7.リサーチしてない人たち
現場の猟師が直面している「経済的な現実」と、行政・政治家が持つ「過去の認識」との間に、深刻な断絶があることが、問題解決を遅らせる大きなの要因です。
現場で活動する猟師のお子さんから直接聞いた「獣肉の品質・衛生・経済性」に関する事実は、一般の議論や机上の政策論では見落とされがちなポイントです。
駆除対象獣の「経済性」の崩壊と行政の怠慢
シカやイノシシの対策遅延も、クマと同様に「昔は儲かったかもしれないが、今は損しかしない」という経済構造の変化に起因しています。
1. 獣肉の品質と市場価値の現実
猪の品質問題:
「被害が出る前の夏の猪は臭くてまずい」という事実は、駆除報酬がメインの有害駆除活動において、獲物の「商品価値」が極めて低いことを示しています。
駆除の目的はあくまで「被害を止める」ことであり、市場に流通させる高品質な肉を得ることではありません。結果、商品にならない獣を駆除していることになります。
熊・猪・鹿共通の課題(保健所の壁):
衛生管理の厳格化により、認定された食肉処理施設で解体しない限り、公に流通・販売することはできません。
猟師が自分で屠殺・解体した場合、それは自家消費または特定条件下での消費に限定され、売上を伴う「儲け」には繋がりません。
2. 「損しかしない」構造:駆除報酬の役割
昔は獣の肉や毛皮、胆の売却益が駆除活動のインセンティブになっていましたが、今はその経済的なリターンが完全に失われています。
獲物(商品価値)
(昔)プラス(肉、胆、皮)
(今)ほぼゼロ(または処理費でマイナス)
衛生処理
(昔)簡易的
(今)認定施設への運搬・処理費が必要
活動費用
(昔)猟師負担
(今)猟師負担(弾代、車両、時間)
経済的結果
(昔)利益が出る
(今)報酬が経費を賄うことが困難=赤字
この構造においては、猟師が活動を続けるための唯一の経済的インセンティブは「駆除報酬」しかありません。しかし、その報酬が「命がけの作業」や「経費」に見合っていないため、「損しかしない」活動として敬遠されるのです。
3. 政治家・行政の無理解と職務怠慢
この現場の現実を理解している政治家や行政担当者が少ないことが、問題解決を阻んでいます。
「儲かる」という幻影の固定化: 現場の経済構造が変わり、「市場の壁」ができたことを理解せず、「猟師は食肉などで儲けられるだろう」という誤った前提に基づいて政策や予算を組んでいます。
責任の回避: 報酬を増額することは、税金を投入することであり、「民間への公費支出」として批判されるリスクを伴います。政治家や行政は、この批判を恐れ、危険な業務を低コストで民間へ押し付け続けることを選択しがちです。
問題の軽視: クマ・シカ・イノシシによる被害が年間数十億円、人命の危険に関わっているにもかかわらず、その対策を「趣味の民間団体(猟友会)」への安価な外注に頼っている現状は、国民の安全を守る行政の職務怠慢と言わざるを得ません。
真の問題解決は、政治家や行政が、猟師の銃や免許取得のコスト、衛生規制による経済性の喪失といった「現場の現実」を把握し、「駆除報酬」を「危険な公務執行の対価」として大幅に引き上げる以外に短期的な解決方法は無いでしょう。




