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運命の番と魔王の戦記~薔薇の鎖の座標(しるべ)  作者: 愛龍


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 空の王国と繋がっていた貴族たちを炙り出すのに、時間はかからなかった――


 桜鬼と桜炎がすべての文書と帳簿を洗い直し、咲彩が光の魔力で偽装を浮かび上がらせる。


 浮かび上がった名は、黒の王国の上層部―魔王に忠誠を誓っていたはずの者たちばかりだった。


「質問は一つだ」


 地下牢。鉄の扉の向こう、鎖につながれた貴族たちを見下ろす。


「白鬼はどこへセンリを連れて行った」


 誰も、答えなかった。

 答えられないのか、恐怖で言えないのか、それとも


 ―本当に知らないのか。


 沈黙が続くたび、魔王の瞳に宿る光が冷えていく。


「……そうか」


 その一言のあと………

 牢に残った者は、誰ひとりいなかった。

 物理的に、跡形もなく。


 黒の王城を血に染めたのは番を奪われた魔王その人だった。




 ――空の王国との戦争が始まった。


 天空に浮かぶ城。雲の上に広がる白い都。

 青の魔王アクアが調停し、各国の会談が行われた場所。


 そこに、黒の軍旗が翻る。


 紅炎の煉獄が率いる軍勢の炎が、空を焼いた。

 咲彩の放つ光の槍が、天空人の結界を貫く。

 桜鬼の指揮のもと、黒の騎士たちが雲の階段を駆け上がる。


 空の王国は、抵抗した。


 けれど、番を奪われた黒の魔王の怒りは、国一つで受け止められるものではなかった。


 その日、空の城は落ちた。

 幾枚もの浮遊島が、砕け散って地へと降り注ぐ。


「天空人の王族を確保しました!」


 報告の声に、大地はただ一言だけ返した。


「白鬼の居場所は」


 震えながら答える王族たちの唇から、その名は出てこない。


 大地は、その瞳の奥を覗き込み―それが真実だと悟る。


(……あいつは、ここにはいなかった)


 白鬼は空の王国を道具にしただけ。

 他の誰にも自分の居場所は決して明かさなかった。


 空の王国は崩壊した。

 だが、センリは見つからない。




 風の精霊も呼ばれた。


 加護を持つ娘が攫われたのだ。動かない理由はない。

 普通なら契約をした相手の気配がわかるはず……だった。


 深い緑色の腰まである髪を緩く束ねた長身の男の姿の風の精霊ウィンダムが言う。

「いないわ………この世界のどこにも。あいつ自分の能力で狭間にいるのよ。そこには誰もいけない。風も水も火も光も………手が出せないわ」


 絶望しかない答えだった。


 日々が過ぎる。

 季節が、ひと回りする。


 一年が、過ぎた。


 黒の王国のメロン畑に、朝の風が吹き抜ける。


 耕された畝の間で、大地は無言のまま土をならしていた。


 軍服ではなく、黒い作業服。頭にはいつもの手ぬぐい。

 けれど、その横顔からは、以前のような柔らかな笑みは消えている。


 腰をかがめ、苗を植えるたびに、左の手首がわずかにうずいた。


 そこには、何もない。

 運命の鎖は、まだ戻ってこない。


「……センリ」


 誰もいない畑で、名前だけを小さく呼ぶ。


 土の匂い、風の匂い。

 彼女の笑い声が混ざっていたはずの場所は、静まり返っていた。


 空の王国は滅びた。

 裏切りの貴族たちは粛清された。


 それでも―この世界のどこかで、彼女はまだ連れ去られたまま。


 大地は、握っていたクワの柄を強く握りしめる。


(一年だ)


(一年も、あいつを一人にしている)


 悔しさが喉を焼く。

 それでも、魔王として国を治める役目が、足をこの場所に縫い止めている。


 風が、ふっと強く吹いた。


 遠く、城の塔の上で、ウィンダムがまた新しい風を飛ばしている気配がする。


「……待ってろ」


 誰もいない畑に、誓いの声が落ちる。


「必ず……どんなところにいようが、俺が迎えに行く」


 空は高く澄んでいた。


 その向こうにあるどんな闇であっても、黒の魔王の希望の火はまだ燃え続けている。

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