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救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第1章 山神編

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第16話 篝火家

──黎明は篝火家に招かれていた。




 黎明は血だらけだったのでお風呂に入り、着物ではなく、志乃達の父親のパジャマを使用している。ソファに座りテレビを見ていた。




「映るテレビ久しぶりに見た」

「アンタ、どこに住んでたのよ。まぁ、ワタシもテレビなんて、見ないけど」

「山奥でさ。それより前の親も『テレビは洗脳する偏向報道しかしてない』とか言って、見せてくれたことないんだよねー」



 スザクもまた、黎明とソファに座りながら談笑している。彼女は偉そうな雰囲気をしながらも、怯えるように一番端っこに座っていた。




 そして、そんな二人から少し離れた、キッチンでは志乃と志麻が並んで立っていた。





 志乃はエプロンの紐をぎゅっと結び、野菜を切る。志麻はそんな妹の動きを見て、柔らかく笑った。




「……包丁、握るの久しぶりでしょ?」

「う、うん……その、学校では家庭科の授業があったけど……お姉ちゃんと一緒に料理するのは、なんか、久しぶりで」

「そっか」





 志麻の声には、まだ戦いの疲労が少しだけ混ざっていたが、それでもどこか明るい。


 黎明のヒールが効いているのだろう。顔色はすっかり良く、体の動きも軽やかだった。



「……それにしても、あの人すごいねぇ」



 志麻がぽつりと呟く。



「え?」

「黎明くんだっけ? 助けてもらった時、一瞬しか見えなかったけど……なんか、空気が違った感じするなぁ。なんて言うか、特別な人間って感じぃ」

「……うん、あの人のおかげでなんとかなったんだ。ごめん、私は何出来なくて。私のせいで、お父さんも、死んじゃって……」

「志乃のせいじゃないよぉ。わたし、山神に捕まってから、孤独だった。でもねぇ、志乃とずっと繋がってる気がしてた。志乃が一生懸命、探してくれたことも、お父さんが死んじゃって、泣いてたのも、全部知ってるからぁ、だからぁ、もう責めないで」




 台所では二人だけで、時間が過ぎていた。





「お姉ちゃん……生きててよかった」









 一方、リビングでは黎明とスザクが座卓の前に並んでいた。テレビには深夜アニメの再放送。派手な変身シーンで画面が光る。




「……ねぇ、アンタ、霊力……じゃなくて。MPどれくらいあるの?」

「えー? どうだろう。まだ四百くらいじゃない?」

「それってどれくらいなのよ……アンタ、ってずっと呼ぶのもあれだし、黎明って呼ぶわ」

「どうぞー」

「黎明、一応感謝してあげる。ありがとう」

「なんかした?」

「山神を倒してくれたでしょ。あいつとは因縁があるのよ。あのままだと、ワタシは殺されていたわ、あのモンスターはいずれ封印が解けてこの町を滅ぼしていただろうから」







 そう、山神の封印はもう直ぐ解けてしまうはずだった。黎明が無理やり封印を解いたが、遅かれ早かれ、結果は変わらなかったのだ。





「山神が志乃を狙っていたのは、MPが人より多いからって言うのもあるのよ。MPが高い人間を狙って、それを食べて、力を蓄え封印を解こうとしてた」

「ふーん、ストーリーみたいなのがあるんだ」

「まぁ、そう言うのがあるのよ」

「山神は、封印といたらどうするつもりだったのー?」

「人間を食らうつもりよ。元々、山人喰いって言う怪異との縄張り争いに負けて、山神はこの地に根付いたの。その再戦でもするつもりなんでしょ」

「……山人喰い」






 黎明はその単語に、動きが止まった。その名前は自身の祖父と祖母が現在押さえ込んでいる、怪異の名前だったからだ。





「ふーん、山神と山人喰いどっちが強い?」

「そりゃ、後者よ。縄張り争いをして、負けたのが山神なんだから。山人喰いって、すごい偏食の神なのよ。喰う人間は年齢が十六歳以上、それと老いた人間は食わないって言うね」

「ふーん。まぁ、まだ勝てないのかな? じーちゃんは修行してから帰ってこいと言ってたし」

「なに? アンタの祖父が何かあるの?」





 黎明は聞かれたので、祖父について話した。山人喰いを封印するために人柱となっていること、そしてその使命から解放するために自身は戦っていると。





「ふーん、なるほどね。朝霧家だったの、まぁ、今更言われても驚かないけど」

「じーちゃんとばーちゃんが今も俺を待ってるからね。だから、経験値を求めてるわけさ」

「そう、それで神を殺しちゃうなんて、化け物にも程あるわね」




 黎明は強くなりたい、レベリングをしたいと思って行動をしている。そして、その目的は達成された。だからこそ、彼は満足感で満たされている。




「今回は今までで一番の経験値量だった。でも、なーんか、もうちょっと貰えるような気もしたんだよね」

「……もしかして、アンタが言う経験値って」





 スザクは黎明の言葉を聞いて、あることに勘づいた。





(黎明がいう、経験値。それって、霊力のことかしら?)





(だとしたら合点が行くわ。確かに怪異を倒した時、霊力が霧散する。それを吸収することが出来て、強くなれる)




(ワタシもそれは経験があるわ。それに、今回、黎明が山神を倒した時)





(ワタシ、志乃、志乃の姉である志麻。その場にいる四人に山神の霊力が入り込んだ。無論、一番は黎明に入ってるけど。ワタシ達も少なからず内包された)





(それに無意識に勘づいたってことなのかしら……?)






「あれかな。その場に居た全員で経験値は山分けになったのかな。パーティー戦は確かに経験値減る時あるもんねー」

「……そうね。そうなるかもしれないわ。悪かったわね。ワタシ達も貰ってしまって」

「それはいいよー、別に。それに山分けといっても、俺が一番たくさん入ってるみたいだし」



 黎明はちゃぶ台の上のリモコンを指で回しながら、のんびり答える。スザクはソファの背にもたれかかり、長い髪を指でいじっていた。




「そう、ワタシはとんでもない霊力を手に入れたのに。大したことないって感じなのね」





(微かに入った山神の霊力。それでワタシの霊力が以前の十倍になっているわ。志乃だって、気づいてないけど同じくらい。志麻に関しては、一番黎明の近くにいたからなのか、ワタシよりも多いぐらいになっている……)






 スザクはキッチンの篝火姉妹を眺めて、自らの霊力と比べた。最早、自分よりもあの二人の方が霊力の総量が多いという事実に舌を巻く。





 そして、自身を入れた三人を足しても、黎明には足元にも及ばないという事実に、天を仰いだ。






「……はぁ、もう驚くのも疲れたわ。特に黎明、あんたにはね。祠壊したりするし。塔も燃やすし」

「へぇー。まぁ、ああいうのって壊すためのギミックっぽいし。問題ないんじゃない?」

「いや、まぁ、所有者とか居ないけど」

「なら、いいじゃない。火の鳥様神社も壊そうかな。所有者居なそうだしー」

「愚か!! ワタシよ!! あれワタシの神社なの!!」

「あ、そうなんだ。壊したりしていい?」

「ダメに決まってるでしょ!」







 一方、その頃、キッチンからは、だしの香りと焼き魚の匂いが漂ってきた。

 志乃が味見をして、少し塩を足す。志麻は卵焼きを巻いている。二人の息はぴったりだった。






「志乃、前より上手になったねぇ」

「え、えへへ……お姉ちゃんが教えてくれたから」

「昔は包丁の持ち方も怪しかったのにぃ」

「ひ、人は成長するから……」




 笑い声が台所に響く。味噌汁の鍋がコトコトと音を立て、湯気が立ちのぼる。その向こうで、リビングの二人の声も聞こえる。





「あれ、テレビに映ってる、この人誰?」

「アンタ……今の総理大臣くらい知っておきなさいよ」

「ほう、総理大臣なんだ。前の親が日本の政治家は全部ロボットで、他国に操られてるって言ってたんだけど本当なのかな?」

「そんな訳ないでしょ!?」





 仲が良いなぁと志乃は思った。二人の声を聞きながら、彼女は料理を進める。妹の笑顔を見て、志麻は小さく息を吐いた。やっと、日常に戻れた気がした。




「お父さんに、私のご飯、食べて欲しかったなぁ」




 ただ、志乃は死んでしまった父親が心残りだった。それは志麻も同じであり、二人はひっそりと泣いた。それはスザクや黎明に気を使わせないためだ。


 ちなみに、父親は何かを覚悟していたのか、高額の死亡保険と遺産を残していた。姉妹が生活に苦しむことは少なくともしばらくはないだろう。


 散々助けられて、助け終わった後も気をつかせたくはなかったからだ。




 やがて、泣き止んだ二人は炊きたての白米、煮物、焼き魚、卵焼き、味噌汁。香りがふわりと漂い、スザクが思わず目を細める。







「へぇ、美味しそうじゃない。まぁまぁ、及第点ねぇ」

「おぉ、美味しそう。これ食べて、MP回復するかなぁー」





 志乃は頬を赤くして、テーブルの向こうの黎明を見た。


「ど、どうぞ……食べてください。お姉ちゃんと作ったんです」

「おー、ありがとう。じゃあ、いただきます」



 黎明は箸を取り、卵焼きを一口。


「うまい」


 その一言に、志乃がぱっと顔を明るくする。志麻も安心したように笑う。



「……あのぉ、助けてくれてありがとうございましたぁ。ずっと闇に囚われて、心も死んでいくようで辛くて。でも、助けてもらった時、温かい気持ちになって、本当に救われましたぁ」

「あ、うん。どういたしまして」



 黎明は味噌汁をずずと飲みながら志麻に返答をする。何回もお礼言わなくていいのにくらいにしか、黎明は思っていなかった。



「志乃から大怪我をしたとも、聞いてますぅ。大量出血をなさったとかぁ……」

「あ、うん。魔法で治したし。あれがきっかけで新しい魔法に目覚めたし、問題ないよ」

「あ、そ、そうですかぁ」





 志麻はチラチラと黎明の顔を伺うが、彼はそんなに気にしてないようだった。志乃も改めて礼を言ったりするが、黎明は適当に返答をする。






「うん、まぁ、どういたしまして」







 こいつ、凄まじい偉業をしたのに冷めすぎだろ……とスザクは感じる。しかし、もう何も言うまいと彼女は卵焼きを黙って食べ続けた。










◾️◾️








(志乃)には後悔があった。



 私は昔から、悪いものを呼び寄せる。そのせいで、いじめられて、いつも引きこもっていた。




 でも、自分に災難が起こるならよかった。しかし、私のせいで、私の家族も気味悪がられて、



 両親は喧嘩をして、お父さんは死んで、お姉ちゃんは死にかけてしまった。お姉ちゃんは奇跡的に生きているけれど、それでも後悔をしてしまう。






──私のせいで、皆んな不幸になって。皆んなが迷惑をしてしまう。





 私なんて、居なくなった方がいいんじゃないかなって。








「モンスターが寄ってくる体質? え、なにそれ羨ましい。それ、くちぶえ枠的な? モンスターホイホイみたいな体質いいなぁ」

「あ、えと」

「志乃、俺の仲間になって、ほら、しもふり肉あげるから」

「え、えと、お肉……」

「なんか、こういうのあるよね。お肉とかあげると、仲間になる率UP! みたいなさ」

「あ、あの……私、モンスターではない、です……」

「知ってるよー。ね、俺の仲間にならない?」


──綺麗に焼けた美味しそうな肉を差し出して……私を、初めて黎明さんは必要としてくれた。



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