第37話 饗島
影森町の篝火自宅の玄関にはスーツケースが二つ置かれていた。その理由は黎明、志乃、詩の三人分の旅の荷物である。
これから黎明達は影森から離れ、離島へと向かう準備を行なっていた。
なぜ、急に離島に向かうのか。
──それは、とあるネットスレッドにて、謎の化け物と戦う女子高生がいると話題となっていたからである。
これを見た詩は、黎明と同じように稀有な存在である可能性を見出した。そして、そうであるならば、確認をしておきたいと感じてもいた。
また、スレッドには化け物が最近多く見られる、という趣旨の書き込みもされており、何らかの異常がその島で起こっている可能性もあった。
だからこそ、島へと行くことが決定した。さらに黎明も乗り気であり、すぐに準備も決定している。
「じゃあ、行ってくるね」
そう、黎明も乗り気なのであった。
理由は……経験値が稼げるかもしれないからである。詳しく言えば以下の二つ。
・離島ならば珍しいモンスターがいるかもしれない、経験値が多いモンスターもいるかもしれない。
・そして、スレッドには毎晩のように怪異と戦う少女を見た、と書き込まれていた。つまりは、毎晩戦えるくらいにモンスターが沢山いる可能性があるということだ。それは、この島は経験値が稼げるボーナスステージかもしれない!! そんなことも考えていた。
そんなことを考えている黎明は、軽く手を振った。そして、リュックを背負っているが、それ以外はいつもの軽装だ。和服姿で、祭りにでも行く少年のような軽やかさを感じさせる。
その前には、赤い髪のツインテールの少女――スザクが、腕を組んで立っていた。
一応は火の鳥様と言われる神様であるが、現在は女子高生の姿に変えている。そして、赤い瞳は、少しそっぽを向いている。
その横で、志麻が少し寂しそうに笑っていた。そのまま彼女は、いつものゆったりとした口調で言った。
「黎明くん、気をつけてねー。無理しないでね」
「うん、ありがとう、志麻」
「志乃も、無理しないでねー。お姉ちゃん、心配だからー」
「だ、大丈夫だよ。お姉ちゃん……」
志乃は、少し緊張した様子で頷いた。彼女は、小さなリュックを背負い、不安そうに黎明の後ろに立っている。
「わたしも、行ければなぁ」
志乃の姉である志麻は。今回は同行できない。
なぜなら志麻は、VTuberの配信が忙しく、予定がパンパンに詰まっているからだ。最近、スザクとのコラボ配信が好評で、視聴者が増えているのだ。そして、スザクも、影森町の守り神として、ここに残る必要がある。
だから、今回のメンバーは黎明、志乃、詩の三人だけだ。
「じゃ、行ってくるから。スザクも志麻も修行忘れないでね」
「分かったよぉ」
「忘れないわよ」
そんな軽い感じで黎明が声をかけると、スザクは少し顔を背けたまま答えた。
「……まぁ、黎明がいるなら何の心配もないわね。お土産期待してるわね」
ツンとした口調でスザクはそう告げると、リビングへと戻っていった。
「よし、出発」
そう言って、黎明は神社の階段を下り始めた。志乃と詩も、その後を追う。
そして、残ったスザクと志麻は、三人の背中を見送った。
◾️◾️
今回、黎明達が向かうのは饗島と言われる離島である。
そこへは新潟県・村上市の港からその島へは行くことができる。
その島へのフェリー乗り場には、既に多くの人が集まっていた。観光客、地元の人、荷物を運ぶ業者。様々な人が行き交っている。
そんな港の空気は、潮の香りと魚の匂いが混ざっていた。遠くでカモメが鳴き、波の音が一定のリズムで聞こえてくる。
黎明たち三人は、チケット売り場でチケットを買い、フェリーに乗り込んだ。
フェリーは大きく、二階建てだ。一階は車両スペース、二階は客室とデッキになっている。
「うわー、大きい船。RPGでも、こう言う船に乗ると新たな町とかに行けて面白いのは覚えてる」
「あ、れ、黎明さん、危ないから体をあんまり乗り出さないほうが……」
「そうだね。まぁ、落ちたら泳いで行くけど」
「え、あ、お、泳げたんですね。黎明さん」
「ん? あーそういえば今回は泳いだことないか。でも前回は泳げたしなんとかなると思う」
「あ、そうなんですね。でも、えと、い、一緒に船にの、乗りたいので」
「あ、そう? それなら大人しくしないと」
そう志乃に言われた黎明は、体を乗り出すのはやめた。そこへ、荷物を一時的に客室へと預けてきた詩が戻ってくる。
「そろそろ出発するらしい。二人とも準備はいいか? 今から行く島はモンスターの目撃状況が多い。だからこそ、危険な場所なのは言うまでもない。黎明は強い、志乃も修行を積んでるとは思うが、危険であるはずだ。それでも行く覚悟はあるか?」
「おお!? その大きく決断を迫る感じ、RPGっぽくていいね。ちなみに、もちろん俺は大丈夫」
「わ、私も。黎明さんには恩があるし、お役に立ちたいと言いますか……」
「そうか、分かった。私も行くには命を懸ける。私は実力は二人には劣るが大人だ。何がかれば頼ってくれ」
そう語る詩の顔にも覚悟が宿っていた。
そして、彼女も覚悟を決めた瞬間、船が出発する。一面に青い海が広がり、船が進む。
しばらくすると遠くに島の影が見える。空は快晴で、雲一つない。風が心地よく、黎明の髪を揺らした。
今まで、黎明は船に乗ったことがないのでワクワクしていた。
しかし、反対に志乃は、少し不安そうに黎明の後ろに立っている。彼女も船に乗るのが初めてだ。
「あ、あの……わたし、船、初めてで……揺れで酔ったりしたら、どうしよう……」
「大丈夫だよ。その時は【ヒール】かけるから。船酔いも状態異常みたいなもんだと思うし」
「あ、ありがとうございます……」
あれ、そもそも船酔いも状態異常なのか? と疑問に思ったが志乃は何も言わないことにした。
そんな二人のやりとりを詩は、横目で観察して微笑んでいた。そして、彼女は、デッキの手すりに手を置き、島の方を見つめている。
「黎明、この船は約一時間半で饗島に到着する。その間、少し休んだりしなくて大丈夫か?」
「大丈夫ー、折角の船旅だしね。海でもモンスターとか出てくるかもだし。まぁ、朝だから出にくいだろうけど」
そう言って、黎明はずっと景色を楽しんでいる。
今世の殆どを山の中で過ごしたせいか、見渡す限りの海の景色は新鮮であるようだった。
そして、フェリーは進み続ける。ゆっくりと海を渡る。エンジンの音が低く響き、波を切る音が心地よい。
黎明は、目を閉じて、風を感じていた。その時、近くから声がかかった。
「おー、兄ちゃんら、饗島行くんかー?」
ふと、呼ばれたことに気づいた黎明が目を開けると、一人の男が立っていた。
その人物は坊主頭で、狩衣を着ている。そして、年齢は十九歳くらいだろうか。顔は糸目で、ニヤニヤと笑っている。
さらに、狩衣姿であることで、詩と志乃、黎明は陰陽師であることに気づいた。
──彼の名前は鈴木勝吉。そして、陰陽師だ。
「あ、うん、そうだけど」
黎明がそう答えると、
「おー、そうかそうか。ワイも饗島行くんやー。調査でな」
鈴木はにこにこと笑いながら言った。エセ関西弁だが、どこか憎めない雰囲気がある。
「調査……あぁ、陰陽師ってこと?」
「せや。ワイは新潟担当の陰陽師の一人や。色んな場所を調査してるんや」
「あ、新潟担当とかあるんだ。それで、なんで話しかけてきたの」
「そりゃ、同じ陰陽師同士やしなぁ。話して損はないやろ、情報交換は基本や」
「へー、そうなんだ。俺は陰陽師じゃないよ。どっちかと言うと勇者なんだ。職業的な意味だけど」
「あ、そうなん? てっきり、白妙詩さんと一緒やから陰陽師かと思ったんやけど。てか勇者って何やねん!?」
そう言われて、黎明は詩の方へと視線を向けた。彼女は一息を入れて、話に割り込む。
「すまない、私がここから話そう。察しの通り、私は白妙詩、陰陽師だ」
「せやろ。知っとるわ。全国的に調査をする凄腕のバリバリ働き手って話は有名やからなぁ。饗島に行く船に乗ってるんなら、仕事関連やと思って話しかけたわけや」
「なるほどな。離島も調査範囲か。大変だな」
「まぁ、仕方ないわ。あの島は土御門家も気にしてるみたいやしな」
「土御門家……」
「知らんかったん? まぁ、ワイもそこまで細かくは知らんけど。安倍晴明が怪異を封印した箇所の一つらしいわな」
「そうか……」
その島は安倍晴明が怪異を封印した場所。そう言われて、詩はしばらく考え込む仕草をとった。
「ただ、安倍晴明が封印した箇所とかって偶に適当な場合もあるからなぁ」
「……あぁ、そうだな」
「安倍家の伝承も割と適当というか、話を盛ってる時もあるからなぁ。安倍家の子孫が威光を増やすために、封印してないこともやったとか、語り継いでるともあるし」
「あぁ、だが、本当に封印されている可能性も視野に入れておくべきだな」
「そりゃそうや。だから、一応伝承のあるこの島を安倍家が……おっと、今は土御門家が気にしてるわけやね」
次々と、詩と鈴木勝吉は語りあう……それを黎明は、特に気にした様子もなく、鈴木を見つめていた。
「兄ちゃんらは? 詩さんの弟子とかなんか?」
「……あー、そんな感じかな」
その疑問に黎明は、軽く答えた。ただ、それは嘘である。
以前に、黎明は帯刀許可を貰った。これは詩が黎明が自らの弟子であるとして、特別に許可が出ているのだ。
だからこそ、名目上は弟子であるというのは間違いではない。ただし、詩が黎明が弟子とか強さ的にありえないと思っているのは内緒である。
「ほー、詩さんの弟子ってことは優秀そうやね。そっちの子もそうなん?」
「あ、はい、わ、私も弟子です」
そして、志乃も同じような形になっている。その立場を彼女も理解をしていた。しかし、霊力量は詩よりも全然多いのだが……
そんなことは知らずに鈴木は話を続ける。
「それにしても、饗島って、面白い伝説あるやろ?」
「伝説? 勇者にしか抜けない剣とか?」
どうやら、黎明が、興味を持ったようだ。
「ちゃうちゃう。君本当に詩さんの弟子なん? 適当すぎやろ。島守様って言われる守り神がおるって話や」
「へー」
ほー、と感心をしながら黎明は、軽い感じで返事をした。その軽さに鈴木は何とも言えない顔をしたが、すぐさま切り替える。
「まぁ、そういう逸話はちょくちょくあるわな。神を信仰して、少しでも補助を受けようとするのはあるあるや」
「へー!ゲームの補助呪文みたいな?」
「神の恩恵を軽くゆうなあ。まあ、そういう軽さは嫌いやないで。こういう仕事してると、辛気臭いやつしらおらんねん。まぁ、怪異を対処してたらそうなるのも当たり前やけど」
「あ、そう、褒められるのは嬉しい。ありがとー。ただ、怪異じゃなくてモンスターじゃない?」
「いや、それは意味わからんわ」
ツッコミをする鈴木は、そう言って笑った。志乃は、話になかなか入れないので、黎明の後ろに隠れて和服の裾を掴んでいる。
「まぁ、饗島は離島やからな。本土とは違う雰囲気があるんやろうなー。ワイも初めて行くから、楽しみやわ」
「そうなんだ。楽しみなんだ。俺と一緒だね」
「せやねん。ってそんなわけあるかい。怪異がいるかもしれない場所行くのに楽しいわけないやんけ」
「あ、そうなんだ。俺は楽しみだけど」
「……はは、そう言って恐怖心を軽減させる感じなん? そういうの嫌いやないで」
どうやら、鈴木勝吉は黎明のことを勘違いしているようだ。これは分かれと言う方が無理だが、彼は本心で怪異がいる場所へ行くことを楽しみにしている。
そして、黎明の実力は鈴木勝吉の想定を遥かに超えている。それを彼は未だ知らない。
「ワイももっと明るくなったほうがええんかな。エセ関西弁も明るくなるかな思うてやってんねん」
「へー」
「ワイの妻にもそのほうがいいとか言われてな。あ、妻の話気になるやろ? 18歳で結婚して、今はワイと同い年の19歳でめっちゃ可愛いねん。ほんでな、ちょっと前に子供産まれてな、今がめっちゃ幸せやねん」
「急に幸せ自慢だね」
「まぁ、ええやろ。幸せ自慢はしたいねん。ほんでな、できちゃった婚みたいな感じやって。だから、結婚式をこの調査が終わったらしようと思ってんねん」
ずっと黙っていた志乃は思った。この人、死亡フラグみたいなセリフ言うなぁと。
しかし、彼女は空気が読めるので黙っていた。そんな妻自慢をする鈴木の話が終わるタイミングで、島へと船は到着した。
◾️◾️
出発をしてから、約一時間半後。ついにフェリーは饗島の港に到着した。
「着いたわー、ほんま長いねん。ほんじゃ、ワイはワイで仕事するから、ほなまたなー」
鈴木は、そう言って、デッキから降りた。そして、すぐさま走って行ってしまった。
──彼はさっさと仕事終わらせて、帰りたいと考えるタイプの陰陽師だった。
それは彼が恐怖を完全に感じる前に、仕事に取り掛かりさっさと終わらせてしまいたいと考えているが故である。
そして、黎明たちも、続いて降りる。彼らが思っていたよりも饗島の港は意外と小さかった。
そのフェリー乗り場の建物は古く、周囲には小さな商店が数軒並んでいる。人の姿もまばらで、静かだ。
そして、港の周辺には、古い木造の建物が立ち並び、どこか時が止まったような雰囲気がある。看板は色あせ、壁はひび割れている。
「うーん、静かだね」
そう言いながら黎明は周囲を見渡した。その瞬間、黎明の表情が変わった。目を細め、空気を感じるように深く息を吸った。
「……ん?」
どうやら詩が、黎明の変化に気づいたようだ。
「黎明、どうした?」
「あー、なんていうか……この島、MPに満たされてる」
「MP……か。私は感じないが……」
「いや、普通の場所より、ずっと濃い。空気そのものが、MPで満たされてる感じ。だから、感知が阻害される。山神の時に近いのかな……ただ、あの時は倒すまで、脱出が出来ないみたいだったけど、今回はそんな感じはしない」
そう語る黎明は少し嬉しそうに笑った。
「島だから、探知不可に全振りしてるのかな? どちらにしろ、面白い魔法だね。フィールド魔法って感じかな」
詩は黎明の言葉を聞いて、少しだけ安心をした。
(私はこの結界に気づきもしなかった……。初見でここまで気づくなんて、どんな探知感覚を持っているんだ。やはり黎明は凄まじいな)
(志乃もあの鈴木も誰も、気付いた様子はない。黎明が居なければ何も知らずに踏み込んでいたことになる。やはり、この島に何かあるということか。危なかったな)
「……そうか、気づいてくれてありがとう。助かった」
「うん、いいよ。それよりテンション上がってきたね」
黎明はにこにこと笑った。一方、詩も笑顔で返していたが、内心では穏やかではなかった。
(黎明の話だと山神の時と近い感覚だという。ならば、間違いなく結界術だろう。ただ、黎明以外に気づかれないように結界を張る──)
(そんな芸当は人間では不可能だろう。怪異か……? それとも、ネットで見た怪異を狩る人間か……)
(どちらにしろ、感知阻害、それをそもそも悟らせないように結界を張る。そんな芸当はかなりの高次元の存在だ。黎明以外の人間がそんなこと出来るはずもない。それならやっぱり怪異の可能性が高い)
(ただ、脱出できないわけではない。これは黎明も言ったが島国なら、そもそも簡単に出れない、だからか)
そんな風に考えながら、詩は辺りを見渡していた。そもそも詩は黎明ほどに心が強くない。だから、ずっと警戒をしつつ頭を回してしまう。
(港で見た人間もそこまで、おかしな様子ではない。それなら、清泪村のように餌を募ってるわけではないか。まぁ、あんな風にしていたら、島民もおかしなことに気づくか?)
(この結界が怪異の仕業だとしたら……これは何の目的で、何の仕業なんだ……?)
◾️◾️
島へと到着をした時はお昼時だった。
そこから、最初は泊まるはずの宿屋へと三人は向かう。
どうやら島の市街地は、静かのようだ。それもそのはず、この島の人口は七千人ほどしかいないからだ。
古い商店街が並び、人の姿もまばら。店は開いているが、客の姿はほとんどない。
そして、道は狭く、両側には古い木造の建物が立ち並んでいる。看板は色あせ、窓ガラスは曇っている。
そんな島を黎明は、周囲を見回しながら歩いていた。
「うーん、探知が難しいね。まぁ、全く分からないって感じじゃないけど。慣れてくれば分かるかも。志乃はどう?」
「わ、わたしは、ちょっとだけ、違和感があるような……?」
ふと、志乃が小さく言った。
「お、志乃も分かる?」
「は、はい。なんていうか……重い感じがします。息苦しいっていうか……」
「お、修行の成果が出てきたねー、やるね」
「へ、へへへ」
そう言って、黎明はにこにこと笑った。褒められた志乃はニヤニヤと少し、キモい笑みを浮かべている。
こうして三人は、近くの民宿に到着する。
その民宿は、古い木造の二階建てだ。看板には【民宿・海風】と書かれている。中に入ると、おばあさんが出迎えてくれた。
「いらっしゃい。予約の白妙さんかい?」
「はい、そうです」
代表をして詩が、答えた。
「あいよ。じゃあ、二階の部屋に案内するね」
そう言って、おばあさんは、三人を二階の部屋に案内した。部屋は和室で、畳が敷かれている。窓からは、海が見える。
「夕飯は六時からだよ。それまで、ゆっくりしてな」
「ありがとうございます」
そして、案内を終えると、おばあさんは、部屋を出ていった。黎明は、窓の外を見た。海が広がり、遠くに小さな島が見える。
「ねぇ、詩。あれは?」
「供島だ」
「へぇー、そうなんだ」
「あの島には人が住んでいないようだな。そもそも危ない場所だから立ち入りができないと聞いている」
「ふーん」
その島が気になった黎明は、ジッと、しばらく眺めていた。
◾️◾️
そして、時間が過ぎて、夜がやってくる。
目的を果たすために黎明たちは、島の探索に出かけた。これは、黎明以外にも怪異を倒せる人間を探すためだ。
なので、外に出て、市街地を抜け、少し山寄りの場所へ。道は舗装されておらず、砂利道になっている。
月明かりの下、黎明は軽い足取りで歩いていた。志乃と詩も、その後を追う。彼らば歩く周囲は静かで、虫の声だけが聞こえる。風が冷たく、木々の葉を揺らしている。
「さて、モンスターはどこかなー」
まるでテーマパークに来たぐらい軽いノリだった。そんなノリの黎明は、にこにこと笑いながら怪異を探す。
「黎明さん、な、なんか、モンスターに見られてるような……」
そこへ志乃が、小さく言った。黎明は、にやりと笑った。待ってましたと言わんばかりの表情である。
「さすが志乃。モンスターを呼ぶ体質は最高だな。経験値稼ぎに最適だよ」
「へ、へへへ」
「いやーその技術はどうやっても手に入れられないから、本当にすごい」
志乃は、少し照れたように俯いた。その時、遠くから気配がした。黎明の表情が変わった。
「……お、来たね」
そう言って、黎明は前を見据えた。暗闇の中、何かが蠢いている。それは人の形をしているが、関節が不自然に曲がっている。顔は白く、目が黒く濁っている。口が大きく裂けている。
そう……見たら分かる、怪異だ。
「志乃、詩、下がってて」
「は、はい」
そう言われ志乃は、すぐに後ろに下がった。また、詩も、少し距離を取る。
──刹那、黎明の手が刀の柄へと滑るように触れた。抜刀の予備動作すらなく、ただ一閃。刃が空気を割った瞬間には、すでに怪異は沈黙していた。
次の瞬間、怪異は煙のように霧散した。
まさに、閃光。
二人はすでに見慣れているが、何度見たとしても黎明の姿は完璧に捉えることはできていない。
だが、既にそれに慣れてきている。《《黎明の動きを適切に俯瞰できるほうが難しいと理解している。》》
「うん、弱い。経験値はほぼなし!」
「あ、そ、そうですか。で、でも、か、かかか、カッコイイ、ような、や、やっぱり目に留まらぬ抜刀はさすがと言うか……」
「あ、そう? どうも」
「あぁ、やはり黎明。お前は凄まじい」
志乃と詩に褒められて、黎明はちょっとだけニヤッとした。意外と年相応な部分があるのだ。
「……お、あっちにも三体くらいいるね」
今度は、三体の怪異が、黎明たちの目先に居た。やはり志乃といるとすぐに怪異と遭遇できていいなぁと黎明は思ったが……
──そこで、わずかな違和感を抱いた。
「ん? あのモンスター達、何で動かないで固まってるんだ?」
《《まるで的のように動かず固まっているように黎明には見えた。》》
そして、その黎明の疑問を裂くように……
──横から、何かが飛んできた。
それは炎の刃。
それが、夜を照らすようにあたりを僅かに照らしながら、怪異を一瞬で切り裂いた。
「……お?」
ちょっとだけ黎明は、驚いたように目を見開いた。
そして、炎の刃が消え、それが飛んできた方角を見ると、一人の少女が立っていた。
そこにはセーラー服を着た、白い髪の少女。
その少女は身長は172センチほど。細身で、胸は大きい。前髪は黄色の目にかかるほど長く、横髪は耳たぶが隠れるほど。右目の下に涙ほくろがある。
だが、表情は死んでいるように見える。まるで人形のように綺麗だが、感情が感じられない。
そんな彼女は、怪異を倒した後、黎明たちをちらりと見た。
「……大丈夫か?」
そう言って少女は、三人に近づいてきた。
「うん、俺たちは平気」
「……そうか、見ない顔だな。誰だ?」
「東雲黎明、職業は勇者かな」
「……は?」
その夜、少女は自分の人生を大きく変える男と出会った。




