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運命の番と魔王の戦記~薔薇の鎖の座標(しるべ)  作者: 愛龍


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プロローグ

 終わりの見えぬ雨が、地を砕いていた。


 雷鳴が空を裂き、黒の王国は水に沈もうとしている。

 天を呪うほどの豪雨の中で、ただ一人、玉座の間に立ち尽くす男がいた。


 漆黒の髪を濡らし、赤い瞳に光を宿した魔王。

 黒の魔王―黒黎こくれい。名を大地だいち


「……止まらぬか」


 誰にともなく呟く声が、広い玉座の間に静かに落ちる。


 すべてを支配しても、天だけは従わない。

 城下の川はあふれ、民の灯が次々と飲み込まれてゆく。

 それはまるで、世界そのものが滅びを選んでいるようだった。


 側近たちも手を尽くすが……覚悟するように手を握りしめた。


 その時―光が走った。


 空の裂け目から、白い光が地上に降り注ぐ。

 激しい雨音の中、ひときわ強い光が、王都の外れへと落ちた。


 雷ではない。別の光。


 大地は、その気配を感じ取ると同時に、玉座の間を飛び出した。


 豪雨の中、黒い外套を翻し、魔王は城壁から外を見下ろす。


 そこだけ、ぽっかりと空いたように、雨脚が弱まっている場所があった。


 荒れ狂っていた風が渦を巻き、その中心に―


 一人の少女が立っていた。


 胸に金色の球を抱き、羊の角を持つ少女。

 彼女の足元で、激しかった雨が静かに形を変え、風が従っていく。


 空を覆っていた黒雲が、少しずつ裂けた。

 先ほどまで王都を沈めていた豪雨が、まるで嘘のように弱まっていく。


「……天を……止めた?」


 大地が呆然と呟く。


 少女はふらつきながらも、最後に金色の球―天制球をぎゅっと抱きしめ、

 ふう、と息を吐いた。


「お役に立つことができて……よがった」


 わずかに訛りの混じる、柔らかな声。

 その声は不思議な温度を帯びて、荒れ果てた空気を洗っていく。


 少女はそこで力尽きたように膝をつきかけ――

 大地が地を蹴った。


 一瞬で彼女のそばに降り立ち、その身体を抱きとめる。

 軽い。濡れた外套越しに伝わる体温が、やけに頼りない。


「……お前がこの雨を止めたのか?」


 腕の中の少女の顔を覗き込む。


 羊の角。柔らかなピンクの髪。

 疲労で少し霞んだ青い瞳が、ゆっくりと彼を捉え―


 その目が合った瞬間。


 胸の奥で、音がした。


 軋むような、鉄の鎖の音。

 長い眠りについていた何かが、ゆっくりと目を覚ましていく。


 ――運命の鎖。


 魔王種にだけ刻まれた、古の印。


 一生に一度だけ魂ごと結びつく伴侶を選ぶ、絶対の宿命。


 彼の心臓が熱を帯びる。

 呼吸が乱れ、視界の中で少女の存在だけが妙に鮮明になっていく。


(……こいつが)


 大地は、無意識のうちに手を伸ばしていた。


「……お前が……俺の、運命の相手なのか……?」


 指先が、少女の頬をかすめる。

 触れた瞬間、冷たかった世界が息を吹き返すように震えた。


 少女は驚いたように目を見開き―けれど怯えず、ただ静かに見返した。


 その瞳の奥には、嵐を鎮めた者の強さと、ひとしずくの寂しさが宿っている。


 雲が裂け、月が姿を現した。

 淡い光が二人を包み、黒い大地に白い輝きを落とす。


 それは、滅びかけた世界に生まれた一筋の希望。


 運命の鎖が鳴り響く音が、確かに聞こえた。


 ――こうして、黒の魔王と羊の少女の物語が始まった

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