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【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第2章 双子編

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第27話 誘い込まれた贄

 二人の話を聞いた後、歩みを進める黎明。恐れもなく、寧ろ怪異とのエンカウトを心待ちにして、ガンガン行こうぜ! の感覚で進んでいく。


 その最中、とあることを思い出したように足を止めて振り返る。



「……ところでさ」



 黎明が、話を切り替えるように言った。



「この村、俺ら以外にも人間いるんだけど、気づいてる?」

「……は?」

「さっきから気配ある。霧の向こう、何十人か。隠れてるっていうか、集まってる」



 紅と蓮は同時に息を呑んだ。もし、それが本当なら、この村に入った人間が、無事でいるはずがない。


 陰陽師である自分達ですら、死ぬしかない、そんな場所に居るのだから。


 普通の人間が生きてるはずがない。




「そういえば大学生集団みたいなのも、ここに入ろうとしてたな。それに、最近、肝試しスポットとしても話題になってるから、来る人間は多いのか」

「そういうのが原因で、軽い気持ちで人が来ちゃったのかしら」

「っち、素人が遊び半分で来てんじゃねぇよ。ただ、放ってもおけない。黎明、今すぐ、その場所に向かえるか?」

「……蓮、それより先にワタシ達が脱出した方がいいんじゃない? どう考えても黎明くんの足手纏いだし、恥ずかしい話だけど」




 蓮が黎明にすぐに救出を提案するが、それに対し紅は自身達の脱出をすべきと話す。


 黎明としては、どっちでもいいのだが、二人の意見を優先しようと頭の中では考えていた。





「黎明なら、オレ達がいても大丈夫だろ。一度戻って、その後に救出に向かうと二度手間だ。外に出るなら、先に他の人間を見つけた方がいい」

「いいえ。ワタシ達が先に出た方がいい。そうしたら、気遣うことなく、この中を走ることができるでしょうし」

「我先に逃げることは陰陽師のすることじゃないだろ。一般人を放っておいて」

「目先を優先するわけにはいかない。蓮、ワタシ達は安倍家の最後の生き残りなのよ」

「……だとしても。ここで逃げたら、自分達だけ逃げたら、もう、立ち向かえなくなるだろ。これ以上逃げ続けたくない……」





 蓮はもはや、意地になっている子供のようだった。しかし、こうなってしまってはどう足掻いても意見は変えられないと紅は感じる。



 二人の会話がヒートアップしていくが、黎明はジッと待っていた。



(長いけど……二人は真面目に話してるし。待つかー。この二人結構時間かかるんだよねー)



「……そう、分かったわ。黎明くん、申し訳ないんだけど、ワタシ達も一緒に同行させてもらえないかしら。それで、更に差し出がましいけど、守ってもらえると嬉しい。いえ、守ってください、お願いします」

「オレも、頼む」




 二人して黎明に頭を下げた。




「あ、うん。大丈夫。低レベルキャラがレベル上がるまでは、寄生プレイさせるみたいなね」

「……悪意ないんだろうが、言葉がちょっと強くないか……? いや、言ってることは正しいんだろうけど」

「あ、そ? ごめんねー」




 志乃とかスザクもこんな感じだったし。と頭の中では二人のことを思い出しつつ、軽い感じで了承した。


 その際に、言葉が強いと突っ込まれたが、特に悪びれる様子もなかった。


 一応、謝ってはいるが凄まじく軽かった。それを聞いて、もう少し謝り方があるだろと蓮は思ったが、これ以上言っても時間の無駄だと思い口を閉ざした。


 そのまま、三人は再び歩みを進める。


 


(志乃もこんな感じで一緒に行ってるしね。さて、さっさと進むかー。モンスターさっさと狩りたいしね)



 あっさりと、適当な返事をされて温度差を二人は感じていた。





「随分余裕そうだな。オレもああなれるかな」

「……蓮、真っ当な方法であんな強くなれるわけないじゃない。危ないことはしないで」

「……あぁ」





 黎明は霊力を辿り、辺りを歩き続けた。黎明は感霊(かんれい)、つまりは霊力感知に優れている。


 それは神の眷属とも言える、スザクを軽く凌ぐほどだ。


 ただ、この村は現在霧の結界に覆われている。それにより、辺り一面には人間以外の霊力などが蔓延している。


 そのため、探知に微かに時間がかかっている。しかし、そんな状況だとしても、黙々と迷いなく歩き続けていた。



(ここはMPが色んな場所から感じる。山神も閉じ込める魔法使ってたけど。同じような感じかな?)



(まぁ、山神の時はほぼ感知が出来ない感じだったから。その時よりは、弱い魔法なのかな)



(というかそもそも、これってなんの魔法なのかなー? 閉じ込める魔法、フィールド魔法とか名付けておこうかな?)




 頭の中では、黎明は山神や志乃のことを振り返っていた。一方で、黎明が一切迷いなく進むので双子はどうして、そんなに迷いなく進めるのかが疑問となっていた。




「黎明くん、こんな場所で他の人間の場所がわかるの? この結界内、怪異の霊力が蔓延してると思うけど」

「うーん、確かにね。でもさ、最近、結構強いモンスターを倒してさ。探知が成長したんだよね。前までなら難しかったかも」

「そ、そう。わかるのね」

「うん。ただ、この閉じ込める系の魔法は使用者のレベルによって、感知できない場合もありそう。前に戦ったモンスターの魔法なら、感知は無理だっただろうね」




 黎明が倒した中で最も強いモンスターといえば、山神が挙げられるだろう。


 その戦闘時、完全に封印が解けた状態で使われた結界。


 あの中であれば探知など微塵もできないだろうと黎明は考えていた。そして、その予想は当たっている。この村に潜んでいる怪異は山神と比べると、流石に弱い。


 ただ、人類にとってすれば脅威であることには変わりない。



 ──しばし歩き続けると、大きな古い民家を発見した。


黎明はここから気配を感じる、と二人に説明する。


すると二人は相談をし始めた。


「これ、開けていいのかしら?」

「人の気配より、邪な結界みたいな気配を感じるんだが」

「正面からいくのって危険な気もするわ」

「裏とか探すか?いや、そもそも怪異が中にいるなら……」

「──話長いよ」

「「あっ、まって」」


  だが、黎明は止まらない。


 スパーン! と軽快な音が響く。まるで、漫才でツッコミをする時に気持ちよく頭を叩いたような音だ。


 そして、開けたその瞬間。




「うわっ!?」

「だ、誰!?」

「また、ば、化け物か!?」





 室内にいたのは、怪異でも陰陽師でもない。


 ――普通の人間だった。


 大学生くらいの男女、家族連れ、カップル、不良っぽい見た目の若者、そして制服姿の高校生まで。狭い屋敷の中に、ぎゅうぎゅうに押し込まれるようにして、大量の人がいた。



 その数、合計で二十名ほどだ。




 紅は呆然とする。なぜ、ここに人間が!? と思っているようだ。





「……こんなに……」

「え、あなたたちも迷い込んだの!? こ、ここ、な、なんなの? 変な化け物はいるし、出られないし!」

「ただ、肝試しで来ただけなのにどうして……」

「お、オレ、た、ただ、遊び半分できたら化け物が大量で、は、早く家に帰りたい!!! 出口を知らないか?!」





 怯え、諦め、恐怖。それらが入り混じり、全員が絶望をしていた。見れば見るほど、ここに居るのは本当にただの人間だったのだ。


 集められたのか、自然と集まったのか。どちらか分からない。




「とりあえず全員に話を聞こうかな。全員に話しかけると、イベント進む場合もあるし」

「……い、いや、その」



 混沌としている中、黎明だけはマイペースのままだった。RPGのイベントと似ているなぁとしか考えていない。



(この全員に話しかけるのか、特定の誰かに話しかけると進むのか。どっちかなー)


 あれ、こいつ相変わらず呑気では? と紅は思った。この落胆している人々を見て何も感じないの? と疑問も持ったりする。





「もうだめだぁ、おしまいだぁ」

「もう死ぬんだ、う、うぅ」

「化け物が、化け物が……」





 ただ、話を聞こうと思ったのだが中にいた一般人は全員絶望をしていた。このままだと、話が聞けないなと黎明は感じる。




(なんか、全員悪いMPが溢れてるなぁ。状態異常な感じがするから、ヒールしようかな。でも、これだけの人数だと一人ずつかけてたら面倒だ)



(うーん、これ全員いっぺんにヒールできたら便利かなー。山神を倒して、経験値も沢山もらったし。新しい魔法とか使えるかも)



(ヒールを広範囲に……できそうな気がする。やっぱりレベルアップしてるのかな)




 黎明は新たな力を試すことにした。右手を掲げて、ヒールを全体にかけるようにするため、普段より霊力を多めにする。




「このままじゃ、話が聞けないからね。【ヒールラディア】」




 陰陽術【陽遁術】光ノ奏(ひかりのそう)。傷や精神を癒す陰陽術だ。だがしかし、本来の術とは少し違う。


 本来なら、一人しか癒すことができない。しかし、黎明が【ヒールラディア】と呼び使ったのは全員に対して一度に回復を促す術だ。



 これは陰陽術【陽遁術】光ノ範奏(ひかりのはんそう)と言われる術である。



 その術の精度に二人は驚く。そして、言霊などを全部省き、黎明は発動させた。


 ──全てが規格外。



「マジか……こいつ、術も通常以上で使えるのかよ」

「言霊とか省いていいの……? 狩衣でもないし、つくづく規格外ね」

「そもそも、複数人数、二十人以上を一度に回復とか可能なのかよ。オレは回復系統の術は使えねぇぞ。てか、現代でまともに使える陰陽師がいるのか?」

「お父様が使っているところは見たことあるわ。ただ、一度使えばかなり疲労してた……。実戦ではこんなの使い物にならないって言ってたし。でも、黎明くんは複数を癒して疲労の様子も見えないなんて。なんて霊力の量なの……」




 黎明の右手から、発生した光が部屋中に行き渡っていく。すると、まるで何か膿が出るかのように、一般人達から黒い霊力が溢れ出す。



 ──それは全員がかけられていた呪いだった。



「なんか、ここの人達、状態異常になってるね。それもこれで回復できる」

「解呪もできるのか。お前」

「なんでもありね……」





 安倍家の双子はもはや、驚きすぎて疲れていた。顔色は良くなっているのに、表情は死んでいるという不思議な状態となっている。



 そして、黎明から溢れた光を浴びた一般人は……





「あれ、力が溢れてくるような……」

「おいおいおいおい、なんだこの万能感!? これなら村を脱出できるんじゃないかぁ!!」

「オレ、陰キャだと思ってたけど、なんか陽キャになった気がする!?」

「あの化け物も倒せる気がしてきたぁ!!」




 全員が気分が高揚し、自信に溢れるような言動へと変貌をしていた。先ほどまで絶望をしていたとは思えないほどだ。





「これで状態異常も回復したねー」

「す、すげぇ、呪いとかも一瞬なのかよ」



 

 黎明は淡々としているが蓮は驚きで、ずっとたじろいでいた。




「ここまで、すごいのか。しかも、呪いを解くだけでなく、全員の気分が高揚しているだと……?」

「いや、もうこれ逆に呪いじゃない?」





 蓮は驚き続けているが、紅は逆にこれは呪いでは? とツッコみ始めていた。





「ふふふ、この力があれば全て思うがまま」

「なんて、力。力が溢れてくる!! これならば外の化物など恐るに足らん!!」

「これ、全員で頑張ったら脱出できるんじゃない!?」





 全員が凄まじい熱意を持って大声を出している。


 これって、やっぱり呪いじゃない。と紅は思ったが、これ以上指摘してたらキリがないと思ったので、黙った。





「ふむ、これでようやく話が聞けそうになったね」

「……そうかしら?」




 黙っているつもりだったが、思わず小声で紅はツッコンでしまった。これは普通に話ができる状態なのと疑問を持ったからだ。


 しかし、黎明は気にせず、色んな人間に話しかけ始めた。



「全員に話を聞けばイベントが進むパターンとか、誰か重要な一人に聞けば色々わかるパターンか。どっちかなー」





──こうして、黎明は回復した一般人と会話を開始する。


 先ほどまでは絶望をしていた一般人だが、黎明が回復をさせたことで会話が可能となっていた。


 そして、次々と黎明は事情を聞いていく。




「オレは、ネットで肝試しスポットとして有名だったから来たんだ。それと前にもここには来たことあったんだけどさ。また行きたくなったのも理由かな」

「私は、友達がお勧めするから。前にこの村のお土産の水を飲んで、それが美味しかったから。また飲みたいと思って」

「俺は小さい時に、ここに来た時があったけど。また、来たくなってさ」

「僕は他の人と同じですね。この村は水が名産でそれを飲んだことがあって、それがまた飲みたくなっただけです」




 黎明が話をすると、全員正直に答えてくれた。それは黎明の術により気分が高揚していることも原因でもある。しかし、それについて、黎明が気づくことはない。




「うーん。なるほどね。全員、観光とかできてるのかな」




 そして、黎明が最後に話しかけたのは中学生の女だった。名を榊原澪(さかきばらみお)という。身長は百六十センチほど、髪型はセミロングで、前髪は少し隠れている。


 顔立ちは可愛らしいがどこか、陰があるような感じである。セーラー服を着ているが、服の至る場所が汚れている。かなり、走り回り、逃げ回ったのがすぐわかった。




「わたしは自由研究でここに来てます。呪いの村とか、そういうのが面白そうだなと思いましたので」

「そうなんだ」

「はい。それで、来た時に化け物とかがいて、それと逃げる間にここに来てしまって……」

「ふーん。なるほどね」





 彼女の話を聞いた黎明は、あんまり核心的な情報はないと思いながらも、考えを巡らせていた。



「まぁ、こんなもんなのか。取り敢えず、ここに居る全員、外に出てもらおうかなー」

「そうだな。どれだけ気分が高揚してるとしても、お前以外じゃ怪異には勝てない」




 蓮は黎明以外では怪異に勝てないと分かっていた。だから、彼に協力をするべく、脱出を肯定する。しかし、蓮は自らだけは再度、黎明と共に村の中に行くつもりだった。




(オレも、こいつみたいに強くなりてぇ。単純な強さ、それだけじゃない。術の精度や、無法ぶり、全て今までの人間にはないもの)




(オレも、可能性を手にしたい)







 蓮は黎明に熱い視線を向けていた。しかし、それに黎明が気づくわけもなかった。




 この場に居る全員が、黎明のせいで暑苦しくやる気に満ち溢れており、蓮の目線は目立たなくなっているからである。





──そして、一般人も入れたかなりの数のパーティーで村の出口を目指すことになる。

 

 


 しかし、歩きながら蓮にある疑問が湧いた。





(そういえば、この一般人はなぜ無事だったんだ? 怪異に襲われて逃げてきたと言っていたが、オレ達でも殺されかけたのに)



(あの屋敷に全員がいたのは偶然、それとも誰かが狙って一カ所に集めていた……? これは、オレの考えすぎ、なのか?)




 


 なぜ、一般人二十人が無事で、更に一カ所に集まっていたか。それに対しての謎が残されたままだった。



(でも、そんなのがどうでもいいのかもな……。黎明は、あいつは、この一般人もオレ達も救う力がある)



(こんな疑問など、考える必要がないほどに強い。圧倒的で絶対的だ)



(強いから、あんなに余裕でいられるんだ。強いから人を救える……)




「オレとあいつで、何が違うんだ」




 大量の一般人は救われ、自らと姉も生き残り、危険地帯から脱出できるというのに、


 蓮の心は霧がかかったように、晴れることはなかった。まるでこの村のように。

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