第36話 土御門家
京都・嵯峨野。
そこに土御門家の本殿は存在する。元々は土御門は安倍家の分家であった。しかし、四年前に安倍家が壊滅したことにより、本家の地位をほぼ継承したと言っていいだろう。
安倍家が任されていた封印、怪異の対処、日本政府とのやりとり、全てを土御門が引き継いだ。
そして、本家であった安倍家は分家のような状態へと変わる。
──安倍蓮、安倍紅。二人はわざわざ分家の本殿まで足を運んでいるのがその証拠と言えるだろう。
お昼過ぎ、土御門の本殿へと向かう二人。今までならば足取りが重かったが、今回は違った。
淡々と何事もないように土御門本殿へと足を進めている。
(初めてだな。こんな軽い足取りなのは……)
以前までは、土御門本殿へと向かう時に足が凄まじく重かったと言えるだろう。
分家であったはずの土御門家、そこに自らで向かうことに抵抗がないはずがない。何よりも土御門家の現在当主とその子供と会うことに難色を二人は示していた。
なぜなら、成り上がった瞬間から、安倍家を下に見るような言動が多い、それが現土御門当主の特徴だった。
だからこそ、今までは行くのに抵抗があった。
しかし、それは二人が【陰陽師】としての枠に囚われていたからであると言えるだろう。
だが、今は違う。二人は自由な冒険者へと変わっている。
「さっさと終わらせて、修行に戻りてぇ」
「……修行したいの? 正直アタシはきついから休みたい時もあるけど」
「そうか? まぁ、黎明の鍛錬は疲労が大きいが、その分やる価値があるしな。それに最近は、体の調子がすごく良いんだ。この感触を忘れないうちに研ぎ澄ませておきたい」
「そう、無理はしすぎないようにね」
「無理しない冒険者はいないだろ」
大分、黎明くんみたいになってきたなぁ。と紅は弟である蓮を見ながら感じていた。
確かに蓮は最近、体の調子が凄まじく良い。更に精神的にも自由に、今まで陰陽師の概念に囚われていたが完全に脱却したと言って良いだろう。
「今度から、宗家に来るときは手紙でよくないか? 足運ぶ必要ないだろ」
「一応、ワタシ達が宗家だけどね。まぁ、土御門はワタシ達をわざわざ来させるのが好きなんでしょ」
「あー。そういう連中だったか。もう、家の肩書きに興味はないんだけどな」
「次からは手紙と言いたいけど、一応僅かだけど安倍家は生き残りがいるし。その人の立場もあるしね」
以前ならば、蓮は安倍家の肩書きを重要視していた。安倍家だから、人を救う使命があると。
だが、彼は今は、自らが人を救いたいから力を欲している。
「あ、そろそろ着くわね」
そう、紅が口にした。
そこは嵯峨野に点在する分家の屋敷。その中でも、今や宗家としてふんぞり返る中心。門前からして、安倍家の旧邸より派手だった。
改築をし、家紋が誇らしげに刻まれ、まるで威光のように仰々しい。
その家の門をくぐった瞬間、空気が変わる。土御門家の本殿は、侵入者が来た際に分かるように結界が貼られている。
そのまま二人が門を通り過ぎ、中に入る。すると本殿から案内役の陰陽師が歩み寄ってくる。現れたのは狩衣姿の男性であった。
「お待たせいたしました。安倍蓮様、紅様」
その男性が二人に軽く挨拶をする。そして、すぐさま踵を返して進んでいく。その男性の後をつけて、二人は本殿へと上がった。
案内された大きな部屋の扉を開ける──
──通された座敷は広く、天井が高い。
だが、広さよりも中央に置かれた低い机の向こう側にいる男が、空間そのものを支配していた。
土御門秀春。
濃紺の和装。その背中には家紋が刺繍され、光のように輝いていた。オールバックの黒髪に、切れ長の目。薄い笑み——常に余裕があるのか、それとも馬鹿にしているのか。
どちらにしても、二人はあまり好きではなかった。
「来たか。蓮、紅」
いきなりの呼び捨て。以前ならば、この時点で睨みつけていた蓮だったが、彼は何も言わずに畳に腰を下ろした。
「報告に来た。土御門当主」
「ふむ。相変わらず、つまらん顔をしているな、安倍家の残党は」
「……」
全く動じることがない蓮は何も言わず、ただ静かに秀春を見つめていた。
同じく紅も以前なら、顔を曇らせていただろう。しかし、今は強い瞳で土御門秀春を見つめている。
その変化に、秀春は僅かに眉をひそめた。
(……ん? なんだ、この二人の雰囲気は)
以前までの二人なら、すぐに怒りを露わにしていた。特に蓮は、土御門に対して激しい敵意を見せることが多かった。
だが、今日は違う。
まるで、格下を相手にするかのような、余裕すら感じさせる態度。
(何があった……?)
注意深く二人を観察する秀春の横には、同じくオールバックの青年が座っている。端正な顔で、同じように二人をじっと見つめている。
その人物の名は土御門宗一。現当主土御門秀春の息子、長男である。
柔らかく笑い、丁寧に頭を下げた。
「お久しぶりです、安倍家のお二人。お足元の悪い中、よく来てくださいました。……僕からもお礼を」
一人称が僕で敬語を使う。そして、笑顔も違和感がなく物腰が柔らかい。何よりも礼儀の形をしっかりとしている。
これは彼なりの長男としての責任感がそうさせているのかもしれない。しかし、彼の対応全てには、温度がない。
だからこそ、紅は本能的に、こいつが一番不気味だといつも思っている。
土御門宗一が挨拶を終えると、秀春が扇子を閉じるように、話を切り替える。
「さて。報告を聞こうか。先日調査した、清泪村について。どのような大きな成績を立てたのか、聞かせてもらおうか。流石に何もしてないはずがないだろう? 安倍家なのだからな」
まるで、嘲笑うような口調だった。その問いに対して、紅は答える準備をし、蓮は静かに目を閉じていた。
「清泪村では、封印を行いました。怪異の被害は最小限に抑えられました」
「封印か。本当に封印ができたか、ただ逃げ出してきたどうかはわからんが。おっと、口が過ぎたな。安倍晴明の血を受け継ぐ宗家がそんな嘘をつくはずもあるまい」
そう言いながら秀春は、鼻で笑った。ニタニタと笑みをこぼしながら、扇子で自らを煽る。
「しかし、まだまだお前達は子供。あまり無理をし過ぎないことだ。お前達まで死んでしまえば安倍家も本当に壊滅してしまうからな。ははは」
全く心配をしてないような、当主の不謹慎な笑いが響く。さすがに、ずっと黙っていた蓮が口を開きかけた。しかし、次の瞬間、紅が先に出た。
「はい、その通りです。ワタシたちはまだまだ未熟ですので」
「クク、安倍家とはいえ、まだまだ子供。これからも、安全第一で全国を回ってもらおう」
それを聞いて、秀春の薄い笑みがより深くなった。
「そして、お前たちに新しい任務を与える。事前に聞いていたな?」
「……任務ですか。確か岡山県に派遣だとか?」
「あぁ、確かに最初はそういった。だが、そちらはよい。それよりも最優先で向かって欲しい場所がある」
「最優先で、ですか?」
「──新潟県沖に、饗島という島がある。その島ではかつて、とある怪異が封印されていた、らしい。詳しくは安倍家が壊滅した時に文献まで消えてしまったのでな。細かくわからぬ。そこでの調査を優先したほうがいいという進言があってな……。ゆえに調査をしてもらおう」
「急ですね……しかし、承知しました」
「次も素晴らしい戦果を期待している」
そう言って、秀春は扇子を開いた。これまでの小馬鹿にしていた空気を切り裂くように。
「それと、一つ聞きたいことがある。お前たち、最近の成果報告書を見たが……封印の成功率が上がっているな。清泪村以外でも活動をしていたと記録にあるが、すでに6件以上の封印を終えてるだと?」
「……はい」
「ふむ。まあ、少しは成長したということか。それとも、安倍家復興のために焦って成果を大きく書いたのか。それは知らんが、まだまだ子供。あまり無茶はしないようにな」
それについて蓮は黙って聞いていた。だが、本当なら封印ではないと否定をしたいところではあった。
なぜなら、本当は封印ではなく怪異を倒しているからだ。散々馬鹿にしてきた奴らに冷や汗の一つでもかかしてやりたい場面だろう。
しかし、これは二人はまだ黙っている。理由としては、黎明のことを伏せておくように詩から頼まれているからだ。
だからこそ、打破ではなく、封印として処理をしている。ただ、だとしても当主は疑問を持ってしまうのだろう。
現代では封印でさえ、そう簡単にできるものではない。そもそもこれまでの二人の成果から考えると明らかに、封印ペースがおかしい。それに気づかないほど当主も愚かではないのだろう。
ただ、流石に想定を遥かに超える速度で二人が強くなっているとは考えないようだった。
二人は以前とは似ても似つかないほどの強さになった。外見は同じだが、薄皮一枚の先には凄まじい強さが内包されている。
真実には当主は気づかない。しかし、その片鱗の雰囲気が、二人から漏れているのだろう。
──秀春が、再度の疑問を持ってしまう。
(……なんだ、この反応は? こいつら、いつものような顔をせん)
この二人の雰囲気に秀春は内心で疑問を抱いていた。以前なら、ここまで言えば怒りを露わにしていたはずだ。だが、今日の二人は、まるで別人のように冷静だった。
「……まあ、いい。饗島の調査、頼んだぞ。期待している」
「承知しました。それでは、失礼いたします」
紅が立ち上がり、蓮も続いた。当主秀春の挑発にも乗らず、二人は、何も言わずに座敷を後にした。
◾️
ようやく、報告が終わった二人は部屋を出て帰路に就く。そして、玄関まで向かう途中、廊下を曲がった先、障子の陰にひとり、女が立っていた。
それは土御門綾乃。
先程の当主の娘であり、長女、三人いるうちの子供の一人だ。
その見た目は長い黒髪を低い位置で束ね、柔らかな微笑みを貼り付けている。慈悲深そうで、優しそうで——その実、世界への興味がゼロの目。
「あら、安倍さんたちね。お疲れ様」
すぐに紅は礼儀として頭を下げる。
「土御門綾乃さん」
「ふふ。わたしは分家だから呼び捨てでいいのに。それにしても、大変ね全国を飛び回らないといけないなんて。宗家なのに」
一方で、紅とは違い、蓮は僅かに睨みながら、軽く一言だけ返答を返す。
「……まぁな」
そんなあっさりとした返答が気に入らなかったのか……嫌味な綾乃の微笑みが、ほんの少し歪む。
しかし、すぐさま切り替えるように再び唇の端を吊り上げる。
「頑張ってるのね。最近、封印の成功率も上がったとか? まぁ、本当かは知らないけど。でも、無駄じゃないかしら」
そんな優しそうな言葉をかけているが、彼女の言葉には重さがない。ただ、嘘を言ってるわけではなかった。本当に無駄だと心の底から感じていたようだった。
「怪異なんて、いくら封印してもキリがないし。こんな無駄なこといつまでやるのかしらね。いつか怪異に人間なんて滅ぼされるような気がするし」
その目の奥に紅は暗黒を見た。それは怒りでも悲しみでもない。ただ、終わりを受け入れる、望むような人間の冷たさだった。
「尊敬するわ、無駄なことをするなんて。名家なんだし、適当に誰かに任せておけばいいじゃない」
「名家だから、戦うんだろ」
「……本当に分からないわね。戦う必要もない、戦ってもいずれ破滅が待ってるかもしれない。それなのに、一生懸命になるなんて。まぁ、でも、期待してるわ。安倍晴明のように世界を変えてくれることを」
それは嘘と一瞬でわかる、応援の言葉。中身は空っぽだった。
「──あぁ、期待してろよ」
だが、そんな言葉に蓮は怯むことがない。
さらに、一切引く気がないと示すように、一言だけ言い放つ。そして、すぐに背を向けて歩き出した。
同じように紅は綾乃を僅かに睨み、すぐに蓮の後を追った。
◾️
ついに外に出た二人、門へ向かう途中、突然声がかかった。
「おい、待てよ」
そのまま振り向くと、狩衣姿の一人の男が立っていた。
その名前は土御門隆志。秀春の甥で、土御門家の中でも特に気性が荒いことで知られている。年齢も二四歳であり、蓮や紅よりもかなり年上であるのに、態度が大きい。
そんな荒さが表れているような鋭い目つき。加えて、短く刈り込んだ髪と筋肉質な身体。その上、狩衣を着崩し、腰には小刀を差している。
「安倍の残党か。叔父上から話は聞いてるぜ。島の調査だってな」
そう言われた蓮は、無表情で隆志を見た。
「……それが?」
「ふん。どうせ失敗するんだろうな。お前ら、安倍家が壊滅してから、まともな成果なんて上げてないだろ」
「最近は割と頑張ってるがな」
「そうかよ。せっせと盛って話をしてるんだろうな」
とにかく、馬鹿にするように隆志は嘲笑うように言った。
「わざわざ分家の土御門に来て報告とはな。見てて笑えるわ。元本家が、こんなに落ちぶれるなんてな」
しかし、紅は冷静に答えた。
「……それで、何か用ですか?」
「用? ああ、あるぜ」
その言葉を待っていたと言わんばかりに……隆志は、にやりと笑った。
「お前ら、最近封印の確率が上がってるんだろ? それが本当なのか、ちょっと試させてもらうぜ」
そう言って、隆志は符を取り出した。
「──我が息、我が血、我が意をもって、守り、従い、刃となれ」
いきなり符が光り、そこから黒い影が現れた。犬のような形をした式神。目が赤く光り、牙を剥いている。
【式神】
術者の身代わりとなり、同時に守護をする存在。陰陽術【式神術】によって作成が可能だが、怪異には通じることはほぼない。怪異を誘導し、陰陽師を逃すための術と言って良いだろう。
「ほら、避けてみろよ。できるもんならな」
そう、隆志が言葉を放つと……呼応するように式神が、蓮に向かって飛びかかった。
唐突すぎる攻撃。それに紅が反応しようとした瞬間——蓮が、ほんの僅かに手を動かした。
襲ってきた犬の式神を蓮は、凄まじい速さの手刀で首を切り裂く。しかし、黎明のように恐ろしいほどの速さではない。
だが、土御門隆志からすれば何が起こったのかわからないほどの速さだ。
だからこそ、彼には、急に式神は空中で止まり、そして、首が切れたように見えるだろう。
「……え?」
疑問の声と共に隆志は、目を見開いた。
「な、なんだ今の……?」
何事もないように蓮は、無表情のまま言った。
「邪魔だったから、消した」
「け、消した? 俺の式神を? 一瞬で?」
「こんなのカスだろ。経験値もないし、マジで無駄な時間だったな」
ひょっとしたら、これは夢なのか……そんな現実を見た隆志は、信じられないという顔をしていた。
「ば、馬鹿な……お前、こんなに強かったのか……?」
「……さぁな」
蓮はそう言って歩き出した。そして、紅も、隆志を一瞥してから、蓮の後を追った。
全く状況についていけない隆志は、その場に立ち尽くしたまま、二人の背中を見送った。
(あいつ……一体、何があったんだ……?)
こんなことがあるはずがない。
土御門が作る式神を一瞬で消すなど、普通の陰陽師にはできない。例えそれが安倍家であったとしてもそう単純ではないだろう。
だが、まさに一瞬。そして、あの余裕。まるで、格下を相手にするかのような態度。
(安倍家でたまたま生き残ったガキ共……宗家だとしても、式神を一瞬で消すとかできるかッ? な、なにが起こってるんだ……? あいつら、ただのガキか!?)
いまだ、状況が飲み込めない隆志は、震える手で符をしまった。
◾️
色々な事態があったが、ようやく二人が門を出ようとした時、また声がかかった。
「紅さんと、蓮さんですか?」
そして、二人が振り向くと、少年が立っていた。前髪を下ろした黒髪。中性的で、目だけが鋭い。けれど表情は穏やかで、人当たりがいい。
彼の名前は土御門怜司。当主の三人の息子のうちの一人、次男であり、末っ子である。
「宗一兄さんから聞きました。饗島の調査を任されたと。……大変ですね」
その様子を見て、蓮は相変わらず仏頂面だが、さっきより肩の力が抜けた。
(こいつは土御門の中じゃマシだな……)
「もうお帰りですか?」
「あぁ、また調査あるしな」
「そうですか。……あの、少しお時間よろしいですか?」
僅かに、申し訳なさそうに土御門怜司が尋ねる。
「何か用か?」
「はい。実は、僕はこれから海外に行くことになってるんです。その前に、少しお話ししておきたいことがあって」
「海外……怪異の情報収集か?」
「ええ。正確には悪魔ですけど。日本では怪異と呼ばれてますけど、向こうでは怪異は悪魔と呼ばれることが多いんです」
その言葉で、蓮は気になったように疑問を投げる。確かに日本の事情は知ってるが、海外については知らない。
「悪魔、か。あっちはどんな感じなんだ?」
そう聞かれるとに、玲司はこやかに回答を行った。二人は土御門の中でも、この子が一番話しやすいと考えていた。
「日本と同じです。封印しかない。エクソシスト、日本で言う陰陽師が活動をしていますが、名前が違うだけで実態は日本と変わりません。封じて、延命しているだけ」
つまり、海外でも怪異を倒す人間は存在していない。蓮と紅は改めて、自分達が急激に成長をしていると悟る。
──そして、自分達よりも遥か先にいる黎明に対し、畏怖をしてしまった。
(あいつ、マジで人類最強ってことか)
(まぁ、黎明くんより強い人は世界にもいないってことね)
そんな二人の内心を知るはずもなく、海外情勢を語りながら怜司は静かに笑った。
「ただ、最近、海外では少し変わった動きがあるんです」
「変わった動き?」
「ええ。アメリカを中心に、怪異——つまり悪魔に対する新しい対処法を模索する動きが活発化しています。封印だけでは限界があると、気づき始めてるんです」
そもそも海外は日本よりも人口が多い。つまり、人間の恐怖から怪異が生まれるのであれば、人口が多い場合は、発生する数も日本よりは多いことになる。
無論、陰陽師のような存在の数も多いが、新たな対処法を常に模索しているだろう。
「気をつけてください。お二人は最近、封印の精度を上げていると聞きます。だからこそ、慎重に行動した方がいい。お二人の成長速度に興味を持つ人間が、出てくるかもしれません。まぁ、そもそも安倍家である時点で興味の対象かもしれませんが」
その言葉に紅は、深く頷いた。蓮は特に気にするそぶりもないが、話は心に留めることにした。
「忠告、ありがとうございます」
「気に留めておく」
「いえ。僕はただ、お二人が無事でいてほしいだけなので」
そのまま怜司はふっと目を細める。
「……それでは。海外へ戻ります。何かあれば、連絡を」
そして、彼は屋敷の陰へ溶けるように去っていった。
◾️
ついに、土御門家を出た帰り道、蓮と紅は二人で並び影森町への帰路を辿っていた。
「蓮。さっき、式神を一瞬で消してたね」
「あぁ。弱かったからな」
「あんまり目立っちゃうと、違和感大きくもたれちゃうかも」
「今更だろ」
あの廃村で出会った時から、黎明と共に修行を重ねてきた二人。今では、あの程度の式神など、敵ですらない。
「蓮、髪少し伸びたね……帰りに切っていったら?」
「いい。さっさと帰って修行があるし」
「髪邪魔だと、修行でも集中できないんじゃない」
「……坊主にでもするか」
「流石にそれはやめた方がいいと思うわ」
あまりに前のめりで髪を切る、いや剃ってしまおうとする蓮を紅は冷静な声音で止める。
「話戻すが、当主も随分とオレ達を気にかけてたな」
「当主というか、まぁ、土御門全員というか」
「当主の土御門秀春、その息子で長男の土御門宗一、長女の土御門綾乃、唯一まともの次男土御門怜司。それと当主の甥でイキってる土御門隆志。土御門オールスターだな」
「嫌なオールスターね」
今日であった土御門達。次男の土御門怜司以外は、紅は嫌悪感を持っていた。彼女がオールスターという言葉にここまでネガティブな感情を持ったのは、初めてだったかもしれない。
「相変わらず嫌味が多かったな。玲司は違ったが。あれか? 派遣場所も変わったのも嫌味か?」
「こっちを振り回したいのかもしれないわね。ただ……」
「饗島だろ? あそこって、《《黎明達が行くとか言ってなかったか?》》」
「そうね。黎明くん達はもう出発してるかもしれないし、入れ違いになるかもしれないわね」
黎明達も、とある事情から饗島に向かう予定になっていた。しかし、二人は派遣場所が元は岡山だったので行く予定ではなかったのだ。
「まぁ、オレ達も急ぐか」
「そう、ね。まぁ、黎明くんが行くなら行く意味って……」
「モンスターも全部狩られちまう前に、着きたいな」
──二人は饗島に向けて出発した。




