5.時代の流れで変わったもの
クマ対策を巡る議論で最も見落とされがちなのが、「狩猟・駆除を取り巻く経済的・法的な環境が昔と今とでは根本的に異なっている」という点です。
「猟師は儲かる」という過去の成功体験(幻影)が、現在の行政(特に高齢の職員や議員)の意識に残り続けていることが、現在の不当な低報酬や非協力的な行政対応を生み出す、深い原因の一つです。
狩猟を取り巻く経済・法規制の変化
昔と今で、有害鳥獣駆除(特にクマ)の経済的構造がどのように崩壊したのか、具体的な要因をまとめます。
1. 経済的なインセンティブの崩壊
昔(1970年代以前)
* クマの胆(熊胆)や特定の部位が高額で取引され、猟師の大きな収入源だった。
* クマ肉はタンパク源として一定の価値があり、流通・消費されていた。
* 狩猟で生計を立てる専業猟師が多数存在した。
今(現代)
高価な経済資源処理に費用がかかる負債
* クマの保護強化により、捕獲・駆除数の上限が設定される(地域による)。
* 食肉需要の変化:安価で良質な牛肉や豚肉が主流になり、クマ肉の市場価値はほぼゼロ。
* 処理費用・運搬費が報酬を上回るため、駆除すればするほど赤字になる可能性も。
2. 衛生規制と流通の壁の出現
これが、特に都市から離れた地域でのクマ駆除を決定的に困難にしている最大の要因です。
獣肉衛生基準の厳格化: 近年、ジビエ(野生鳥獣の肉)の安全性を確保するため、食肉衛生法の規制が厳しくなりました。
認定加工施設: 食肉として流通させるためには、都道府県が認定した衛生管理基準を満たす食肉処理施設で解体・加工されなければなりません。
物流の非現実性:
山中で捕獲されたクマを、鮮度を保ちながら(夏場は特に厳しい)、数百キロ離れた認定工場まで搬送するのは、時間、費用、労力の観点から非現実的です。
処理施設への持ち込み料や処理費を差し引くと、残るのはわずかな駆除報酬のみ、またはマイナスになります。
3. 意識のズレ:「儲かる幻影」と行政の非協力
古い世代の意識: 地域の行政や政治に影響力を持つ古い世代は、「熊胆で大儲けできた時代の話」を基準に考えているため、「猟師は危険手当などなくても、どうせ熊で儲かるのだろう」「安い報酬でも当然だろう」という誤った認識を持っています。
報酬の決定: その結果、駆除報酬が数十年前の感覚で非常に安価に設定され、物価や労力の上昇に見合っていません。
行政の非協力: 猟友会が求める駆除後の死体の処理(埋設や焼却)や、運搬費用の補填など、本来行政が担うべきサポートにも消極的になりがちです。
まとめ:構造的な矛盾
現在のクマ対策は、以下の構造的な矛盾の上に成り立っています。
人命保護という公的な責務 ↔︎ 民間ボランティアへの低待遇での依存
現代の厳しい衛生・流通基準 ↔︎ 過去の「儲かる」という経済感覚の押し付け
この経済的なインセンティブの崩壊こそが、若い世代が狩猟を敬遠し、結果的にクマ駆除の担い手不足を加速させている最も深刻な原因です。
どこかの田舎の権力者がハンターに嫌がらせをし続けるのは、こうした過去の幻影に取り憑かれているからです。まさに、お前の中では今でもそうなんだろうなって感じで、現状をわかっていないし、わかろうともしない人はたくさんいるのです。ただ、昔はそうだったから、意識改革は最も難しいところではあります。




