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【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第2章 双子編

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第35話 旅行

 双子にとって、影森町での数日間は、想像以上に過酷だった。


 黎明の修行は容赦がなく、しかも理論と実践が同時進行だ。蓮は走らされ、霊力を感知させられ、怪異の気配がある場所を何度も往復させられた。


 紅も結界の張り直しや応用を叩き込まれ、夕方になる頃には二人揃って地面に倒れ込む始末だった。


 とりあえず気絶するまで、修行が続いた。


「……し、死ぬ……」


 宿の畳に突っ伏した蓮が、息も絶え絶えに呟く。


「あ、あれ、仲間になるってこんな辛いの?」


 紅も壁にもたれながら、ゆっくり首を横に振った。


「……黎明くん、き、きつくない?」

「いやー二人とも、この数日でかなりの経験値が手に入ったんじゃない? 熟練度も上がってると思う、明日も頑張ろー、おー」

「い、一日休みをくれない?」


 黎明はきょとんとした顔で二人を見下ろし、少し考えるように顎に手を当てた。


「あー……そうだね。確かに、経験値稼ぎすぎたかも」

「そ、そうね、休みもないと……!」


 

 そのやり取りを横で見ていた白妙詩が、ククと笑いながら口を開く。


「じゃあ、ちょうどいい。黎明、私と一緒に別件行くぞ」

「別件?」

「ネット掲示板発の噂の調査だ。福島の田舎の方に呪われた宿屋があるらしい」


 その言葉に、蓮がぴくりと反応したが、すぐに力尽きて畳に顔を埋めた。


「……行きたい……けど……無理……」

「わ、わたしも……」



 双子は完全に力尽きている。詩は淡々と告げる。


「二人は休んだ方がいい。ネット掲示板の噂の調査、と言っても怪異がいるかもしれない。今のまま行ったとしても危険が増すだけだ」


 蓮は一瞬だけ悔しそうな顔をしたが、すぐに観念したように息を吐いた。


「……分かった。オレは休息をとる」

「まぁ、休みも修行だよねー」


 黎明は軽く頷いた。


 こうして、黎明と詩の二人だけで、田舎の調査に向かうことになった。




◾️◾️



 目的地は、山に囲まれた小さな集落だった。福島県のとある場所にある、宿屋が目的地である。


 ネット掲示板にて、【呪われた宿屋】の噂を聞いた詩が調査に乗り出したのだ。


 最初は車で移動をし、途中からはバスに乗り換え、最後は徒歩で山道を進む。携帯の電波も弱く、夕方になると霧が出るという、いかにもそれっぽい場所だ。



「雰囲気あるね」


 黎明がきょろきょろと周囲を見回す。


「あぁ、雰囲気があるな。黎明、怖いなら手を繋いでもいいが?」

「いや、大丈夫。逆に怖いなら手繋ぐ?」

「……あぁ、頼む」




 詩はそう言いつつも、内心では警戒を強めていた。掲示板に書き込まれていた内容は、こうだ。



・宿屋には数多の掟がある

・掟を破ると呪われる

・決まりを破ると祟られる

・でも、守れば普通の宿屋



 真偽はわからないが、ネットの掲示板もバカに出来ない場合がある。そのため、詩はこの宿屋の場所に向かうことを決めた。


 やがて二人は、目的の宿屋に辿り着いた。


 木造二階建ての、小さな宿。看板は古く、文字が少し剥げている。周囲は静まり返り、鳥の声すら少ない。


 戸を叩くと、しばらくして、ゆっくりと引き戸が開いた。


「……おやぁ」


 現れたのは、小柄なおばあちゃんだった。


 背中は曲がり、白髪はきれいにまとめられている。だが、その笑顔がどこか不自然で、目が笑っていない。


「泊まりかい……?」

「はい。一泊、お願いします」


 詩が名乗り、手続きを済ませる。おばあちゃんは二人を中へ通しながら、低く、ねっとりとした声で言った。


「うちにはねぇ……いくつか決まりがあるんだよ……」


 来たな、と詩は思った。


「破ると……祟りがあるからねぇ……」


 そう言って、おばあちゃんは一本ずつ、指を折りながら説明した。


 一つ。

 二階の奥の部屋には、絶対に入ってはいけない。


 二つ。

 夜中に廊下で名前を呼ばれても、決して振り返ってはいけない。


 三つ。

 裏庭の井戸を、覗いてはいけない。


 四つ。

 庭の大きな岩を動かしてもいけない。


「……守れるかい?」


 詩は頷いた。


「えーっと」


 黎明はにこにこしながら言った。


「おー、それは破ったらモンスターとか出てくる?」

「……な、なんだい? モンスター?」


 おばあちゃんの目が一瞬だけ丸くなった。黎明は本気で聞いていたのだが、ふざけてると思われたのか、怪訝な顔をされる。


「MPを感じるね。モンスターがいる気がする」

「よ、よくわからないけど、決まりは守ってくれればそれでいいからね」

「あ、そう。MPを感じるのは二階からかな。これ、モンスターいたら倒しちゃってもいいよね? 飼ってるわけじゃないだろうし。二階行ってもいい?」

「まぁ、構わないけど。さっきも言ったけど、奥の部屋には入っちゃダメだからね」




──そう言われて、黎明は早速動き出した。







 二階へ上がったのは、黎明が先だった。


 古い木の階段は軋み、踏み板が鳴るたびに空気が重く揺れる。詩は少し、不気味さを覚えていたが、黎明がいるので安心感の方が強かった。


(黎明が上に行ったということは、上に怪異がいるということだな)



 その時だった。



「うわあああああああ!!」


 二階の廊下から、黎明の大声が響いた。反射的に、詩は、駆け出した。


「黎明っ!」



 ――まさか、黎明が!? 黎明に何かあったのか!?




(お前が死んだら、私も死ぬぞ、黎明!!)



 詩は焦った。黎明の悲鳴など一度も聞いたことがなかったからだ。まさか、黎明が死ぬわけがない。私の黎明は絶対に負けない!! そう考えている彼女にとって、黎明の声は焦りを生む以外の選択肢はなかった。


 一方で宿屋のおばあちゃんも焦っていた。あの少年は、こちらの決まりを守るそぶりがなかった。だからこそ、破ったのではないか! そんな恐れがあったからだ。


 二人が二階に上がると、奥の部屋の扉が開けられていた。



「まさか、破ったのか! その部屋を!!」



 おばあちゃんはやはりと、顔を歪ませた。


 決まりを破った代償が、ついに現れたのか。そう恐れているおばあちゃん。しかし、一方で二階の奥、問題の部屋の前に辿り着いた詩は、次の光景を見て言葉を失った。



「見て! カブトムシ!」


 黎明が、しゃがみ込んでいた。


 部屋の前、柱の影。そこに、立派な角を持つカブトムシが一匹、のそのそと這っている。黎明は目を輝かせ、両手でそっと包み込むようにして持ち上げていた。


「……黎明、それはカブトムシか」

「うん! いやー、大きいなー。前の両親はさ、虫が嫌いで絶対に触ったらいけないとか、飼っていけないとか言われてたから全然触れる機会がなかったんだけどさ」

「ふっ、お前がこの程度でどうにかなるわけがないか。そのカブトムシは家に持って帰るか」

「お、いいねー」



 黎明はカブトムシを掴んで、頭に乗せたりした。そして、奥の部屋を見る。すでに黎明が入った後だった。


 部屋の前にはお札のようなものが大量に落ちている。恐らく、これは部屋の中の怪異を封じるための霊具なのだろう。



「……ふっ、中にモンスターはいたか?」

「あ、いたね。ただ、弱かったよ。こんな大掛かりな感じで封印するほどじゃないよねー」




 あっけらんかんと放つが、やっていることは偉業だ。しかし、黎明にとっては普通のこと。



「そうか、ならいい。ただ、心配した。少しだがな」




 そう言って詩は黎明を抱き寄せてた、黎明の胸元にがっつりと彼女の胸が当たる。



「胸……」

「悲鳴かと思った。心配した。お前が死んだら、私も死なないといけないだろう。驚かせるな」

「え? 俺が死んだら詩も死ぬの」

「あぁ、自殺してやるさ。お前だけに危険なことをさせてるせめてもの、罪滅ぼしみたいなもんだ」

「えー、俺死なないけど、詩が死ぬとか言われるのも嫌だな」



 そんな二人の会話を聞きながら、宿屋の管理人でもあるおばあちゃんは混乱をしていた。


「な、なにが?」


 本来、絶対に入ってはいけないと言われていた場所だ。そこには、びっしりと札が貼られているはずだった。


 しかし、それらは全て床に落ちており、扉も開いている。だと言うのに、中から怪異が現れない。


 それどころか、どこか清々しい空気すら感じていたからだ。




「こ、ここには怪異が封印されていたはず……お、お主、なにを」

「あぁ、中にいたモンスターは俺が倒したよ」

「ば、馬鹿な、人間が怪異に勝てるはずが」




 そのおばあちゃんも流石に怪異が人間に勝てない常識は知っていた。だがしかし、それについては詩が誤解を解いた。



「驚く気持ちはわかります。ただ、目の前の少年、名を東雲黎明と言いますが、彼だけは怪異をあっさりと倒せるのです」

「……な、何を言っているのか」

「混乱する気持ちもわかります。ただ、この子は例外……なのです。この旅館にいる怪異は任せてくれないでしょうか? この子なら全てを祓ってくれるでしょう」






 その後も、黎明は止まらなかった。


 夜が更け、宿全体が静まり返った頃――廊下の奥から、か細い声が響いた。


「……れいめい……」


 名を呼ばれたとしても、決して振り返ってはいけない。その掟があったことを黎明は思い出した。


 しかし、思い出したのだが……全力で気にしないことにしている。


 なぜなら、霊力を感じ怪異がいると分かったからだ。


 

「はーい」


 止める間もなく、彼は廊下へと足を踏み出す。板張りの床が、ぎぃ……と嫌な音を立てて軋んだ。


 声の主は、すぐそこにいた。シルエットは成人女性のようだった。だが、首が不自然な角度に折れ、目の奥が真っ黒だった。


「……呼んだ?」


 黎明が振り返った瞬間、怪異が襲いかかる――はずだった。


 だが、次の瞬間には炎が閃き、廊下を赤く照らした。

 低い悲鳴と共に、怪異は形を保てず、黒い霧となって霧散する。


「あー、弱いな。これ、イベント用の雑魚だね」


 そう呟いて、黎明は何事もなかったかのように部屋へ戻った。


 ――掟の一つ目が、終わった。


 次は裏庭だった。


 そこにある井戸。


 ──裏庭の井戸を、覗いてはいけない。


 その決まりがあったことを、黎明は思い出して……いることはなかった。


 どかどかと裏庭に歩いていく。


 月明かりの下、苔むした井戸の縁に、黎明は身を乗り出す。中からは、湿った気配と共に、怨嗟のような気配が立ち上っていた。


「あ、やっぱりいる」


 軽い調子でそう言うと、彼は井戸の中へと腕を突っ込む。まるで虫でも探すように。


 次の瞬間、井戸の中から人ならざる腕が伸び、絡みついてきた。


 その腕は黎明を井戸の中に引きずり込もうとする。


 だが、黎明はそのまま力任せに引きずり出した。


「ほら、捕まえた」


 引き上げられた怪異は黎明にすぐさま燃やされることになる。


 呻き声を上げる間もなく、炎に包まれ、井戸の底ごと浄化されていく。 


 怨念は霧となって消え、井戸の中には澄んだ冷気だけが残った。


 ――これで、黎明が破った掟は階段の奥の部屋、廊下の声に振り返る、井戸の中に手を突っ込む。


 合計で三つ。あと一つで掟を全部破る、掟破りのリーチがかかる。


 そして、最後は庭の大岩だった。


「これ、絶対下に溜まってるでしょ」


 そう言って、黎明は岩に手をかける。人一人では到底動かせないはずの岩が、軋む音を立てて持ち上がった。


 その下には、黒く蠢く怨念の塊。虫の群れのように絡まり合い、這いずり回っている。


「うわ、ほんとに虫みたい」


 嫌そうに眉をひそめた黎明は、まとめて炎で焼き払った。


 じゅ、と湿った音を立てて怨念は消え去り、地面には何も残らない。


 気づけば、宿を包んでいた重苦しい空気は消え、夜風が静かに流れていた。長年澱んでいた何かが、確かに消えたのだ。


(……全部、終わっちゃった。えー、これくらいだったのか)


 だが、黎明はあくまで平然としていた。むしろ、残念がっていた。



「終わりかー」




◾️◾️



 時間が少し遡る。黎明が掟を破っている頃、詩は宿屋のおばあちゃんと話してていた。


「あ、あんた、たちは、何を罰当たりな!!」

「ご安心ください。彼ならば大丈夫です。もうすでに掟を二個破ってそれでもピンピンしてるでしょう?」

「いや、そうかもだけど。あの掟は破ってはいけないと……」

「大丈夫なので、黎明が倒すまで、夜食の用意でもお願いします」


 詩にそう言われ、おばあちゃんは夕飯の準備をしながら、これは夢なのか? とずっと考え込んでいた。


 すべてが終わった頃――


 おばあちゃんは、呆然と立ち尽くしていた。


「……終わった、のかい……?」


 声が、震えている。


「うん。もう何もいないよ」


 黎明が笑う。その瞬間、おばあちゃんは、崩れるように座り込んだ。


「……あぁ……あぁ……こんな、ことが」


 泣いているのか、笑っているのか分からない声だった。


「何十年も……何十年も、ここに縛られて……」


 おばあちゃんは、語り始めた。


 この宿は、元々ただの宿屋ではなかったこと。

 この地に溢れ出た怪異を封じるため、ここを檻として作ったこと。


 封印の術には、とある神の補助が必要で、その神は――人間が好きだったこと。


「……人の笑顔が、好きな神様でねぇ」

「五行の神ではないんですね。他にも人間に補助をする神がいたのか」



 人が訪れ、食事をし、湯に浸かり、笑って帰る。


 その営みそのものが、封印の維持条件だった。


 そして――


「……ワシは、人柱だった」


 宿を守る者。怪異を逃がさぬため、ここを離れられない存在。


 だが、今は違う。


「やはり、そうでしたか」


 詩が静かに言った。


「でも、全部壊してしまったね」


 おばあちゃんは、黎明を見上げた。


「……あんた、何者だい……」

「黎明、職業は勇者」

「ふっ、そうかい。勇者か」



 あっけらかんとした答えだった。


 その夜、おばあちゃんは、これまでで一番豪華な食事を用意した。



「うまーい」

「ここは怪異の封印の義務は消えました。これから、どうされますか? 送迎とかなら手配しますが」

「いいや。使命は解放されたからって、宿を畳む気はないよ」


 笑顔で言う。


「最初は人柱だったけどね。人が来て、ご飯食べて、風呂入って、笑ってくれるのが好きでねぇ」


 それは、神のためでも、封印のためでもない。おばあちゃん自身の、願いだった。



「だから、続けようと思う。これからは、ただの宿屋の主として」






◾️◾️


 夜。二人は一緒の部屋で寝ることにした。いつものことだが、彼女は黎明に抱きつくようにして眠る。



 しかし、すぐに寝るわけではない。しばらく雑談したり、眠くなるまでじっとしたり、色々と時間が経過することもある。


 ただ、今回は別の理由ですぐには眠れなかった。詩には国家陰陽師としての仕事があったからだ。



 パソコンをいじりながら、これまでの状況をまとめたり、新たに怪異が発生する場所を探している。



 ただ、彼女の場合状況をまとめたとしてもそれを国に提出することはない。


 あくまで報告書を作成すると言っても、自分用に状況を整理するために行っている。


 そして、一人で淡々と状況をまとめつつ、彼女はネットにて怪事件や、掲示板の噂を調査している。


 また、独自に怪事件相談窓口を立ち上げており、そこで相談に来る話を調査している。


 ただ、殆どが冷やかしのようなのが多く、基本的にはあまり使うことがない。


 そして、彼女がずっとネットで情報を探していると気になるのを見つけた。


 それは掲示板に載せられている相談である。



「……新潟県からか。田舎の町からの相談」



 それは新潟県のとある田舎に住む者の相談スレだった。相談をしてきたのは、どうやら若い学生のようだ。




「……町に化け物がよく出る。大人は気付いてない、信じてくれない。だから、誰か相談に乗って欲しいか」



 色々とスレを眺めていくうちに、これは、もしかしたら本当のことではないかと彼女は感じた。


 ネットには数多の嘘が溢れている。だからこそ、真偽を問わないといけないが、今回のは少し信憑生があると彼女は感じていた。



「……調べる場所候補として、考えておくか」



 彼女の夜は長い。まだ、やることがあるからだ。


 黎明の情報を隠蔽し、別の名義にし陰陽師として登録をするように。


 篝火志麻と篝火志乃の登録も行おうとしていたからだ。


 この二人に関しては、黎明の役に立ちたいと二人がいったからその後押しをするためである。




「……私もやれる事はやらないとな」




 隣では黎明が布団で寝ている。そんな彼をみて、少し微笑んだ後、彼女は作業を再開した。



 ──そして、深夜三時ごろに終了し、黎明の隣で彼女は眠った。


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