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運命の番と魔王の戦記~薔薇の鎖の座標(しるべ)  作者: 愛龍


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7

 桜炎はセンリの慌てぶりを微笑ましく眺めてから、いつもの落ち着いた声で告げた。


「ところで、センリ様。朝食の用意ができております。

 ―陛下が、一緒にと」


「……へっ?」


 頭の中で、何かが一瞬真っ白になった。


「い、いっしょに……って、まさか」


「ええ。黒の王と、ひつじ国のお客様との最初の会食でございます。

 お断りになりますか?」


「む、無理無理無理!! だども断れねぇ!!」


 口から出た本音に、サエはくすっと笑う。


「大丈夫です。変なことになりそうになったら、私が燃やしますので」


「だ、誰を!?」


「状況次第ですね。―では、参りましょうか」


 有無を言わせぬ笑顔で言われ、センリは成すすべもなく立ち上がった。

 手首の鎖が、どくん、と一つ脈打つ。


(やだ……どんどん変な方向さ……)


 そう心の中で嘆きながら、サエに案内され、センリはダイニングへ向かった。




 黒の王城のダイニングは、執務室よりも少し柔らかい雰囲気だった。

 大きな窓から朝の光が差し込み、長いテーブルには白いクロスと銀の食器がずらりと並んでいる。


 その一番奥―上座に、黒の魔王が座っていた。


 センリが扉のところで立ち止まると、大地がゆっくりと顔を上げる。

 赤い瞳が、一瞬だけ柔らかく揺れた。


「……おはようございます、魔王さま」


 センリはぎこちなく頭を下げる。


「……おはよう、センリ」


 短い挨拶。それなのに、鎖がかすかに鳴った気がした。


「座れ」


 大地が顎で、自分のすぐ隣の席を示す。


「は、はいっ!」


 センリは慌てて近づこうとして、足元の絨毯に少しつまずきかけた。

 その瞬間、椅子がすっと引かれる。


 顔を上げると、大地が当たり前のような顔で椅子を引いていた。


「……どうも、ありがとうごだいます」


「ああ」


 大地は何事もなかったように返事をし、センリが腰を下ろすのを確認してから、自分の席に戻った。


 ―その向かい側。


 妙に楽しそうな顔をした男が、肘をついてこちらを見ていた。


 炎のような赤とオレンジの髪。

 黒い軍服風の装いに、赤と金の装飾。

 にやにや笑うその炎の様な赤い目は、どう見ても“面白いものを見つけた”顔だ。


(……誰だべ、この人……)


 センリが小さく首をかしげると、その男は待ってましたとばかりに口を開いた。


「はじめまして」


 にやり、と笑う。


「俺は黒の魔国の将軍、煉獄。一応、赤の魔王だ。よろしくな、お嬢ちゃん」


「お……」


 思考が一瞬止まった。


(赤の……魔王!?)


 昨夜聞いた“五星の魔王”の話が、頭の中で一気に組み上がる。


「え、えっと……ひつじ国のセンリと申します。よ、よろしくお願いいたします!」


 慌ててぺこりと頭を下げると、煉獄はますます楽しそうに笑った。


「緊張しなくていいって。俺、そんなこえー魔王じゃねぇからよ」


「こえー魔王も、ここにひとりいるみたいな言い方やめろ」


 すかさず大地が低く突っ込む。


「おっと、そうだった。ここには黒の魔王様がいたな」


 煉獄はわざとらしく肩をすくめ、大地とセンリを見比べる。


「しかしまあ……黒の魔王が、朝から番候補と優雅に朝食とはなぁ。

 長生きはするもんだ」


「煉獄」


 大地の声が、わずかに低くなる。


 その空気を、テーブルの横で控えていたサエが、すっと割って入った。


「煉獄様。からかうのはそのくらいにしておいてください。

 センリ様が困っておられます」


「おっと、桜炎ちゃんに怒られちまった」


 煉獄は両手を上げて降参のポーズを取る。


「そう怖い顔すんなよ、大地。

 俺はただ、“いい番見つけたな”って言ってやりたかっただけだぜ?」


 その言葉に、センリの顔が一気に赤くなる。


「つ、番って……」


 思わず反応してしまい、テーブルクロスの端をぎゅっと握る。


 桜炎はそんなセンリの様子を横目に見て、さらりと笑った。


「煉獄様。センリ様、まだ心の準備が整っておりませんので、

 “番”だの“運命”だのとあまり連呼なさいませんよう」


「ははっ、悪い悪い。

 ま、ゆっくりやってけや、お嬢ちゃん。ここには桜炎ちゃんって心強い味方もいるしな」


「はいっ……」


 センリはおそるおそる顔を上げ、大地の横顔を盗み見る。


 魔王は、表面上はいつも通り無表情に見える。

 けれどよく見ると、ほんの少しだけ耳が赤い気がした。


(……魔王さまも、恥ずかしいことあんだべか……)


 そう思った瞬間、手首の鎖が、ちゃりっ、と小さく鳴いた。


 黒の魔王と赤の魔王。

 毒舌な秘書官と、震えるひつじ族の少女。


 奇妙で、ぎこちなくて、でもどこか温かい―

 そんな最初の朝食が、静かに始まった。

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