11.問題は最近突然起きたものではない
現在センセーショナルに報道されているクマの問題は、短期間の突発的な災害ではなく、数十年にわたる監督省庁の「怠慢」と「相互不理解」によって醸成され、臨界点に達した構造的な行政問題です。
問題醸成の歴史的経緯と行政の怠慢
この問題が数十年にわたり拡大した背景には、以下の三つのフェーズにおける行政の判断ミスと責任回避があります。
1. フェーズ 1: 保護への過度な傾倒(1970年代~2000年代)
監督省庁の怠慢(環境省など):
絶滅の危機を回避するため、クマの「保護」を優先する政策が推進されました。しかし、個体数管理のためのモニタリングやデータ収集、生息環境の適切な管理が不十分でした。
「保護」に重きを置くあまり、将来的な「人との軋轢」が増大するリスクを過小評価し、必要な「管理(駆除)」を抑制した結果、現在のクマの「個体数の増加と分布域の拡大」という前提条件を作ってしまいました。
2. フェーズ 2: 経済インセンティブの破壊(1980年代~現代)
監督省庁の相互不理解(保健所・自治体):
保健所が公衆衛生の観点から獣肉の流通基準を厳格化したことは、食品の安全確保のために必要でしたが、その副作用として「駆除すれば儲かる」という猟師の経済的インセンティブを完全に破壊しました。
しかし、この経済構造の変化に対し、駆除を依頼する自治体(農政課など)は、報酬を大幅に引き上げるという補填措置を講じませんでした。
結果: 猟師の活動は「赤字とリスク」となり、「担い手の高齢化・減少」を招き、行政は最も必要な「熟練のスキル」を失いました。
3. フェーズ 3: 公的責任の放棄(現代)
監督省庁の相互不理解(警察・自治体):
警察は、「人命保護」の義務と「発砲権限」を持ちながら、「スキルがない」「リスクが高い」ことを理由に、現場での緊急対応を回避し続けました。
自治体は、この警察の責任回避と猟友会の疲弊を放置し、低報酬で危険な業務を民間団体に依存し続けるという、最も安易な方法を選択しました。
怠慢の連鎖が作り出した「責任の空白地帯」
この問題は「縦割り行政」によって、「誰もが自分の管轄外だと主張できる」責任の空白地帯で拡大しました。
組織の主張結果的な怠慢
環境省: 「個体数管理は自治体に任せた」→ リスクの総量を無視した
警察: 「狩猟は専門外だ」→ 人命保護の義務を放棄した
保健所: 「衛生基準は曲げられない」→ 駆除の経済構造の崩壊を無視した
自治体: 「駆除報酬を増やす予算がない」→ 公共の安全確保を放棄した
この監督省庁の怠慢と相互不理解の連鎖こそが、現状の「災害級」のクマ被害という形で、国民がそのツケを支払わされている構造です。この問題を解決するためには、全ての関係省庁が縦割りを廃止し、「人命保護」の旗のもとに責任を一元化する以外に道はありません。




