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【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第2章 双子編

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安倍紅の独白

 ワタシは、あの日からずっと心が落ち着かない。


 呪いの村を出て、影森町に戻ってきて、宿の布団に入っても、目を閉じれば赤い泉と爆炎が浮かぶ。あれを現実だと思えなくて、何度も頬をつねった。


 痛い。夢じゃない。


 そして一番現実味がないのが――蓮の顔だ。


 弟は、あの場で黎明くんに弟子入りを志願した。冗談じゃない、ってワタシは思った。思ったのに、止められなかった。止める言葉が、喉の奥で全部溶けてしまった。


 だってワタシも、希望を見たから。神の呪いで、家が壊れて、家族が死んで、世界が一回終わったみたいになって。


 怪異は絶対人間が勝てる存在じゃない。そう思っていた、思っていたのに……


――黎明くんは全てを壊した。怪異を倒して、泉も全部炎で蒸発させた。呪いなんて全て吹き飛ばした。


 あんなの、めちゃくちゃだ。


 ワタシは本当は、陰陽師なんて辞めたかった。


 蓮と二人で、陰陽師とか、名家とか。全部捨てて、普通の暮らしがしたかった。朝に味噌汁の匂いがして、夕方にスーパーの特売があって、夜にテレビを見て笑って――そういう、何も起きない日々。


 それでよかった。でも、蓮はそう思わなかった。


 なぜなら、安倍家には使命があり、ナギサマの封印の維持を任されていたからだ。


 だけど十年前の京都の怪死。あの事件で、ワタシたちの家族はほとんど消えた。生き残ったのは、双子のワタシたちと一部だけ。


 家族を失った後の夜の静けさを、ワタシは覚えている。


 喋る相手がいない家。食器の音だけが響く台所。枕に顔を埋めても涙は止まらなくて、でも泣き声を出すと蓮が起きるから、声を殺して泣いた。


 そのとき思ったんだ。


 蓮だけは、絶対に死なせない。


 蓮が死んだら、ワタシは本当に一人になる。家族を失うっていうのは、痛いとか悲しいとか、そんな言葉じゃ足りない。呼吸ができなくなる。


 蓮がもし、死んだら、ワタシも死んでやる。そうずっと思っている。それくらい大事なのだ。



 だから本当は、蓮に陰陽師なんて続けてほしくなかった。


 だって、もう辞めてもいいはずだから。


 一族の使命だった、ナギサマの封印の維持も、分家の土御門家が後任として行なっている。それなら、もう、ワタシ達は辞めてしまってもいいはずだったから。


 だけど、蓮はそう思わない。


 蓮は冷めたふりをするけど優しい子だ。現実主義者みたいな顔で、救えないものは救えないって言う。でも本当は、一番誰かを救いたがっていた。だから、辞めさせることができなかった。

 


──でも、その蓮が可能性を持ち始めた。


 黎明くんに出会い、黎明くんの背中を追いかけ始めた。


 影森に滞在している数日間、ずっと一緒に過ごしている。


 朝、宿の窓を開けると冷たい空気が入ってくる。遠くの山が見える。その山に、蓮と黎明くんは出かけていく。ワタシは見送るふりをしながら、心の中で何度も叫ぶ。


 やめて。行かないで。危ないことしないで。でも口に出せない。


 止めても無駄だから。何より、今の蓮の瞳は輝いているからだ。家族が死んでからずっと、暗い瞳だった蓮に、久しぶりに光が戻っている。


 ワタシは宿のロビーで待つ。時々、詩さんと顔を合わせる。


 詩さんからは、黎明くんが今までどんな人生だったのかを聞いた。そして、封印された山の中で怪異を祓いまくっていたと聞いて、顔が青くなった。


 蓮もそんなことをするようになってしまうのか。自分から死地に飛び込むような人間になってしまうのか。


 それが、どうしようもなく怖かった。



 陰陽師の世界は、努力が報われる世界じゃない。運と、偶然と、理不尽で人が死ぬ。ワタシはそれを知っている。だから、危険な挑戦が嫌だ。嫌なのに、蓮は挑戦したがる。


 それを煽るように、黎明くんは軽く言う。


 「やってみればいいじゃん」


 まるでゲームみたいに。そんな単純なわけがない、そう簡単にできるはずもないんだ。


 そう思っている彼がワタシには怖い。怖いけど――同時に、感謝している。


 黎明くんがいなければ、ワタシたちはあの村で死んでいた。蓮も死んでいた。ワタシも、弟を守れなかった。


 だから、感謝している。


 なのに、嫌だと思う。


 蓮が黎明くんみたいになりたいって言うたび、胸がざわつく。あんなふうに怪異に向かえば、死ぬ可能性は跳ね上がる。強さを求めれば求めるほど、危険も大きくなる。


 ワタシは、蓮が強くなるのが怖いのだと思う。強くなれば、蓮は前に出る。前に出れば、誰かを救うために無茶をする。


 無茶をすれば――死ぬかもしれない。


 ワタシの世界は、蓮しかいない、家族はもう蓮だけなのに。


 変わらないで、って言いたい。


 でも、変わりたいと蓮は願っている。黎明くんと鍛え始めてから数日、蓮の顔つきや雰囲気が変わり始めている。



 どうやら、霊力に関しても色々と掴んでいるようだった。



『MPの感知ができれば、操作技術が学びやすくなって、モンスターも倒せるようになるんだ』



 もう、霊力をMPと呼んで、怪異をモンスターと呼び始めている。黎明くんのように本当になろうとしている。



 昔とは違う。心なしか、すでに以前よりもはるかに強くなっている気さえする。蓮とずっと一緒にいたからこそ、些細な変化に気づくのだろうか。



 そして、蓮は今日も、走っていく。蓮の背中はどんどん遠くにいってしまう。



 一人に、しないでよ……

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