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【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第3章 離島編

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第44話 井戸の一つの真実

 島の空気が変わった。


 それは誰もが感じることができる、明確な変化だった。風が止まり、鳥が鳴かなくなり、波の音すらも遠くなった。


 まるで、島全体が息を止めたかのように。



◾️◾️



 鈴木勝吉(すずきかつきち)は商店街を走っていた。


 息が上がり、足が重い。だが、止まるわけにはいかなかった。

なぜなら、背後から何かが追ってきているからだ。



「な、なんやこれ……」


 鈴木は関西弁で呻いた。彼は黎明と共にこの島にやって来た陰陽師である。


 ただし、その実力は黎明や志乃と比べると天と地の差がある。怪異を封印することはできるが、倒すことなどできるはずがない。



 そして、今、彼を追ってきているのは──


 島の住民たちだった。


 老人も、主婦も、子供も。全員が、黒く濁った目で、鈴木に向かって一直線に向かってくる。


 その動きは通常の人間とは思えないほどに素早い。


「わ、ワイ、なんでこんな目に……き、聞いてないわ、こんな住民から襲われるとか聞いてないねんッ」


 鈴木は必死に走った。彼は陰陽師であるため、通常の人間よりも体の強度も高い、そして霊力による身体強化が更に入っている。


 そのため、未だ捕まってはいない。


 だが、住民たちは迫り続ける。ゆっくりと、しかし確実に、鈴木を追い詰めていく。



「くっそ、もう霊力が半分以上消費してんねん。このままやと、マジで……」


 


 体力が徐々に減っていく。このままだと死んでしまうかもしれない。そんな恐怖が彼の頭の中を巡る。




 その時だった。



 ドンッという音が響く。鈴木の前方に、二つの影が降り立った。


 一人は、少年。黒髪で、鋭い目をしている。もう一人は少女。同じく黒髪で、少年と瓜二つの顔をしている。


 

 どことなく似ている二人、そう二人は双子である。




「……モンスターか? こいつら」


 双子の片割れ、その少年が呟いた。目つきは鋭く、ぶっきらぼうであるが自信に満ち溢れているように見えた。


「蓮、多分これは人間よ」


 少年と一緒に現れた少女が、答えた。そして、二人は同時に霊力を高め体へと循環させる。


 ──そして、ただ、立っていた。


 ──二人の間から、霊力が溢れ出した。形はない。色もない。だが、それは確かに存在していた。空気が変わり、重くなる。まるで、この空間ごと二人に掌握されたように。


 次の瞬間、住民たちの動きが止まった。


 操られた一人が踏み出そうとして、できなかった。別の一人が腕を振り上げようとして、止まったままである。そのまま、糸が切れたように膝をつく。目が虚ろになり、意識が遠のいていくように倒れた。


 二人がやったことは単純。自らで練り上げた霊力を飛ばしただけだ。


 これは影森町の図書館で黎明が以前行っている。志乃をいじめる子供がいたのだが、それに対して、単純にうるさいので静かにさせたかった黎明が行った技術と全く同じである。



 同じように霊力の奔流が、一人一人に叩き込まれていた。見えない拳が、次々と急所を打ち抜くように。


 それでも、蓮と紅は微動だにしない。


 表情に力みはなく、息も乱れていない。ただ静かに立ったまま、霊力だけが嵐のように走り抜けていく。


 パタッ、パタッ、パタッ──。


 住民たちが、次々と地面に倒れていく音が響いた。そしてわずか数秒。襲いかかってきていた住民は、全員が意識を失って倒れていた。


 ──霊力だけで、制圧されてしまった。



「……終わったな」

「ええ。でも、人間がなんで襲ってくるのかしら?」


 蓮が呟き、紅が疑問の声を上げる。その様子を見ていた鈴木は呆然としていた。今、何が起きたのか、理解できなかった。


 ただ、一瞬で十数人の住民が全員無力化された。それだけは、確かだった。



「な、なんや……お前ら」



 目の前で起こった現実が未だ消化しきれていない状態だった。戸惑いながらも鈴木が息を切らしながら聞いた。



「オレは安倍蓮(あべれん)。こっちは姉の安倍紅(あべべに)



 少年が答えた。しかし、その少年の格好に鈴木は違和感を持った。



(安倍家、そうか双子の……噂以上の、聞いてる以上の強さに見えるんやけど。それに狩衣も着てないとか噂であったけど、それも本当やったんか……?)



 安倍蓮、彼の着ている服は陰陽師とは言えない服装だった。


 茶色のフード付きジャケットに白いシャツ、ベージュのズボンとブーツという飾り気のない格好。


 腰の革ベルトにはポーチと短剣がぶら下がっている。中世ファンタジーの旅人風にも見えた。


 ただ、ジャケットについた傷や汚れが場数を踏んできたことを物語っているようにも見える。



「安倍家の末裔……助かったわ。急に襲われて死ぬところやったわ。これから結婚式あるっていうのに死ぬわけもいかないから、ほんまに助かったわ」


 鈴木は息を飲んだ。ただ、未だに違和感は拭えていなかった。安倍家と言えば、陰陽師の名家中の名家である。


 そんな彼らの服装が正装中の正装である狩衣ではない。これは摩訶不思議以外のなんでもない。



「お前は?」


 そんな変わった格好の蓮が、聞いた。


「ワイは、鈴木勝吉(すずきかつきち)。陰陽師や。まぁ、そこそこの実力しかないけどな」


 鈴木はそう答えた。ようやく彼も息を整え落ち着気を取り戻す。


「そうか。ところで、この島に白銀の髪で、赤と白の和服を着た男はいなかったか?」

「え? 白銀……ああ、おったで。一緒に船で来たんや」



 鈴木はそう答えた。彼の記憶の中には、変わってるなと思っていた少年がその姿だったからだ。



「本当か。やっぱり来てるか。一応、詩さんから連絡は来てたけど」

「……なぜか、分からないけど朝から連絡が通じないわ。電子機器の故障かしら」

「いや、ネットは使えてた。でも、詩だけに連絡が行かないなら、何か起こってるのか」

「この襲って来た人たちを見る限り、普通ではないことが事態になってると見てよさそうね」



 二人が携帯を触り、詩へと連絡を取ろうとするが通じないことなどを踏まえて、考えを巡らせる。


 そして、このタイミングで鈴木は双子へと疑問を呈した。




「ところで、お二人はなんでここに?」

「冒険だ」


 迅速に蓮が答えた。


「……は?」


 鈴木は首を傾げた。一方で紅は少し困ったような顔をしている。


「冒険や言うて……なんやそれ」


 困惑する鈴木だが、そんなことは気にしない蓮は島の探索に乗り出そうとしている。



「さて、経験値を探すか」




 大分、黎明に似て来たなと紅は思った。しかし、別にそれが悪いこととも思わないのは、彼女も変わっている証でもあった。






◾️◾️



 一方、その頃。


 白守祈(しろもりいのり)は実家へと呼ばれていた。


 彼女も島の異変に勘づいていたため、一族にそれを伝えることも含めて、白守家の本邸を訪れていた。そして、そのまま祈は、広間に通された。


 そこには、当主である白守当一(しろもりとういち)をはじめ、一族の重役たち、そして島の権力者が揃っていた。


 これだけなら、いつもの会合と同じである。だが、その雰囲気は異様だった。


 ──全員が、黒く濁った目をしていた。


 

「祈」


 当一が口を開いた。その声はどこか機械的だった。



「今、島は危機に瀕している」

「……何が起きてるんですか」


 祈は警戒しながら聞いた。



「島守様が、荒ぶっておられる」

「……はい?」

「島守様が、荒ぶっておられる。そう言った。これは由々しき事態だ。島守様はこの島を守り、我々を守る神である」


 当一は淡々と答えた。しかし、祈からすれば何を言っているのか理解できない。




(こいつら、本気でそう思ってるのか? 確かに、白守家は島守様に仕えているとは聞いていた。それに祭りなどでは祈祷をしたりもする。だけど、それはあくまでも、そういう言い伝えや伝統があるからしているだけだろ……?)




(そう、だよな……?)




「このままでは、島全体の人間が死ぬかもしれない」

「……」

「だから、少し予定よりも早いが、お前を贄として渡すことにした」




 その言葉に祈の全身が凍りついた。




「……え……贄?」

「そうだ。お前は、美色として選ばれた。それは、島守様が目をつけた人間という証だ」



 何を言っているのか、何を言われているのか、彼女には理解ができなかった。だが、そんな彼女を気にせず、当一は話を続ける。



 今まで鬱陶しく、幸福なことなど何一つなかった別称。それが生贄の証という事実。



 そんな真実をすぐさま受け入れられるほど、彼女は強くない。喉が急に消えてしまったように。驚きの声も満足に出せなかった。



「食べるに値する人間に対して、【美色】という名前がつけられる。十年前、お前の母親も美色だった」



 次々と告げられる真実に、祈の胸に、冷たいものが流れ込んだ。




「お母さんも……」

「そうだ。白守有紗(しろもりありさ)。美しい女だった。そして、島守様に捧げられた」


 当一は淡々と語った。


「美食家とも言われる偏食の島守に捧げる。それが美色の役割だ」



 あまりに衝撃的な内容の連続に祈の手が、震えた。島の異変、美色の意味、母の失踪。



(……失踪したんじゃない。食われた……?)




「そして、今、この島に邪な存在が入り込んでいる。島守様はそう仰っている」



 当一はそう言って、祈に近づいた。そして、祈はその入り込んだ存在が黎明達であるとすぐさま勘付く。



「だから、祈。お前は今すぐ、あの白銀の男を後ろから刺して殺せ」



 その瞬間、祈の背筋に悪寒が走った。


 黒く濁った目をした一族が、全員、祈を見つめている。急に全員が自分を真顔で見つめる光景に、全身から冷や汗が溢れ出す。


「……い、嫌だ。そんなこと、できない」

「祈。これは島のためだ。拒否権があると思っているのか」



 目の奥が真っ黒で、人の形を保っているだけの化け物。そんな状態に当一はなってしまっていた。


「そ、そんなの、おかしい」



 祈はそう言って、踵を返した。そのまま逃げるように、走り出した。



「待て、祈ッ! 捕まえろ、決して逃すなッ」




 当一が叫んだ。それと同時にその場にいた大人全員が彼女に向かっていく。しかし、間を通るように躱しつつ、彼女は外に逃げる。




 ──祈は屋敷を飛び出した。




 そして、島の市街地へと走った。だが、そこにも、黒く濁った目をした住民たちがいた。






──見つけた





 全員が祈を見た。そして、ゆっくりと近づいてくる。そのまま全員が徐々に走り出し、彼女に迫る。



「……ッ」




 祈は方向を変えて走った。しかし、どこに行っても、住民たちがいた。


 老人も、主婦も、子供も。


 


 ──見つけた。




 全員が黒く濁った目で、祈を追ってくる。



 その動きは彼女に及ばないが、俊敏だった。彼女はこの島で最も足が速い人間だった。しかも、ダントツの速さを誇る


 しかし、そんな祈が追い詰められていく。まるで、ゾンビの群れのように。




「なんで……なんで、こんなことに」




 祈は息を切らしながら走った。足が重い。だが、止まるわけにはいかなかった。



 止まれば捕まる。


 捕まれば殺される。


 いや、それよりも悪いことが起きるかもしれない。


 そんな予感が彼女にはよぎる。だから、祈は必死に走り続けた。



「ボクは、ボクが、何したっていうんだよッ」



 自分は何も悪いことも、恨みを買われるようなこともしてない。だというのに、今自分は殺されようとしている。


 誰かの生贄にされようとしている。それに怒りよりも、悲しみが彼女に湧いていた。



 走って走って、彼女は逃げ迷う。いつもと違って、いくら走っても、余計なことが頭に蘇ってくる。



 走り続ける中……




 ──その時、祈の脳裏に過去の記憶が蘇った。




◾️◾️


 十年前。


 母親が失踪した。


 ある日、突然、母がいなくなった。ボクの家族は必死に探した。だけど、見つからなかった。


 そして、父親は絶望した。


 母を深く愛していた父は、母がいない世界に耐えられなかった。だから、自殺をしてしまった。


 ボクは両親を一度に失った。


 その後、ボクは親戚に引き取られた。だけど、そこでも、ボクは孤独だった。


 従姉妹の美奈の母親、白守明子(しろもりあきこ)は、ボクを鬱陶しそうに見ていた。それに美奈も表向きは優しかった。だけど、本心ではボクを嫌っていた。


 ボクはそれに気づいていた。


 だけど、どうすることもできなかった。


 そして、ボクは、両親への怒りと悲しみを抱えていた。


 なぜ、ボクを置いていったのか。


 なぜ、ボクを一人にしたのか。


 その怒りと悲しみはボクの心に深く刻まれた。


 さらに、島の人々の目線も変わった。


 美色に選ばれてから、年寄りたちはボクを見る目が変わった。まるで、何かを期待するかのように。


 それから、同級生たちもボクを奇異な目で見た。


 嫉妬、憧れ、恐怖。


 様々な感情が混ざった目線。


 そして、怪異を倒し始めてから、ボクはさらに孤独になった。


 なぜ、自分だけが倒せるのか。


 その違和感は常にボクの心にあった。だけど、答えは見つからなかった。



 そして、今。


 一族は全員、呪いで操られている。


 ボクを追い、ボクを殺そうとしている。


 何を信じればいいのか、分からない。


 何が正しいのか、分からない。


 ボクは、ただ逃げるしかなかった。


 逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて──



◾️◾️



 ボクは島の外れへと走っていた。


 もう、どこに行っても操られた島民がいる。老人も、主婦も、子供も。全員が、黒く濁った目でボクを追ってくる。


 息が上がり、足が重い。だけど、止まるわけにはいかなかった。



(どこか……どこか隠れられる場所は)



 ボクの頭の中で島の地図が高速で再生される。そして、一つの場所が浮かんだ。



 ──常闇の井戸。



 島の北端にある、古い井戸。誰も近づかない場所。禁足地とされている。


 言い伝えでは、昔、この井戸に落ちた人間が二度と戻ってこなかったという。だから、島民は誰もこの場所に近づかない。


(でも、今はそこしかない)


 ボクは常闇の井戸へと走った。




 やがて、ボクは井戸に辿り着いた。


 それは、古びた石造りの井戸だった。周囲には草が生い茂り、まるで人が近づかないことを物語っている。


 ボクは井戸の陰に隠れた。息を整え、周囲を警戒する。しばらくの間、静寂が続いた。島民の足音も、声も聞こえない。



(助かった……黎明や志乃と合流できれば何とかはなるとは思う、特に黎明は無類の強さっぽいし。人間相手でも問題ない気がする。でも、どうやって……)



 ボクは小さく息をついた。黎明と会えさせすればなんとかなると思ったからだ。だが、その安堵も束の間だった。


 遠くから、足音が聞こえてきた。



 一人、二人、三人。いや、それ以上だ。十人、二十人。徐々に、島民たちが常闇の井戸へと近づいてきていた。



「……嘘でしょ」



 ボクは息を飲んだ。島民たちが、井戸を囲むように集まってくる。その数は、どんどん増えていく。


 まるで、ボクがここにいることを知っているかのように。



「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」




 誰かが呟いた。次々と同じ意思に操られたようにつぶやいていく。そして、次の瞬間、島民たちが一斉にボクに向かって走り出した。


「ッ」


 ボクは咄嗟に後ろに下がった。だが、背中が井戸の縁に当たった。もう、逃げ場はない。



 島民たちの手がボクに向かって伸びる。その瞬間、ボクは足を滑らせた。





「あっ──」




 ボクの体が井戸の中へと落ちていった。




 冷たい水が、ボクの体を包む。ボクは水の中でもがいた。そして、水面に顔を出す。



「ぷはっ」



 息を吸い込む。そして、周囲を見渡した。井戸の底には、海水が溜まっていた。深さは、二メートルほど。



 上を見上げると、島民たちが井戸を覗き込んでいた。だが、降りてくる様子はない。


「降りる?」

「降りる?」

「降りる?」「降りる?」

「降りる?」

「降りる?」「降りる?」

「降りる?」

「降りる?」「降りる?」

「降りる?」

「降りる?」「降りる?」

「降りる?」

「降りる?」「降りる?」

「降りる?」

「降りる?」「降りる?」

「降りる?」

「降りる?」「降りる?」

「降りる?」

「降りる?」



 上の島民は何やら、躊躇っているようだ。なぜ、躊躇っている? そう思ったが、この水。なんか、不思議そうな感じがする……?




「あの水」

「あの水」




 何やら、この井戸の水が気に食わないらしい。




(……助かった?)



 ボクはそう思った。しかし、すぐさま追ってくる可能性も高い、だからこそ油断もできない。


 そして、周囲を見渡した。スマホを取り出し、ライトをつける。すると、井戸の壁に、不自然な隙間があることに気づいた。



(これは……扉?)



 ボクはその隙間に手をかけた。そして、押してみる。すると扉が、ゆっくりと開いた。その奥には、暗い通路が続いていた。



(このままここにいても、いつか捕まる)



 ボクは決意した。そして、通路へと入っていった。通路は、狭く、湿っていた。



 ボクはスマホのライトを頼りに、慎重に進んでいく。やがて、通路の先に、小さな部屋があった。



 部屋の中には古びた木箱があった。ボクは木箱を開ける。中には、一冊の本があった。


 表紙には、古い文字で何かが書かれている。ボクには読めない文字もあるが、いくつかは読める。



(これは……書物?)



 ボクは本を開いた。しかし、奇妙なことに本は一切濡れることはなかった。ボクは井戸に落ちてこんなにもずぶ濡れなのに。



「これ、なんのマークだろう? なんか、ここから霊力を感じるような……本を守る術とかなのかな?」


 


 何故か、本の表紙には太陽のようなマークが書かれていた。そして、そこから霊力が少し溢れており、霊力の膜のようなのが本を包んでいるのがわかった。



 この本の木箱がかなり古かったのに、中の本はかなり綺麗だ。本を守るための術でもかかっていたのか?



 気になりながらも本を読み始める。



 最初のページには、こう書かれていた。



 |此の書、安倍晴明之を記す。《このしょ、あべのせいめいこれをしるす。》喰鹿を封じ奉りし時、ばみじかをふうじたてまつりしとき、|若し封印解けなば、《もしふういんとけなば、》|後世の者の為、《こうせいのもののため、》|ここに秘密を記し置くここにひみつをしるしおくなり



 ボクは息を飲んだ。


(安倍晴明……あの、陰陽師の祖と言われる人だっけ? 前に瞳月が教えてくれたっけ。瞳月は父親に教えてもらったとか言ってたかな。安倍晴明なら、本を綺麗に保つように術をかけてたとかでも納得だけど)


 ボクは次のページを読んだ。



『喰鹿は、美しい人間を好む怪異である。特に、霊力を持つ美しい人間を食らうことで、自らの欲求を満たす』



 ボクの手が震えた。これは、美しい人間を食べると言うこと。ボクのお母さんは美しかった、そしてボクも。



 やっぱり、あの怪異が言った通り……




美色(びしょく)、これって、美食(びしょく)と言う偏食の怪異が食べると言う意味が込められてたってとこか。クソ、お母さん……)





 震える手を握りなら、ボクはさらに読み進めた。



『喰鹿は特殊な方法で封印をしなくてはならない。それは……』




 ボクはその本を読んで、やつの秘密を理解した。そういえば、黎明があの怪異を倒した時、まるで何事もないかのように時間が戻ったように佇んでいた。




(だから、何度倒しても復活するのか)




 ボクはさらに読もうとした。だが、その時、上から物音が聞こえた。島民たちが井戸に降りてこようとしているのかもしれない。



(一度、脱出しないと)




 ボクは本を閉じる。そして、通路を進み始めた。




 通路はどんどん続いていた。そして、ボクはひたすら走り続ける。やがて、通路の先に光が見えた。



 ボクはその光に向かって走った。外に出ると、そこは海岸の洞窟のような場所だった。




「……こんな場所に繋がってたのか。それとこの書物。こんなのが禁足地にあるなんて……いや、寧ろその通りか。安倍晴明は、人を近づかせないために、伝承を流した? 人間が簡単に来ないようにするために?」




 波の音が静かに響いている。この答えは全部分からない。何よりも、一度、黎明とか志乃とかに話を聞いた方がいいか。




 ──また、ボクは走り始めた。


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