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【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第3章 離島編

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第46話 絶望の果てに

 透は島を走り回っていた。


 なぜなら、黎明と別れた後、彼は娘を探していたからである。


 瞳月は買い物に行ったきりで会っていない。いつもならば放っておくところであった。しかし、島の異変が起きたため、すぐに見つけなくてはならなくなっている状況である。


(瞳月……どこにいる)


 透は必死に探した。


 商店街、住宅街、海岸沿い。しかし、瞳月の姿はなかった。だがそれで諦めるわけにはいかない。



 妻を失ったあの日の絶望を、もう二度と繰り返したくなかった。何よりも、大事な娘が死ぬなんて、そんなことは耐えられない。



──瞳月、お前だけは



 我を失うくらい、彼は走った。自分の霊力を尋常ではないほどに練り上げ、体を強化する。


 あまりに強化しすぎて、彼の体からは所々から血が溢れている。急激な身体能力の変化に、体がついていかないのである。



 しかし、それすらも彼は気づかずに走り続ける。



 ──その時、遠くから悲鳴が聞こえた。




「きゃあああッ!」



 それは、瞳月の声だった。



「瞳月ッ!」



 透は声のする方へと走った。




 ──路地裏。そこには瞳月が立っていた。


 だが、追い込まれるように彼女の周りを、黒く濁った目をした島民たちが囲んでいた。


 老人、主婦、子供。まるで、獲物を追い詰める獣の群れのように全員がゆっくりと、しかし確実に瞳月へと迫っていく。


「や、やめて……」


 震える足のまま、瞳月は後ずさった。そして、背中が壁に当たる。もう、これ以上、下がれない。


 逃げ場はない。


 だが、そこに割り込むように透が現れる。


「瞳月ッ!」


 酷く焦ったような透の声が、路地裏に響いた。


 次の瞬間、透は娘の前に立った。そして、一切の躊躇なく動いた。そして、最も近くにいた老人の胸に拳を叩き込む。


 ドンッという重い音と共に、老人の体が、まるで紙くずのように吹き飛んだ。そのまま後方へと吹き飛び、壁に激突する。


 しかし、それだけでは透は止まらない。次の主婦が手を伸ばしてきた瞬間、その足を払った。


 ドサッという音と共に、主婦が地面に崩れ落ちる。だが、操られている島民もこれでは終わらない。

 

 そして、今度は襲いかかってきた若い男の腕を掴み、一瞬で体勢を崩し、投げ飛ばした。


 男の体が宙を舞い、他の島民に激突する。


 バシッ、ドサッ、ドンッ──


 打撃音がリズミカルに連続して響く。


 透の動きは速く、正確だった。無駄な動きは一切ない。まるで、計算し尽くされた舞のように、一人一人を確実に無力化していく。


 かつて天才と呼ばれた男の片鱗が、そこには確かにあった。次々と島民たちが地面に倒れていく。


 やがて、全ての島民が無力化された。透の周囲には倒れた島民たちだけが残された。


「……大丈夫か」



 透は荒い呼吸を整えながら、娘に手を差し伸べた。彼の手は酷く震えていた。ずっと後先を考えずに霊力を使い続けていた疲労が体に現れていた。


 顔色は悪く、額からは汗がしたたり落ちている。




「ぱ、パパ……?」



 

──瞳月は父親の疲弊し切った姿に心配をしていたが、それ以上にその強さに困惑をしていた。



 もう、おっさんとも言える年頃ではあるはずなのに。黎明を除く、同年代のどの男子よりも速く、鋭かった。

 


 それに、透から溢れる霊力は今まで見たことがないほどに溢れている。


 全身から立ち登り、それが耐えず溢れ続けている。何より、彼女の瞳にも今までにないほどに霊力の数値が表示されていた。




(パパ……霊力が【123】……ッ? 前まで79じゃ……? 急にどうしてこんなに上がったの?)




 霊力の数値は、そう簡単に変動するものではない。まして、79から123への跳躍など、通常ならば何年もの修行を要する。


 それが、たった数時間でここまで上がるのは尋常ではない。


 例外なのは黎明、詩、志乃、蓮、紅は怪異を倒したことにより、急激に霊力が上がっていた。


 それは祈も同じような状況だった。怪異を倒し、それによって倒した怪異から、霊力を吸収をしていた。



 ──だが、透の場合は違った。



 怪異を倒した実績も近くで倒した人間もいない。だというのに、彼の霊力は急激に上がっていた。



 そんなことはありえない。ありえないはずだった。だが、瞳月の瞳に映る数値は確かに【123】を示していた。


 それは、紛れもない事実だった。


(何が……何が起きたの、パパに)


 瞳月は震える声で心の中でそう問いかけた。



「パパ、あ、ありがとう」

「あぁ……」

「え、えっと、なんか、いつも霊力が違くない……?」

「……あぁ、そうかもな。《《あいつの真似をしたからか》》」




 



 ──透は、先ほど黎明が島民の呪いを解く様子を見ていた。


 あの動き。あの霊力の使い方。それを透は記憶していた。


 そして、それを模倣しようとしていた。



 無論、そう簡単に黎明の霊力操作を真似できるわけがない。黎明は無駄(ロス)を最小限に、出力を最大限に叩き出す、至高の領域の技術になっている。



 巡行(ジュンコウ)と呼ばれる霊力を体に満ち渡らせる技術に長けているのだ。



 それを完全に真似などできない。だが、【天才】と言われている彼には、その技術の欠片くらいは掴むことができていた。



 実は彼の霊力の総量は自らが把握しているよりも、もっと多かったのだった。しかし、それを最大出力にする方法を彼は知らなかった。



 彼よりも霊力が多い陰陽師もそう多くなく、技術に長けている存在などもっといない。



 だが今【天才】よりもはるか上位存在である【勇者】の霊力操作を目撃した。



──彼はそれを見て学んだ。



(あいつは、霊力をこう流して……いた。だが、これ以上に荒々しいのに、一瞬で出力を出しつつ、完璧に制御するとか。一体……どれほどの鍛錬があったんだ)



 透は黎明の動きを思い出しながら、自分の霊力を制御した。

 


(……咄嗟に瞳月を探すために、無理やり自分が知る中で最も強い人間の身体能力を再現したが)



(体が震えている……)



(あいつはオレの霊力よりも総量は何百、何千倍だろう。それを制御するとなると難易度は跳ね上がる)



(天才とか、そんな次元じゃねぇ。あいつを表す言葉が思いつかねぇな。もしオレがあの量の制御を誤れば体がちぎれるだろう)




──肩で息をしながら、彼はその場からゆっくりと離れ始めた。




 黎明の真似事は、それだけで彼の体に尋常ではない負担をかけている。ここから先、怪異が出てきたりすれば、まともに戦えるかどうかわからないのだ。



 それ故に彼はその場から、すぐさま離れる。



 ──だが、その最悪のタイミングで【怪異】が現れた。



 ズゥンという重い音が、大地を揺るがした。


 それは単なる足音ではなかった。まるで、巨大な何かが地中から這い上がってくるような、不吉な振動。


 地面が震え、路地の石畳に亀裂が走る。


 そして、闇の奥からそれは現れた。


 ──紛れもない怪異。


 操られている島民とは次元が違う。本物の化け物。存在そのものが、空気を重くする。


 全身が黒く、まるで闇を纏ったかのようだった。顔は鹿のようでありながら、体は人型。その歪な姿は一目見ただけで不気味さを感じさせる。


 その見た目は喰鹿(ばみじか)に近いと言えるだろう。いや、喰鹿の一部と言うべきか。

 

 しかし、もっと端的に言えば喰鹿(ばみじか)の影のような存在とも言えるだろう。


 ──霊格は、穢れの中位。


 これは喰鹿(ばみじか)が生み出した怪異の手下。分体とも言えないほどの強さしか持たない。影のようなもの。



 喰鹿・影(ばみじか・かげ)と言えるだろう。



 しかし、影とは言っても怪異は怪異。人間にどうこうできる存在ではない。対面した瞬間に彼はそう感じてしまった。




「……ッ」



 透は息を飲んだ。この存在は本物の怪異。封印するしかない。倒すことなどできない。


「瞳月、逃げろ」



 透は娘にそう言った。彼女の方を見る暇もない。一瞬でも目を離せば死が待っているからだ。



「で、でも……」

「いいから、逃げろッ!」



 透は叫んだ。そして、その言葉と同時に瞳月は父の言葉に従って走り出した。しかし、怪異はそんな逃げる瞳月を狙っていた。


 怪異の口から、黒い弾丸のようなものが発射された。それは、真っ直ぐ吸い込まれるように瞳月の肩に命中した。




「きゃあああッ!」

「瞳月ッ!」

 


 命中と同時に瞳月が倒れる。思わず娘に駆け寄る透だが、瞳月の肩から血が流れているのが目に入る。


 それは止まることがなく、どくどくとゆっくりとだが溢れていく。その血が徐々に死に近づいてることを彼は肌で悟った。




(……瞳月が)



 透の脳裏に、妻の姿が浮かんだ。



 七年前。妻が怪異に殺された。自分が行ったときには間に合わず、ただ死体となってしまった自身の妻。


 そして、今。娘の姿が妻に重なる。



(……このままでいいのか)



(このまま、また大事な人を失うのか)

 


「……クッソが」


 透は身体を強化し、殴りかかる。狩衣を着ていない彼は陰陽術を発動することはできない。それ故に純粋な強化と近接戦闘しかできないのだ。



 限界まで体を強化し、恐怖を押し殺して彼は向かっていく。これは天才と言われた彼の全身全霊の攻撃だ。



「くらえッ!」



 しかし、怪異には効かなかった。拳が怪異の体に当たる。だが、怪異は平然としていた。



「……くそッ」



 そのまま怪異の、腕が鞭のように回り彼の体に激突する。咄嗟に腹に向かってきたのを腕で受け止めたが。


 

 骨が砕けるような鈍い音が響き、数メートル吹き飛んだ。防御をしたはずなのに、まるで防いだとは言えないほどのダメージが体へと走る。



(こちらの攻撃は無下にされ、逆に怪異の攻撃は致命打となるか……ははは、こんなの、どうやって勝てば、いいんだよ)



 透は歯を食いしばった。ふと、頭の中に世界の真理がよぎる──




 ──人間は、怪異には勝てない。

 




 それは透の常識でもあった。妻を失ったあの日から、それだけがずっと心に残っている。



(やっぱ、無理だよな。オレじゃ)



 だが、その時。



 再び、透の脳裏に黎明の姿が蘇った。




 ──圧倒的で絶対的。何もかもを置いてくかのような圧倒的な自由を併せ持つ力。



 透はそんな黎明の姿を思い浮かべていた。死にゆく間際、走馬灯で最後に見たのは妻でも、娘でもなく、会って間もない少年であることに彼は驚いていた。


 だが、もう驚きを噛み締める余裕もなかった。



 ただ、純粋にその姿を思い浮かべ問いを自分へと向ける。




(……自由。オレは、何に縛られている)


 

 そんな常識に、縛られている。ずっと頭の中では勝てない勝てないと自分に彼は言い聞かせている。



(おい、勝てないのに。何で、オレは立ち上がってるんだ)



 もう、自分でも訳がわからないにも関わらず……透は立ち上がった。


 だが、そんな彼の意思をへし折るように……怪異が、透に向かって黒い弾丸を放った。


 それは、透の腹部に命中した。



「ぐ……ッ」



 鈍い声と共に透は、血を吐いた。徐々に体が、重い。そして、視界が、暗くなっていく。




──重くなっていく瞼、しかし、微かに見えた。娘が自身の元に駆け寄る姿が。




「ぱ、パパ」



 彼女も肩を押さえながらも、父の元に駆け寄る。怪異の弾丸によって、撃たれた肩からは絶えず血が流れ続けている。


 このままでは、両方とも死は免れないだろう。



(あぁ、怖い、娘を失うのが。でも、勝てない、それが世界の真理なんだ、怪異に勝てた陰陽師も今まで存在しなかった。だから、このままオレ達は死んでいく)



(なんで、なんでこんな目に遭うんだよ。オレが、オレ達家族が何をしたって)




 薄れていく意識の中で、彼の心は様々な感情で満たされていた。だが、闇に沈む意識の直前。



 もう一度、黎明の姿が巡る。これは走馬灯。死にゆくまでに死を回避する方法を彼が無意識に探していたのだ。



 そして、その答えは──



──圧倒的な自由。ただ、強くなりたいと言う純粋な願い。






《《覚醒は、唐突だった。》》






 透は血を流しながらも、立っていた。そして、黎明の姿を思い出していた。



 ──彼は欲していた。



 彼は自らの本当に欲しいものを理解していた。人間、最後の最後には、自分の気持ちに正直になれるものである。


 彼自身も意外に思ったが、最後にほしかったのは、自分の身の安全でも、娘の安全でもなかった。



 彼が欲しかったのは──





(オレは……オレはあの頃のオレに、戻りたかった。自分を天才と心の底から思い、出来ないことなどないのだと、本気で思っていた自分)



(その姿を妻にずっと見てて欲しかった。ただ、その姿をかっこいいと言ってくれたから、そんなオレで居たかったんだ)



 あの圧倒的な強さ。あの自由。全てを壊すほどの自由を黎明は持っていた。




(オレも、あのような自分に戻りたい)



 心の底から、腹の底からの願いを、彼はついに掴んだのだった。


 ーーその瞬間


 彼は再び回帰していた。


 【天才】へと。



 霊力が溢れ出す。それは、かつてないほどの量だった。それは彼の身に内包してる全ての霊力だった。




 全ての霊力を、自らの身体の強化に注ぐ。




 霊力で身体を強化する際、限界を超えると体が拒絶反応を起こす。血が滲み出し、皮膚が裂け、極限まで暴走すれば、最後は死に至る。


 それでも彼は限界を超えて霊力を注ぐことを、微塵も躊躇しなかった。


 その理由はただ一つ。彼は己を【天才】だと定義したからだ。



「……ッ」



 急激にお湯が沸騰したように溢れた霊力。それに怪異が、驚いたように後ずさった。


 しかし、反対に透は怪異を恐れていなかった。


 むしろ、怪異を倒すことだけを考えていた。もう、彼は全てをその一瞬に費やしていたからだ。


 もう、死なば諸共の精神だ。だから、怪異は霊力を吸えなかった。


 それどころか、怪異の方が透の霊力に圧倒されていた。


「……こう、だったよなぁ」



 透は呟いた。黎明の戦う姿を思い出していた。あの動き。あの霊力の使い方。全てが、透の目に焼き付いていた。体にも、脳裏にも、魂にも、それほどまでに黎明の姿は彼に残っている。


 透の力は黎明とは比べるほどの次元ではない。醜悪な劣化版ではあるが、透の才能ならば、欠片程度は再現が可能だった。


 全てを注いだ体のまま透は、地面を蹴った。


 次の瞬間、透の体が消えた。まるで瞬間移動のように、怪異の懐に入り込む。


 そして、全霊力を込めた拳を叩き込んだ。



 鉄砲玉のような爆発音が響いた。彼の拳により、怪異の体が真っ二つに裂けた。黒い血が、辺り一面に飛び散る。


 怪異の体がゆっくりと、地面に崩れ落ちていった。


 そして……


 黒い霧となって、少しずつ、少しずつ消えていき……。


 ついには、何もなくなった。完全な静寂が訪れた。



 五秒たち、十秒たっても、何も、起きなかった。



 そう、透の手により……


 

 怪異は、倒されたのだった。



「……あ、おい、倒した、のか?」




 透は呟いた。しかし、自分でやったことが、本当に自分でしたかどうか理解がない、実感が湧いてないようだ。なぜなら、あり得ないのだ。


 人間が怪異を倒した。封印ではなく、本当の意味で。



「は、ま、まじかよ……オレってやっぱ、天才だったじゃ……ねぇか」



 透はそれを成し遂げた。だが、その瞬間に透の体が崩れ落ちた。



 それは、自らの一撃に全てを集約した代償だった。分不相応にも、黎明の力を再現しようとした。



 もう、立つ力もない。残っているはずがないのだ。



「ぱ、パパッ!」



 大きな声をあげて瞳月が駆け寄った。しかし、彼女も肩から血を流し続けている。顔色は悪く、今にも倒れそうだった。



「だ、大丈夫……?」

「……ああ」

「あり、がとうね。ぱぱ、かっこよかった」

「……そうか。それなら……」



 しかし、二人とも限界だった。疲労と失血で、意識が遠のいていく。



 その時だった。


   ズサリ。


 ──再び、重い足音が響いた。



 路地の奥から、また一体、怪異が現れた。


   ズサリ、ズサリ、ズサリ、ズサリ。


 いや、一体ではない。五体だ。


 全てが先ほどと同じ喰鹿・影(ばみじか・かげ)。五体の怪異が、二人に向かってゆっくりと歩いてくる。



(……嘘だろ)



 今度こそ、透は絶望した。



 もう、戦う力は残っていない。しかも、自らの全てを懸けて、ようやく一体を倒したのに。


 今度はそれが、五体も存在してる。これは、悪運もここまでかと、彼はようやく諦め始めた。


 五体の怪異が、二人の目の前まで迫った。


 そして、一斉に口を開いた。黒い弾丸が、今にも発射されようとしている。



 その瞬間──



 ──風が吹いた。


 いや、風ではない。何かが、超高速で移動した痕跡だ。ふと気づくと、五体の怪異の間に、一人の少年が立っていた。


 白銀の髪。赤と白の和服。




 気づいた時には、もうそこにいた。




「あ、おじさん。随分、派手にやったね」



 唐突に現れた黎明は、にこにこと笑った。本当にのほほんとした顔に一瞬だけ、毒気を抜かれた二人。


 しかし、そんな空気は一瞬で霧散する。なぜなら、黎明が一瞬で、戦況をひっくり返したからだ。




──まさに、人外。理解の外側に存在する、埒外の強さを、改めて彼らは目撃する。



 一体目。黎明の蹴りが、怪異の頭部を粉砕する。怪異の体が砕け散り、黒い霧となって消えた。


 二体目。黎明の体が回転し、その勢いのままに拳を叩き込む。怪異の胴体が陥没し、そのまま崩れ落ちた。


 三体目。黎明の手刀が、一閃。怪異の体が真っ二つに裂け、地面に崩れ落ちる。


 四体目。黎明の肘打ちが、怪異の胸部に深く沈み込む。怪異が仰け反り、そのまま地面に叩きつけられた。


 五体目。黎明の膝蹴りが、怪異の顔面を捉える。怪異の頭部が粉々に砕け、体が崩壊した。



 それは、わずか三秒の出来事だった。


 五体の怪異が、全て一瞬のうちに黎明の体一つで砕かれた。その姿にもう、人間の概念など当てはまらない。


 そして、黎明は何事もなかったかのように立っている。



「……は」



 それを見た透は、乾いた笑みを浮かべた。



(なんだよ、これ。オレが必死で倒した怪異を、天才だぞ、オレは……)



(オレの偉業は、こいつからすれば一秒以下で終わることかよ)



(は、はは。笑えねぇ。あぁ、クソ、舐めんな、オレは天才だぞ。オレだってな、まだまだ……)



 透は黎明の強さに、改めて圧倒された。しかし、もうここまで次元が違うと清々しく感じて笑っていた。



「はは、ここまでかよ」

「急にMPが溢れる感じがしたら、気になって飛んできたんだよね」



 黎明はそう言って、二人に近づいた。



「この島には感知阻害の結界があったんだけど、徐々に慣れてきたんだよね。もし、この島に来た初日だったら、わからなかったからおじさん、危なかったね」



 そのまま、黎明は二人に手をかざした。次の瞬間、淡い光が二人を包んだ。


 傷が癒えていく。血が止まる。痛みが消えていく。死にかけだったのに、一気に全快になっていた。


「……これは」


 透が驚いたように言った。驚いたのはその術の効果の大きさではない、言霊も狩衣も全てを無視した上でここまでの効果になることに驚いているのだ。




(まぁ、こいつならこれくらいはな)



 しかし、もう今更だなと彼は少し冷静になっていた。



「回復魔法かけといたから。とりあえず、それじゃ、俺は次の場所行くから」

「オレ達はどうすればいい?」

「あー、あー、好きにしたら? それじゃ」



 そう言って、黎明は地を蹴った。一瞬で背中が見えなくなり、黎明は消えて二人は取り残される。


「えええぇぇぇぇ!? は、速い。もう見えなくなっちゃった」


(……やっぱり、とんでもねぇな。だが、あいつも人間か。なら、オレだってまだ強くなれる。なぜなら、オレは天才だからだ)



 驚愕する瞳月と微かに笑う透が黎明の背を見送った。しかし、この後どうするべきか二人は決まっていない。


「ね、ねえパパ……私達、どうするの?」

「そうだな、家に帰って結界張って、落ち着くまで引きこもってるっていうのが賢そうではあるが……」

「うん……」



「好きにしろって言われたからな。なあ瞳月『好きにして』いいか?」




──長い時を経て、ようやく。燻り続けた天才が、今ここに帰ってきた。

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 安倍姉弟もそうでしたが、世間の・界隈の『常識』という殻を自らぶち破った人だけ次のステージ…怪異を倒せる段階に上がれるんですね。今回のおっちゃんみたく。
ギャルっ娘のために覚醒するのかと思ったら、全否定で草 いや、自分が一番輝いてた全盛期を望むのも分かるけどさぁ… まぁ、怪異を滅する人物が一人増えたことで、人類の未来がまた明るくなったからヨシ!
こういうおじさんが頑張る話好きだぜ。 なんか怪異に勝てないって風潮もちょっと怪しく思えてきたな。怪異に情報操作されてそう。
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