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星降る冬に猫は寄る

作者: もちむぎ
掲載日:2025/12/23

【注意書き】

・一人称や語尾の変更等、物語の流れが大きく変わるようなアレンジ以外であれば、OKです

・使用される際は@Motimugi926の表記をお願いします

・使用報告はなくても大丈夫です

・使用される旨(動画のリンクや日にちなど)を教えて頂ければ、拝見させていただきます

・有償利用(FUNBOXなど)で利用される場合は必ずご報告ください

※DMは相互の方のみに開放しておりますので、はじめましての方はメンションでお願いします。


https://x.com/Motimugi926

空気で冷えた地面で足が痛い。

地面からも風からも今が「冬」であることを感じさせられる。

こんな日は外へは出ず、家でごろごろと寝転がって美味しいごはんを食べてストーブの近くで眠りたいものだ。

まぁ、今日は会合の日でそんなことは出来なかったのだが、冬の開催を止めてもらえるようにいつか進言してほしい。

私は言わない。

トップがとても怖いから。

だから、私以外の誰かが代表して言ってくれないものかと冬になるたびに思う。


会合の帰り道、はぁ…と息を吐きながら空を見上げる。

空には雲一つなく、星が見える。

今日の会合は丘のてっぺんで開催されて、周りに街頭などないから綺麗に見える。


星は好きだ。

静かにそこにあって、輝いているから。


たまには、星を眺めながらゆっくり帰るのもいいかなと思ったが、やはり寒い。

家のストーブが恋しくて、足早に丘を下っていく。


丘を下っていく途中に、街を眺めるための展望台があるのだが、そこには見慣れないレンガの家が建っていた。

私が登ってくる途中、夕方には見かけなかった気がするが、気のせいだったのだろうか。

その建物は、私の居る側からは壁になっており中が見えないようになっている。

興味もあるし、あわよくばその建物に入って暖をとらせてもらえないかと思い、私のいる反対側…街を見下ろすことが出来る柵の近くへと回り込む。


反対側はガラス張りになっていて、中を見ることが出来た。

建物の中は明るく、暖かな光で溢れていて心惹かれる。

テーブルと椅子がたくさんあることから、何かしらの飲食店ではないかと思う。

以前家族に連れていかれた「カフェ」に似ている気がする。


何とかして入れてもらえないだろうか。

店のガラス窓の前をウロウロしたり、飛び跳ねたりしていると、店の中に居た人がこちらに気がついた。

扉を開き、私を見下ろして声をかける


「中に入りたかったのかな?中においで。ゆっくり暖まっていきな?」


黒いショートカットの風貌で女性とも男性とも見分けは付きにくいが、声の深みから男性だと思われる。

横目に観察しながら店内へと脚を踏み入れる。


外から見た時よりも店内は暖かい。

椅子、テーブル、床は木製で香りも居心地もよい。

店内の奥に丸い石油ストーブが置いてある。

その近くのカウンターの椅子に飛び乗って暖をとることにした。

さすがに、石油ストーブの前に陣取るのは他人の目の前では美しくないと思ったからだ。


店内を見渡すと所々に植物が置いてある。

店内にかかってる曲もとても静かで落ち着く曲だ。

家でたびたび聞く騒がしい曲とは違って、とても居心地がいい。


「よかったら、どうぞ」


差し出された皿には、白色の液体。

鼻を近づけて嗅いで見ると、どうやらホットミルクのようだ。

ただ、私には物足りない。

ただのホットミルクは私は苦手なのだ。

私は店内を見渡して、目的のモノを探す。


彼の後ろのカウンターに、琥珀色の私の好きなものが置いてあるのを見つけた。

それを見つめながら前足で皿を触る。


彼は、私の視線の先のモノを見つめて察したようだ。

カウンターから私の目の前に持ってきてくれた。


「ハチミツを入れてほしいの?」


私の目を見つめて聞く。

私は、同意の意味を込めて声を出した。

察してくれた様で、ハチミツが入ったビンの蓋をはずしてスプーンで掬って、一匙入れてくれた。

丁寧に、ゆっくりかき混ぜられる。

私は、ハチミツがミルクに溶けていく様を見つめる。


ゆっくり、ゆっくり。


ハチミツが完全にミルクに溶けて、少し甘い香りが漂ってくる。

ホットミルクの熱さに気を付けながら、そっと舌で掬いとる。

優しい甘さが口の中に広がる。

ホットミルクから漂う微かな花の香り。

家で飲むハチミツよりも、良いものを使っていることが分かる。


「どうかな?口に合うといいけど」


ホットミルクを飲んでいるから、彼の顔は見えないが声から察するに笑顔でいることは確かなようだ。

正直に答えるのも癪なので、鼻をフンッと鳴らす。

それだけで分かるのか、彼も「それならよかった」と小声で返してきた。

こちらは何も言っていないのに、だ。


「それにしても、君はどこか家の子かな?とても綺麗な毛並みだね。」


そう言って気安く頭を撫でてきた。

私はそんなに安くない。

そういうつもりで、手を叩いてやった。

もちろん、ホットミルクの恩があるので爪は出さない。


「ごめん、ごめん。こんなに長い毛並みなのにとっても綺麗だったからつい触りたくなって」


彼はそう、おどけて言った。

だからと言って、頭を撫でさせる気は更々ないが。

この毛並みは自分の努力の結晶だ。


仲間からも羨ましがられるほどの美しい輝き。

毛先に一か所の絡まりもなく、更にふわふわしている。

毎日欠かさず手入れを行い、事あるごとにブラッシングを要求した結果だ。

まぁ、水浸しにされるのはとても嫌だが、それでもこの毛並みの維持に関わるのであれば致し方ない。


その努力の結晶が、この男にも分かるらしい。

触らせるつもりはないが、毛並みがとても美しく見えるように、照明の位置も考慮してポーズをとってやった。


「君は、ソマリっていう種類のネコかな?ブルーグレーの美しい長毛種の。瞳も金色に近い黄色でとって神秘的だ。」


顔を近づけてこちらを見てくる。

私の種類なんてものは分からないが、瞳も褒めてもらえたので悪くはない。

勝手に撫でてきたことは、帳消しにしてやろうと思った。


「そうだ、君の名前を聞かせてくれるかな?」


「甘い笑顔」とでも言うのだろうか、微笑みながら私に問うてくる。

どうせ、私の名前を正直に答えたとしても、どうせ彼には理解できまい。

そう思い彼には適当に「にゃー」とだけ鳴いてやった。


「『にゃー』じゃ、分からないよ。ちゃんと名前を教えて?」


不思議な事だ。

普通の人間であれば「ふーん、そうなんだ?かわいいね」で終わらせるところなのに。


『カペラ』


試しに、彼に私の名前を伝えてみる。

もちろん、彼の耳には「にゃー」としか聞こえないだろうが。

彼は、満足そうに笑顔で頷いた。


「そっか、カペラっていうのか。冬の夜空に輝く黄色い星…君の瞳みたいで素敵な名だね?」

『後半の甘い言葉はさておき、私の言っている言葉が理解できるのか。』


彼は少し得意気な顔で話してくれた。

彼は、人間ではないということ。この事に関しては信じては居ない。「ちゅーにびょー」とかいう奴らも居ることだし。

ただ、私の言葉を理解出来るという点だけは腑に落ちないが。

もう一つは、訳あって星空の良く見える夜にしかカフェを開いていないとのこと。

そのため、私がこの坂を登るときは夕方だったから、カフェは無かったということだ。


『それで、その訳というのは聞かせてもらえるのか?』


私が、彼の話を聞く姿勢であることに驚いている。

私も私自身が不思議であるが、こんな夜があってもいいかと思う。

なにより、このカフェは居心地がいいから。


「その話は追々、ね?それよりも君は帰らなくてもいいのかい?」


そう言われて、店にかかっている時計を見遣る。

短い針と長い針が揃って真上を指している。


『そうか、もうこんな時間か』

「おうちの人は大丈夫かな?心配したりしない?」


お前は私の親か何かか、と言いたくはなるが確かに心配するかもしれない。

だが、もうこの時間であるなら寝ていることだろう。

いま家に帰っても、家の者の眠りを妨げる事になる。


『今日はいい。良かったらこのままここで寝かせてもらえると嬉しいんだが…』


彼は困り果てた顔で私に告げる。


「寝かせてあげたいのは山々なんだけど…星が出ている時間しかこの場所に出てこれないんだ。」

『と、いうのはつまりどういうことだ?』

「明日の夜、晴れていれば帰すことは出来るけど、それまで君をこの丘に帰すことはできないんだ。」


星が良く見える夜のみ、というのはなかなか不便だな。

鼻をヒクヒクさせて、空気の匂いを嗅ぐ。

雨を予感させるような匂いはない。



『心配せずとも明日は晴れそうだ。』


そう言いながら、ホットミルクが入っていた皿を彼へと押し出す。

もう少しくらい、ここに居ても罰は当たるまい。

それに、あと一杯飲みたい気分なのだ。


「そうか、それなら安心だね」


彼は私の差し出した皿を受け取る。

鍋にミルクを注ぎ、鍋で温め始める。

何言わずとも察してもらえるのは心地が良い。


『あぁ、だからこのカフェが星が見える日にしか現れない理由を知りたい。謎が多いのは嫌いなんだ。』


彼は、困ったような微笑みを浮かべる。


「そんなに知りたいのかな?」

『知りたいというより、知らなければならない気がしてな』


私の言葉に悩みながら、温まったホットミルクを皿に入れようとする。


『あぁ、待った。‘‘みるくふぉーむ‘‘とやらをやってみて欲しいのだが。』


彼は苦笑し、はいはいと言いながらミルクの入っているカップに機械を差し込んだ。

ヴーと、機械が音を立てながら、ミルクを泡立てていく。

きめ細かに。

少しすると、カップに入っていたミルクの量が増えている様に見える。

液体の時とは違う、なめらかな様子。


そういえばと、彼の手元を見つめながら話しかける。


『私の名前は名乗ったが、君の名前はなんだ?』


彼は私の方を見て、驚いた様に目を見張った。

初めて彼の目を見たが、燃えるような赤い目をしていた。

本能だろうか、炎のように見えるその目が怖いと感じた。

ただ、それと同時に少し魅力的にも見える。理由は分からないが。


『聞いたらいけなかったか?だが、私も名乗ったんだ。君も教えてくれても構わないだろう?』


彼は少し悩み「イグニス」と小さく答えた。


「僕の名前は、イグニス。改めて宜しくカペラ。」

『あぁ宜しく、イグニス。ところで、ホットミルクはまだかな?』


イグニスの手元には零れそうなほど多い、ふわふわの白いミルク。

早く飲んでみたいが、イグニスにはそれを悟られたくはない。

悟られたくはないのに、私の尻尾は私の意思に反してくねくね動く。

その様子をみて、イグニスは面白そうに目を細めた。


「はい、お待たせ。ミルクの泡が顔についた時に拭けるようにタオル置いとくね。」


その心遣いに少し嬉しくなる。

おそるおそる、ミルクを舌で掬いとる。

ふわっとした滑らかな泡の中に、柔らかなミルクとハチミツの香り。

いつもと違う舌触りに癖になりそうだ。

ただやはり、イグニスの言う通り普通のホットミルクと違い、顔に泡が付きやすいようだ。

ある程度ホットミルクを味わいつつ、右足でタオルを持ち上げ顔を拭く。

タオルの使い方は、人間たちが使うやり方を見て学んだ。


『それで、君がカフェを始めた理由は聞かせてくれるのか?』


彼は観念したようにゆっくり話し始めた。

彼がカフェを始めた理由を。

それは、彼にとってはむかしむかしの話。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕がまだこちらの世界…人間界って言ったほうが早いかな?来る前の話だよ。

僕は、人間じゃない。

それは君にも分かるはずだ。何せ猫の言葉が分かるくらいだ。

僕はね、魔界っていうところから来たんだ。

信じてなさそうな顔だね?

本当だよ?証明して見せようか?角だって出せるんだ。

本当なのに…

まぁ、いいや。


魔界ではね、常に瘴気という毒が蔓延していた。

そう、過去形。蔓延していたんだ。

一人の「人間」の功績によって、蔓延していた瘴気はほとんどといっていいほどなくなったんだ。


その「人間」の話をするためにも、僕のカフェの経緯を知ってもらう必要があるかな。

僕はね、瘴気がまだ濃い時代の魔界でもカフェを経営していたんだ。

特に研究施設とか、守衛室とか、睡眠不足の人たちが足繫く通うような場所にね。

おいしいから、というより目を覚まさせるために来るヤツが多かったけどね。


その中に一人変わり者が居たんだ。

変わり者の「人間」。

瘴気ってのはさ、僕ら魔界のものにはどうってことないけど、「人間」が摂取し続けると毒になるんだ。

なのに、そんな魔界に「人間」が居たんだ。

不思議だと思ったね。まるで先が見えない。濃い霧のような瘴気が渦巻く魔界にだよ?

自殺行為にしか思えなかったさ。

けど、その「人間」は防毒マスクをつけてまで魔界にいたんだよ。


マスクを外して、外套を脱いだ人間はそれはそれは綺麗な銀色の髪をふわりと遊ばせて、僕にこう告げたんだ。


『ホットミルク。はちみつ入りで。』


ぶっきらぼうな声色で、しかもこっちを見ずに本を読みながら注文してきたね。

ちょっと、なんだこいつとも思ったけどカフェの店員だから、ご注文の品を差し出したよ。


彼女は本から目を離さず、カップの中身を飲んだ。

その一挙手一投足がなんだか物珍しくて、つい見てしまったけれど、彼女は気にしなかった。

ほかのカップを片付けがてら、彼女の本を見ると何やら難しい論文を読んでいるようで僕には分からないが、研究所に所属しているのだろうとは思った。

ちょっと前にちらっと「人間」が研究所にいるって話を小耳にはさんだからね。

彼女がそうなんだろうってね。


『ご馳走様』


そういって、お代を置いたら外套と防毒マスクをつけてまた彼女は外へ出て行った。

多分研究所に戻ったんだと思う。

それが、彼女との初対面。


それから、たびたび現れては、はちみつ入りのホットミルクを注文してね。

彼女が来るのが僕の楽しみになったのさ。


ある日来店してきた彼女は、本を持ってきてなくて、頼んだものはブラックコーヒーだった。

外を見る彼女の目はどこか虚ろで、目の下の隈はとても濃かった。


「疲れてる?大丈夫かい?」


僕は、つい声をかけてしまった。

彼女の時間を邪魔してしまったかと一瞬思ったけど、彼女は一瞬こっちを見てそっけなく


『…ん、あぁ大丈夫さ』


って答えてさ、さっさとコーヒーを飲み干して店から出て行った。

それが、彼女との最初で最後の会話かな。

あの時目が合った、金色の瞳がとても美しく見えたよ。


その翌日から、研究所は大いに荒れたらしい。

らしいっていうのは、そこに通っているヤツから聞いただけだからね、実際は分からないんだ。

ただ、「人間」が好き勝手研究しているのが憎らしいだとか、「人間」なんかが仕組みを変えようとするんじゃない、だとか。

その「人間」ってのが、彼女のことなんじゃないかと心配にはなった。


それから数か月、研究所ではデモが行われて物々しい雰囲気になった。

一年たって、ようやく落ち着いてきたかと思ったら不思議だったんだ。

窓の外からの視界がよく見えるんだ。

本当に、こんな場所だったんだって思うくらい綺麗に見えてさ。

窓に張り付いて見たもんだ。


どうやら「人間」が瘴気を浄化させる過程で、電気エネルギーをつくるという研究をした成果らしいっていうのを聞いたんだ。

電気エネルギーには、魔界も困ってたから完成した時には大賑わいだったよ。

だから、「人間」にはなにか報奨があるもんだと、皆思ってたんだ。


あったのは、豪華な棺と葬儀さ。


完成させた「人間」は、安堵からそのまま過労で亡くなったんだと。


もう、彼女の目を見ることも声を聞くことも、姿を見ることさえ出来なくなったんだ。

僕はあの瞳に目を奪われて、虜になってたんだ。

それから苦しかった。

カフェも畳んでしまおうかと、何度も思った。


ただ、聞いたんだ。「人間」には輪廻転生というものがあるんだって。

「人間」という形では会えないかもしれないけれど、人間界に居れば会える可能性があるんだと知ったんだ。


僕は、星空がよく見えるこの丘を選んだ。

亡くなった人は、星になるって人間の一部では言うんだろう?

だから、彼女も星から巡ってこの人間界に来るんじゃないかって思ったんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そう言って、窓の外をずっと見続けるイグニスの姿があった。

恋しいものを追い求めたんだろうと。


淹れてくれたホットミルクを飲みながら私は聞いていた。


『さて、興味深い話をありがとさん。私はひと眠りさせてもらうよ』


そういって、椅子から降り石油ストーブの前で丸まる。


「長い話を聞いてくれてありがとう。おやすみカペラ」

『あぁ、おやすみイグニス。よい夜を』


そういうと、イグニスは私にひざ掛けをかけてくれた。

優しい暖かさだ。

少し私にはむず痒くも感じるが、大切なものを扱うような温もりだ。

だが、居心地は悪くない。

明日には帰れるのだから、そうこの温もりに甘えても今日はいいだろう?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


イグニスだけは知っている。

彼女は転生したんだと。

そして、覚えていなくとも立ち寄り、同じものを注文したんだと。

カペラだけなのだ。イグニスの耳に話声として聞こえる猫は。

カペラだけなのだ。彼女と同じ声で話しかけてくれるのは。


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