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【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第2章 双子編

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第32話 詩と双子

 燃え尽きた泉の跡は、水が全て蒸発をしており、地面は黒焦げになっていた。そして、そこへ太陽の光がまっすぐ降りていた。


 熱の残り香がまだ空気に混じっている。それが鼻の奥にひりつくのに、村の空は不気味なほど澄んでいた。さらに霧が消えたせいで視界が開け、遠くの山並みまでくっきり見える。


 しかし、安倍紅は、あまりの落差に落ち着かない様子だった。


 さっきまで、ここは呪いそのものだったのに。それとは真逆の自然あふれる空気が美味しい場所になったからだ。


「……あ、はは、乾いた笑みしか出ないわね。二人とも、そろそろ帰りましょう」


 紅が視線を向けると、黎明はもう興味を失ったように、燃え跡を一瞥しただけで踵を返していた。


 勝った後の昂ぶりもそこまでない。まるで雑魚掃除が終わったみたいな、軽い足取りだった。


「詩が待ってるからねー。行こう」


 その様子に、黎明よりも蓮の方が驚きを持っていた。


 あまりに軽い。軽すぎる。


(あれだけの怪異を倒したのに、こんな何事もないようにできるものなのか? こんなの、英雄や偉人ですら超えた現象なんだぞ! それを起こしたんだぞ、お前は!!)



 その背中を見ているだけで、



 ──自分が今まで握りしめてきた怖さが、馬鹿みたいに感じてしまう。



 そして、蓮は彼の背中を見ながら、再度頭を下げることにした。なぜなら、それほどまでに黎明に弟子入りしたかったからだ。



「……弟子にしてください」



 蓮がもう一度いうと、黎明は振り返り、思い出したかのように表情をした。


「あ、さっき言ってたね」

「冗談じゃない。俺は本気なんだ、です」

「いや、敬語とかはいらないよ」



 蓮が敬語を使っているのを見て、それはいらないと黎明は告げた。蓮もあまりしっくりこなかったのか、そう言われると安心をしたようだ。



 弟子か。と言われて黎明は少し迷った。



(弟子とか、とったことないな。どうなんだろう? まぁ、いいのかな?)



 黎明はしばらく蓮を見て、ふっと笑った。



「いいよ。面白そうだし」



 少し考えたようだが、了承をする。



(まぁ、詩も大丈夫って言うかな? 弟子の代わりにこの場で起きたことを口止めみたいな感じにすれば納得だとは思うけど)



 黎明が色々考える横で紅は、胸の奥が冷たくなるのを感じた。反射的に口が動く。


「ちょ、ちょっと待って。蓮、弟子なんて無理よ……!」

「姉ちゃんは黙っててくれ。心配してくれるのは嬉しい。でも、オレは、か、変わりたい」

「……で、でも」




 蓮の声は震えていた。けれど、いつもの震え方と違う。逃げる前の震えじゃない。踏み出す直前の震えだった。


「オレ、今日、分かったんだ。こいつは、本当に革命を起こす。絶対だ。だから、オレはこいつについていきたい」



 紅は言い返しかけ、言葉を飲み込んだ。弟の横顔が、いつもより子供っぽく見えない。


 その顔が、余計に怖かった。



「ま、積もる話はあとでねー」


 黎明は「じゃ、帰ろう」と言って歩き出す。それに双子も遅れてついていった。



 こうして、三人は廃村を後にする。



 ◾️◾️



 村から出ると、道路脇に停められた一台の車が見える。エンジンは切られており、側に一人の女性が立っている。


 狩衣の姿をしている、若い女性。腰には一本の刀を帯刀している。それだけで、双子は陰陽師であると確信をした。




「黎明、終わったか?」

「うん、他の人間が来なかった?」

「あぁ、大量にきた。皆んなお前に感謝をしていた。日が落ち切る前にここから、離れろと話して全員帰したがよかったか?」

「うん、それで大丈夫だと思うよー」

「さっき、火柱が空に上がっていたが、それはお前だな? 聞くまでもないこととは思うが」

「そうそう」




 

 少し、低めで強い声。顔立ちは美人だが、どこか目つきが鋭い。綺麗な青い瞳を持ち、桃色の髪も印象的だった。



 白妙詩(しろたえうた)は黎明と会話をした後に、後ろに立っている二人を見た。


 彼女はその二人を見た時に、すぐに誰かを理解した。なぜなら、安倍家の双子であるからだ。黎明が例外なだけで、基本的には陰陽師の世界では二人は有名人である。

 

「黎明、この貰った刀は本当に助かった。怪異が僅かに現れたのだが、この刀の炎で追い払うことができた……いや、怪異がかなりビビってたから逆にこっちが驚いたぐらいだ」

「あ、そう。それならよかったー。今後も使ってね」

「あぁ」




 そこまで話し終えてようやく、彼女は双子に目を向けた。そして、二人も彼女を見据えた。


「この二人、そうか……安倍家の方々ですね。お二人の噂は聞いております。ただ、まさか清泪村(せいるいむら)にいらっしゃるとは思いませんでしたが」


 詩は二人の姿を見て、一瞬で安倍家の双子だと気がついた。詩が挨拶をすると、紅が背筋を正し挨拶を返す。


「……初めまして。安倍紅です。こっちが弟の蓮になります。ワタシ達もまさか、黎明さんのような規格外がいるとは思いませんでした」

「ふ」



 思わず、詩は笑ってしまった。まぁ、黎明を見て驚かない人間などいるはずもないだろう。と言う事実が少しだけツボに入ってしまっただけである。ただ、すぐさま彼女は切り替えてキリッとした顔立ちに戻る。



「失礼。お二人とも、帰りの送迎がないでしょう。私がお送りします。乗ってください」

「え、いいんですか?」

「勿論ですとも。それに、お二人を送ってきた送迎の方も先程帰らせてしまいましたし」



 安倍紅、安倍蓮、二人ともここまでは車で送ってもらっている。しかし、その送迎をした人間も、詩がこの場に置いておくのは危険だと判断し、先に帰らせていた。



 だからこそ、帰りの足がなくなってしまったと考え、二人を車へと乗せることにした。




「ありがとうございます。蓮もお礼を言って」

「あぁ、どうも。えっと……」

「自己紹介が遅れました。白妙詩(しろたえうた)と申します」

「白妙家の……なるほど、ワタシも白妙詩(しろたえうた)さんのお話は聞いております。陰陽師の中では全国を動き回り、怪異の調査を率先して行う優秀な方だと」

「いえ、結局封印もできない若輩ですので。それと、私へは敬語は不要です」

「それでしたら、ワタシ達も不要です。確か、ご年齢が二十一歳でしたよね? 年上ですし」



 会話を交わしながら、四人は車へと乗車する。運転席には詩が、助手席には黎明が、後ろには紅と蓮が座った。


 すぐさま出発し、目まぐるしく景色は変わった。




 黎明は助手席に座りながら、窓を眺めている。ただ、眠いのか徐々に、まぶたが重くなっていた。




「眠いなー」

「寝ていいぞ。お前が一番働いたんだ」

「うん、寝るね」


 


 少し疲れていたのか、黎明はすぐに寝た。呼吸が一定になり、首が少し傾いた。さっきまで爆炎を天に昇らせていた人間とは思えない。


 寝顔だけはかなり可愛い。



(可愛いな。後ろの双子がいなければ頭を撫でているところだが)




 運転席の詩が僅かに微笑んでいたのだが、それに双子は気づかなかった。


 そんな紅は前を向きながら、黎明の方を何度も見ていた。


「……あの、詩さん」

「なんですか?」

「あ、敬語は大丈夫なので。ワタシもやめますし」

「そうか……それで、なにか?」

「黎明くんって……いつも、あんなふうなの?」

「あぁ、この子は紛れもない人類の希望だ、そして、最強だ」




 詩の言い方は淡々としているが、どこか安心しているようにも聞こえた。蓮が口を開く。


「……詩、さんは、黎明をよく知っているのか?」

「呼び捨てでも構わんが……そうだ。私はよく知っている」

「どっから、こんな存在が出てきたんだ?」

「他言無用と約束するのであれば話そう」

「する」

「……」




 詩は一瞬だけ迷いがあった。このまま本当に話をしてしまって良いか、そこが分からなかったからだ。




(安倍家の双子、一族の最後の生き残りか。秘匿するべき、いや、すでにバレているのであれば話をして口止めをする方がいいか)




 少し迷ったが、すぐさま彼女は話すことを決めた。こちら側に巻き込んでしまった方が良いと判断をしたと言える。



「この子は、もともと朝霧の一族なんだ」

「朝霧か」

「ただ、朝霧だからと言ってこんな子が生まれるはずがない。例外中の例外、突然変異とも言えるだろう。私自身もこの子は信頼も信用もしているが、分からないことはまだある」

「そうか。オレは衝撃だった。こんな人間がいるのかと、な」

「だろうな。黎明を見て驚かない人間はいない。霊力、霊力操作、戦闘経験、勘の鋭さ、全てが規格外だ」

「人間の姿をしてるだけの怪異とかじゃないのか?」

「多分ないな、一緒にお風呂入ったり、体を洗いっこしたりもしたが、霊力以外は本当に普通の子だ」




((え、一緒にお風呂とか入ってるの? 体も洗いっことかしてるの……?))




 少しだけ、双子が引っかかったが双子は何も顔には出さなかった。詩も特に気にすることなく、話を続けた。




「普通の人間だろうな。怪異関連以外は」

「そうか……あ、えと、黎明は怪異をモンスターと呼んだりしているが」

「この子は独自の感性を持っている。怪異をモンスター。霊力をMP。そう呼ぶが、あくまで認識の違いがあるだけだ、力や物事の本質はちゃんと理解をしている。ただの、虚言と思っていると、この子の凄さは本当の意味では分からないだろうな」




 確かに、と蓮は納得をした。一緒にいて、黎明は奇行が目立つ印象だったが、同時によく考えていると感じたからだ。





「確かに。そう言えば、オレは黎明に妙なことを言われた」

「妙なこと?」

「俺が戦ってるときのほうが、怪異が強くなってたって。……あいつが戦ってるときより、って」




 疑問を浮かべながらも、蓮は話を続ける。そして、詩も蓮の話を聞きながら、その疑問について考えていた。



「意味が分からなかった。でも、戦ってる最中、確かに……オレの時の方が怪異の動きが速いと黎明は言っていた。これの意味がわかるか?」


 詩はハンドルを軽く切りながら、しばらく黙った。考えているが故の沈黙だ。


 しかし、そこで彼女はある可能性に気づく。


「……怪異は、恐怖から生まれる。人間の恐怖。あとは、負の感情。そう言ったものに付随する霊力、それが固まって、形になる。私達が見てきた化け物は、そういうものの集積だ」



 それは二人でも知っている当たり前の事実だった。怪異がどのように生まれ、どのような存在なのか、振り返るように詩は告げる。


 そして、復習をするように蓮と紅は詩の話を聞き続ける。


 ただ、復習はそこまで。それから先は二人が知らない彼女の推測が語られた。



「このことから、あることが推測できる。私達の霊力から生まれる。ならば……怪異に対して恐れを抱いていると霊力が取られ、怪異は強化されると考えられる」

「……っ、確かに恐怖を持つ相手に対して、強くなると言うのは怪異の特性上あっても不思議ではない。そこに更に恐怖で霊力が取られるのであれば……黎明がいっていたことも筋が通る」

「極端に緊張すると動きが悪くなると言うのもあるだろうがな。ただ、黎明は霊力の感知にかなり敏感だ。見ていて、それに無意識に気づいたのかもしれない」




 詩はその考えを言いながら、もう一つの可能性について考えていた。



(思えば、怪異の姿は不快感、恐怖感、不気味、そう言う感情を抱くようなのが多かったな。あれは……単純にそう言うものだと思っていたが)



(あれは怪異の本能に基づく姿だったのか?)



(人間側に恐怖を覚えさせるような、風貌にしていた……?)



 今まで自分が見てきた怪異の姿が、ただの偶然じゃないとしたら。怖がらせるために、あの形をしている。



 そして、恐怖を与えて霊力を吸収しようとしている。そんな予感が彼女の頭の中には浮かんでいた。




「確かに、戦ってるときに霊力が上手く操れない時があった。術が発動しにくいとかも、あれは緊張もあるが吸われていたから構築がうまくいっていない可能性も出てきたのか?」

「そうだな。その可能性もあるだろう」



 蓮と詩の話を聞きながら、紅もその話にどこか納得感を持っていた。


「そうね……恐怖を持った存在からは霊力を吸う。恐怖を感じている人間には強くなる。そういう性質があるなら、怪異の存在理由と一致する。人間の恐怖から生まれる存在が、恐怖を持つ人間から霊力を吸う――当たり前と言えば、その通りね」


 


 紅は自らその考えを口にして、更に納得感を持った。しかし、もう一つ、残酷な事実にも気づいた。


 それなら、恐怖を抱いた瞬間に、もう負けている。



(ワタシや蓮はもう、恐怖を持ってしまっている。それを拭うのは簡単ではないはず。蓮は黎明くんのように、なりたいと思い始めてる。でも、それは無理、ただ命を投げ出すだけになっちゃう)



(できれば、蓮にはこのままでいてほしい。家族がもう、蓮しかいない。もう、危険なこともしないで欲しいのに……)





 彼女の思いに気づくことはなく、蓮は詩との会話に没頭をしていた。そして、蓮は徐々に黎明の強さの秘訣に気づき始めていた。


「……じゃあ、黎明が強いのは」

「恐怖を感じてない、と言うのが一つになるな。まぁ、これは分かってはいたことだが、今その理解が深くなった感じだ」


 詩はもともと黎明の強さの秘訣を知っていたが、さらに理解が深まった。黎明は怖がっていない。だからこそ、強いのだ。


「そもそも強い、怖がらないから吸われない。怖がらないし、モンスターと思っている。ゲームの感覚がどこかあるんだろう」


 紅は、詩の話に思わず反論したくなる。そんなの、才能だ。蓮はそんなのを持っていない。


 怖がらないなんて、そんなの――無理に決まっている。



 そう決めつける紅とは反対に、蓮は徐々に自らの可能性が広がる気がしてワクワクしていた。


「怪異をモンスターだと思ってるか。確かに、オレはこれが何かあるような気がしていたんだ。それに霊力をMPって呼んでる。攻撃をスキルみたいに試す。ゲームの感覚で倒してる。……恐怖が入る余地がないってことか」


 蓮の目が丸くなる。


「……マジかよ。全部意味あったのか」



 蓮は話を聞いて、黎明が言っていたことを思い出した。


 確かに黎明はボス戦っぽいとか言っていたのだ。あれは比喩ではなく、本気でそう捉えていたからこその発言なのだ。



(あいつ、どうしてこんな考えになってるか知らないが……それでも、真似をするべきなのは明白だ)



 詩は、蓮との話を交わす。そして、少し話が落ち着いたと思い、あることを彼らに告げた。


「さっきも言ったが、黎明については秘匿してくれ」


 彼女の口調が先ほどよりもかなり強かった。


「黎明は、世界の希望みたいな存在だ。……まだ秘匿しておきたい。人間には怪異に従うやつもいる。操られてるやつもいる。そういう連中が、あいつを狙う可能性がある」

「でも、狙われても勝てるだろ。あいつ……」


 話を聞いていて、冷静に蓮が突っ込んだ。確かにあれに勝てるのがいるのか? と誰もが疑問を持つだろう。


 そして、その疑問が来るのがわかっていたように、詩は鼻で笑った。


「勝てるだろうな。あいつは強すぎる」


 その肯定が、妙に重い。彼女は分かっているのだ。黎明が圧倒的な強さを持っていることを。


「でも、勝てるから狙われてもいいって話じゃない。あいつが狙われることで、周りが巻き込まれる。……お前達もだ」


 紅の胸がきゅっと縮んだ。巻き込まれる。それは現実だ。


 黎明が強くても、自分たちは弱い。それもあるからこそ、蓮にはこれ以上、関わってほしくないと彼女は思っているのだ。



「それに、黎明と今の陰陽師は相性が悪い。陰陽師は今……安定志向が多い」


 そんな紅の気持ちなど知る訳もない詩は続けた。


「国家公務員みたいな位置付けだ。給料も出る。権限もある。だから、今のままでいいって考える連中が増えた。封印が緩んでる場所があるのに、見て見ぬふりをする。今が大丈夫だから、これまでが大丈夫だからとな」


 確かに、彼女の言う通り安定思考の陰陽師は多い。今までが封印が大丈夫ならば、これまでも大丈夫。


 特に根拠のない考えが主流となっているのだ。



「封印が解けかけてる場所は増えてるはずだ。陰陽師を引退する家系も増えてる。……そのせいで、日本全体で緩みが広がってる。近いうちに滅亡する可能性だってある」


 車内に、重い沈黙が落ちた。それについては、蓮も紅も勘づいていたからだ。そして、蓮が声を絞り出す。


「……白妙家も、引退したんだっけ」


 詩の眼が一瞬だけ冷たくなった。


「……私以外はな」


 言葉を選ぶような間があった。


「親も陰陽師だった。……封印に失敗して、一族の大半が壊滅した。私の両親も、弟も妹も死んだ」


 紅が息を呑む。蓮の手が膝の上でぎゅっと握られる。


「封印から解けた怪異――【血哭ミコナキ(ちこくみこなき)】。それはまだどこかに潜んでいる。どうしているかは分からないが、必ず、殺す」


 詩は淡々と話すのに、その淡々が逆に痛かった。二人も家族が怪異に殺されているからこそ、彼女の怒りを感じたのだ。



「話が逸れた。黎明について、秘匿をしてくれればそれでいい」

「わかった。ただ、オレからも頼みがある」

「なんだ? 修行でもつけてくれと頼みたいのか?」

「なんで、わかった」

「……ふっ、つい最近も黎明に興味を持つ、火の鳥がいたからな。あいつも、黎明に興味を持って、修行をしている」




 詩の頭の中には、影森町で出会った火の鳥様である、スザクがいた。スザクも強くなるために、黎明の霊力操作についてよく学んでいる。


 言ってしまえば弟子みたいなものだ。だから、新たに増えるくらい問題はないと詩も思っていた。


 とにかく、秘匿してくれれば。



「まぁ、構わん。秘匿をしてくれればな」

「よしッ」



(まぁ、黎明を見て可能性を持つ人間が出るのも当たり前だしな)




 そんな話をしていると、コンビニに到着をした。




「少し寄らせてもらう。休憩も兼ねてな、先に行って何か買ってくるといい」


 詩が言うと、蓮はすぐ頷いた。紅も頷く。車が駐車場に停まり、双子は降りた。


「……姉ちゃん、行くぞ」

「うん」


 二人がコンビニへ向かう背中を、詩は窓越しに見送った。車内に二人きり――助手席、隣には黎明が寝ている。

 

「……おい、黎明」


 返事はない。寝息だけだ。詩は身を乗り出し、黎明の肩を軽く揺すった。


「コンビニについた、何か、食べた方がいい」


 黎明はうっすら目を開け、ぼんやり詩を見る。


「……うた……」

「眠いのか。昨日の夜も怪異を倒していたしな。単純に睡眠が足りてないのか?」

「……ねむい」

「……そうか、それなら寝ているといい」



 黎明は静かに寝ている。詩は少しだけ、辺りを見渡した。誰もいない。田舎のコンビニだ。そんなに客来ない。



「……お前が頑張ってるのは知っているが、もう少し早く帰ってきてくれ。結構、寂しかったんだ」


 詩はそのまま、ため息混じりに黎明の胸元へ顔を寄せた。大人な彼女が、意外なほど小さく見える瞬間だった。


 そして――抱きついた。


 ぎゅう、と。


 さっきまでの厳格さはどこへ消えたのか。子供みたいに、顔を埋めるようにして、黎明の体温を確かめるみたいに。


「……私を一人にだけはしないでくれ」


 小さな声。すぐそばで寝ている黎明にも聞こえないほどだ。詩の声が、少しだけ震えていた。


 ――そのとき。


 誰かの視線を感じた。ふと、窓の外を見ると、

 

 そこには、窓から二人を見つめる存在が。


 買い物袋を片手に、車へ近づき――窓越しに、車内の光景が目に収めている紅の姿だった。


 

 ──紅は困惑した。車に帰ってきたら、詩が黎明に抱きついていたからだ。



「……え?」



 紅の困惑、声にならない声が漏れる。次の瞬間、詩の蒼い目が、紅を捉えた。詩は抱きついたまま、ぎろりと紅を睨む。



「……」

「え、えっ、なんで私が睨まれるの……!?」





 詩は紅を少し睨み、その後コンビニに黎明のご飯を買いに行った。

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