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首筋に触れた唇が、今度は逃げ場をくれなかった。
「……っ、あ……」
くすぐったいだけだったはずの場所が、じんわり熱を帯びていく。勝手に身体が跳ねる。
大地はその反応を見逃さない。
首筋から耳の下へ、ゆっくりと線をなぞるように口づける。
時々、わざと一拍おいてからまた肌に触れてきて、そのたびにセンリの喉奥からかすかな声が洩れた。
「……っ、ん……や……」
「嫌じゃないだろ」
耳もとで囁かれて、身体の奥がびくりと震える。
「さっき“やだ”って言ったのは、どっちの意味だ?」
「そ、そんなの………」
言い訳の言葉は、すぐに唇で塞がれた。
追い詰めるみたいに、逃げ道を与えずに、呼吸も思考も奪っていく。
センリの指が、大地のシャツを掴んで離さない。
胸のあたりの布が、くしゃりと皺になっていくのが分かる。
唇が離れた瞬間に、息と一緒に弱音が零れた。
「もう、無理……」
「さっきも聞いた」
大地は、わざと意地悪な顔でセンリを見つめる。
「本当に?」
ほんの数センチの距離。
口づけの続きをねだるみたいに、赤い瞳が真っ直ぐ覗き込んでくる。
センリは、視線を逸らしたくても逸らせなかった。
胸の中が、恥ずかしさとどうしようもない期待で、ぐちゃぐちゃになる。
「……っ…………ずるい」
小さく、掠れた声。
「分かってる」
大地の声は、驚くほど優しかった。
そのまま、額と額をそっと合わせる。
吐息が触れ合う距離で、もう一度だけ囁いた。
「知っててやってるからな」
細い肩を包み込むように抱き寄せる。
背中に回した手のひらに、センリの体温がしっかりと伝わってきた。
首筋に、またゆっくりと口づけが落ちる。
さっきよりも深く、長く、名残惜しむように。
「っ……待っ……あした、ほんとに外交……」
「休みだ」
囁きと共に、耳の裏に軽く歯が触れた。
「全部、お前を抱くために空けた」
「っ、だ、だからそういう……勝手なこと……」
「たまにはいいだろ」
大地はセンリの胸元に視線を落とした。
赤い天制玉のネックレスが、ふたりの間で小さく揺れている。
その石に指先でそっと触れた。
「これを、小さくしてお前に渡したのは、誰だ」
「……大地さん、だべ」
「俺の魔力を込めた唯一の証。俺の番だという証。
なら俺だけ見てろ」
指先で石をなぞり、そのまま鎖伝いにセンリのうなじへ触れていく。
そこに、そっと唇を押し当てた。
「ひぁ……っ」
変な声が漏れて、センリは自分で自分の口を両手で押さえた。
ひつじ耳まで真っ赤になっている。
「……声、我慢すんな」
「む、無理だべ……」
大地は、センリの手首をそっと押し下げた。
指に触れた瞬間、薔薇の鎖がふっと柔らかく光る。
「ここでどんな声出しても、外には聞こえない」
落とされた言葉に、センリの胸がぎゅっと締めつけられた。
この部屋は――
世界のどこより安全で、世界のどこより逃げ場のない場所。
「……やっぱりずるいべ」
ぽつりと零した。
「なんで、そういうことばっか上手くなっていくんだべ……」
「お前のせいだ」
「わだしの……?」
「ああ」
今度は、唇を軽く合わせるだけの口づけ。
けれど、触れた瞬間に胸の奥が熱くなる。
「お前だからだ」
耳もとで囁かれるたびに、言葉が肌に染み込んでいく。
「器なんかじゃない。
俺が欲しくて、俺が選んで、俺だけのものにした女だから」
「っ、……大地さん……」
名前を呼んだ瞬間、また唇を塞がれる。
何度も、何度も。浅く、深く、混ぜるように。
時間の感覚が、少しずつ曖昧になっていく。
息継ぎの合間に交わされるささやきだけが、やけに鮮明に残った。
「明日も、その先も」
「……ん……」
「お前が“やだ”って言っても」
「……っ」
「離さない」
その約束ごと、口づけに溶かすみたいに重ねていく。
窓の外では、夜がいっそう深く沈んでいった。
ふたりの手首で薔薇の鎖が絡み合い、
胸元の小さな赤い石が、暗がりの中でひとつだけ、静かに灯り続けていた。




