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救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第1章 山神編

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第14話 VS山神様【前編】

 願望山の獣道は、さっきよりもさらに湿っていた。焦げた草のにおい、土のにおい、遠くで鳴く虫の声――でも耳に刺さる羽音はもうない。さっき黎明が焼き払った黒い灰が、足もとでさらさらと鳴った。



「……志乃、歩ける?」

「は、はい。かなりびっくりはしましたけど……人間ってあんな大きな炎出せるんですね」

「あれが人間なわけないでしょ。多分、化け物よ」

「そ、そうなんですね。でも、人間じゃなくても……お姉ちゃんを助けられるなら」

「……まぁ、話は通じそうだから、手助けをしてくれるかもしれないわね」




 ──志乃は姉を思い出す。彼女の最後の家族。



 それを助けるためなら、死んでも構わない。その心持ちで彼女はここに来ている。



 だったからこそ、黎明の凄まじさを見て、もしかしたら、彼の力を借りることが出来ればと期待を持った。


 志乃は狩衣の袖をぎゅっと握りしめ、顔を上げる。黎明は山神様の元を目指している。それが分かり、彼女は話しかけるタイミングを伺う。






「そういえば、どうして二人はここに来たの?」

「あ、わ、私も、山神を探しに来まして」

「へぇー。あ、そういえば図書館で一緒に本読んだか」




 志乃がスザクと黎明の間に入るようにそう告げた。志乃がわざわざ、前のめりで話そうとするなんて、珍しいなとスザクは感じる。




「俺と同じなのか。俺も山神様っていうモンスターを探しに来たんだけどさ。全然見つからないんだよね」

「そ、そうなんですね」

「見つけたら、教えてくれないかな。まぁ、そっちが先に見つけて、倒したいなら譲るけど」

「い、いえ、別に倒したいとかは……じ、実はその、私の姉が山神に攫われてしまって」

「ほう? なんかイベントみたいなの来たね。ふむふむ、それでそれで?」

「助けるのを手伝って欲しいんです! お礼なら、なんでもします、一生をかけてお金とか払うこともします、だから、お願いしますっ、お姉ちゃんを助けるのを手伝ってください」

「おーけー。別にお金とかいらないけど」





 あっさりと黎明は志乃の頼みを承諾した。あまりにとんとん拍子に話が進んでしまい、志乃は唖然とする。



「あ、あの、いいんですか? その、私はありがたいんですけど……もっと、色々対価とか、その」

「別にいらんかな。それに依頼みたいで面白そうだし。ちなみにお姉さんはどんな人?」

「え、えっと、可愛いです、美人で、こ、コミュ力もあって、わ、私と違って……でも、こんな私でも、だ、大事にしてくれて、いつも私を慰めて、い、一緒にいてくれて」





 姉のことを語りながら、志乃は瞳に涙を溜める。黎明は横目で泣いている彼女の姿を見て、一度目を前向けた。




「そうなんだぁ。大事な家族なんだ。俺もわかるよ。じーちゃんとばーちゃんを封印の使命から救ってあげたいしさー」

「あ、そ、その、れ、黎明さん、き、気を使わせてすいません」

「いや、そんなに使ってないし。それより、山神ってこの願望山に本当に居るのかな? 図書館の本にはこの辺と書いてあったけどさ」





 がさがさと、虫を探すかの如く草木をかき分けて前に進んでいく黎明。いや、虫じゃないんだから、とずっと黙っていたスザクは思ったが、こいつにツッコミをやり出したらキリがないと思い、口を閉ざしたままだ。





「そもそも、この山に本当に居るのかも分からんし。ここってどういう山なんだ? ダンジョン的なあれか?」



 志乃が聞かれたことに答えようとするが、彼女はこの山について詳しく知らない。



 そこでずっと黙っていたスザクが、ついに、この願望山について、説明を語り始める。




「この先に山神は本当にいるわ」

「お、そうなのか、それなら進んでみるか」








 歩き続ける三人、すると徐々に赤い鳥居が見え始める。古びており、六メートルほどの大きさだった。


 しかし、それが一個ではなく、少し先にも同じような鳥居が何個も置いてある。まるで、この森の一部を囲うようにだ。




「これは……鳥居ってやつだっけ?」

「そうね」




 黎明の疑問にスザクが答える。そのまま彼女はその鳥居について語り始めた。



「これは封門鳥居(ふうもんとりい)。山神の封印の領域と、人間の住む領域を分ける結界門よ。まぁ、これは本来霊力を供給しないといけないんだけど。それをする人間もいないから形だけしか残ってない遺物ね」

「ほーん、霊力……じゃなくてMPじゃないのー?」

「……まぁ、どっちでもいいわ。あんたがそう思うならMPってことにして説明してあげるけど」

「そう、俺は自分の考えを信じるよ。それで、これはMPを供給してないから、使えない鳥居なんだぁ、ふーん。これ調べたら、特別なモンスターとか出てくる?」

「モンスター、あぁ、アンタはそう呼ぶのよね。これを調べても出てはこないわ」





 そう言うと黎明はがっかりした表情だ。




「調べたら絶対なんかあるやつだ、と思わせてなんもない感じね。がっかりだね」

「普通、何もないことに安心するはずなんだけどね……」

「これ、壊しても何もない?」

「ないわよ、壊すんじゃないわよ。フリじゃないからね?」

「……ほー、それはそれは。壊さないでおくかー」





 壊すなと言われ、黎明は一度引き下がった。一方でスザクは顔色が悪くなっている志乃を気にかける。




「志乃、アンタは大丈夫? ずっと黙ってるけど」

「あ、えと、は、はい。ただ、ここ、凄く嫌な感じが……」

「うんうん、そうよね。それが正しい反応よ」

「なんで、ちょっと嬉しそうなんですか」

「いや、なんかさ、あの人間見てたらさ」





 黎明を先頭に、三人は進み続ける。




 ……やがて、二つの建物が見えてきた、一つは白が主な色で構成されている、六角形の殿舎。


 それと向かい合うように黒色の木材で作られた小さな社が、建てられている。




 白い方の建物に、黎明達は駆け寄る。



「す、スザクさん、ここ、すごいですね。重々しい雰囲気というか」

「そうね。ここは白鎮殿(はくちんでん)と言われる場所。祈祷や生贄を捧げる場所でもあるもの。その直感は正しいわ逆に、志乃にしてはよく頑張っている方よ。辛くなったら言いなさい。大分顔色も悪いし」

「い、いえ、お姉ちゃんを助けるためなら、ちょっとくらい大丈夫ですから。ガンガン、す、進みたいです」




 スザクは、強くなった志乃に対して、微かな驚きがあった。まさか、あの弱々しい少女が数日でここまで強くなるとは思ってもみなかったからだ。



「そう」

「話してるとこ悪いけどさ、ここって、宝箱とかあるかな?」

「あるわけないでしょ!?」

「えー。でも、一応確かめてみないとさ……お邪魔しまーす」




 空気を読まない黎明は白鎮殿(はくちんでん)と呼ばれる場所を開けて、中を確かめる。中は薄暗く、埃が舞う一室だ。六角形の殿舎なので、内装も同じような形。


 ただ、中央の石壇に五行陣が刻まれ、天井から五色の布が垂れている。




「……ふむ、なにもないか」

「あ、あああの!? そ、そこに!?」

「ん?」




 志乃が驚いたような声を上げるので、黎明が反応する。彼女は祭壇を指差しており、






──そこには、白骨となっている何かがあった






「これは、人間の骨かー?」

「……そうよ。これは、人間の骨。ここは全ての封印場所へ霊力を流し込む場所なの。それがこの……白鎮殿(はくちんでん)なの」

「もしもーし……返事がない、ただのしかばねのようだ」

「そりゃそうでしょ! 見てわかるわよ! 愚かね!」

「ほら、一応確かめておかないとさ」





 そう言って、黎明は白骨を何個も手に取って外に出た。その後適当に穴を掘って、それを穴へと放った。





 そして、埋める前に──





「【フレアボム】」






 小さいフレアボムを骨に被せて、その後土を戻した。




「さて、そっちの建物も見ておくか」

「……アンタ、意外とそういう心もあるのね」

「じーちゃんが今後白骨とか、見つけることもあるだろうって言ってて。その時は、炎を骨に被せて埋めてあげてって言ってからさー」

「ふーん。確かにその骨は怪異にはならないけど、後悔がありそうな気がしたわね」





 黎明の炎によって、一つの魂が救われたことをスザクは見抜いていた。しかし、当の本人はあまり興味がなく、隣の建物に向かった。




「……一応言っておくけど、そっちはここで今まで犠牲になった人間の怨念を鎮める場所なの。だから、アンタがいうモンスターが出てくるかもしれないわ

「お、本当だ、モンスターが出てきた。フレアボム」





 ──どかーん!!





 と黎明はフレアボムを発動する。その余波で黒い建物を炎で燃やしてしまう。




「お、愚か者!! その建物を燃やしてどうするのよ!! それを燃やしたりなんかしたら!!」

「ん?」

「聞け!! その建物は!!」

「おお、モンスターが急に沢山きたー」

「呑気か! それは封印の建物なの!! 壊してどうするの?!」





 黎明の言葉通り、とんでもない数の怪異が黒い建物から溢れ出てしまう。しかし、黎明は慌てなかった。




「いや、なんとなく、あれに悪いMPが溜まってるような気がしたからさー。吹き飛ばしたら綺麗になるかなと」

「そんな、感覚的な答えなのね……? それで壊したの!? 愚かなの!?」





 しかし、一方でスザクは慌てており、相反する反応だった。そして、志乃も怪異の多さに恐れを感じる。




「す、スザクさん、すごい量の怪異が……」

「……ここは今まで死んだ全ての人間、人柱、生贄、工事の際の事故死、全ての人間の恨みを封じた場所。死んだ人間は二百人を超えるわ。だからこそ、それほどの怨念が宿っているのよ」

「……わ、私も行ったほうが」

「アンタじゃ……でも、流石にこの数はあの人間でも」





──スザクが一瞬だけ、黎明を疑った。しかし、それを晴らすかの如く、爆炎の渦のようなものが発生し、全ての怪異が一瞬で消える。






「……無用すぎる心配だったみたいね」

「あ、す、すごいですね」

「……もう、人間の枠超えてると思うけど。うん、まぁ、いいでしょ。うん」




 スザクは若干ヤケクソ、適当な返答をした。山神を封印するために死んだ人間の為の建物。それを壊したが、同時にちゃんと怨念を成仏させていた。その事実に驚くのも疲れていた。






「さて、次に行こうかな。経験値も入ったことだしさー。ただ、いつもよりちょっと少ない気もするような……もっと入ると思ったんだけど」

 



 黎明達が進み続ける。その道中には祠が何個も、何個も置いてある。これは? という視線を黎明は向けた。




「これは鎮道(ちんどう)。霊力を全ての場所に流し込む為の祠なの。全部で八十六個あるわ」

「ふーん、壊すといいことある?」

「ないわよ。これが山神を封印している大事な祠なの。壊すとか考えるんじゃないわよ。流石に神には人間は敵わないわ」

「ふーん。色々あるんだね。あれ、あのちょっと大きい塔みたいなのはー? さっきまでなかった気がしたけど」



 黎明の視線の先には十メートルほどの、朽ちかけた木塔があった。不思議なことに先程までは見えなかったはずなのに、急にその塔が現れた。





「あれは願封塔(がんふうとう)。山神を祀った塔よ。この場所で一番古い建物なの。昔は奉るふりをして、生贄を少しでも減らさせようとした痕跡が残ってるの」

「生贄……そういうのあるんだー。山神ってかなり凶暴な感じなの?」

「凶暴なんてもんじゃないわよ。山神が封印されるまでは、生贄を捧げて人間を生かしてもらえるように頼んでいたのよ。人柱を縛りつけ、木の根もとに埋めたり、干からびるまで木に縛りつけたりね。ただ、生贄が多すぎたからこそ、神を讃える事で、少しでも減らして貰えるようにしたの。媚を売って、ご機嫌になってもらい、殺されないようにした」




 志乃は息をのむ。スザクは淡々と続けた。黎明はそういうことがあったのかぁ、となんとなくで聞いていた。





「まぁ、それでも山神が求めた生贄の数は途轍もなく多かったの」

「ふーん、そういう裏設定みたいなのがあるんだ。この祠も古臭いだけだと思ったけど、そういう説明を聞くと風格があるような気もするなぁ」



 黎明が気楽な声を出す。持っていた刀の鞘でつんつんと、祠をつつく。




「……その、さっきも言ったけど、封印があるから。それと呪いとかもあるからね。普通の人間なら死んじゃったりするからね。それと、あの塔は山神を祀ってる物だから、下手に壊すと山神を刺激するわよ。だから、壊しちゃダメよ」

「ほうほう」

「特にあの塔は壊したりすると山神を怒らせるし。刺激するもんじゃないわ。この祠もね、丹精込めて封印のために、昔の人間が作ったの。鎮道(ちんどう)の祠は八十六個あるけど、一つ一つが封印の役割をしてて。作るのに色々と犠牲もあったから、これで山神が封印できてるの。だから、愚かなことは考えるんじゃないわよ。壊したりとか」

「ふーん、えい。からの、フレアボム」





──そう言って、黎明は祠を壊した。そのままフレアボムを発生させて、塔に直撃させて、塔を焼いた。





「えええ!? え、アンタ、なんで壊したの!?」

「いや、壊すなって言ったから」

「そうよね!? ワタシ、壊すなって言ったわよね!? 封印あるし、刺激もするから!」

「いや、そういうのは壊してモンスターを呼び寄せる感じのやつかなって。ほら、さっきも壊したしさー」

「呼び寄せる感じのやつってなに!? バカじゃないの!? いや、さっきのもだけど、訳が違うのよ!!」





 スザクは、壊すな、と言ったのにその二秒後に祠を壊した黎明を見て混乱した。





「まぁ、でも、その封印。さっきとは比べられない悪いMPがあったしさー。それと、その祠、封印の割にはMP漏れ出してるし、どうせ封印解けちゃうんじゃないー?」

「……アンタ、意外と考えてるのね」

「──それに、俺なら勝てそうだしさ。だから壊した」






 あれ? こいつ意外と考えてる? と一瞬思ったスザクだったが、どっちにしろ封印を解いたことには変わりないし、どうなんだ!?



 と悩む。しかし、そんな時間も虚しく……そのまま、山神が封印から解けてしまって、ますます頭をかかえる。





「──っ!!!! この気配……」






 そして、その直後、石が砕けた音が境内に響いた瞬間、空気が裏返った。即座にスザクは周囲の異変に勘付いた。







 ──祠の底から白がせり上がり、二十メートルの女が立った。






 黒い髪は勝手に逆立ち、幾千の糸のように空へ伸びる。顔は渦。目も口もないのに、見ているだけで吸い込まれそうだ。


 白い和服の袖が揺れるたび、足もとの砂が波になって走った。




『オロカナ、ミズカラフウインヲ、トクトハ…』



 板が軋み、木々が泣き、土が呻く――それら全部が言葉になって溢れる。



『……ツイ、ツイニ、チノソコカラ、デレタァ……』




 山神の声は、喜びに満ち溢れていた。一方で、スザクの顔には焦りが滲んでいる。



「ついに来たわね、山神……!」

「おおー、ついに来たか。やっぱりあれがスイッチだったのか」

「いや、まぁ、アンタが呼び寄せたんだけど。スイッチってわけじゃないわよ! くっ、こうなったら逃げるしかないわ!」

「そうか。俺はこのままエンカウントしたし、戦おうかな」

「お、愚か者! 勝てる訳ないでしょ!! もう、いいわ、付き合ってられない! 志乃、行くわよ!!!」

「え、で、でも私だけ逃げるわけには……」

「いいのよ!! こんなの命を捨てるのと同意義!! 勇気ではないわ!!」



 スザクが志乃の手を取り、黎明から距離を取る。黎明は二十メートルを超える、山神を見上げてずっと突っ立っている。




 山神の袖がひるがえり、辺り一帯の土が波になる。他にある祠が余波で転がり、鳥居が傾ぐ。



「くっ、志乃、この炎の中に隠れるわよ!」

「は、はい」





 スザクは土の津波に対し、自ら生み出した炎で壁を作る。そうでもしなければ、ただの土埃で死んでしまうからだ。




「れ、黎明さんは!!」





 志乃が心配そうに、黎明を見つめる。彼女の瞳には黎明が土の津波が起こっても、見上げている黎明の姿があった。




 だが、ここでようやく。彼に動きがある。



 




 ──黎明は一歩出て、軽く手を刀に添える。




 大地が唸りを上げ、土の奔流が天を覆う。その中心で黎明は、ただ刀を構えた。



 次の瞬間、風が吠える。抜かれた刃が空気を裂き、斬撃の風圧が津波を飲み込む。



 土は弾かれ、波は霧散し、世界が一瞬で静まり返った。黎明の髪が風に揺れ、彼は小さく呟く。





「へぇ、結構強い雰囲気あるなぁ。ボス的なやつかなー……?」





 当たり前のように、そこに佇んでいる。そよ風でも浴びたように、余裕の顔で。




──その事実にスザクは、またしても身を震わした





「一体、何回驚かされればいいのかしら……。刀の、ただの風圧だけで、あれを無力化するなんて」





 山神、その名の通り神であり、神格と言われるほどの存在。人間と比べると遥か上位の存在なのだ。



 だからこそ、本来であれば人間が対峙する事すら、出来るわけがない。しかし、今目の前に起こったのは




──対等かそれ以上の強さを想起させる。




 黎明は一気に駆け出し、抜いた刀で山神を切り裂く。驚くべきは一気に跳躍し、相手を切り裂いたことだ。大きく逆立った髪の毛の一部を、彼は切り裂いた。



『……ヒトナラザル……カエレ……ホシイノハヒト……』

「思ったより、あっさり切れたなー。あれ、見掛け倒しか……?」




 黎明の指先から、炎が発現し、それが山神へと飛んでいく。



「フレアボム」



 赤い点が連続して灯り、山神の足もとの内側から破裂する。白い裾が揺れ、渦の輪郭が少し欠けた。すぐさま、髪から黒い無数の糸が放たれ、空間そのものを縛ろうと迫る。



『イヤァァァァ!!!!!』

「魔法一発じゃ消えないなぁ。耐久力は今までよりはあるのか」




 抜かずの一閃。見えない刃の線が走り、糸束が十も二十もまとめて落ちる。スザクが息を呑む。



(切り払いの精度、化け物……!)




「おー、十秒以上戦えたの久しぶりかもしれない……」





 黎明が刀を帯刀し、もう一度、静かに掌を向ける。




「フレアボム」




 再度、紅の弾丸が爆発した。凝縮された霊力の塊は、小さな太陽とすら感じるほどのエネルギーを内包していた。




『……マダ……』




 山神が地の底へ薄く滑り込み、祠の穴に自らを畳みはじめる。逃走の気配。



 黎明は追撃の火を重ね、神の周囲を更に燃え上がらせる。神自身の炎により、輪郭がぱきりと割れ、仰反る。



『…………マダ』




 神が感じたのは恐怖、そして、怒り。圧倒的すぎる人間に対しての恐怖と、同時に下等な人間が自身を仰け反らせたことに対する怒り。





『フウインサエ……カンゼンニ……トケテイレバ、ニンゲンナドニ……』






 山神の封印が完全に解けているわけではない。だからこそ、真の力が使えなかったことに対するもどかしさに似ている感情。



 しかし、このままでは殺されてしまうので神は逃げるしかなかった。





 神とは思えぬ、哀れな姿でそこから姿を消した。






「……は?」






 ──同時に黎明も激昂する





 ある程度、耐久値が高い怪異。だからこそ、それなりの経験値がもらえると思っていたのに、急に消えたからだ。






「に、逃げた……? 逃げるモンスターとかって居る? あれ、もしかして、メタル系と同じでターン毎に逃げる感じなのか? まじか。うわ、仕留め損ねた……は? 最悪」





 逃げるモンスターといえば、メタル系で経験値がたくさんある。そう思って、黎明は意気消沈した。




 レベリングを自由にすることを楽しみとしている黎明。



 だからこそ、経験値を逃したことに落胆をしかけた。しかし、ここで黎明の頭に電流が走る。











「さっき、その祠と塔を壊したから、モンスターが出てきた。つまり……ここにある、全ての建物、全部、全部壊しまくって、もう一回出てこさせればいいんじゃ……?」








──そう思い立った瞬間、黎明は手から大量に、小さいフレアボムを辺りに撒き散らす。



本当に辺り一面にだ。まるで、全てを燃やし尽くすと言わんばかりの勢いでだ。







「よーし、山神出てこい。神のくせに逃げるなんて情けなくないのか。びびってんのか。ほらほらー」



 


 黎明は先ほど、山神が祠を壊したら出てきたので、再度、祠の破壊を始めた。



 バン、バン、どかーん。爆弾が次々と連鎖的に爆発するように、辺り一面に轟音が響き渡る。



 それはもはや、爆弾の雨だ。






「ちょ、あんた、な、なにやってるの!!!!??」

「れ、黎明さん……なにをして」







 スザクと志乃が黎明に向かって、大声をあげるが魔法の爆音で彼に届くことはない。


 スザクはあの人間、気が狂ったのか!? と思い、何度も呼びかけるが彼には届かない。




「あ、あいつ、ここを全部壊すつもり!? 確かにそれなら、あいつは逃げ隠れをやめて、また立ち向かってくると思うわ……だって、封印が壊れて全ての力が戻ってくるんだもの。でもだからって、な、なんて愚か!!! 神を舐めすぎてる……人間の考えることじゃないっ」

「で、でも、私達には当たらないようにしてくれるんじゃ」

「愚か! 志乃、あいつは絶対ワタシ達を忘れてるわよ。絶対に心とか若干、荒んでるに違いないわ!!あいつ、死を超える苦しみを味わうことになるわよ!」



 しかし、黎明にも多少の人の心があり、二人にはちゃんと当たらないようにしている。





──そして、黎明は願望山にある祠も、建物もすべて破壊し尽くした。





 その中には封鎮祠(ふうちんのほこら)と呼ばれる場所があった。それは山神を封じる中心的な封印場所。



 巨大な花崗岩の石室の中央に、五本の鉄杭が地脈へと打ち込まれている。完成に十二年かかったと言われる封印霊具。


 数多の犠牲を払ったその封鎮祠(ふうちんのほこら)を彼は壊した。





──そして、その祠に封じられていた山神の全ての力が





 今、解き放つ。









 声は地の底から響き、空気が震えた。全ての力を解放された、山神が黎明に牙を向ける。


 二十メートルを超える巨体が、再度現れる。先ほど以上に大きな怒りを滲ませながら。


 大地が割れ、無数の髪が逆立ち、全てを飲み込むかのように広がり続けた。



 先ほどと見た目が変わらない。しかし、霊力が桁違いだった。その圧力だけで、風が発生して、全部を吹き飛ばしてしまうほどでもあった。




『……オロカナ、ニンゲン。ジブンカラ、シニキタカ。フタタビ、レイリョクアツメル……クワセロオオオオーーーーーーーー!!!!』

「──再エンカウント来たぁー。あれ、さっきより強そう?」






──山神と黎明の、二度目の決戦が始まる。







 山神が現れると、 


 ──空気が変わった。 風が止み、音が死んだ。先ほどまであった森のざわめきも、虫の声も、土の匂いすら消えた。かわりに鼻を刺す鉄の匂いが満ちていく。黎明たちの足元の土がじわりと赤黒く濡れ、やがてそれは血だと気づく。


「なんじゃこりゃ? 血かー?」

「山神の結界に引き込まれたわ! あいつを倒すしか、もう出る方法がなくなってしまった……」

「ふーん、元からそのつもりだけどねー」



 世界が裏返った。祠も鳥居も、すべてが歪み、地面がひび割れて沈んでいく。崩れた穴の底から、どろりと赤黒い液体が泡を立てて噴き出した。血の池――無数の命の残滓が混じり合った、地獄のような沼だ。



「血の池……これに入っただけで呪われるわ。志乃、ワタシから、絶対に離れてはいけないわ。これは、今まで取り込んだ人間の怨念、少しでも触れたら引き込まれる」

「れ、黎明さんは」

「……あいつなら血の池の呪いはなんとかなるわ。でも、神なる力を解放してしまった山神には絶対に勝てない」






──完全なる力を取り戻した山神は歓喜に震えていた。





『ツイニ、ツイニ、モドッテキタァァァーー!!!!!!』




 雄叫びだけで地鳴りが走った。血に飢えた地面にその神は佇んでいる。



 二十メートルの巨神──



 ――山神が、黒い渦の顔をこちらに向けた。逆立つ髪は空を覆い、一本一本が生き物のように蠢く。袖が揺れるたび、血に濡れた土が波になって押し寄せた。



『……オロカナ、ニンゲン、スベテワガミニ……!』




 声は木々の悲鳴と石の軋みでできている。空気そのものが怒っているみたいだった。



 黎明はその波を全て刀の風圧で、打ち消した。その様子を見て山神は再度、怒号を強める。





『フウインガ、カンゼンニトケレバ、タベラレルゥゥゥ』





 山神は先程まで、力が完全ではない状態で黎明と戦っていた。最初に黎明が、山神を封印する霊具である鎮道(ちんどう)を壊した際に封印の一部が解けてしまった。


 それ故に、山神は黎明達の元に現れ、対峙した。




『ホロボス、クウ!!!』

「なんか、すっごい怒ってるような気がするけど……気のせいかな?」





 黎明は鎮道(ちんどう)を壊す際に、同時に願封塔(がんふうとう)を壊している。あれは、山神を讃え生贄を少しでも減らす為に建てられた山神のための塔なのだ。



 平安の世。怪異が今よりも、無秩序に暴れていた時代。封印をするまで、人間は怪異の機嫌を取るしかない場合があった。



 立派な塔も、綺麗な内装も、全ては神への服従と権威を示す為の物。



 



──それを燃やす、など、命を捨てる行為。国の旗を燃やす如く蛮行だった。






「まぁ、モンスターが興奮してるのはいつものことかぁ」

 



 しかし、この少年がそんな事情を知るはずもない。興味もあるわけもない。ただ、彼は経験値を求めているだけだった、



 だから、黎明は一歩前に出て、首をかしげるだけだった。




「再戦か。さっきより、モンスターの鳴き声が大きい気がするなぁー。それとMPも上がってるし……ふむ、第二形態てきなやつだったのか?」




 ──次の瞬間、山神の髪が雨のように降り注いだ。墨の槍が千も万も突き立つ。スザクは志乃の肩を抱き、炎の壁を展開する。





「志乃、動くんじゃないわよ!!」

「は、はい。でも、黎明さん、こ、こんなのに勝てるんですか……。私だけ、このままずっと逃げてもいいんでしょうか……わ、私も」

「……気持ちは分かるけど。ワタシ達に……何ができるっていうのよ……」






 神次元の戦い。入ってはいけない領域であると、スザクは感じ取る。そして、ただただ、その場所から動かず、見守るしか出来なかった。






「……それに、あいつも神には絶対に敵わない。山神が百としたら、あいつは精々、十程度でしょうね。十もあることに驚きだけど……やはり、神に勝てるわけがないわ」





 呆然と見守るしかない。もう無抵抗とも言える状況だった。だが、山神は黎明だけでなく、スザクと志乃も襲う。






 ──超広範囲の山神の攻撃。





 黎明も二人を覆う炎の壁ごと、呑み込む勢いで迫る。渦の中央が開き、音のない咆哮。境内の地面がひっくり返り、石柱が弾丸になって飛ぶ。正面から受ければ、普通の人間なら跡形も残らない。





 普通の人間でなくても、死んでしまうだろう。例えそれが炎の神の眷属であったとしても、炎の壁で覆われていたとしてもだ。




 黎明は、迷わず二人の前に立った。






「なんか、これは二人が当たったらやばそうかなぁ」







 轟音。世界が白く弾ける。土と髪と石が混ざった一撃が、彼の胸を正面から叩きつけた。身体が弾丸のようになり、鳥居の向こうまで吹き飛ぶ。巨岩を三つ貫き、やっと止まる。




「──っ!」




 志乃の喉が詰まる。スザクの目が大きく見開かれた。神の御技の直撃。同じく神でなければもう何も残らないだろう。




 砂煙の向こうで、黎明はむくりと上体を起こした。胸元の着物が焦げ、土塊がぱらぱら落ちる。





「……結構吹き飛んだな」





 立ち上がる動作はのんびりだが、その瞳には輝きが浮かんでいた。



 ──だが、その瞳の才能の輝きとは裏腹に、彼の体からは大量の血が流れていた。







「……よくやったわ。アンタは、神とそこまで戦った人間なんて今まで存在しなかった。安倍晴明ですら、まともに戦えもしなかったのに。アンタは戦った」

「れ、黎明さん!! す、スザクさん、黎明さんを助けてください!! し、死んでしまいます!! ち、血が!!」

「……無理よ。情けなくて、本当に申し訳ないけど、ワタシにはどうにも出来ない領域なの」






 ──黎明は控えめに言っても、死にかけていた。




 肩が吹き飛んだのかと思うほどに、大量の出血で真っ赤になっていた。それだけでなく、左目は潰れて、左脇腹も抉れて血が吹き出している。





 黎明は、そんな血だらけの中で、小さな声でつぶやいた。











「やっぱり、最初に思ったけど、これ勝てるね……」


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