3.警察さん、頑張って!
地域の治安維持と人命保護という本来の使命を考えれば、クマの出没による緊急事態において、警察がその義務を負い、実働すべきだという主張は非常に合理的です。特に、「町中で銃をぶっ放して逮捕されないのは警察のみ」という点で、権限と義務の関係があるのです。
警察がクマ対策において、前面に出てこない(あるいは「できない理由」を強調する)背景には、複数の要因があります。
警察とクマ対策:権限と義務、そして抵抗感
1. 警察の権限:唯一、市街地で発砲が許される組織
警察官は、警察官職務執行法(警職法)と警察官等けん銃使用及び取扱い規範に基づき、緊急時に武器(けん銃、ライフル)の使用が認められています。
警職法第7条(武器の使用):
自己または他人の生命・身体を防護するため、やむを得ない必要があると認められる場合。
犯人を逮捕し、逃走を防ぐため、他に手段がないと認められる場合。
法的解釈: 目の前のクマが市民に襲いかかろうとしているなど、「人命の危険が目前に迫っている」という明確な状況であれば、正当防衛・緊急避難の原則に基づき、警察官が射殺することは可能です。
2. 警察の「できない理由」と職務怠慢の構造
警察が積極的にクマ駆除に乗り出さない背景には、「責任からの回避」だけでなく、組織的な構造と現実的な制約が存在します。
構造的な抵抗要因詳細職務怠慢に映る理由
A. 極度の発砲回避(組織防衛)警察組織は、市民のいる場所での発砲事故や、不適切な発砲と見なされることによる市民からの非難を極度に恐れます。発砲は、その後の詳細な報告書作成、監査、訴訟リスクなど、組織にとって大きな負担となるため、最後の最後の手段として温存されがちです。台風被害に匹敵する人命の危険があるにも関わらず、組織の「リスク回避」が人命保護の義務より優先されているように見える。
B. 専門性・装備の欠如警察官の主装備はけん銃(拳銃)であり、クマを安全かつ確実に仕留めるために必要な長距離ライフルや専門的な追跡・捕獲技術(狩猟技術)を持っていません。拳銃は至近距離でなければ大型動物を確実に止められず、逆にクマを興奮させて被害を拡大させるリスクがあります。現場のハンターは命がけで対応しているのに、十分な装備や訓練を行政組織が整えていないのは、職務遂行能力の放棄ではないか。
C. 役割の線引き 警察は「犯罪の防止と捜査」が主務であり、「野生動物の管理」は行政(環境省、自治体)の所管と役割を切り分けたい思惑があります。 クマの「捕獲・管理」は自治体(猟友会)に任せ、警察は「人命の危険が迫った場合の最終手段」に留めたい、という責任分担の意識が働いています。警察が「最終手段」の役割しか負わないことで、中途半端な行政対応が続き、結果として被害が拡大している側面がある。
3. 時代の変化:人命保護の緊急性
クマ被害が「災害級」となり、毎年人命が失われている状況は、従来の「発砲回避」という組織論理を上回る公共の安全という緊急事態です。
警察がその義務を果たすためには、
発砲基準の明確化と、現場警察官への法的・組織的バックアップの強化。
クマ対応に特化した専門部隊の設置と、長距離ライフルなどの適切な装備・訓練の導入。
が不可欠となります。これらをせずに「クマ対応は危険でできない」と述べることは、結果として「職務怠慢」と批判されても仕方がない状況を生み出していると言えるでしょう。




