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【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第2章 双子編

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第29話 ボスと考察と

 霧の奥に進む三人の足音は、湿った土に吸われるように消えていった。これは結界の特性であり、足跡を消し、入ったものを迷わせる能力である。


 通った場所の空気は、もう背後にない。振り返っても白い霧の壁があるだけで、どうやってここまで来たのか、引き返すのも難しい場所である。


 それでいて、霊力も辺りに溢れており、方向も分からなくなる。迷いなく進む黎明が頭おかしいだけで、普通の陰陽師や、実力ある陰陽師でも迷う。


 更に、怪異が数多くおり、霊格も穢れだけでなく、更に格が上の怨霊も徘徊している。



──迷ったら最後、死が待つ場所。



 ここはそういう場所である。





「……ほんとに、よくあなたは迷いなく進めるわね」

「ありがとー」

「まぁ、褒めてるんだけど。若干皮肉でもあるわね」


 


 どんな場所でも黎明が霧の中を進み続ける。紅と蓮も絶対に逸れないように彼の後ろ姿を追い続ける。


 そんな彼らが追う黎明はどこかを目指しているのか、真っ直ぐ歩く。



「そう言えば、さっきのモンスターだけどさ」

「あぁ、オレと戦っている時だけ強くなってたという話か?」

「そうそう、まぁ、どっちにしろ俺からしたらFランクの雑魚モンスターとは思うんだけど。ただ、若干素早さが高かった気はしたんだよねー」



(黎明が言っていることが間違っているとは思えねぇ。こいつは天然な雰囲気があるが、本質を捉えてることが多い。オレとあいつで、何が違う)



 蓮の胸の内で、疑問が浮かぶ。だが、その答えを得ることはなかった。しかし、自身と黎明の違いを冷静に考えた時、真っ先に浮かんだのは考え方だった。



(そう言えば、こいつはモンスターや魔法とか独自の概念を持っていることが多いな。それが要因なのか……?)



(いや、単純に霊力の量と戦闘センスか? でも、それだと黎明とオレで怪異の強さが違った理由にはならなくないか?)



(なにか、もっと別の考え方が……)




「……こっちだね。ボスの気配がする」





 考え込んでいたが、黎明の一言によって、蓮の思考が一気に切り替わる。ボスと評するほどなのだから、今までのとは違うレベルの怪異であるのは容易に想像ができた。



 しばらく進むと、道が変わった。


 木々が途切れ、村の古道らしき石畳が現れる。苔が厚く、踏むたびにぬるりと滑る。


 その石畳の脇に、古びた屋敷があった。


 さっき救出した屋敷よりもさらに古い。柱は黒ずみ、雨戸は歪み、門の板には赤黒い染みが何層にも残っている。


 紅が嫌な予感に眉を寄せる。



「……ここ、異様な雰囲気がするわね。霊力は感じないけど」

「うん。なんか他の家とは違う感じするね。ちょっと見ていこうかな。レアな宝箱とかあるかも」

「そんな軽く行けるのすごいわね」



 黎明は迷わず戸を押した。ぎ、と木が泣く音がして、内側の闇が口を開ける。中は、静かだった。


 いや、静かすぎた。埃が舞う気配すらない。まるで時間が止まっている。そして、床の中央に、低い祭壇のような台があった。



 その上に、箱が一つ。木箱だが、古臭い感じがするが、赤い紅葉の模様が入っている綺麗な箱だった。



「……これ」



 その箱を見つめながら、紅が息を詰める。



「……凄く年季が入っているわね。なにか大事な物が入ってるのかしら?」



 他に置いてある物とは違う、そんな雰囲気が醸し出されていた。それだけは大事に保存されている宝物のように見えた。




「お、宝箱かな?」



 毎度の黎明の温度差。自分たちが感じている恐怖と、この少年の世界が、噛み合っていない。


 箱には、紙束が詰め込まれている。布で巻かれた古文書。木札。焼け焦げた帳簿。


 ――記録だ。



「てれてれてれてれてれてれ、みそだれ〜」

「「なに、それ?」」



 黎明が記録の紙束を天に掲げるようなポージングをして、急に謎の音楽を醸し出した。



「重要なアイテムを手に入れた時に言っているんだー。BGMはないから、自分で言うしかなくて」

「……どういうことなの?」

「オレが知るかよ」




 疑問が浮かんでいる二人を無視して、黎明は資料に目を通し始めた。




「こういうの読むと、攻略情報わかること多いんだよね」





 黎明が布を解くと、紙の匂いが立った。墨の色が古く、字が崩れていて読みづらい。


 蓮が横から覗き込み、眉を寄せる。


「……古い記録だ。清泪村(せいるいむら)のことが書いてあるな」

「ふーん、古臭い文字が多いねー。読みづらいし、蓮は読める?」

「全部は無理だが……大筋は」



 二人の元に紅も身を寄せた。それを確認すると文字の間に、赤黒い染みがある。それは血か、濁った水か。どちらにせよ気分が悪い。


 その書物に記されたかすれた行を、蓮が指でなぞりながら読む。


「これは、この村に封印されている存在。それに対しての、生贄や貢ぎについて書いてあるようだな」

「へー、そうなんだ。解説お願いね」

「あぁ、どうやらこの村に住む怪異、いや、モンスターは水の神、クラミツハノオロチと言うらしい」

「ほほう? なかなかかっこいい名前だね」



──クラミツハノオロチ



 それがこの清泪村(せいるいむら)に住まう怪異の名前だった。



「このモンスターは……『濁水(だくすい)』と呼ばれる呪いの水を生むらしい。ここの文には水神が穢れを纏い、呪いの水となる、と書いてある。飲む者、怪死、発狂、精神錯乱……」


 その言葉に紅が息を呑む。水の神の穢れを纏い、その文言に強烈な不気味さを覚えたからだ。


 神の名前が記されるほどの呪い。そんなのを一度取り込んでしまえば、二度と普通の生活に戻れない。そう、容易に想像ができた。



「濁水。一度飲んだら、普通はもう真っ当に生活はできないでしょうね」

「『これを鎮めるには生贄が要る』……」

「……やはりどこも生贄が必要なのね」

「『飲めば泉へ近づきたいと思う者多し』……つまりは、飲んだ対象を呼び戻し生贄にすることができるってことか」




 二人が色々と議論を交わす中、黎明は「へぇ」と言った。それだけだ。やはり感想が軽い。



「で、他には……『血流(けつりゅう)』……清き水は清き血を生む。依代ある泉に血を流す行い……」

「血を流す行為が、神への貢ぎの一つというわけかしら?」

「そうだろうな。人間の血を好む怪異は多い。敢えて人間を生かしておいて、全員に生かす代わりに永遠と血を捧げさせるモンスターがいたという話も聞いたことがある」

「そうね。ここの怪異もそれと同じ……っていうか、蓮はなんでモンスターって呼んでるの?」

「なんか、真似した方が強くなるかなと」

「そんなんで強くなれるわけないでしょ」




 二人で話が盛り上がっているが、一方で黎明はふーんと適当に流していた。



「生贄についてだが、昭和前期あたりから、人間を丸ごと沈めるって記してある」

「かなり前からこの村では生贄が横行していたのね。でも、ここって二十年ほど前には観光地として有名だったのよね?」

「人口流出があり、人口維持のための観光とは聞いてたが。実際は名産の水と称して、濁水(だくすい)を飲ませ生贄にさせるためなんだろうな」

「なるほど。その濁水(だくすい)を飲むと、この村に呼び寄せられるとも言われてるもんね。もしかして、その水の呪いは遺伝する可能性もあるのかしら?」

「さぁな、ただ、さっき救った人間の中に榊原澪(さかきばらみお)という中学生がいた。あの子の両親がこの村の出身だったってことは、その可能性もあるだろう」




 確かに蓮の言う通り、榊原澪(さかきばらみお)濁水(だくすい)の呪いによってこの村に呼び寄せられていた。


 彼女以外にも、この村を訪れた人間のほとんどはその呪いが掛かっている。この呪いはいきなり作用して大量に集めるのではなく、徐々に人間が来るように仕向けられている。


 大量に集めないのは、怪異の意思。あまりに急に人間を集めると陰陽師から、封印対象として目視されると怪異側も考えていたからである。



 無論、怪異からすれば人間など大したことはないが、【安倍晴明】と言われる例外が出てきたように。急な例外が来て、封印される可能性がある。


 だからこそ、あまり急激に人間を襲うことはしなかったのだ。




「黎明がさっき全員が状態異常だった、と言ってたのは濁水(だくすい)の呪いっていうわけか」

「そうね。そう考えるのが妥当ね」

「それと、この村に元々住んでいた人間は、村おこしをする際、来る人間を生贄にするつもりで水を名産として売り出してたってわけか。中々腐ってるな」

「……でも、安倍晴明は封印する際に人柱を大量に用意したわ。やってることはワタシ達と同じよ」

「……あぁ、そうだな。オレ達、安倍家も封印をするのに絶対に人柱を使ってるからな」



 蓮の声に怒りが混じる。しかし、そこで一度冷静になり、書物の続きを読み始める。ただ、一方で黎明は、特に何も言わずに黙って聞いていた。




「『水神クラミツハ』……泉に住み、祭りや密議が多かったので気分をよくし、依代を置いて去った。と書かれてる」

「依代を置いてった? 気分をよくして、と言うことは元は呪いを振り撒くような存在ではないってことよね?」

「あぁ……」



──ページをめくると、別の名前が現れた。



 その名を見た時、蓮の手が止まった。今までとめどなく話していた彼の口が止まり、目が見開く。



「【ナギサマ】だ」




 二人にとっては因縁が深い相手だ。このナギサマの封印が解けたことで、二人の家族は全員死亡し、一族も九割絶命し、安倍家は没落のような状態になった。


 四年前の事件。


 京都で六百九十二人が原因不明の大量出血死。そのうち二百人は呪いの感染が疑われたので処理された。



 


 その記憶は二人に濃く残っている。





 蓮がさらに読む。そこには、荒い筆致でこう書かれていた。


「これは……さらに昔の記録か。『水足りぬ』『神の依代』『子の贄を出し、水を求むべし』。大元は、神の依代として、水を与える存在がいたのか。その神は清い子供の血を贄とする代わりに清水を出していたと」

「この時点では、生贄を求めるけど。まだマシな神の依代だった。でも……」

「続きがあるな。『贄、出せぬ』『他神の力を以て水神を縛るべし』、『闇を借り、水を鎖と成す』」

「なるほど。村の人間は生贄を出し渋り、それでも水を求めるために……ナギサマの力を使ったのね。でも、あの神は呪いそのもの、あらゆる存在の死の終着点のような存在よ。望む結果になるはずもないわ」

「クラミツハ・依代が穢れをまとい変貌……依代・クラミツハノオロチ……となった。これにより、清水ではなく濁水を生む存在となり、呪いを振り撒き始めた……。そして、村の本格的な滅びが始まったのね」


 蓮が言った瞬間、屋敷の空気が一段、重くなった気がした。



(名前がカッコよくなったな)



 ──黎明だけはそんなことを考えていたが、今回は空気が読めたので彼は黙っていた。



「水神の依代が、ナギサマの呪いで最悪の怪異になった。それによって、さらに生贄、いや……もはや餌かもな。それが大量に必要になったんだろうな。本末転倒というか……」

「でも、清水を出す時も子供の清い血が必要だった。これはつまり、子供が何人も犠牲になってたとも取れるわ。当時の人間はそれが許せなかったのかもしれないわね。結果は最悪以外のなんでもないけど」

「あぁ……誰が悪いとも言いきれないかもな。この村はもともと水が不足してたと書いてある。昔の村人は必死だったのかもな」



 蓮は震えながら、別の紙束を掴んだ。そこには、さらに近代の記録がある。焚書から逃れた走り書き。


「『清水売り、銭を得る』、『濁水飲み、戻り来る者増える』、『村、増える。水、飲むのやめられぬ』」


 それを読んだ時、蓮の背筋が凍った。この呪いは連鎖して、永遠に人間が捧げられていく恐怖の呪いだったからだ、



「……呪いの水は、随分昔から売られてたようだなそして、……外の人間が飲むと、呼び戻される。これを売って、関係ない人間も餌にしてたのか……ここに関しては論外だが」



 紅はそこで、ふと思い出したように言った。



「……さっきの二十人も、皆、水が美味かったって言ってたものね」

「……っ」



 蓮が言葉を失う。だが──その時、蓮の頭の中にある答えが湧いた。


 それはどうして、自分たちが襲われ、一般全員が無事であの小屋に集まっていたのか。と言う疑問に対してだ。




「そうか……オレ達が襲われたのは、呪いを受けてないからか。呪いを受けた人間を集めて喰らうのがこの怪異の特性」

「なるほど。確かにそうかもしれないわね。怪異の中には敢えて自分の呪いをかけた人間を食べたがる特徴を持つのもいるし」




 その二人の考えは正解だった。


 実はクラミツハオロチは、呪いの水を飲ませた人間を集める。そして、呪いに犯された人間を喰らう偏食の怪異なのだ。


 集められた人間は無意識で来ているため、なぜこの場にいるのかは特に理解していない。理解をせず、全員が一箇所に集められ、時期がくれば全員が捕食される。


 安倍家の双子、そして、大学生グループが別の怪異に襲われたのは呪いを受けていないから。


 クラミツハノオロチはこの廃村の主。彼の獲物を取る怪異は存在しない。だが、そうでないなら話が別のため、襲って来たのだ。



 そして、廃村の小屋にいた二十人全員は、ただの餌となっていただろう。


 しかし、黎明のおかげで、さっきの人間達は全員呪いが解かれている。



「まぁ、黎明のおかげで、さっきの連中は問題なさそうだけどな」



 それを思い出して、蓮は少し、安心をする。そこでようやく、蓮は黎明の方を向いた。



「だいたいこんな感じだ。何か役に立ちそうか?」

「うん。まぁ、要するに……その大元のモンスターを倒せば解決ってことでしょ」

「……っ。あぁ、出来るならきっとそれがいい」

「そう。なら、さっさと済ませようか」




 倒せる、そう豪語し彼は家を出る。外には相変わらず霧に包まれていた。



──そして、その霧を割くように何かが近づいてくる。


 水死体のような怪異。これは、ここで死んだ人間の後悔などが固まってできてしまった怪異である。


 操られ、死ぬことも、人間としての記憶も取り戻すこともできずに、ただ徘徊をするだけの存在だ。



 ――霊格は穢れ。つまりは怪異の中でも弱い方である。


 だが、人間には倒せない。なぜなら、紅は息が止まる。蓮も体が硬くなる。



「……あれは」

「雑魚っぽい。たぶん、あれも【Fランク】くらい」


 黎明が勝手に格付けしながら、刀を抜く。そして、強烈な踏み込みを地面に行い、刀を振り抜いた。


 光のような一閃。


 もはや、次元をも切り裂いてしまうほどの威力。その一刀に怪異は声を上げる暇もなく裂け、黒い水のような霧になって地へ消えた。



「次」



 次、という言葉の直後、また影が現れた。壁から滲み出るように、今度は犬のような怪異がそこにいた。



 ――泥火犬の別個体。



 さきほど、蓮が戦った怪異の別の個体。それが、彼らを狙い現れた。その怪異の背中にある核が赤く脈打ち、低い唸りを上げる。



 その唸りに蓮の肩が跳ねる。


 さっき死にかけた相手だ。思わず、彼は本能で恐れてしまった。


 だが黎明は、あっさりと前に出る。



「あ、やっぱり、俺と戦う時より、蓮と戦ってる時の方が強い気がするな」



 軽い声と同時に刀が走る。瞬きを一切していなかったのに、蓮には黎明の動きが見えなかった。



(おい、マジか、瞬きしてないのに……太刀筋が見えなかったぞ……)



 気づけば首が落ちる。核が灰になって消える。もう何度、驚けばいいのだろうか。



(これが、怪異を倒す世界か……?)



 

 当然のように黎明が倒した直後。


 あたり一面の雰囲気が変わる。霧の流れが、さっきより濃い。空気が赤く染まった気がする。遠くに、低く水が鳴る音がする。


 川ではない。泉だ。



「お、なんか雰囲気が変わったね!」

「嬉しそうだな」

「ワタシ達は嬉しくないわ」

「さて、進もうか」





 徐々にだが、霧が晴れ始める。しかし空は薄暗いままだ。ただ、見通しが少しだけよくなり、先がみえる。



 そして、そこには赤い泉がみえる。




「おっとー。なんかいい感じのが出てきたね」

「そう、だな」

「どう考えても不吉ね」




 暗い顔で紅が言うと、黎明は目を輝かせた。



「不吉なんて、逆にワクワクする」

「……ほんとに、怖い」



 紅はかなり、黎明に対して苦手意識を持っていた。そのとき、霧の中から、また怪異が現れた。



 今度は人の形ではない。腕のない赤子のような塊が、地面を這う。口だけがあり、そこから水の匂いと血の匂いが混じった息を吐く。



「お、奇抜なデザインのモンスターだ」



 黎明が率直に言った。紅は一歩下がり、蓮は黎明の動きを見逃さないように、目を見開く。今度こそ、黎明の太刀筋を完璧に見たいからだ。



 だが、黎明の動きは捉えられない。



 その動きは至極普通だった。刀を抜き、切るだけ。しかし、その一連の流れは極限まで研ぎ澄まされており、一切の無駄がない。


 そして、黎明自身の体の強さと霊力の強化により、閃光のような速さを再現していた。


 故に、蓮の瞳が捉えることはない。



 ──気づけば、怪異は斬られている。



(み、見えねぇ。絶対に見逃さないようにしてたはずだろ! 漫画のページ読み飛ばしたみたいに、気づけば怪異が斬られてるッ)



「お、他にもいるね」

 


 今度は木の影から、黒い影が飛び出す。新たな怪異だが、それも黎明はあっさりと両断する。



「さぁ、こいこい」



 次、と黎明は怪異と戦闘に入る。しかし、決着は一瞬であり、蓮はまたしても見ることは叶わない。


 それほどまでに決着は早かった。


 そして、次に地面から、手が伸びる。新手の怪異だが、黎明はすぐさまその怪異も切り刻み、次の敵を見据える。




「テンション上がるね。これじゃ、モンスター祭りだ」




 次。水音とともに、目の前に半魚人のような怪異も出現する。数は十体近くおり、一斉に黎明へと襲いかかった。


 しかし、その十体を全て、凄まじい速さで全てを細切りへと変える。


 蓮も紅も気づけば怪異が斬られており、何が起こっているのか分からない。


 その光景は紅からすればもう恐怖でしかなかった。


 あんなに倒せないと言われていた怪異を次々と、瞬く間に刀で斬っていく人間。それは、もう人間には見えない上位存在のようで、気味が悪かったのだ。


 だが、怖いはずなのに、怖さが追いつかない。怪異が現れるたびに全身が反射で硬くなるのに、次の瞬間にはもう消えている。



(……怪異って、こんなにあっさり……?)



 紅の中の常識が崩れ、代わりに別の恐怖が育つ。



(違う。あっさりなのは……黎明くんだけ)



 彼女の感情が大きくなる中で、蓮もまた感情を昂らせていた。しかし、蓮の場合は恐怖ではなく、憧れのような感情だった。


 ああも簡単に怪異を倒す。その所業に光を見た。



 怪異が現れる。死を覚悟する。黎明がいる、ならば絶対に見逃さないようにしようと思う。


 しかし、圧倒的な速さ故に見逃している。



 ――そして、怪異は消える。


 その繰り返しで、感情の置き場がなくなる。そして、圧倒的強さを目撃する中で、蓮の中の熱だけが増していく。






(オレも、ああなりたい)





 全ての怪異を狩り、進み続ける三人。途中で三人はついに止まった。



 彼らの目の前に、泉があった。


 ──透明だ。まるで清水のように美しかった。


 だが、徐々に透明な水に赤みが増してくる。


 そして、水面は静かなのに、底から泡が上がっている。さらに、泉の周囲の石が、赤黒く染まっていく。


 それに空気が重く、喉が詰まる。足首が引かれるような錯覚。紅の指が冷たくなる。




「……これ、さっき言ってた濁水よね、禍々しいわ」

「……あぁ、やべぇ、こんな鳥肌なのは初めてだ」

「いいねー。いい味が出てる」



 黎明が、嬉しそうに笑った。蓮は、息を呑みながらも、考えていた。


 怪異は人によって強さが変わる。この反応の差が、答えに近いのではないかと感じていたのだ。



 そして、目の前の黎明が刀に手を置いたまま、泉を見下ろした。


「……いるね」

「どこに」


 紅が問う。黎明は、にやりと笑った。その笑みは、さっき紅が見た獰猛そのものだった。



「下」



 

 黎明がそういうと、徐々に赤くなる泉の水面が振動した。それを見て、黎明はさらに笑みを強めた。



──水面が振動するほどに、清らかな泉が真っ赤になっていく。



 先ほどの清らかさはどこへ行ったのか、禍々しい血のような赤へと泉は変貌する。




「さて、ようやくボス戦か。BGMがあったら最高なんだけど……ッ」



 黎明へと応えるように、湖から怪異の霊力が溢れ出した。



「さあ、始めようか!!!」

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― 新着の感想 ―
ここまで行けなくても雑魚を狩れるようになれば大分形勢が変わりそう
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