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【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第2章 双子編

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幕間 新時代幕開け

──とある、陰陽師は走っている。


 足音が、自分のものか、それとも背後から迫る、それのものか、もう分からない。


 息が喉に引っかかり、肺が焼けるように痛む。視界の端が暗く滲み、木々の輪郭が歪んでいく。何度も転びそうになりながら、それでも陰陽師の男は必死に森を駆けていた。


「……く、そ……!」


 振り返る勇気はない。


 振り返った瞬間、終わると本能が理解している。


 背後から聞こえるのは、ぬちゃり、と湿った音だった。土を踏みしめる足音ではない。何か柔らかいものを引きずり、擦り潰すような、不快な音。


 ――追ってきている。


 男が遭遇した怪異は、正式名称すら定まっていない存在だった。


 人の形をしているが、関節がすべて逆向きに折れ曲がっている。首はありえない角度で傾き、顔は布で覆われているように見えるが、目も鼻もない。ただ、口だけが異様に大きく裂け、そこから常に粘ついた黒い液体が滴っていた。


 その怪異は恐怖に反応する。


 心拍が上がるほど、呼吸が乱れるほど、距離を詰めてくる性質を持っていた。


 だから男は、必死に平静を保とうとした。符を切り、簡易結界を張り、陽動をかけた。だが、それらはすべて無意味だった。


 恐怖は、消えない。逃げれば逃げるほど、怪異は速くなる。


「はぁ、はぁ……っ!」


 足がもつれ、男はついに倒れ込んだ。苔むした地面に膝をつき、片手を突く。もう立ち上がれない。


 背後で、音が止まった。終わりだ、と男は悟った。


 ここで自分は喰われる。骨も、魂も、恐怖ごと。


 そのときだった。


「――そこまで」


 澄んだ、しかしよく通る声が森に響いた。男の視界に、二つの人影が割って入る。


 一人は白装束を現代風に着崩した少年。もう一人は、巫女装束を思わせる服を着た少女。


 怪異が、ぴたりと動きを止めた。恐怖に反応するはずの怪異が、まるで様子を窺うように、距離を取る。



「……さて、倒すか」


 少年が、気負いもなく言った。男は呆然と二人を見上げる。状況が理解できない。


「大丈夫? もう、無理に動かないで大丈夫だから」


 少女が短く告げる。


「そいつ、恐怖を餌にするからな。あんた、今はもう何もしなくていい」


 そう言って、少年は静かに前へ出た。怪異が低く唸り、再び動き出そうとする。


 だが、次の瞬間――



「――遅い」


 少年が一歩踏み出した。符も、呪文もない。ただの踏み込み。だが、それだけで空気が変わった。怪異の動きが鈍り、まるで重力が増したかのように地面に沈む。


「……え?」


 男の口から、間の抜けた声が漏れた。少年は淡々と続ける。


「オレはもう、ビビってねぇ」


 怪異が口を大きく開き、黒い液体を噴き出す。だが、それは少年に届く前に霧散した。


「紅、結界を頼む」

「了解」


 少女――紅と呼ばれた彼女が、素早く結界を展開する。逃げ場を失った怪異は、初めて明確な焦りを見せた。


 目の前の存在は、確実にこちらを打破しようとしていると悟ったからだ。


 そして、驚くべきは術の発動速度。

 

 言霊も発しておらず一瞬で取り囲まれた。


 さらに狩衣を着ているわけでもない。それなのに一瞬で術を発動させたことに、男の陰陽師も驚きを隠せない。



「今、言霊使ってない!?」



 そして、終わりは一瞬だった。少年が持っていた刀を抜く。そして、その刀に炎を纏わせた。



「イグニス・セイバー」




──そのまま、怪異を両断した。



 怪異は、崩れ落ちるように消滅した。音もなく、痕跡すら残さずに。森に、静寂が戻る。


 男は、しばらく声が出なかった。



「……え、倒した、のか?」

「倒しただろ。見てなかったのか。まぁ、その反応は当然だがな」


 少年はあっさり答えた。


「封印じゃなくて?」

「倒した」


 男は、ごくりと喉を鳴らした。


 陰陽師として長く活動してきたが、怪異を倒す光景を、見たことはない。



「……君たちは、一体……」


 その問いに、少年が振り返る。


「自己紹介しとく」


 彼は軽く手を挙げた。


「安倍蓮。職業は冒険者」


 続いて、少女が一歩前に出る。


「安倍紅。一時的にだけど……ワタシも冒険者よ」


 男は、その姓を聞いて、目を見開いた。


「安倍……? まさか……」



 安倍家と言えば陰陽師の世界では有名な一族。しかも、十年前に壊滅をした話が有名だ。



「細かい話は後でいいだろ。とりあえずは生きていることを喜んでおけ」

「あ、あぁ、ありがとう。本当に助かった……」


 紅も、穏やかに微笑む。


「……大丈夫。もう追われないですよ」



 男は、震える手で地面を掴みながら、深く息を吐いた。


 ――助かった。


 それだけは、確かだった。


 森の奥で、二人の冒険者は、静かに次の戦いへと歩き出していった。




──九月。双子は黎明との訓練により、格段に上の実力を手に入れていた。




 怪異でも、霊格が穢れであれば倒せるほどに。




「さて、他にもモンスターがいれば経験値にしてやるんだがな」

「え? も、モンスター?」

「あ、すいません。蓮は怪異がいれば倒して、修練を積みたいって意味で言ってます」




 蓮は黎明のように怪異をモンスターと呼んでいる。徐々にだが、彼は黎明のような思考になっていた。




 陰陽師の男は、何が起こっているのか分かってはいない。名家ならば怪異を倒せるのか? そんな話は聞いたことがないが?


 と、悩みに悩んでいる。



 ただ、彼の感覚は正しい。名家であっても怪異は人間が倒せるわけがない。




 この二人が、唐突に例外になったのだ。




 そして、この二人は徐々に頭角を現していく。



 それは、新時代の幕開けのように。



 ──ただ、その事実に他の陰陽師が気づくのはまた別の話。




 ──そして、何よりも、黎明と言われる革命の中心、台風の目に気づくのもまだ先の話なのだ。










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― 新着の感想 ―
タイトルは新時代幕開けであってますか?新時代の幕開けとかではなく
こんにちは。 おぉ、黎明式トレーニング(?)を積み重ねればきちんと目に見えて強くなれるんですなぁ…。この実績で日本の陰陽師界隈も目が覚めてくれりゃ良いんですが。
安倍家の遺児が討伐不可能である怪異を滅ぼしただと!? これで人類に希望の火が灯ったぞ!怪異への負の感情も薄まったはず! …で、弱体化しちゃったモンスターを見て、勇者はどうするんですかねぇ?
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