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運命の番と魔王の戦記~薔薇の鎖の座標(しるべ)  作者: 愛龍


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6

そのころ――センリはまたしても客室の中で、ぐるぐるしていた。


 ふかふかのベッド。やわらかい椅子。窓からは朝日。


 全部、申し分なく「いい部屋」なのに―まったく落ち着かない。


「……はぁぁぁ……」


 何度目か分からないため息をついて、センリはベッドの端にぺたんと座り込んだ。


 手首には、あいかわらず細い光の鎖が巻きついている。

 昨夜よりも、今朝よりも、少しずつ輪郭をはっきりさせながら、静かに、静かに鳴っている。


 からん……と、遠くで鈴が揺れるみたいな音。


(運命……って、好きに……なる相手のこと、なんだべか)


 一生に一度。

 魔王様は―大地はさっき、はっきり言った。


『俺の鎖が、昨夜からうるさくてかなわん』


(番……運命の相手……)


 そこまで考えたところで、センリの脳裏に、今朝の執務室の光景がよみがえる。


 まっすぐ見つめてくる、魔王の瞳。

 大きな手で、自分の手をとって―


『お前がいた方がいい』


「~~~っ!」


 センリはベッドの上で、クッションをぎゅむっと抱きしめた。


「無理無理無理無理!!」


 顔が一気に熱くなる。

 耳まで熱い。絶対真っ赤だ。


(魔王様と……“運命”とか……)


 考えただけで、心臓が跳ねる。


 だって、相手は黒の魔王だ。

 国を治める王様で、魔族たちの頂点にいる人で、みんなから畏れられてて―。


 こっちは、ひつじ国の、田舎の遊牧民の娘で。

 雨と風をちょっと読むくらいしか取り柄がなくて。

 服だって、ここの侍女さんたちみたいに綺麗なドレスも着たことなくて―。


「ありえねぇべ……」


 思わず、いつもの訛りが濃くなる。


「だって、わだしみたいな田舎の娘だど? ありえねぇべ、ほんとに……!」


 ぶんぶんと頭を振りながら、クッションに顔をうずめる。


 なのに、手首の鎖は、否定するように、カランと鳴る。


 ―ありえる、と言わんばかりに。


「……しらねぇ……」


 小さくうずくまりながら、センリは枕をがしがし叩いた。


(でも……うれしぐねぇわけじゃねぇから……たち悪いんだ……)


 怖いし、不安で仕方ない。

 王妃の器じゃねぇ、って言われるのも、何となく想像がつく。


 けど。


 嵐の中で、自分の手を取ってくれた魔王の顔を思い出すと――

 どうしようもなく胸のあたりがあったかくなる。


「……バカ」


 誰に向かって言ったのか、自分でも分からない。


 そのとき。


「センリ様?」


 コンコン、と控えめなノックとともに、聞き慣れてきた落ち着いた声がした。


「さ、桜炎さん!?」


 センリは弾かれたように飛び上がる。

 慌ててクッションを放り投げ、髪と服をわたわたと整えた。


「えっいつからそこに。」


 そこには、書類を抱えた桜炎が立っていた。

 きっちりとまとめ上げた髪、落ち着いた瞳。相変わらず、隙のない鬼神の国の和服と呼ばれる女官服。


 ただ、その口元は、すでにわずかに笑っている。


「おはようございます、センリ様。ずいぶんと元気に跳ねましたね」


「み、見でました!? 今!?」


「ええ、扉の前で、しっかりと。何度もお声をかけたのですがお返事がなかったので……クッションに八つ当たりしておられました?」


「わああぁぁあぁ~~!! 忘れでください!!」


 センリは顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振る。


 サエは小さく肩を揺らしながら、静かに扉を閉めた。


「忘れて差し上げたいところですが、仕事柄、観察したことは簡単には忘れられませんね」


「ひどい……」


「ふふ。冗談です」


 桜炎はセンリに近づき、さりげなく全身を上から下までチェックする。


「体調はいかがですか? 昨日、天制球を使われた直後でしたから、少し心配しておりました」


「あ、体はだいじょぶです。ちょっとドキドキして眠れなかっただけで……」


「“ちょっと”ですか」


 サエは意味ありげに目を細める。


「……何か、心臓に悪いことでも?」


「な、なんもねぇですよ!? なんも!!」


「そうですか?」


 サエの視線が、ふっとセンリの手首へ落ちた。


 センリは、びくりと肩を跳ねさせる。


 袖の下で、薔薇の鎖が、ちいさく、ちいさく鳴った。

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