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【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第3章 離島編

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第45話 双子、参戦

 祈は海岸から上がり島をもう一度走り始める。しかし、このままでは見つかってしまうのは時間の問題であると彼女は悟っていた。



(きっと、普通に行っても見つかる。その前に黎明と会えればいいけど。理想的な展開とは限らない。どうすれば……)



(霊力。これが辿られているのか? 黎明は……あの時)




 ふと彼女の頭には黎明がよぎった。彼は多大なる霊力を保有していたのにそれを感じさせないほどに霊力操作に長けている。



(黎明は凄く強いのに、そう感じなかった。それはきっと霊力を極限まで抑え込んでいる。まるで虫のように……付け焼き刃だが、真似だけはしてみるか)




 彼女は自らの精神を落ち着かせ、体の霊力を感じる。そして、ゆっくりと全身の霊力を収めていった。




「やっぱり、黎明のようには無理か。だが、やらないよりはマシか」




 独り言を呟き、彼女は再び島を走り出した。全ては黎明や志乃と合流をするためである。



 島の中もなるべく、人通りが少ない場所を選んでいた。そして、常に隠れられるように、木々が生い茂っていたり、建物が密集していたりする場所を進む




 しかし、離島はそれなりの広さを誇る。そして、隠れながらと言うことは思ったようには進めない。祈は息を切らしながら、ゆっくりと進む。




 死が隣にある感覚、一歩間違えれば死がやってくる世界はただの女子高生には多大なるストレスだ。


 だからこそ、彼女はわずかしか進んでいないのに、額に汗を大量にかいていた。




「くっそ、思うように進めないっ」



 

 焦りと苛立ちで、思わず舌打ちをしてしまう祈。その時。ズゥンという重い音が響いた。




──全身から、警報が鳴り響くような絶望感。



 地面が揺れた。そして、木々の間から、何かが現れる。それは、白い鹿の角を持つ、人型の怪異だった。


 身長は二メートルを超え、二本の脚で直立している。鹿の頭骨を思わせる顔。耳元まで裂けた口。黒く濁った目。


 それは、昨日の夜も出会った怪異と同じ特徴だった。



 喰鹿(ばみじか)




「ここでかッ」

「えぇ、お久しぶりですね。しかし、少し見ない間にかくれんぼが上手になりましたね」

「……うるさい。黙ってろ」

「ははは、まるで狩りのようだ。獲物が隠れ、それを狩る。活きがいい肉だ、大層美味しいのでしょう」

「……お前、お前が島守様なんだな? 【美色】とかふざけた名前をつけて、人間を食う人殺し」

「えぇ、その通り。多少は当一から聞いてるようだ」



(──こいつ)




 わずかに言葉を交わして、彼女は気づいた。この目の前の存在は、以前にも自分の前に現れていると。





「……お前、昨日の夜の……あぁ、そうか、あの時会合にいたのもお前か」





 祈は、震える声で言った。一族の会合にいた【白守縁】。あれもこの怪異であると確信をしたのだ。


「ええ。ようやく気づきましたね、その通り。白守縁とは、わたしの別の姿。偶には人間の中に入り、情勢を把握せねばなりません。下手に反乱とかされると面倒なのでね」

「……安倍晴明に封印されたようにか?」

「あぁ、知っていたんですか、白守家にあるわたしの情報は全て消したのですが、まぁ、本土からの人間もいますし。漏れる箇所があっても仕方ありませんね。そこまで知っているならば、改めて自己紹介を──」




 そう言って喰鹿(ばみじか)は丁寧に、にこりと笑い、優しい声音で語り出した。



「わたしこそが島守。他にも喰鹿(ばみじか)とも呼ばれていましたが」

「何が島守だ……ボクのお母さんを食ったくせに!!!」




 そう言い放った祈の顔には激情を宿っていた。自分の母親を殺し、それを食った存在。当然の怒りであった。



「ええ、その通りです。わたしは美食家ですから、美しい人間を食べる。それだけです」

「美食家だと? ふざけやがって。美色という名前をボクとお母さんにつけたのも言葉遊びのつもりか、くだらないッ」

「おお、素晴らしい。正解です」




 喰鹿は心からの笑顔も同時に浮かべていた。何よりも愛するような瞳で彼女を見る。



「流石は……わたしの最高の食材です。本当に食べるのが楽しみだ。貴方の母親も大層美味にでしたし。しかし、《《貴方はより熟成されている》》」

「……お前ッ」

「──その瞳も似ている。白守有紗(しろもりありさ)。美しい女性でした。そして、とても美味しかった」


 喰鹿は懐かしそうに言った。


「あの味は、今でも忘れられません。甲乙丙、その中であれば紛れも無い甲でしょう。まさに完璧な味でした。目玉のソテー、心臓のステーキ、太ももは燻製にしましてね。ゆっくりと噛み締めて、血はワインに、他の部位も余すことなく食べさせていただきました」


 祈の胸に怒りが沸き上がった。どうしようもなく、殺意へと変わり、ただ、殺したくてたまらないほどの怒り。


 拳を強く握りすぎて血が溢れ出していた。


「……だまれ、だまれだまれだまれ、だまれ、だまれ。それ以上、汚い口で言葉を話すな。虫唾が走るッ」

「しかし、あなたは、それ以上です」



 喰鹿は祈の言葉を一切聞かず、ただ、愛おしそうに彼女を見つめていた。



「あなたは、母親よりも美しく、そして美味しい肉として生誕した。それが、わたくしは嬉しくて、嬉しくて」

「だまれだまれだまれ、口を開くなと言ってるだろうがッ」



 彼女の怒りに反して、喰鹿の目から涙が流れた。だが、それは喜びの涙だった。



「本当は、もうちょっと熟させたかったのですが」

「だまれ」



 喰鹿はそう言って、祈に近づいた。それと同時に、彼女も自らの手に炎の剣を顕現させる。


 【五行術】火神刀(ひかみかたな)。彼女はそれを言霊を無視して、狩衣も纏わず使用ができた。




「……やはり、陰陽の才能もある。これは素晴らしい、霊力が美味しいでしょう、あぁぁぁぁぁ……だからこそ、残念でならない。もっと熟成させたかった。しかし、異端すぎる人間が現れたので、収穫を早めることにしました」

「……」

「白銀の髪をした、恐ろしい人間です。人の形をしているだけで、人とは思えませんがね」


 喰鹿はそう言って、首を振った。しかし、彼女は喰鹿の話を聞かずに、怒りに身を任せ、怪異へと近づいていく。



「本当はあなたに子供を産ませてから食べたかった。そして、その人間も食いたかった。しかし、わがままは言っていられません」


 喰鹿は祈に手を伸ばした。それに向かい、彼女は炎の刀を思いっきり振り抜く。


 全身の力をフルに使い、霊力で体を限界まで強化していた。それは、あまりに強化しすぎて体がついていかず、目から血が滲むほどの力で。



──パシ




 しかし、さも当然のように、羽虫を捕まえるように。喰鹿はその刀を受け止めた。




「さあ、わたくしの一部になってください」




 死が、目の前に。




 その瞬間──



 ドォンッという爆発音が響いた。炎が、喰鹿に向かって飛んでくる。


 その炎を喰鹿は咄嗟に避けた。



「……ほう」



 喰鹿は炎の出所を見た。そこには、一人の少女が立っていた。


 篝火志乃(かがりびしの)



「祈さんッ!」

「志乃……」



 祈は驚いたように志乃を見た。まさか、この場に彼女がくるとは思っていなかったからだ。



「島の異変に気づいて、祈さんを探してました」



 志乃はそう言って、祈の前に立つ。



「黎明さんも、今、島を調査してます。それで、多分、今頃、島を走り回って、瞳月さんとかも探してる最中だと」

「……そうか」


 祈はこの場に志乃が来てくれ安心をした。そして、志乃も彼女が安堵をしたことに気づき笑みを浮かべた。



「だから、この場はわたしだけです。でも、わたしが、祈さんを守ります」


 志乃はそう言って、喰鹿を睨んだ。そして、彼女はゆっくりと霊力を高めていく。



 ──かつて、影森の町で黎明に助けられた志乃。そして、黎明が山神を倒した際に、その恩恵を彼女は受けていた。


 それ故に彼女の霊力量は、黎明を除けば



 ──人間の中で最も多い。



「……人間にしては、尋常ではない威力でしたね」


 喰鹿は志乃を見た。その小さな身から溢れる霊力に、思わず目を細めてしまう。


「白銀の人間ほどではありませんが、それでも驚きました。人の身にこれほどの霊力が内包されているとは」

「──さっさと倒します」


 志乃は相手の声も返答も聞かずに更に霊力を高め始めた。



 ──思い出すのは、彼女が黎明に救われた時の記憶。


(あの時、お母さんから守ってくれた。黎明さんの炎)



 あの光景の美しさと、圧倒的な輝きを彼女は一度たりとも忘れたことがない。今でも鮮明に思い出すことができた。



 そして、霊力を昂らせた。豪炎が螺旋のようになり、彼女の手に集約していく。


 急にサウナになったかのように、辺りが高温へと上がり始める。それと同時に彼女から溢れる霊力も凄みを増した。



火浄界(フレイムテンペスト)ッ!」



 志乃が叫んだ。


 次の瞬間、炎の嵐が巻き起こる。それは、まるで天災のようだった。


 炎が喰鹿を包み込む。その威力は、凄まじかった。眼球が蒸発して、焼けてしまうかのような豪炎。


「……ッ」


 喰鹿は驚愕した。こんな規模の術を人間が発動できるわけがない。これほどの霊力操作ができるはずがない。



 だが、それを可能にしているのは……紛れもなく人間。



(──人間に、一体何があったというのかッ)



 ──喰鹿は、かつて安倍晴明に封印された。


 陰陽の祖と呼ばれる男。しかし、その安倍晴明でさえ、ここまでの術は使えなかった。


 人柱を大量に用意し、神々に媚を売り、ようやく封印が可能となっていたはずだった。


(あの白銀の人間だけではないのか……この小娘もだと、わたしを、殺しうるだと)



(分体とは言え……そんなことが、どういう理屈だ? 人間が、急激に強くなっている……?)




(なんだ、この人間の急な変化は……どこから、こんな急な変化があったというのだ)




 喰鹿は自らが焼き切れてしまう間際にそう思った。しかし、その驚愕に答えを与える存在はここにはいない。


 尋常ならざる爆炎の螺旋。しかし、それを喰鹿は耐えた。

 


 ──しかし、この喰鹿は本来のスペックとは言い難い。


 まだ、この怪異は上がある。



 なぜなら、この怪異は霊格が【神格】の存在。


 だからこそ、そう簡単には倒れない。炎が収まった後、喰鹿は立っていた。体は焼け焦げているがまだ動ける。



「……許しませんよ。人間如きが、わたくしの食事を邪魔するとは」



 喰鹿は怒りを込めて言った。そして、怒りをそのままぶつけるように、志乃に向かって走り出した。


 その時。




 バシュッという音が響く。炎の矢が、喰鹿に向かって飛んできたのだ。


 そして、喰鹿はそれを避けた。


 そのまま周囲を見渡す。どこからか、攻撃をしてきた存在がいるとすぐに悟ったのだ。


 その答えはすぐに分かることになる。なぜなら、視線の先に三人の人間が立っていたからだ。



 安倍蓮(あべれん)安倍紅(あべくれない)、そして白妙詩(しろたえうた)




(この双子。どこかで見覚えが……いや、何よりもこの二人、霊力の流れが他の人間とは比べ物にならないほど、滑らかだ)



(またしても、このような人間が……)



 

 喰鹿が現れた人間の中で注目をしたのは、安倍家の双子。


 それは自らを封印した存在ではないが、それに近しいと本能で気づいていたから、注目をしたわけではない。




──単純に目の前の双子が、強者であったからこそ、目を奪われたにすぎない。





「……間に合ったか」


 詩が呟いた。彼女はほっと一息をつきつつ、黎明から与えられた刀に手を置いた。




「志乃さん、無事なのね。よかった」

「それで、経験値はそれか」



 紅は安堵の表情。そして、蓮は怪異を見据えた。


 特に蓮はその場にいた志乃と祈を気にすることなく、剣をいつでも抜けるようにし戦闘に入ろうとしている。



「はい。なんとか」


 志乃が答えた。彼女も安倍家の双子と、詩が来てくれたことで安堵をして力が抜ける。


「ところで、黎明くんは?」


 紅が聞いた。


「黎明さんは、島の異変調査しながら……そのまま隣の島の方に」

「そう……もしかして、《《ここにくるまで、島の住民がほぼ気絶してたのは黎明くんの仕業かしら》》?」

「多分、そうですね。黎明さんはそれくらいできると思います」





 おいおい、マジかよ、と蓮が眉をひそめた。



「経験値取られちまうな。黎明に」

「蓮、そんなこと気にする前に、もっと他にないの? 知り合いの志乃ちゃんが生きてることとか」

「そうか。生きてて良かったな。あいつはオレが倒すから離れてくれ。危ないし、この場で倒すと経験値が分配になっちまう」

「……ごめん、多分心配してはいると思うんだけど」

「あ、いえ、大丈夫です」




 紅と志乃はなんとも言えな顔をしてる。そして、祈も何が何だかわからない会話をされて困惑をしている。


 詩はこの子は黎明をリスペクトしてるんだなと思っていた。そして、同時に安倍家に尊敬される黎明は流石だと、後方彼女面のように微笑んでいた。



「こいつが黎明の言ってた、倒しても何度も蘇ってくるモンスターか。ただ、何らかの攻略法があるはずだ」



 事前に黎明に話を聞いていた詩が双子に情報を共有する。それと同時に、双子、志乃、詩は戦闘態勢に入る。



 ──その様子を見て、喰鹿はまたしても目を細めた。



(……なんだ、この人間たちは全員の霊力が、今まで見てきたいかなる人間をも遥かに凌駕している)




(それに、この黒髪の少年。あの白銀の少年のように……どこか、狂っている。こちらに対し、一切の恐怖がなく、むしろ《《狩る側の目だ》》)




(──あの白銀の人間ほどではないがな)




(あいつは本心でそう感じていた。だが、目の前の連中は、どこか、僅かに恐怖がある)




(あの人間ほど、霊力が高いわけではない。それ故に……全く倒せないというわけでは)





(──ッ!!!!!??)




 その時、喰鹿に衝撃が走った。思わず、とある方向に向かって視線を向けてしまう。



(──これはッ!!! 《《誰かがわたしの本体に攻撃を》》)


(一体誰が……いや、この場に、あの化け物がいませんね。それが答えか……)


心当たりは一人しかいない。

見つからないために、千年の長きにわたり、何重にも罠と隠蔽と偽装を重ねたというのに、それらが怒涛に破られたことに、うんざりした気分になりかけた。


 だが、それでも最後の罠は見破れまいと思い直す。


(……しかし、もしあの化け物が、本体を見つけたら勝ちと思ってるなら、甘い話です。

 すぐに絶望することでしょう。

 もっとも……そうはいっても、悠長にしてる暇は、なくなったようですがね)


「あいつ、動きがおかしいな」

「何かあったのかしら」

「いえいえ……少々気が変わっただけですよ。ええ、本来ならば、あなたがたをあまり傷つけずに殺そうと思ってたんですよ。あなたがたをわたしの食事としたかったのでね……。しかしそうもいかなくなりました。のんびり遊んでる暇はないようです。多少ミンチになっても仕方がない。即刻、死んでもらいますよ」

「ふん、やれるもんならやってみな」

「食材の分際で随分と自信があるようですね」

「そっちこそ経験値の分際で随分とよく喋るな」



──食材と経験値、お互いを自らの踏み台としか思ってない者同士の戦いが、始まろうとしていた。



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