離れた場所では、祈が体力を回復させるために休んでいた。


「くっ……」


 志乃は炎を放った。しかし、喰鹿はそれを軽々と避ける。


 決着は中々付かなかった。黎明とは違い、彼らの霊力は無限ではない。出し惜しみや、防御や回復に霊力を回し、攻めに回せないことも多かった。


 だからこそ、長引いていた。



 しかし、何よりも重要だったのは彼等が強かったことが原因である。志乃、詩、蓮、紅、この四人は紛れもなく人間の領域から外れようとしていた。


 黎明と出会い、彼等の実力は飛躍的に上がっていた。それ故に分体とは言え喰鹿との決着がすぐさまつかなかった。


 だからこそ、喰鹿も驚きを隠せない。ここまで戦える人間が急に複数現れたことに。


「しつこいですね、人間」



(ここまで戦える人間が、どうしてこうも急に複数現れた? 人間に何が起こっていると言うのですか……?)



「経験値よこせッ!」


 蓮が五行の術を発動した。すでに彼は狩衣も言霊も捨て去り、神秘を具現化させる領域へと至っていた。



炎宝(フレアボム)ッ!」



 蓮の掌から凝縮された炎の球体が放たれた。それは空中で一瞬膨張し、次の瞬間、喰鹿に向かって爆発的に広がった。


 その炎が喰鹿を包む。まるで獄炎のように激しかった。炎は喰鹿を這い回り、逃げ場を与えない。


 喰鹿は炎から逃れようと動くが、蓮の炎は執拗に食らいつき、決して離れない。


「くっ……ッ」


 喰鹿が炎を振り払おうとした、その瞬間。紅が術を発動させた。



(バインド)ッ!」



 霊力で編まれた鎖が光の糸となって分体に絡みついた。


 紅の術が分体を縛る。見えない鎖が、分体の動きを完全に封じる。腕が、足が、まるで巨大な万力で締め付けられたように固定された。



「鬱陶しい……ッ」


 喰鹿が歯を食いしばって呻いた。僅か一秒であるが、喰鹿の動きを捉えた彼女の陰陽術。そして、その隙を詩は見逃さなかった。


「今だ」


 詩の刀が空気を裂いて一閃した。刀身には赤い炎が纏わりついている。その刀は黎明が術を宿し、彼女に渡した逸品。


 それを見た瞬間、喰鹿もあれはこの中で最も殺傷能力が高い武具であると気づく。しかし、それに気づくのが遅かった。炎を纏った刃が喰鹿の腕を容赦なく切り裂く。

 

 刀が通過した軌跡には炎の尾が残り、傷口から黒い血が噴き出す。


「なるほど、その武具に最も注意せねばならないようですね!」


 喰鹿の腕がすぐさま再生をしようとする。腕の再生に喰鹿が僅かな集中力を割いた時、



 ──志乃が前に出た。


 


 彼女の両手には、これまでで最大規模の炎が揺らめいていた。それは黎明が彼女を、彼女の母親から救う時に見せた。



 圧倒的な炎の嵐の片鱗。



「黎明さん……わたしも、頑張らないと」



 志乃はそう呟いた。そして、喰鹿の付近をめがけて、全霊力を込めた炎を解き放った。



火浄界(フレイムテンペスト)ッ!」



 志乃の叫びと共に、炎の嵐が荒れ狂った。


 それは、もはや炎というよりも、破壊の奔流だった。全てを焼き尽くす、絶対的な力。炎が巨大な渦を巻き、分体を中心に天高く立ち上る。


 周囲の木々が一瞬で燃え上がり、地面が焦げて黒く変色し、空気そのものが蒸発していく。


 その威力は志乃自身すら驚愕するほどだった。



(これなら……倒せる、かな?)



 志乃の瞳には自らが生み出した炎の嵐が映っていた。しかし、同時に黎明ほどの威力にはなってないと気づく。




(黎明さんが術を使った時、威力はこんなんじゃなかった。倒し切れるといいけど……)



 彼女の心境など知らず、喰鹿は自らに纏わされた炎の嵐に苦行の表情を浮かべる。咄嗟に脱出をしようとするがそれは不可能だった。




「あああああああッ!」



 志乃の炎が喰鹿を燃やし尽くす。その炎の嵐は天へと伸びていく。


 そして、喰鹿はまるで糸の切れた人形のように力なく崩れ落ちた。その体は徐々に黒い霧へと変化していく。


 そのまま黒い霧は風に吹かれて完全に消え去った。すると、戦場に静寂が訪れる。


「……お、終わった?」


 志乃の呟きは安堵と疲労が入り混じっていた。微かに体の力が緩む。だが、蓮はすぐさま違和感に気づいた。




「──経験値があまりに少ねぇ、あれぐらいならもっとあるはずだ。ってことは」




 ズゥンという重い音が響いた。四人は一斉に振り返った。そこには再び喰鹿が立っていた。


 傷一つない、完全な状態で。



「……驚きました。まさか、人間がここまでとは。しかし、まだ、終わりではありませんよ」



 喰鹿はそう言って四人を見た。ただ、復活をするかもしれないとは、双子は黎明から事前に復活の可能性を聞いていた。志乃や詩は夜に復活する姿を見ている。


 だからこそ、完全に力を緩むことはせず、すぐさま全員が意識を切り替える。



「……」



 ──その中でも詩は大きな違和感を持ちつつあった。





(昨日もそうだが、あっさりと復活をした。ただ、この復活には何らかのカラクリがあると言うのが、黎明の考え。それには私も同意だ)



(何があっても復活をすると言う能力は、こいつの行動とあっていない。ここまで完全無欠なら、昨日の黎明から逃げる必要もなし。だが、逃げた。それは穴がある能力であることを示している)


(条件付きの復活能力。黎明はまだ供島に行って戻ってこない。なら……ここは我々だけで解決をするべきか。もし、供島に何もなかったならすぐに戻ってくるはずだが戻ってこないと言う事は、何かしらの怪異がいたと想像出来るしな)



(いつまでも黎明に頼ってばかりでは、我が身も廃る)



 


 詩の中では喰鹿は【条件付きの完全蘇生】を持つと言う認識で固まっていた。それは、完全無欠ではない能力であり、どこかに穴があるとも想像をしている。



 だからこそ、その条件を探りたいと思っていた。





(ただ、黎明のようにポンポン倒したりできないのが我々の欠点だな。もっと他に方法があればいいがな)





「全員、聞け。先ほども言ったがこいつは倒しても蘇ってくる。だが、完全無欠ではないと言うのが私と黎明の推測だ。命が有限か、それとも倒す時に条件があるのか、そもそもこれが分体で本体を倒せばいいのか。それは分からん。だが、何かしらがある。探っていくぞ」

「残念ですが、それは叶いませんよ。わたしは完全無欠の神。なのですから」


 



 その時だった。


 戦場の端で休んでいた祈の脳裏に、ある光景が蘇った。


 ──常闇の井戸。


 あの暗闇の中で、必死に逃げ延びた先で見つけた、古びた書物。安倍晴明が記したという秘伝書。


 あの時は、ただ逃げることで精一杯だった。書物の内容もほとんど読めていない。だが、確かにあそこには何かが書かれていた。


 喰鹿について。この怪異の秘密について。


(もしかしたら……何か、ヒントがあるかもしれない)


 祈は慌てて書物を再び開く。手が震える。焦りで指が滑り、ページをめくるのにも手間取る。


 だが、諦めなかった。


 何か少しでも分かれば。何か少しでも、この状況を打開する手がかりが見つかれば。


 そんな一縷の望みを抱きながら、祈は書物を見つめた。そして、再びページを捲る。


 |此の書、安倍晴明之を記す。《このしょ、あべのせいめいこれをしるす。》喰鹿を封じ奉りし時、ばみじかをふうじたてまつりしとき、|若し封印解けなば、《もしふういんとけなば、》|後世の者の為、《こうせいのもののため、》|ここに秘密を記し置くここにひみつをしるしおくなり


 祈の目が見開かれた。もしかして、これが王手になるかもしれないと彼女の頭の中によぎる。



「詩さん、これッ!」



 祈の叫びが戦場に響いた。詩が振り返る。祈は書物を手に走り出した。息を切らしながら、詩の元へと駆け寄る。


「常闇の井戸で見つけた、安倍晴明の書です。この中に……この怪異の秘密が書いてあるかもしれません!」


 祈は書物を詩に差し出した。


「何だこれは……? 著者が安倍晴明……だと?」

 


 詩の目が次のページへと移る。一度詩は後ろに下がり、志乃などに守ってもらいながら書物を眺める。


『喰鹿は、美しい人間を好む怪異である。特に、霊力を持つ美しい人間を食らうことで、自らの霊格を上げる』


(これは……確かに人間の好みに偏りがある怪異はいる。だとすると、白守祈も喰鹿に目をつけられていたと言う事になるか。この子は明らかに顔が整っているからな)



(……この子だけが怪異を倒せるのも何か関係があるのか? そもそもそこに関しても疑問なのだ。冷静に考えれば分かるが、黎明以外に怪異を素で倒せる人間は存在するわけがない。それにこの子には黎明ほどの爆発力を感じない。そして、この島はこの怪異に支配されていた、となると何か他の要因がありそうだな)





 詩は書物を読んでこれまでの情報をまとめていた。そして、その中で何か復活のヒントがないかと探りながらも、祈の秘密も解析を進める。


 そして、次のページ。


『喰鹿には、二つの心臓がある。本体と分体。両方を同時に封印をしなければ、復活をしてしまう』



 詩の呼吸が止まった。


(……二つの心臓)


 詩の頭の中でパズルのピースが音を立てて嵌まっていく。何度倒しても復活する理由。そして、黎明が供島から戻ってこない理由。何かが、彼女の中で繋がる感覚があった。





「志乃、蓮、紅、その怪異……喰鹿(ばみじか)についてだ」





 現在、喰鹿(ばみじか)と応戦をしている三人。その三人に情報を伝えるように彼女は声を上げて話し始めた。


 



「……これは安倍晴明が書いた書物のようだが、どうやら二つの命があると書かれている。そして、その二つを同時に封印しなければ封印が不可能であると」





──詩の言葉にようやく、明確な動揺を見せたのは喰鹿(ばみじか)であった。





「……その書物、なにやら、相当忌々しい事が書いてあるようですね」

「これは、文字通りお前の心臓を射抜く矢のようだな。その反応を見るに、この書に書いてあることは事実でもあるようだし……さらに、こんなのがあるとは知らなかったようだが。ただ、当然か、この島を支配するお前がこんなのを残すわけがない」

「えぇ、その通り。全て消した。消していたと思っていたのですが、残っていたとは。常闇の井戸、あの場所だけはワタシも手下も手を出せなかった。まさか、まさかそこにそんな書があるとは。それでも万一を考え、禁忌扱いにしていたというのに……ッ!」






 喰鹿(ばみじか)は平安時代に封印され、その後に復活をした。そこからは島を支配していた存在。



 だからこそ、自身にまつわる不利益な情報を全て消していた。しかし、その書物だけは安倍晴明によって、巧妙に隠されており喰鹿(ばみじか)は気づくことが出来なかった。




「まさか、安倍晴明がここまで邪魔をしてくる人間だとは思いもしませんでしたが」

「流石は陰陽の祖。そこの二人の祖先だけはある」

「……まさか、どうりで面影があるようですね」




 安倍蓮、安倍紅を見て喰鹿(ばみじか)は違和感の払拭をした。どこかで会ったことが、見たことある気がしていたのだ。


 それが祖先とわかり、明確な殺意を向ける。





「話を続けるぞ。ここまで明確に書かれているなら、勝利条件は明確だ。お前は心臓が二つあり、それぞれを同時に潰せば勝てると言うことだ。そして、一個は目の前に、もう一つは禁忌と呼ばれていた供島にある」

「……」

「黎明でも潰しきれないわけだ。おそらく、黎明が未だに供島から戻ってこないのも、心臓が一つ残ってしまっており何度も復活をするからだろう」

「……正解、お見事と言っておきましょう」

「そして、これは心臓とは関係ないがお前は……白守祈に無理やり怪異を倒させていたな?」





 僅かな静寂があった。互いに、この瞬間に攻撃を繰り出す事はしていない。しかし、喰鹿(ばみじか)にとってすればここまでで最も大きい攻撃であった。





「ほう?」

「話をしていて、気づいた。白守祈には悪いが、君には怪異を倒せるような才能を感じなかった。とは言っても素の状態でと言う意味だ。黎明は生まれながらにして怪異を倒すことができた異端児だった」

「……なるほど、生まれながらの強者でしたか。益々人間とは思えません」

「これまで人間の中から出てこなかった規格外の存在、それが黎明だった。その黎明と同じ人間にしてはあまりに小さいと私は思ったんだ。そして、その黎明の発言、【白守祈を目の前にした怪異は動きが極端に悪くなる】らしい」





 それは、黎明が初めてこの島で怪異と白守祈の戦闘を見た時の感想だった。無論、それを忘れるほどに彼女は愚かではない。黎明は島に入った瞬間に、結界に気づいていたほどだ。


 詩は、誰よりも彼を信用をしている。





「怪異は消失した瞬間、最も近くの対象に霊力を移す。お前は目をつけていた対象者に怪異を倒させ、霊力を蓄積させることを目的としているわけだ」

「いやはや、驚きました。そこまで書いてあるのですか? その書物には?」

「いや、これにはあくまでも美形を好む偏食と書いてるだけだ。だが、黎明の発言と祈と黎明の差異を見ていれば想像ができる。怪異の中には特殊な儀式を済ませた人間を食うパターンもあるしな。予想は可能だ。お前は霊力を蓄積した人間を食べるのが好みなのだろう?」




 その場にいる全員が、詩の発言を聞いていた。唯一、その発言に返すのは喰鹿(ばみじか)のみ。


 ただ、喰鹿(ばみじか)は驚きを抱いていた。まさか、ここまで看破されるとは思いもしなかったと言う表情をしている。




「まさかまさかまさか、ここまでバレてしまうとは。そこまでバレているなら、私から聞かせてもらいましょう。なぜ、私が白守様と呼ばれているかもわかりますか」

「大方はな。お前は人間に信仰させてそれによって霊格を上げようとしているのだろう。だからこそ、派手な虐殺もこれまでしなかったのだろう。人間が消えてはそもそも信仰はなし。食う人間も消えるしな」

「……それも推測ですか? それとも本に?」

「推測だな。ただ、こう言う動きをする怪異が居たとは聞いたことがある。最近、火の鳥と呼ばれる信仰に詳しい神と話をしたのでな」




 影森で出会った火の鳥様、スザク。スザクから、詩は信仰を利用する怪異が居ると聞いたことがあった。


 その知識が、この推論を導き出していた。




「ははは、ここまでバレると愉快ですね。いやはや、これがバレてしまえば私は終わりでしょう……ただ、あなた方を殺せば全て問題ないでしょう。あの銀髪の少年にさえ真実が伝わらなければね」

「確かにな。だが、伝えてしまえば私達の勝ちだ」


喰鹿は戦いの構えに入った。黎明に情報を伝えるため、詩は式神を作る準備を始め、周りは詩を守る布陣に入った。互いの勝利条件がこの瞬間に明確になった。



 黎明に情報を伝える、それができれば詩達の勝利。


 黎明に情報を伝えられなければ、喰鹿(ばみじか)の勝利。



 

──こうして、最後の戦いが始まる。

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― 新着の感想 ―
黎明君はいい狩場だと思ってタイムアタックしてそう… まぁ、同時撃破が勝利条件といっても、一方は瞬殺されるから阿部姉弟のタイミング次第だよね… 伝令?情報共有?勇者にそんなもの要りますか?
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