星を拾う子供たち
僕が引っ越し先の町では、こんな伝説があった。ある満月の夜に、子供にしか見えない流れ星が大量に流れる。その流れ星に願うと、寿命が10年縮む代わりに、なんでも願いが叶うという。
だから、満月の日は外に出てはダメよ、なんてお母さんが言ったから、僕は絶対行こうと決意した。
妹の四葉は、身体が弱い。正確には心臓が悪いそうだ。大人になるまで生きられるか分からない。これまで何度も入退院を繰り返している。
僕は四葉が好きだった。舌ったらずな声でお兄ちゃんと呼ばれると、なんでも叶えてあげたくなってしまう。
だからこの満月の日、ちょうど親が親戚の葬式に出かけた今日がチャンスなんだ。
僕が出かける準備をしていると、四葉が問いかける。
「お兄ちゃん、どこ行くの」
「四葉も行こう」
「だって満月の夜は外に出たダメだってお母さんが」
「だからだよ」
四葉は賢い。僕が何をするのか、すぐに分かった。
「お兄ちゃんが行くなら、私も行く」
四葉も出かける準備をした。
たとえ10年、寿命が縮んだっていい。
僕が、四葉の未来をひとつ分けてあげられるなら。
2人で手を繋いで、星がよく見える近くの公園に出かけた。
「こんな風に、お出かけするの久しぶりだね」
四葉はそう言って、嬉しそうに笑った。
「これからは、もっといっぱい出かけることが出来るぞ」
僕がそう言うと、四葉は少し悲しい顔をした。
「お兄ちゃんが犠牲になる必要なんてないんだよ」
僕は握った手を強く握り返した。
「これはお兄ちゃんのエゴなんだ。だから、四葉は何にも思わなくていいんだ」
そう言うと、四葉は黙って少し下を向いて歩いた。
公園に着く。
角にあるベンチに2人で座った。
2人で空を見上げた。
何の変哲もない、ただの夜空だった。
伝説は伝説だったと落胆した、次の瞬間、極彩色の流星が空を横断した。
空にいっぱい、流れ星が流れた。
その一筋が、僕の手の中に落ちた。
ぐっと、それを飲み干す。
その瞬間、胸の中が温まって、光が僕の身体を巡った。今ならなんでも出来るような、そんな力さえ湧いていた。
僕は四葉の手を握った。
その力が行き渡るように。
四葉の蒼白い顔が、少し赤みを帯びた。
「お兄ちゃん、ありがとう」
四葉の甘やかな声は、鼓膜を深く響かした。
「いいんだ。こんなこと、なんたってことはないさ」
僕はカッコつけていった。
そして、大人たちに見つかる前に 、2人で家に帰った。
月は道を照らしていた。まるで僕たちのことまで、やさしく照らしてくれているようだった。
「お兄ちゃん、あのね」
四葉が言う。
「お兄ちゃんは、私が看取るね。私絶対、お兄ちゃんより長生きするから」
涙声で、四葉は俺を見上げた。
「生意気な!」
そう言って四葉の頭をぐちゃぐちゃに掻き回した。
やめてよお兄ちゃん、なんて元気になった声がすることに、安堵した。
明日死んでもいいんだ、俺は。
そう思えるくらい、お前が大事なんだってことを、少しだけ分かっててくれよな。
空には、まだ流れ星が静かに流れていた。
その下で、月は変わらず、僕たちの帰り道を照らしていた。




