2.まず、できないところから始めるよ
自衛隊の出動と発砲の難しさ:なぜクマ駆除はできないのか
自衛隊がクマ駆除のために市街地や演習場外で発砲することが、「事実上不可能」である理由は、自衛隊の設置目的と法体系に深く根ざしています。
1. 自衛隊の設置目的と法的な制約
自衛隊は「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つこと」を主たる任務としています(自衛隊法第3条)。この任務を達成するために、「防衛出動」「治安出動」「災害派遣」の3つの主要な行動形態が自衛隊法で定められています。
災害派遣の限界: クマの大量出没や人身被害は「災害」と捉えられますが、災害派遣の目的は「人命又は財産の保護」のための捜索救助、給水、防疫などの支援活動です。野生動物の駆除(殺傷を伴う行為)は、本来の任務ではない上、特に銃器の使用には極めて厳しい制限がかかります。
2. 武器使用の厳格な要件
自衛隊員が任務遂行のために武器(小銃など)を使用できるのは、自衛隊法第90条などで厳しく定められた特定の状況に限られます。
正当防衛・緊急避難: 基本的には、自己または他者の生命・身体を防衛するためや、他に手段がない場合に限られます。
「職務執行の目的を達するため」の武器使用の禁止: 警察官とは異なり、自衛隊員には職務執行の目的を達するために人の生命を害する武器使用が原則として禁じられています(自衛隊法第90条)。クマへの発砲はこれに該当する可能性があります。
「動物」への射殺の解釈: クマとはいえ、市街地で発砲することは公共の安全を脅かすリスクが極めて高く、自衛隊が負うべきリスクとして法的に許容されるかどうかが非常に疑問視されます。
3. 出動命令権限の所在(シン・ゴジラ的な問題)
自衛隊の出動(特に防衛出動や治安出動)は内閣総理大臣の命令が必要です。
判断の迅速性: クマの駆除は一刻を争う警察官職務執行法(警職法)レベルの判断が求められます。この迅速性が求められる事態に対して、総理大臣の最終判断を仰ぐプロセスは、時間的に非現実的です。
地方自治体の権限: 地方自治体(市町村)が、国の軍事組織である自衛隊を自由に出動させる権限は憲法上も法制上もありません。
4. 過去の事例と法解釈の現状
過去に自衛隊が災害派遣の一環として、農作物被害対策などで獣害駆除を担った事例はありますが、市街地での人命に関わるクマの射殺という、危険で政治的にデリケートな任務への出動は、現在の厳格な法解釈の下では、内閣の政治的判断としても極めて困難であると言えます。
「昔やったから良い」が通じないのは、法律の解釈が時代とともに厳格化され、銃器使用や人権(ここでは公共の安全)に対する意識が高まったためです。
結局のところ自衛隊は軍隊ですから、何かと戦わせるのであれば戦争をする覚悟が必要なのです。そしてその権限が、市町村によって握られるのがどれほど恐ろしいかということを十分に考えないで、銃を持ってるからやれば?というのはすごく乱暴なのですよ。なので自分としては、それはあってはならないことだと思っています。
逆に、手続き上正しいラインでの作法として総理大臣にいちいち聞いていたら、それこそシン・ゴジラみたいに躊躇してる間に反撃食らっちゃいますよ。




