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救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ


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第1話 始まり

 山奥の夜は異様に静かだった。


 とある大学のサークルメンバー。計七名は、車を停め、ライトを照らしながら廃村の石段へ向かった。



「ここが立ち入り禁止の廃村か〜!」

「映えるわ〜! 動画映えしそー、最高じゃん!」

「前の企画が受けたからな!第二弾!【心霊スポットのヤバげなブツを片っ端から壊してみた!!!】やってこうぜ」

「バズりそ~!」



 彼らは、大学生だけでなく動画投稿者でもあった。しかし、正常な動画ではなく、どちらかと言うと炎上系の動画をアップしている。


 いわゆる、迷惑系の動画投稿者であった。



「第一回目って、何したっけ?」

「一回目は、寂れた神社の祠とか壊しただろ」

「あぁ、そうだった」

「あれもバズったな。あの壊れた神社、荒らした後くらいから、その町で何人か不審死があって、俺らのせいとか言うやつがいてさ。そういうのがネットで議論とかなって、バズったんだ」

「あれ、めっちゃ儲かったよねー。他の動画も回ったし」




 彼らは以前にも、同じように古い神社を訪れ、動画撮影を行なっていた。その内容は勝手に神社内を荒らし、破壊する行為を収めたもの。


 それは、当然ながら世間的に認められることもなかった。しかし、それでも興味を持つ者が居れば、動画は回り、彼らも更なる収益を得る。


 ネットで炎上をしたが、悪びれることもなく、反省をすることもなく、二度も同じようなことをしようと考えていた。



「ここ、私有地だっけ? 入っていいんだっけ? 許可とった?」

「いや、とってねぇ。前の勝手に他の家に入ったりするのがバズったじゃん。だから、無視でいいだろ」

「やっぱり普通のじゃ、面白みがないよね。ほら、痴漢でっちあげて私人逮捕するのもバズったじゃん」

「あー、私が適当に隣に座ってたおっさんを、痴漢って言ったやつね。まぁ、確かにバズってたね」

「あれ、証拠ないのに勝手に殴ったりするのどうなんだって、かなり話題になってたよな」

「おっさんはキモいから、別に殴ってもいいと思う人〜」

「「「「「「はーい」」」」」」






 自らの声量を全く気にせず、騒がしく彼らは動画投稿の準備を始める。彼らは身バレ防止のため、全員が軽くサングラスやマスクなどを身につける。


 そして、準備が整うと動画を回しながら、彼らは廃村の中へと足を踏み入れていく。




 しかし──彼らの前に、ふっと【二つ】の影が立ちふさがった。



 白い狩衣。黒い髪。美しい顔立ちの男女二人組だった。顔がどこか似ているので、姉弟か、双子であると分かる。



「……ここから先には入るな」



 少年の名前は、安倍蓮(あべれん)


 彼の低い声が七名の足を止めた。


 隣には、蓮の双子の姉である安倍紅(あべべに)も立っている。二人とも真剣な顔だ。



 二人は狩衣(かりぎぬ)を纏っており、まるで神職のような格好をしている。



 その服装に大学生グループは思わず笑ってしまう。



「え、なに? ガチのコスプレ?」

「いや顔整いすぎでしょ、ウケる」

「動画回すわ、陰陽師が止めてくる件www」



 大学生は笑っていた。だが安倍紅(あべべに)は一歩踏み出し、感情を押し殺した声で告げた。


「肝試しにでも来たんだろうけど。ここは本当に危険よ。下手に踏み込んだら──本当に、死ぬわ」

「死ぬとか、バカじゃないの? ふふ」

「なにこれ? 陰陽師とかのコスプレなの?」



 大学生のバカにしたような言動に安倍蓮(あべれん)は苛立ちながらも、最後の忠告を投げる。




「二度は言わねぇ。帰れ。この村は……オレたちでも余裕で殺されるレベルなんだよ」



 真剣な表情に、大学生たちは笑いながら、全員で目を合わせる。写真を勝手に撮ったり、あたりの風景を見渡したりして、全員で肩をすくめる。





「ふふ、余裕で殺されるレベルって……そんな格好して雑魚って事? マジでコスプレじゃん」

「……お前ら、《《怪異の恐ろしさが分かってねぇな》》。おい、マジで帰れ。この村には絶対に入るな」






──安倍蓮(あべれん)の再度の忠告。それによって、ようやく彼らは諦めたように動き出した。





「はいはい、わかりました〜。帰ります帰ります〜」



 七名は踵を返し、車の方へ向かう。安倍紅(あべべに)は胸を撫でおろす。




「……蓮、この村、本当にやばそうね」

「あぁ、あんな何も知らない素人じゃ、マジで無駄死にする」




 二人はそのまま廃村へ、別の用事のため歩いていった。







 

 ──そして、双子の姿が完全に消えた瞬間。







「……よし、行くぞ」

「やっぱ行くんかい、ははは、うけるー」

「止められたら逆に入りたくなるよね〜!」






 七名は笑いながら石段に向かった。









 村に入り、暫く歩いた七名の大学生は思わず足を止めた。


 そこはただの古い村とは決して思えなかった。




 折れた木の鳥居。黒ずんだ苔が這う石畳。左右には、壁が崩れた古民家が並び、戸が外れた窓がぽっかりと空洞の目のようにこちらを見ている。



 街灯はもちろんない。



 月明かりだけが村全体を薄ぼんやり照らし、その光すらもどこかに吸われているように弱い。



「……なに、この村。気味悪っ」

「いや普通に廃墟ってだけだろ? 映えるって!」




 だが、踏み込んだ空気だけは違った。湿度とも寒さとも違う。肺の奥に見えない手を突っ込まれているような、押しつぶされる気配。





「なんか空気変じゃね……?」

「気のせいだって」




──ぎ……ぎぎぎ……ぎぎぎぎぎ……






 耳鳴りのような音が村全体に満ちた。




「なに、この音……? 虫でもいんの?」




 その瞬間、一人の男が振り返った。視界の端にあった廃屋の隙間──



 そこに、黒い穴が三つ浮かんでいた。



 両目と口だけが、まるで闇が丸く切り抜かれたような絶対的な黒。髪はある。鼻もある。


 だけど穴の部分だけ色という概念が消えている。




「え……あれ……なに……?」



──ズ……ッ。




 謎の存在が、一歩。ただそれだけで空気がぎゅっと沈む音がした。


 次の瞬間──


 メンバーの一人の女。その体が、上に跳ね上がった。謎の存在の腕が彼女の腹を貫通していた。



──メリメリメリメリ!!!



 腹、背、骨、肩へと串刺しにされ、内側から骨を折りながら捻られていく。



「ひぎ……っ……!」



 彼女の体は雑巾を絞るようにねじれ、上半身と下半身が逆方向へ千切れ飛んだ。


 上半身は近くの大木に叩きつけられ、下半身は化け物の穴へ吸い込まれて消えた。




「う、うそ……うそぉぉぉ……!!」



 もう一人の女子メンバーが泣き叫びながら走り出した──が、地面から影が伸びる。



──バキィ!!!!



 右脚が逆向きに180度ねじれ折れた。皮膚が裂け、白い骨が地面に転がる。



「ぎゃあああああああああ!!!!!」



 倒れた彼女の断面を怪異が覗き込み、


──ズルルルルル……



 腸が細かい肉片のように吸われ、心臓が吸われながらしぼむように潰れた。彼女の喉がひゅ、と鳴り、




 頭が最後に穴へ沈んだ。






 大学生女子三人のうち、最後の生き残りの彼女は完全にパニックになり、


 近くの古民家へ駆け込む。しかし――その屋根から。



──ドンッ!!



 化け物が重力無視の動作で、まっすぐ垂直に落ちてきた。彼女の頭を片手で掴み──



──ミシミシミシミシ!!




 頭蓋骨を握力だけで破砕。白い脳漿が床に飛び散り、目玉が弾んだ音が響いた。





「ひっ、ひっ、ひぃ……っ!!」





 一緒に来ていた男子学生、その内の一人は恐怖に震えながら外へ逃げるが、石畳で足を滑らせて転倒する。




──パキンッ!!!




 両膝が逆方向に折れ曲がり、脛の骨が皮膚を突き破った。




「ぎゃあああああ!!」




 怪異は彼の顎を掴むと、口を後頭部まで裂き開き、そこから内臓を吸い上げた。



 肺、肝臓、喉、心臓……順番に吸われて消えていく。最後に残った背骨だけが、



 カタカタ震えながら穴へ吸い込まれていった。





「……やばいやばいやばい……!」

「マジでどうするんだよ……!」

 



大学生男子二人組は、互いにすがりついた。



 だが──



──バシュッ!!!



 一人の上半身が横にスライドするように吸い取られ、壁にぶつかった瞬間、肉片になって砕け散った。


 下半身だけが立ったまま震えている。


「ひっ……ひっ……!」



 最後の生き残りの大学生。彼は涙をぼろぼろ流しながら後ずさった。怪異の穴が、ゆっくり彼の前に立つ。




「いやだ……死にたくねぇ……!」




 穴が彼の顔を撫でるように触れ、顎を掴んで上半身を持ち上げた。



──ズボォッ!!!!



 彼の体が紙束のように折り畳まれ、骨が砕け、肉が潰れながら、まるごと穴へ吸い込まれていった。



 人だったものが消えるまで、


 ほんの数秒。化け物は穴をパチパチと震わせ、まるで満腹のように肩を揺らした。



 廃村に残ったのは──血の匂いと、僅かな肉片だけ。男女の大学生七名は、




 誰一人、名前を残さず、無慈悲にこの村へ呑まれた。












◾️◾️





 ──大学生メンバーが殺された同時刻。彼らより前に入った二人の姉弟もまた、命の危機を迎えていた。




「はぁ、はぁ……あの怪異(かいい)はヤバい。なんだ、あの禍々しさは、聞いてねぇ……」





 青年の名前は安倍蓮(あべれん)、安倍晴明の子孫とも言われる安倍家の人間である。


 黒い髪に茶色が混じっており、それが短めの綺麗な髪型となっている。後ろの髪は少し無造作になっており、顔面が究極的にかっこいい。



 黒い瞳が少し吊り目で怖い印象もあるが、それが余計にかっこよさを出していた。服装は狩衣と呼ばれるものを着ている。まるで神職者であるかのように、真っ白な狩衣を纏っていた。



 ただ、真っ白と言っても、走り回ったのか裾は汚れている。そして、少年の顔は汗が溢れ、美しい顔も焦りで歪んでいた。




「……蓮、アタシもあんな霊格の怪異がこんなにもいることに驚いてるわ。これは人間の手に余る、まずはこの【廃村】から抜け出しましょう。そういえば貴方も大丈夫?」




 その安倍蓮の姉である、安倍紅(あべべに)。彼女もまた、蓮と同じように狩衣の姿をしている。そして、額に汗を流し、焦りを顔に出していた。




 そんな双子の姉弟と一緒に、【もう一人の少年】が廃村の中で行動を共にしていた。




 三人は今、ひょんなことから合流し、怪異という化け物から逃げており、廃村の一軒家に隠れていた。




 隠れなければならない、もし見つかり捕まってしまえば間違いなく死んでしまう。その極限の命のやり取りに……安倍家の双子は冷や汗を流さざるを得なかった。




 しかし、




「あ、うん。俺は大丈夫。ここら辺モンスター多いよな」




 双子の隣にいる少年は、彼らとは打って変わり、どこか余裕感があるというか、状況の緊迫さが分かっていないようだった。



 白い髪に、黒い瞳を持っている少年。服装は二人とは違い、上は赤い小袖、下は白い袴、そして、腰には刀を帯刀している。



 まるで、武士のような服装だが、気の抜けた表情を見ると、厳格のある剣士とは誰も思わないだろう。





「とにかく、オレ達は逃げるしかねぇ。そして、この廃村からの脱出だ。姉ちゃん、出口はわかるか?」

「……ごめん。逃げてる時に、方向が分からなくなっちゃって。それにここ、独特の霊力が蔓延してるから普通に脱出とかも出来ないかもしれない」

「結界とかがあるのか……」

「うん、正しいプロセスを踏んだり、結界の起点を破壊とかしないと難しいわ」





 安倍家の双子は現在の状況を理性的に分析していた。しかし、分析はできたとしてもそれが出来るか、理想通りに行くのかは別の話だった。






「厄介なのはあの怪異の集団だ。あれほどの霊格があんな量いるとなると祓うのは不可能だ。物音を立てずに逃げるだけ」

「そうね、逃げるだけ」






──がしゃん!!!!




 え?





 思わず、安倍家の二人は固まってしまった。なぜなら、もう一人居た少年が、隠れていた一軒家に置いてある、




──壺を投げ割ったのだ。




 割れた瞬間の凄まじい音がして二人は肝を冷やす。しかし、それよりも分からないのはこの少年は一体何をしているのか?



 という疑問だ。



「なに、してるんだ? お前、なんで壺を割った?」

「……いや、中にあるのを確かめないと」

「……割らずに調べればいいだろ」

「……?」

「なんでお前が疑問の顔してるんだ?! 今ので怪異が寄ってきたらどうするんだ!! 馬鹿かお前!」

「……?」

「だから、なんでお前が疑問の顔してるんだ!!」




 安倍蓮が少年の胸ぐらを掴みながら怒号を発する。一歩間違えば命を失いかねない所業、到底許容できるはずもない。



 しかし、そこに紅が待ったとかける。




「ま、まぁ、彼も悪意があったわけではないようだし、それにほら怪異も気づかなかったようだし。こんな状況じゃ、錯乱しちゃったのかもしれないわ」

「……っち、姉ちゃんに感謝しろよ。そうじゃなきゃ今頃死んでるぞお前」





 少年は目をパチパチさせて、何食わぬ顔をしている。まぁ、多少何か怒らせてしまったのかと思いつつ、




 またしても、近くに置いてあった樽を割った。中には何も入ってないようで埃だけが宙を舞う。




「……おい、お前マジで何してる?」

「中のを確かめないと」

「割らずに確かめればいいだろ!!」

「……??」






 少年には話が通じない。逆にお前が何を言っているだという顔をしている。



 今度こそ、こいつを殺そうと思いかけたが






──次の瞬間、民家の扉がギリギリとゆっくり開閉した。





 全身の毛穴が開き強制的に汗を排出される感覚と言えばいいだろうか。



 死ぬ、死が極限まで近くなったと直感した。





 ──現れたのは両目と口がくり抜かれたように真っ黒な化け物。



 髪の毛があり、鼻もある。人のシルエットをしているのに、間違いなく異形だと分かる雰囲気があった。



 そして、目が真っ黒な穴であるが、視線がこちらを向いている。




 その視線を感じた時、安倍家の双子は全身から恐怖が溢れてしまった。




 逃げろ、逃げる、逃げるしかない。

 


 そんな、考えしか浮かばなかった。あれは人間が適う存在ではない、つまりは逃亡しか選択肢がない中で──



──少年は刀を抜いてた。




「お、モンスターだな。でも、一体だけかー。あーあ。経験値が詰まってると良いんだけど」




 逃げる選択肢などない。背中がそう語っていた。帯刀していた、刀を抜いて、猪突猛進に突っ込んだ。




 自殺志望者かよ!!


 きっとあいつは殺される。しかも一瞬で。


 そう、二人はとっさに思った。


 だが、その二人の予想は裏切られることになる。



「せいッ!」


 掛け声とともに、少年の刀が煌めいたかと思うと、異形の顔面に突き刺さり。

 そのまま刀は異形の体を縦断し……


 異形を、縦に真っ二つに切り裂いていた。


 あまりにもあっさりと片付けた所業をみて、双子は驚愕を隠せない。だが、驚きはそこではとまらなかった。


 そこまでされても、異形の存在もそれでは死なず、形を壊されてなお動いていた。


 それをうけて、少年は呟く。



「お、元気だね。これも良い経験値になりそう」



──経験値?


 一体何のことを言ってるんだろうこいつは。




 そんな双子の思惑を他所に、少年は攻撃を続けていた。ぐしゃぐしゃがちゃがちゃ、何度も何度も汚く咀嚼するように刀を異形の至る所に刺し続ける。



 品がない……と言えるような攻撃の仕方だが……



 ただ、着実に異形の存在に致命打を与え、体を崩壊させていく。まるで作業のように少年は刀を振り続ける。





──その行為の途中、異形の存在が途中で煙のように消えてしまった。



 つまりは彼が、あの化け物を倒したのだ。



「た……倒した?いや、祓った?嘘?一体、そんな、今何を……???」

「マジかよ……あれ祓える奴が現代に居るのかよ。どう考えてもあのレベルは【封印対象】だろ……」





 安倍蓮は驚愕していた。この霊格に対抗できる存在が現代に居たのかという事実に。





「あ、経験値が入ってきた。本当、RPGみたいな世界だよなーここ」







 ──武士みたいな格好をしている、少年は刀を納刀した。







 少年はいずれ、伝説と化す。








◾️◾️



 怪異(かいい)。人間の死や恐怖から生まれる小さな呪いの化け物のことだ。



 怪異は人を襲い、命すら奪ってしまう。



 

 しかし、そんな危険な存在だが対処が難しい。現代では怪異を倒せる存在が少なく、人柱を用意して封印するしか手段がない。



 怪異とはそれほどに強い存在でもあるのだ。人間とは文字通り格が違うと言える存在である。



 人間と怪異が相対すれば、通常であれば人間は容赦なく殺される。



──ただ、人間は蹂躙されるしかない。それが怪異であり、そんな化け物が多く存在する並行世界の日本。




──さて、そんな世界に一人の少年が転生した。



 転生した少年は……いわゆる、毒親持ちというものだ。




 少年の両親は懐古真理論(かいこしんりろん)という陰謀論を信じていた。



 様々な根も葉もない陰謀があり、それを少年の両親は信じていたのだが、



 そのうちの一つ、



 ──最新機器などには日本政府の録音機があり、反政府的な考えを持つ者を秘密裏に調査をしている。



 また、



 ──幽霊や妖怪、伝承などは国民を都合の良い道具にするためのプロパガンダ




 などがあった。他にも主に国は国民から搾取をし、常に監視をしている。



 国民を労働道具とするため、学校では嘘をつかない、真面目に働くのが尊いというプロパガンダを植え付けている。



 などなど。



 そして、そんな考えにどっぷりと浸かってしまったのが少年の両親だ。



 そのため、少年はまず最新機器であるスマホ等は全く触ったことがなかった。スマホなどその存在は聞いたことはあるが、実際に持ったり、使ったりは本当に一切していないのだ。



 それを使うことを親は絶対に許さなかったからだ。例え、少年の周りの子供がそれを使っていたとしても。少年だけが使えず、仲間外れにされていたとしても。





「ママ、ゲームしたい」

「えぇ、いいわよ」





 少年は最新機器ではない、数世代前のゲームだけはプレイすることができていた。



 なぜ、数世代前のゲーム機ならば使えるのか……。



 それは両親が信仰する宗教の教えにおいて──





 ──最新機器には盗聴器があるが、昔の機械ならば問題ないとされているのである。






 だから、少年は古いゲーム機でRPGだけをやっていた。



 昔のゲーム機でもあらゆるジャンルのゲームが存在する。しかし、その中でRPGをしていたという理由は、二つある。



 一つ目は、単純に少年がRPGが好きだったということ。



 二つ目は少年の父親が昔遊んでいたゲームだからと言う理由もある。父親もRPGが好きで勇者が魔王と戦うゲームは沢山持っており、それを子供に娯楽として与えていたのだ。


 ただ、この話には裏があり、宗教に献金として多額の金を与えていたため、わざわざ他のゲームジャンルを買うお金がなかったと言うのもある。だが、それを少年は知る由もない。



 

「……パパ、学校だと皆んなテレビに繋がなくてもゲームできるって言ってる」

「皆んな、嘘をついてるんだ。ゲームはテレビに繋ぐのしか出来ない。いや、してはいけないんだ。それ以外にゲームをすると洗脳をされてしまうからね」

「そっかー」




 少年は世間の常識と、周りと自身の違いに疎かった。



 いや、本当は何かおかしいと気づいていたのかもしれない。



 ただ、それをあまり言い過ぎると両親から教育的指導、暴力、暴言が来てしまうことを察知していたため、無意識に気づかないようにしていたのかもしれない。



 ゲーム機以外にも、両親は少年にさまざまな教えを、叩き込んでいた。



「パパー、皆んなが夏は肝試し? するとかって言ってる。幽霊? とか言ってるんだけど、幽霊って何?」

「幽霊なんて、パパも知らないな。周りのみんなが適当言ってるんだよ。お前は賢い子だ、そういう適当なことを信じてはいけないよ」

「……わかったー」



 ──ゲーム機以外にも、両親の教育もあり、少年は幽霊という概念を知らずに育っていた。



 「幽霊などは、良い子にしていれば現れない」などは子供を国の奴隷にしないために嘘であると、彼の親は信じていた。


 そしてその結果、幽霊なんていないよ、という教え方ですらなく。彼の親たちは、その概念すら教えなかったのである。



 友達や同年代とも関係性を薄くさせて、宗教の考えに疑問を持たせないように画策もしていた。



 そんな閉鎖的な教育環境で少年は育っていった。少年は素直な性格であり、父親が昔プレイしていたRPGに凄まじくハマっていた。





 勇者や魔法、そういうのだけが彼の世界であった。周りの同年代は少年の親がおかしいから関わらないように言われており、



 必然的に孤独でもあったからこそ、RPGにのめり込んでいったとも言える。




「おっ、ようやく勇者になれたぞ!ステータスは……おおっ!流石最強職業!一気にステータスとか上がるなあ。他の職業とは全然違う。しかも見た目もかっけーなーこれ」



 前世では身の回りにも毒親を持っていることが知られていた。そのせいで、同年代の子供にも避けられていた事など知るはずもない。



 そんな少年は……中学三年生の時に死んでしまった。




 理由は交通事故だ。しかし、ただの交通事故ではない。車の中に盗聴器があるかもしれないと車を分解した両親。


 そのせいでブレーキが破損し、交通事故に遭うことになる。




──そのまま少年は死ぬことになってしまった。






「じーちゃん、体調大丈夫?」

「……あぁ、問題ねぇ」

「でも、顔色悪いし、山降りて薬買ってくるよ」



 不思議なことに少年は生き返っていた。あれ? なんで生き返ってるんだろう?


 と少年は最初は疑問に思っていたが、徐々にそんな疑問は消えていった。




 ──少年が生まれたのは深い山奥だった。



 そこには祖父と少年だけが暮らしており、少年は毎日、祖父のために山菜などを採っていた。



「黎明、もうすぐ夜が来る。今日はいい」

「大丈夫。夜でも見えるし、道も間違えないよ」




 朝霧黎明(あさぎりれいめい)、それが今の少年の名前だ。白銀の髪の毛に、黒色の瞳を持つ。



 顔つきはどこか中性的な印象を受ける。



「そうじゃねぇ……夜はだめだ。怪異が出る」

「……何それ?」

「怪異は怪異だ。異形の化け物だ。お化けって言った方がいいか? とにかく異形の化け物だ」

「……?? RPGのモンスターみたいな?」

「逆にそれを儂はしらねぇ。だが、とにかく化け物だ」




 はて? 怪異ってなんだ? 少年はその意味をよくわかっていなかった。



 祖父は怪異について少年に多くを語らなかった。しかし、時折、怪異と口にしていた。



 ただ、お化けとかよく知らない、よく分からない黎明はRPGのモンスターなのか? と疑問を持っていた。



 彼の頭の中にはRPGのモンスターくらいしか異形の存在がない。



 前世の毒親のせいでお化けという概念が、一切なく育っているというのが大きな影響をしている。




「ゴホっ、ゴホ」

「大丈夫? じーちゃん」

「大丈夫。問題ねぇ。とにかく寝ろ」

「……」




──夜、祖父が就寝後、黎明は音を立てないようにゆっくり起き上がる。





そのまま家を飛び出し、山を降り始めた。



「さてと、冒険に出かけるか。じーちゃん、夜に外出ると怒るからなぁ」



 ほっ、ほっ、と軽快なリズムで山を下っていく。黎明。彼の肉体は特殊だった。



 驚異的な肉体強度、無尽蔵のスタミナ、とにかく自由自在に彼は動けた。



 走って走って、山を下る。暗い夜道、木々などを避けながら彼は走り続ける。






「こんにちは」






 むむ? 



 と黎明は足を止めた。足場が弱い山道、こんな場所に自分以外に人がいるとは考えにくいなと思っていた。



 夜の山道に立っていたのは白いワンピースの少女だった。しかし、髪の毛が長すぎて顔が全部見えない。


 背丈は黎明と同じ130センチほどである。




「えっと、なにしてるの?」

「こんにちは」

「あと、今は夜だから、こんばんはだね」

「こんにちは」




 あれ、話が通じないなと思った次の瞬間、少女はゴキゴキと手を伸ばして、黎明に向けて腕を伸ばした。



 信じられないことに腕が数メートル伸びたのだ。




「あら? モンスターだったのか。最高か。やっぱり夜は狩場に最適だよね。ゲームでも夜の方がモンスターとのエンカウント多かったし。経験値稼いでやるかぁ」





 しかし、それを軽々と避けて黎明は持ってきていた護身用の刀を抜き、凄まじき神速の速さでモンスター(怪異)の首を切った。




 すると、すぅぅぅと煙のようにモンスターは消えた。




「……さ、よう、なら。あ、りがと、う」

「ん? なんか言ったか? 気のせいかな。毎度のことだけど、モンスターを倒すと強くなってく感があるなあ。やっぱりここってRPGなのかな? 前やったPΩ2(ピーオメ・ツー)のゲームにも生き返るのとかあった気がするけど……」




 PΩ2(プレイオメガ2)、略称PΩ2(ピーオメ・ツー)と言われる黎明が前世で遊んでいたゲームである。


 ディスクを手で挿入して起動する据置型ゲーム機。古いゲーム機なのでネット接続・民放・ラジオ機能は非搭載であった。



 無論、親によって規制をされていたがPΩ3もPΩ4という次世代機器も発売されていた。しかし、それを黎明が知る由はない。



「RPGだったらテンション上がるよね。そういえば、前の親が、経典の教えを守れば来世で幸せになれるとか言ってたような……。もしかして、もしかするのかな?」



「ちゃんと言い伝えを守ったから、ゲームの世界にやってこれたのか? 確かに、さっきのも、ゲームみたいだよな? あんな腕が長い生き物、前世では居なかったし」




 独り言でぶつぶつ話しているが、特に答えが出るはずもない。しかし、先ほどのような化け物は何度も、少年の前に現れている。



 現れる度に、それを少年はあっさりと倒して強くなっている。



「モンスターは色んな種類いるし。そして、戦う度に強くなってる実感がある。やっぱRPGだよなどう考えても……」



 少年はそう言って再び、暗闇の山を走り出した。その山には数多の怪異がいることを知りながら……


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