21
大地は、もう一度センリの顎をそっと持ち上げた。
潤んだ瞳が、真っ直ぐに自分を映している。
逃げようともしないその視線が、かえって火に油を注いだ。
「……センリ」
「……んだべ」
返事をする代わりに、今度は最初から深く口づけた。
隙間ひとつ残さないように、唇を重ねる。
さっきまでの怒りも、不安も、全部溶かして奪い尽くすみたいに。
「……っ、ん……っ」
センリの指が、彼のシャツをきゅっと掴む。
肩が震え、ひつじ耳がぴくんと跳ねる。
息が続かなくなって、小さく身じろぎしたのを感じてから、ようやく唇を離した。
「……っ、はぁ……はぁ……もう……む、無理っ」
涙のにじんだ目で睨むように見上げてくる。
頬は真っ赤で、耳まで熱い。
大地は、その顔を見てふっと笑った。
「本当に?」
わざと意地悪く、囁くように聞く。
顔の距離は、さっきとほとんど変わらない。
触れそうで触れない―寸止めみたいな近さ。
センリは一瞬、きょとんとしたように瞬きをしてから、さらに真っ赤になった。
「……っ、そ、そういう聞き方……」
「答えは?」
「…………」
視線が泳いで、胸元の赤い石をかすかに見下ろす。
それから、覚悟を決めたみたいに、きゅっと唇を結んだ。
「…………やだ」
か細い声だった。
拒絶じゃない。
“やだ”と口では言いながら、腕は彼の背中から離れない。
大地は、胸の奥がずきりと甘く軋むのを感じた。
「やだ、か」
「……やだべ。……離れろって意味じゃ、ねぇけど……」
最後の方はほとんど囁きで、言い終わると同時に、センリは大地の胸に顔をうずめた。
ひつじ耳まで埋めようとする勢いだ。
その仕草が、可愛くて、どうしようもなく愛しくて―大地は、笑い声を喉の奥でかき消した。
「なら、離れない」
耳もとで静かに言って、そっと抱きしめ直す。
今度の口づけは、さっきよりも少しだけ優しく、けれど長く。
求めるよりも、確かめるように重ねる。
窓の外では、星がゆっくりと流れていく。
薔薇の鎖が、二人の手首の下で淡く光り、
胸元の赤い石が、小さな心臓みたいにちいさく脈打っていた。
器なんかじゃない。
奪われるものでもない。
こうして腕の中で震えて、しがみついて、
「やだ」と言いながら離れない―
その全部が、“俺の番”だと、
大地はもう、骨の髄まで知っていた。
センリの首筋に、熱いものが触れた。
「……っ」
びくん、と身体が跳ねる。
ひつじ耳が勝手に震えて、またセンリはシャツをぎゅっと掴んだ。
「だ、め……」
首筋に落ちる口づけは、さっきまでの怒りを忘れさせるみたいに甘くて、くすぐったくて、どうしようもなく力が抜ける。
大地の唇が、首筋をなぞる。
言葉の合間に、ふっと熱い息がかかって、センリの背筋がぞくりと震えた。




