今までで一番長い1日!
ここは……女しかいない世界……。
人も動物も皆女性であり、男性という概念すらない。
18歳の成人までを、生殖能力は無いが、使うことはできる両性(どちらの性器もある)で過ごし、誕生日を迎えたその日にアルマ(ちんの方)かンルマ(まんの方)を天へ願う。
すると、選んだ方だけが残り生殖能力を得るというちょっと不思議な世界。
ちなみに選ばずに2日経つとランダムで決まるぞ!
「きゃはっ♪
私も今日から高校生です!
高校生と言ったら、人生の華!!
絶対に楽しまなきゃね!!(キャピッ♪)」
全体的にピンク色をした、髪の長い女の子が路上でそんなことを言うと、それを見た二人の女子がヒソヒソ呟きながら横を通り抜ける。
「なにあの子、超可愛いいんですけど~!新入生かな!」
「言ってた内容的に絶対そうでしょ~!
マジ可愛すぎ~!私、狙っちゃおっかな~!」
それを見た女の子は急にうずくまる。
(あぁぁぁぁぁぁ!!!!
勇気だしてやってみちゃったよ!!
その結果ヒソヒソで素通りだよ!!
変な噂が流れるよぉぉ!!
緊張しすぎておかしくなってるよこれぇ!!
あぁぁぁぁ!!!私ごときが、こんなキャピ♪キャピ♪してていいのかなぁ!?
中学校時代の地味ぼっちから脱却しようと頑張ってしまったのは間違いだったかなぁ…
鏡でみた限りじゃちゃんと可愛くできてたと思うけど……
でも鏡でみた自分と他の人から見た自分は全然違うって言うし!
キモいやつが、少年漫画(子供向け漫画の総称、この場合は我々の世界でいう少女漫画を指している)の導入みたいなことしてるって思われちゃったかなぁ……)
実は、このキャピッ♪とした可愛らしい女の子……中学時代はとっても地味だったのである
ご飯は1人で食べる。
メガネは基本外さない。
会話の受け答えは最低限。
自分からは話に行かない。
等々……
そんな自分に嫌気がさし!
高校生活は華やかにと、春休み期間に可愛いを猛勉強!
高校は地元から離れた所へ。
性格は好きな少年漫画の主人公みたいに!
が……まぁ、見た目は取り繕えても内面はそんな簡単には変わらないということで、こんな有り様である。
「うぅぅ前途多難だよぅ…」
「あの子急にうずくまっちゃったよ…!
大丈夫かな…?」
「ちょっと声かけてみる?
……って……あれは」
うずくまる少女の後ろに人影が一つ近づいてくる。
「大丈夫?」
「ッ!?」
いきなり至近距離で聞こえてきた聞き心地の良いカッコいい声に驚き、咄嗟に顔を上げる。
そこには圧倒される程にイケメンな、先輩らしき人が、心配そうに自分を見ている。
きゅん♡
(か…かっこいいぃ……!
……
……
……
ハッ!!)
「だっ…!だだだ大丈夫です!!!!!!!
ちょっと…蟻がぁ…そのぉ…多分…喧嘩してて!!
だから神様気分で仲裁してたみたいな!!
ははは!!
じゃあ失礼します!!」
しどろもどろに目もキョロキョロと、意味のわからないことを言って、ビューン!!っと勢いのまま走り去る。
ポトッ。
(なにあの子可愛い~。
ハンカチ落としていったし……
うわっ!
ちゃんと名前書いてある……なんかこれは…クるものがあるなぁ……
見たこと無い可愛い子だったから、新入生だよね。
探す口実もできたし、新学期1発目はあの子にしようかな。)
イケメンは清々しい顔で学校に向かう。
「七月先輩だ~!相変わらずカッコいいね~!」
「まぁそうだねぇ~。
……
……
はぁ……」
「ため息…?あれ?七月先輩嫌いだっけ?」
「いやぁ、同族嫌悪的な?嫉妬的な?
明らかに自分より勝ったヤリチンがいたら、ちょっとナーバスになっちゃうんだよ!!
ましてや、おんなじ子に目を付けたってなると余計にね!!」
「へぇ~ヤリチン界隈も大変だね~♪
てか、あの顔でスカート履いてるのもすごく良いよね!」
「そうだねぇ……あのレベルのイケメンなら、なに来ても似合うからねぇ……」
七月は自分に向けられた視線に気付き、さらっとウインクする。
「ヒャッ!七月先輩こっち見てウインクしてくれたよ!!
サービス精神助かる~!!」
「だぁ!!やめてよ!!はしゃがないで!!私、うたれ弱いんだよ!劣等感で塵になっちゃうよ!!」
~学校玄関~
さっきの元気な女の子は、自分のくつばこを探しながら、色々と考える。
(はぁ~また醜態をさらしてしまった……
というか高校のイケメン、レベル高過ぎっ!
なにあの顔!
少年漫画の王子様じゃん!!
近くで見ちゃダメな顔だよ!!
……
……
……
でも…醜態を晒したかもしれないけど……こんなことキャピッ♪ってしてなきゃ絶対無かったことだろうなぁ……
……!
イケメンの顔を至近距離で見れただけでも、頑張って良かった!
こう思うことにしよう!
うわ!なんか気持ちが楽になった気がする!!
イケメンってすごい!
想いの力ってすごい!
よし!気持ち切り替えるぞ!!
今までの全ては失敗じゃない!!)
少女は玄関先に提示されたクラス分け表を見る。
(百合咲 麗 百合咲 麗……百合咲 麗はどこかなぁ……
あ!あった!!
1年6組か~……
……
一番最後のクラスだ!!
……
……
……だからなんだろう?
でも、少年漫画の主人公なら心の中でこう呟くはず!
意識もちゃんと変えてかなきゃね!!)
向上心とドキドキを胸に、教室へ向かう。
その少し後に、ハンカチを拾ったイケメンが来る。
(百合咲…百合咲……お、あった。6組か。
帰るタイミングで行けば、仲良くなれるかな。
世間知らずっぽいし、今日のうちに抱けたりしないかな。
まぁ長くても1週間以内には抱けたらいいなぁ。
とりあえず最初は優しく丁寧にそして徐々にこっちのペースに持ってきて。無理矢理はダメだからね。ちゃんと楽しんで貰わなきゃ。初めてを貰うんだからその責任は大きいんだよ。てか初めてだよね。あの感じで初めてじゃなかったら……それはそれでいいなぁ。
……あぁ、ついつい考え込んじゃった。
はは~新入生達にめっちゃ見られてるな~
はぁ……お前ら可愛すぎか!(ウインク!))
((ドギュンッ♡))新入生一同
そばでボーッとたたずむ超高校級のイケメンに見惚れていた新入生達は、ウインクで軽々恋に落ちる。
(わーい、手応えバッチリだ。
今年もたくさんの女の子と遊べそうだなぁ~
楽しみだ!)
「三月…」
そんな七月の後ろからそっ…と声をかける女性が1人。
「やぁかな!おはよう!」
七月は不意打ちにも関わらず爽やかに挨拶をする。
「はぁ~なんで驚かないのよ!
いきなり後ろからあんな声呼ばれたら驚くでしょ普通は!(ぷぅ!)」
七月の美貌に全く劣らない、綺麗で可愛らしい女性がぷくぅっと顔を膨らませる。
「だって、かなは恐ろしい声だと思って出したんだろけど、聞く側からしたら甘々の可愛いボイスだったからね。」
「ッ…!
ちょっとやめてよ!
そういうこと言うの!!」
かなと呼ばれた女性は、可愛いと言われ顔を赤くして否定する。
「いいじゃん、かなは私の恋人でしょ?
なら、可愛いと思ったら可愛いって言わなきゃ!」
「もう!分かりやすく機嫌とって!!
どうせ新入生達みて興奮してたくせに!!」
((ドギュンッ♡))新入生一同
「まぁそれはそうだけど、恋人って事実に変わりはないでしょ?」
とてもチャラそうな感じで返す。
「う~~~んっ!!
三月のばか!!
私で童貞捨てたくせに!!」
((!?))新入生一同
「はぁ…またそういうこと言って……まぁそうだよね……当たり前だよね……恋人がいるのに他の子と遊ぶなんてダメだよね?」
かなり雑にしょぼくれる。
((当たり前でしょ……))新入生一同
「違うの!!
これは言わなきゃいけないの!!
我慢するためにちょっと当たりたくなるの!!
だから全然いいから!
私は三月が満足するまで待ってるから!!」
((えぇ…))新入生一同
「そうだよね~!ありがとね~!」
はいはいわかってましたよ~といわんばかりに礼を言う。
「う~~~~~~~~~~んっ!!
同じクラスだよ!!
一緒行こ!!」
かなは、色々な感情をグッと堪えて、不満そうに切り替える。
「へ~そうなんだ~ラッキーだね!(完璧クールスマイル!)」
(はぁぁぁぁぁあああ!!!!
好き!)
さっきのやり取りからは想像もできないほどスムーズに七月へ抱きつく。
「相変わらずかなは可愛いね!」
そう言って七月は、かなの頭を撫でる
((なんか歪な恋人関係だな……!!))新入生一同
~1年6組の教室~
「ここが1年6組だよね!」
ガラガラガラガラ……
麗はドアを優しめに開ける。
(うわぁ!教室って感じだ!!
なんか中学時代よりも鮮明に教室って感じがするよ!!
あっ!黒板に席が書いてあるみたい!百合咲だから窓際の方かなぁ……
わっ!一番左後ろの席だ!
すごく少年漫画っぽい!!
イケメンキャラが座りがちなとこだね!!
ワクワクだよ!)
1人心の中で騒ぎながら席に着く。
「まだ周りの人は来てないんだな~どんな子なのかドキドキで楽しみだ!」
「いますよ……!」
「えっ!?」
何処からともなく声が聞こえる。
「あっ!ほんとだ!!前の席、荷物が机に掛けてある!!
……でも、何処にいるの?」
「ふふふん……!
我はあなたのすぐそばにいますよ……!
探してみるといいです……!」
(うわ~!すごくキャラが濃そうな子だなぁ~!
でも、こういう子の方が何だか喋りやすい気がするよ!!
ここはちゃんと乗らなきゃだね!!)
「わかったよ!
絶対に見つけてみせるよ!!」
「ほほう……
いい意気込みですね……
しかしそう簡単に見つかるもの……」
「ここだ!」
そう言って背後の掃除用具ロッカーを、食い気味にバァンッ!と開ける
「ヒャッ……!」
中に居た声の主は、喋ってる途中にいきなり開けられてしまったので、思わずヒャッ……!っと声が出てしまう。
「見~つっけたっ!!(完璧キュートスマイル!)」
麗は元気に笑顔で言う。
(キュン♡)
ロッカーの中に居る少女の顔がちょっと赤くなる。
「み…見つかってしまいましたか……!
流石は我が背中を任せられるだけのことはありますね……!」
ロッカーの中から、闇可愛な雰囲気の所々包帯女子が出てくる。
「闇花雷火ちゃん?であってるかな?」
「ほほう……我の名前を知っているようですね……
素晴らしい……
……
……
だかしかしッ……!!
一つだけ訂正させて貰います……!
闇花ではなく闇花です……!」
「そっか、ごめんね!
黒板の席表にふりがながなくて!
闇花雷火ちゃんだね!!
覚えたよ!!(完璧キュートスマイル!)」
(キュン♡)
雷火の顔が結構赤くなる。
「そ…それは良かったなッ……!
ふん…
我が名を覚えられるなんて…!
とても光栄なことだッ……!!(キリッ!)」
「そうだね!(完璧キュートスマイル!)」
(キュンッ♡)
完璧キュートスマイルの連撃により、雷火は自衛のため敵対モードになる。
「きっ…きっ…貴様はッ…!悪魔かッ……!
そっ…それもッ…!卑しき婬魔の類いだなッ……!!」
「えっ……!?」
(ええぇぇぇぇぇぇ!!!!!
そんな悪魔的な顔してたかな……!!
正直に言うと、この笑顔だけには自信あったのに…!!
自信あったからたくさんしてたのに……!!
婬魔だって……!)
麗は思わず、驚いた顔をする。
そんな顔を見て雷火は動揺する。
(あっ……!
まずいッ……驚きのあまり…我が背中を預けようという半身に…淫乱な存在と同列だと言ってしまった……!
まずいッ…!
どうするか……
……
……
……
ふん……!
こんなときは……あれしかないッ……!!
姉よ…!力を借りるぞッ…!!)
スゥーーーーーーッ……
「ごめんなさい。(DOGEZA☆☆)」
とてもスムーズに自分の机へと上り、流れるように土下座をする。
(えぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!
いきなりの土下座!?
私どんな顔してたの!?
土下座しちゃうくらい恐ろしい顔だったのかなっ…!?
でも、ほんとにこの顔だけは自信あったのに!!
何回も鏡で確認したし!!
……
……はぁぁぁ!!もしかしたら家の鏡が歪んでて、完璧だと思っていた笑顔が、とっても恐ろしい顔だったとかあるのかな!?
それとも目の方が歪んでたり!
いやいや!もう今はこんなこと考えてる場合じゃない!!
とりあえず闇花さんに頭を上げて貰わなきゃ…!)
「大丈夫だよ!!なんにも恐ろしいことなんて考えてないから!!あれはね笑顔をみせてたつもりで、こちらこそ怖がらせてしまってごめんなさい!!」
(ん……?
どういうことだ……?
何故我は…謝られている……?
何を恐れている……?
んん……?)
互いの、コミュニケーション不足により、全然会話が噛み合わないのにもかかわらず、動きと声の大きさは有り余るほどで、教室中が2人に釘付けだ。
(あは~!俺んとこの近くでなんか土下座してんじゃん!
うわ!しかも片方めっちゃタイプだ!
やばぁ!
聞こえた限りじゃいじめではなさそうだし、怖い感じじゃなくて、テンションぶち上げで乗り込むか~!!)
「はっはっはっ!!
なんかえらく楽しそうなことしてんなぁ!!
俺も混ぜろよ~!!」
背の高い女子が意気揚々と会話へ参加しにくる。
(うわ~身長高い~!!
しかも、さっきの人とは違ったタイプのイケメンだ~!
スポーツイケメンって感じ!!
こんな人がいる部活のマネージャーとかちょっと憧れるな~!)
雷火は麗のうわ~顔をみて、なんとなく焦りを感じ、
「あなたッ…!
何者ですか…?」
瞬時に土下座を解除しちょっと高圧的に問う。
「俺は桃凪 勇騎!
この可愛いこちゃんと隣の席なんだよ!!
ウェーイ!ラッキー!!」
そう言ってカバンを麗の隣の席へ置く。
(えぇぇぇぇぇ!!!!
もしかしかして今!私のこと可愛いこちゃんって言った!?
つまり!他の人から見ても私は可愛い!?
やっぱりちゃんと可愛くできてる!?
鏡も目も歪んでなかったんだ!!
いや、わかんないよ。
これは自意識過剰かもしれない。
調子に乗っちゃダメだよ。
冷静に。
こういうときこそ冷静にね……
……
……
……
いや!これこそダメだよ!
いつも自分に自信がなくて、反応できそうなことがあっても、失敗する可能性もあるって言って、なるべく最低限で……
でもそれは過去!!
今の私は!自意識過剰!!失敗OK!!勘違い上等!!
ここは少年漫画くらい華のある学校生活を始めるため!
良い感じに勢いでドンッ!!て行こう!!)
麗のほかにも思考を巡らせるものが1人……
(なんなのだこいつは…!
今さりげなく我が半身を口説いた…?
…これは危ない香りがする……!
こいつからは危ない香りがするッ……!!
なんとしてでも我が背中を守る半身を守らねば…!
どうするべきだ…?
我が身は人也て…
この者との圧倒的な身体の差を埋めることはできない……
ここは一度半身と共に退くか……
いやッ…!!
我が半身にそんなカッコ悪いところはみせられないッ…!!
あと…!
ここでいきなり手をとり逃げ去るのは……
絶対に引かれるッ…!!
……
我は……
……
多分……
……
いや、全くもって確証はないが……
……
……
……
彼女に引かれると結構へこむッ…!!
クゥッ…!
戦えない…逃げられない……
これはさすがに…
どうすることもできないか……
……
……
……
いいや……!
戦う手段とは必ずしも肉体ではないッ…!
ふははははははは…!!
我が口の恐ろしさを教えてやろうぞ女たらしめッ…!!)
麗と雷火、共にこの間三秒である。
そして2人は自分のなすべきことをいざ試みる。
「今っ!」
「ふん…」
2人同時に……
「「あ……………………」」
「闇花さん先に言っていいよ!私はもうちょっと考えるから!!」
(はぁぁぁぁ!!!被っちゃったよ~!!!
こんなこと想定外だよ!!
勢いで行こうと思ってたからこの被りは致命傷だよ~!!
もうなんにも出てこないよぉ!!)
「いや…!
我は被ったのであれば先を譲ります…!
そういう性分なのですよ…!!」
(被ってしまったか…
流石は我が半身…!
同じタイミングで喋り出すとは…!)
「「……」」
2人ともあまり会話が得意ではないので、被ってしまうともうなにも話せない。
それをみかねたコミュ強が話しを始める。
「ははは~!仲良いね2人……!!
……
……
それはそうとさ~
もしかして土下座してた黒っぽいあんたも、この可愛いこちゃんのことねらってんの?」
ドキッ…!!
雷火の心臓が強く跳ねる。
「なんかさ、さっきから恋敵って感じの雰囲気がすごいんだよね~!
ちょっと突っかかってくる感じとか、俺のことみる目とか、可愛いこちゃんをみる目とかね。」
「そ…そ…そんなことはないですよ……!
ただあなたから危険な匂いを感じたまでです……!
彼女は我が半身……!
身を案じるのは当たり前なのです……!!」
「そっか~!
いやね~!もしあんたが恋敵だったら俺ちょっと独占欲強いし、高圧的に接しちゃうからさ、先に言っとこうと思ってね~。
まぁでも恋敵じゃないんなら普通に仲良くしよ~。
恋敵じゃないんならね~!」
「我はただ……
半身の身を案じただけです……!
他意なんてものは無い……
……
……
……
と言えます…!」
「ふ~ん。
まぁ確かに、あんたが俺を警戒するのはわかるよ~。
こんな感じだしね。
絶対彼女に近づけたくないタイプだって自分でも思うもん。
でも安心して良いよ。
俺、好きな人には丁寧だから。
あんたの半身に、あんたが心配するようなことはしないよ。
だから仲良くしようね~!」
(これは……!
まずいッ……!!
我を半身から切り離す巧妙な口撃ッ……!!
我は第一印象からの偏見でものを言っていた…
奴はそれを見透かしたような口振りで…
心配はないと言っているッ……!!
これではなにも言えない…!
……
……
……
いや…!
それの何がまずいのだッ……!
半身と言ってはいるが……!
彼女は今日会ったばかりの何処にでもいるような人間……!
そんな人間から切り離されたとてなんだと言うのだ……
なにも心配することは無いではないかッ…!!
……
……
……)
この頃麗は……
(はぁぁぁぁぁ!
完璧に会話へ入りそこねちゃったよ!
しかもめっちゃアピールしてくる!!
今日会ったばっかりなのに!!
でも!こういうのもありなのかもしれない!!
てか!いつの間にか闇花さんの半身になってる!!
これも、もしかしてアピール……?
中二系彼女か~!
ありです!
是非よろしくしたい!!
うは~!!
楽しいな~!!
ただ、生きてるだけでこんな考えがどんどん沸いてくるよ~!!
可愛いってすごい!!
自信ってすごい!!)
1人心の中で楽しんでいた。
そんな麗に、勇騎は話しかける。
「ねぇねぇ!
さっきから騒がしくしちゃってごめんね~!」
ビクッ!
鑑賞モードになっていた所にいきなり話しかけられてビクッ!としてしまう。
「あ…!いや全然大丈夫だよ!!
ちらほらとビックリすることは聞こえてきたけど!
すごく賑やかで楽しいよ!!
(ビクッ!てしちゃった…!
恥ずかしい……!)」
モヤ…
「そっか~!
良かった~!
こういうの嫌だったらどうしようってちょっと思ってたから安心したわ~!
名前なんて言うの~?」
「百合咲麗って言います!
よろしくお願いします!!」
モヤモヤ…
「へ~麗ちゃんか~
可愛い名前だね!
よろしく~。
てか、名前も可愛いけど、みればみるほど麗ちゃん自身もすっごい可愛いね~!」
モヤモヤモヤ…
「へぇ~!!
ありがとう!!
実は容姿に関しては結構自信があったから、こうして褒められるとすごく嬉しくなっちゃうよ~!」
モヤモヤモヤモヤ…
「うわ~!!
最高に自意識完璧系じゃん!!
良いね~!!
てか、麗ちゃんは部活とか入るの決まってんの~?」
……
「まだ全然決まってない!!
というか、何があるかもあんまりわかってないよ~!」
ッ……
「あは~!!じゃあさぁ~!!」
「恋敵ですッ…!!」
雷火は顔を真っ赤にして勢い良く言う。
「えっ!?」
「あは~!!だよね~。」
(うわぁぁぁぁぁ!!
実質告白じゃないこれっ!!
私に対してだよね!?
えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
というかちょっと待って!!
中学生ってなんだったの!!
高校初日でこれだよ!!
私の周りで恋敵関係できちゃったよ!!
なにこれ!!
高校ってすごい!!
可愛いってすごい!!
努力ってすごい!!
てか!2人ともすごい!!)
「あなたのような方にッ…!
我が半身は譲りませんッ……!!」
(キャッ(/▽\)♪
そんなに恥ずかしそうなのに堂々と!
こっちが恥ずかしくなっちゃうよ!!
闇花さんは可愛いなぁ~!)
「麗ちゃんは物じゃないんだから、譲るとかじゃなくね~?
あと俺、自分の魅力には結構自信あるから、あんたみたいな奴に負ける気しないよ。
恋敵って言ったからには失恋の準備でもしておいてね。」
(えぇぇぇぇぇ!!!!
カッコ良すぎ~!!!!
自信ありすぎ~!!!!
憧れるなぁ~!
……
……
……
あ……)
麗はいきなり思い出す。
ここが教室で、他の人達がいることを。
(自分のことに必死で周りが見えてなかったよ…!
これはちょっとよくない……
目立つとこういうこともあるんだなぁ……
反省しなきゃだ……
でも今はとりあえず、睨み合ってる2人を止めよう…!)
「2人とも!
私も忘れてたからちょっと言いにくいんだけど!
ここ教室だからもうちょっと静かめに話さない?」
麗はこちらをみているクラスの人達へ向かって軽く頭を下げる。
「そ…そうですね…!
流石は我が半身です……!
良いことを言います…!
同胞の皆さん…!
騒がしくしてしまい申し訳ありませんでした……!」
「ごめんね~!」
3人はとりあえず席につく。
「「「……」」」
3人とも向かい合ってはいるが、なにも喋らない。
(流れが止まっちゃったよ!
私が喋った方がいいのかな…?
いやでも、会話の途中で割り込んじゃったし…
でもでも!さっきの会話が続く感じしないし…)
麗が考えているということは勿論こちらも色々と考えている。
(言ってしまった……
それも勢いで……
なんだ……?
この感情は……
正直言えば直ぐにでも逃げ出したいが……
半身がどんな顔で我を見るのか…
なんと声をかけてくるのか…
そんなことが気になって仕方がない…
今日会ったばかり…
いや…
さっき会ったばかりだというのに……
……
……
……
こいつのせいだッ…!
こいつが我を切り離そうとするから…!
ちょっと気になっていたくらいだった気がするのに…!
堂々と言ってしまったがゆえに…
……
……
もう…!
……
完璧に…!
……
完全に…!
……
意識せざるを得ないじゃないかッ…!!
このッ…!
女たらしめッ……!!)
そして今回はもう1人いるが、
(気を使えるところもいいな~
次はなんて言うのがいいかなぁ~
彼女にすること考えたらやっぱバスケ部に誘いたいなぁ
よし!)
勇騎は長々と考えるタイプではないので、この静寂にためらいもなくスッと入る。
「まぁなんか色々あったけど、麗ちゃんは部活決めてないんだよね!」
「うん!」
麗は、
あっ!喋ってくれた!
みたいな顔で返事をする。
一方雷火は少し険しめの表情になる。
「じゃあバスケ部入ろーよ!」
「バスケ!
楽しそうだけど…
私全然運動できないんだよ…!」
「じゃあマネージャーとかは!
うちのバスケ部さ!
めっっっちゃ強いから、結構大変かもしんないけど。」
「マネージャーかぁ!
それなら私でも頑張れそうだし興味ある!!」
「おぉ!
じゃあ早速今日一緒に体育館行こーよ!
多分今日も練習あるし!!」「ちょっといいですか…!」
2人の会話に雷火が割り込んでくる。
(うは~!闇花さん来た!!
これはすごく嬉しくなっちゃうな…!
恋敵が猛アプローチしてたら止めたくなるよねっ!
うわっ!
楽しい!
真ん中って楽しい!!)
「なんだよ変喋。」
「ん…?
変喋とはなんですか…?」
「変な喋り方の恋敵、略して変喋だよ。」
「ふん…!
好きに呼べば良いさ女たらしめ…!」
「でさぁ!
今日一緒に体育館行こーよ!」
勇騎は一息の合間に雷火を置いていくが、
「ダメです…!!」
雷火も必死に食いつく。
「なんて奴ですか…!
この我を置き去りにするとは…!!
お陰で結論だけが先にでてしまいましたよ…!」
「ダメってなんで変喋がきめんだよ!
俺は麗ちゃんと話してんの!
この朝の時間が終わるまでの間に、一秒でも長く麗ちゃんの声が聞きたいの!」
(えぇぇぇぇぇ!
流石にきゅん!
これはきゅん!
すごくきゅん!
かっこいいぃぃぃ~!)
「あなたは強引だッ…!」
雷火は、勇騎の口説き文句に対抗するように、指を指しながらちょっと強めに言うが……
「いや、そんなこと無いでしょ。
俺、麗ちゃんに相づちもらってから次に言いたいこと話すようにしてるもん。」
「……
……
……そうなのですか……」
勇騎の意外な反論に、次の言葉がなにも思い付かずスン…となる。
(あぁしょげちゃった…!
可愛すぎる…!!
自分に好意を抱いてくれる人ってなんか全てが愛おしく見えちゃうよ~!!)
「でさぁ!
今日体育館行かない?」
ビクッ!
麗はまた鑑賞モードに入っていたため驚く。
(またビクッてしちゃった…!
恥ずかしぃ……
というかどうしよう……!
マネージャーには興味あるけど、このままついて行ったら、なんか闇花さんに悪い気がしちゃう……
どうしよう…
どうしよう……!
……
……
……
そうだっ!)
「せっかく誘ってくれてるし行ってみような!」
この言葉を聞き雷火はかなり絶望的な顔をする。
「ほんと!
じゃあ入学式とか、ホームルームとか、なんか色々終わったら一緒に行こー!」
「うん!
……でも…もし良かったらなんだけどさ……」
「なにー?」
「闇花さんも一緒にどうかなって…?」
雷火の顔がパァーッと明るくなる。
「ふはははははは…!!!
そうですねッ…!
その手がありましたか…!!
流石は我が半身です…!!
ふん…!
我も同行させてもらいますよ…!
そしてあなたを認めまてあげます…!
我が宿敵とッ…!」
(うわ~!
良かった~!!
闇花さん元気になった~!!
可愛い~!!
……でも、桃凪さんにはちょっと悪いことしちゃったかもなぁ~…)
「も~麗ちゃんは優しいな~。
助け船出すとか……
……
……
うん…
今のでなんとしてでも彼女にしたくなったわ~。」
(……!!
口説かれた~!!
闇花さんよりの行動とった後なのに!!
そう言うところも気に入ったみたいな感じで口説かれた!!
うわ~!!
かっこいい~!!
いいな~!!
2人ともすごくいいな~!!)
なんやかんやで教室での出来事は一旦落ち着き、またまたなんやかんやで入学式や帰りのホームルームも終わり放課後になる。
「行こう!
麗ちゃん!
体育館へ!
あわよくばこいつを置いて
行こう!」
「ふん…!
我は意地でもついていくぞ…!
それはまるで呪いのようになッ…!!
ふはははははは!!!」
「うん!行こう!(完璧キュートスマイル!)」
麗は笑顔でうなずく。
ドキッ…!
「あは~!
やばいねその顔!!
変喋にはもったいないわ~!」
雷火は勇騎のそんな言葉に反応もできないほどドキッ…!と顔を赤くしている。
(けっ…今朝の何倍にも脅威度が増しているッ…!?
つい反射で拒絶してしまいそうになる……!!
しかし…同じ失敗を繰り返す我ではない…!
ここは口を開かず黙るのが正しき選択だ……!)
麗からちょっと顔をそらして黙る。
(うわ~!
そっちタイプか~ミスったな~。
突っかかってくると思ったのに。)
勇騎はミスったな~という顔で雷火をみる。
(はぁ……心地いいなぁ……!
幸せ……!)
麗は真ん中の幸せを噛み締めている。
そんななんとも言えない距離感に、新たな脅威がやってくる。
「百合咲って子いるかな~?」
2人は麗よりも先に反応して、声の方をみる。
(うわガチイケメンじゃん。
嫌だな~あの感じ…いけすかねぇ…!)
(また新たな敵かッ…!?
今日が学校初日だというのに…!
我が半身は魅了スキルが高すぎるッ…!!)
2人に少し遅れて麗も反応する。
(うわ~!今朝会った先輩っぽいすごいイケメンの人だ…!
でもなんだろう…?)
「はい!います!!」
七月は、麗が返事をすると直ぐに近づいていくる。
それをみた2人はちょっとだけ麗の前に出る。
「はいこれ、今朝落としてたよ。」
そう言って2人を意に返すことなく、涼しい顔で麗にハンカチを渡す。
「えっ?
ありがとうございます!!
全く気づきませんでした!!」
「いやいや、こっちこそありがとうだよ。
君と話す機会ができたんだからね。(完璧クールスマイル!)」
きゅん♡
「えっ…!」
(かっこいいいぃ!!
顔がすごい!
ほんとに少年漫画のイケメンがでてきたみたいな顔だよ……!)
「ところで、下の名前はなんて読むの?
名字はゆりさきだよね?」
「あっ…!はい!
ゆりさきうららです!」
「麗ちゃんか!
私は七月三月、3年生だよ。
よろしくね。」
「七月先輩…!
よろしくお願いします!」
「横の2人はなんて名前なの?」
圧倒的強者オーラに気圧されていた2人にも名前を聞く。
「自分は桃凪勇騎っす。
よろしくお願いします先輩。」
今までの軽そうな雰囲気から、急に後輩っぽい感じになる。これは長いこと運動部にいた者の性である。
「勇騎ちゃんはバスケやってるでしょ?」
「はい。」
「私が見上げるのは大体バレー部かバスケ部だからね。
右の子は?」
「闇花雷火と言います…!」
「雷火ちゃんか、可愛い名前だね!
3人とも今からどこ行くの?」
「バスケ部の体育館に行こうとしてました。」
勇騎が率先して話す。
「そっか。
遊びに誘おうかなって思ってたけど、予定あるなら仕方ないね。」
「すいません。」
「いやいやそんな謝んなくていよ!
ハンカチが届けられたんだし、私の要はもう済んでるからね。
遊びはついでだよ。
だから気にしないで。」
「はい。」
「……
……
……じゃあ用も済んだことだし、私は行くね!!
またね!3人とも!」
三月はなぜか、駆け足気味で1年の教室を去っていく。
そして3人は三月が教室を出るやいなやに一息つく。
「フゥ~…」
「なんか先輩って緊張するね!」
「凄まじい威圧感でした…!」
一方その先輩側はというと、
(なんか変に緊張しちゃったよ…!
運動部の上下関係は難しいんだよね…。
あんなガチガチにかしこまられちゃうと、どっから攻めていいかわかんないもん!
せめて連絡先でも交換したかったのに!
でも、3人ともすっごい良かったなぁ~。)
こっちもこっちで緊張していた。
先輩襲来の後、3人はバスケ部用の体育館へ向かい、2人はマネージャー体験をさせてもらった。
洗濯、上の観客席の掃除、までをこなし、マネジャーの先輩から、選手付きマネージャーと雑務マネジャー、早朝からの体育館掃除……等々色々な話を聞き、結論としてやめておこうということになった。
時刻は夕方。
体育館の外で。
「…というわけでごめんなさい!!
思ったよりもきつそうだったから、マネジャーはやめておくよ…!
せっかく誘ってくれたのにほんとにごめんね!」
「いやいや、気にしないでよ!
まぁそうだよねって感じだよ!!
正直、よっぽどバスケが好きとか、バスケ部が好きとかじゃなきゃ、やってらんなそうだなぁとは思ってたからね。
無理にやるんじゃなくて、断ってくれてよかったよ。
まぁちょっとへこむけど…。
……
あっ!
俺はまだまだ練習あるし2人は先に帰っていいよ!
変喋は麗ちゃんに変なことすんなよ!!」
「し…しないですよ…!!」
「ははっ!
じゃあ麗ちゃんまた明日~!!」
「うん!また明日!!(完璧キュートスマイル!)」
こうして勇騎と分かれる。
そして2人は考える。
(桃凪さん優しいなぁ~……
う~ん…だからこそほんとに申し訳ないよ~……
でもとってもきつそうだった……
頑張ればできるかもしれないけど……
そしたら、少年漫画みたいな華のある生活には程遠くなっちゃう…
でもやっぱり桃凪さんの優しさを裏切るみたいでなんか心苦しいよ……)
麗は断りなれていないので、うだうだとあれこれを考えている。
(いやダメだったか~……
はぁ……バスケ部忙しすぎて、俺が麗ちゃんと仲良くなるには、バスケ部に入ってもらうしかないんだよなぁ……
……これで変喋と同じ部活に入ってとかなったら、正直勝ち目なくね~……
……
……
……
バスケか麗ちゃんか……
いや!勿論バスケだけど、でもそういうこともちょっと考えちゃうなぁ……
……
……
……
まぁうだうだ考えても仕方ないか!
試合とか見に来てもらって惚れさせるしかない!!
そうと決まれば練習頑張ろ!)
勇騎はすぐにこうして前を向くが、麗はまだ考えている。
(そもそも少年漫画は創作だから、真似しようとするのが間違いなのかも……
今からでもやるって言いにいこうかな……
いやぁ…私はあそこまできついことをできるのかな……
いや、できるかできないかじゃないよね…
やりたいか、やりたくないかだよ……
結局桃凪さんに申し訳なくて、このことから逃げてたけど、私はあんなにきつそうなマネジャーをやりたくないんだよ…!
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
心の中で罪悪感に打ちひしがれる。
(言ってしまった……
うぅぅぅぅぅ……ごめんなさい桃凪さん…
私はあなたの優しさを無下にしてしまいました……
はぁぁぁぁぁぁ…
ダメだ…自分のことばっかり考えて……
……
……人と話すといつもこんな気持ちになる……
私はどうしようもなくダメな人間なんだって…)
「半身よッ…!」
麗がうだうだと、中学生時代から変わらぬ思考回路で物事を考えている間、隣でずっとドキドキしながら歩いている者が、静寂に耐えかねて口を開く。
「なにやら浮かない顔をしていますね…!
どうかしましたか…!
我でよければ話を聞きますよ…!!」
「あっごめんね闇花さん…!
ちょっと桃凪さんの誘いを断っちゃったことについて考えてて…」
(闇花さんと一緒にいることも忘れてた…!
ほんとにダメだな…
私って……)
「それのなにが悩ましいのですか…!」
せっかく勇気を出して静寂から解放されたので、この話題を必死に繋げようと試みるが、
「えっ…!いやっ…!
ちょっと人には言いずらいことで…!」
麗はそれを受け、暗い顔を逸らしながら言う。
(むっ……?)
雷火はなんとなく麗から受け身の雰囲気を感じ、思いきって押してみる。
「何でも聞きます…!」
これは雷火にとってかなり勇気のいる行動で、今までよりも更に鼓動が速くなる。
(どうしよう……
なんでも聞くって……
でも自分のダメなところなんて話したくない…
話したら幻滅されちゃうかもしれない……
せっかく好意的に思ってくれてるのに……
……
……
……
話したくない……
……
……
……)
「やっぱり人には話せないよ……」
麗はもう触れないでと言わんばかりの、表情で言う。
それを受けた雷火は、
(どうしたものか…
ほんとにどうしたものか……
踏み込んでしまった……
いつもなら入り込まない場所へ……
ここは退いた方がいい……)
ちょっと後悔し、退くことを考える……
……
……
……が、
(否ッ…!
我に策あり…!
とんちで構わんッ…!
我はもう既に醜態も想いも晒している…!
今更怯えることなどないのだッ…!
ただこの道を進むだけッ…!
ただそれだけ…
……
……
……)
自分と麗を天秤にかける。
(……
……
……
それだけで良いのだッ…!!)
自分と麗の天秤が麗の方に傾く。
「ふん…!
人には話せない……と…!
ならば人ではない者には話せると言うことですねッ…!」
「えっ…?」
急に麗の前にへと立ち、夕陽を味方に話し始める。
「我の言動から気づきませんか…?
高貴であると…!ただ者ではないと…!」
「…」
麗は真剣に雷火を見ている。
「ふん…!
我は暗黒世界最後の魔王が末裔…!
確かに今は人の身ではありますが…!
あなたが人に話せぬ悩みを持つと言うのなら…!
喜んで先祖に帰り…人の身を捨てましょうッ…!!(いい感じにカッコいいポーズ!)」
雷火は味方の夕陽を最大限利用し、とても神々しくポーズを決める。
「闇花さん…」
(これは多分気を使ってくれたんだよね…
ダメだなぁ…また私は自分のことばかりを考えて…
せっかく聞いてくれるって言ってくれてるのに…
嫌われることに怯えて…
自分を晒すことに怯えて…
中学生の時と一緒だよ…
外側は頑張ったら変えられたんだし…!
内側だって頑張んないと!!)
「闇花さん!」
「はい…!」
夕陽のせいか恥ずかしさのせいかはわからないが、とにかく顔を真っ赤にポーズを継続したまま返事をする。
「良かったら話しを聞いてほしいです!!」
「ふん…!
人のままでも良いのか…?」
「うん!」
「喜んで聞きましょう…!」
そう言ってふっ…と安心したように麗の横へ戻る。
そして麗は、自分の身可愛さに勇騎の誘いを断ってしまった、そんな醜い考えがどうしても嫌なんだ、という中学時代であれば絶対に人へは話さないようなことを話した。
それを聞いた雷火は、真剣に、誠実に、必死になって答える。
「ッ…!
それがダメな考えだと…
我は思いません…!
いや…
我があなたに肯定的だからかもしれませんが……
……
……
……
でもしかし…!
自己を尊重することは当たり前です…!
きついことや…苦しいこと…恥ずかしいことなどは…
それをやっても良いと思える人に向けるものです…!
我々は今日出会ったばかりですから…!
己より尊重できる訳がないのです…!(いや…まぁ…例外もあるみたいですが…(小声))
……
とにかく…!
あのいけすかない勇騎のことをよく知り…
好意を抱き…
己よりも尊重できると思えたのなら…!
またマネジャーの門を叩けば良いのです…!
今はそれで良いのです…!」
そんな雷火の言葉を聞いて、麗の心がスッと軽くなる。
「闇花さん……!
ありがとう…!
なんかすっごく気持ちが軽くなったよ!
それにたくさん気持ちが溢れてきた感じがする!!
なんかもう、今すぐにでも抱きつきたいくらいだよっ!!」
そして包容の衝動までもが沸いてくる。
「ッ…!!
我は別に構いませんが…!
いやでもしかし…流石に速すぎるのではと思わないこともないです…
いや…!でも構いませんよ…」
「えっ…!?
いいの…!」
「えっ…」
(その反応は本気で抱きつきにくる反応ではないだろうか…
えっ…!
心の準備が…!)
雷火が何故、同性同士のハグでこんなに緊張しているのか?
この世界で同性同士ハグをするというのは、我々の世界で言えば異性とハグをするのと同じことである。
勿論、挨拶がてらにハグをする人々もいるが、雷火は、そういう経験に乏しく、かなりピュアなので、とっても緊張しているのである。
「そうだよね…闇花さんは私のこと……
それはOKしちゃうよね…!
……
……
……
よし…!
……じゃあ行くよ…!」
「は…はい…!」
(ッ…!)
雷火は目をつぶり息を止める。
……
……
……!!
「いや!やっぱりダメだ!
しようと思ったら急に恥ずかしくなっちゃったよ!!
気持ちのままになにも考えず言ってみちゃったけど!
なんかごめんね…!!」
麗はこういう経験がない上に、雷火と同じくらいピュアなので、ひよる。
「いえっ…!
べ…別に謝ることなんてありませんよ…!
ふぅ…」
雷火はそれを受け、少々もったいない気持ちもありつつ、ふぅ…と一息つくが……
「あっ…!危ないっ…!!」
麗は、ながらスマホの自転車が、雷火の直ぐそばまで来ていたのに気づき、咄嗟に手をとって引き寄せる。
「んむッ…!」
手をとり引き寄せられた雷火は、前傾姿勢になり、2人同じくらいの身長ゆえ、不覚にも、幸運にも、それなりにある麗の胸に顔から飛び込んでしまう。
「あっ…!」
「ッ…!」
雷火はすぐさま胸を離れる。
「すみませんッ…!!
どう償いましょうッ…!!
命で足りますかッ…!!
我の命で足りますかッ…!!
…
…
…ハッ!」
雷火は謝罪の最中、あることに気づいき勢い良くしゃがむ。
「いや…仕方ないよ…事故だもん…。」
麗は、いきなりしゃがんだ雷火を不思議に思うこともなく、恥ずかしそうに顔を逸らして返す。
「いえしかし…」
「大丈夫だから!!
もうすぐ家だし!
は、走って帰るね!!
なんだか体が動きたがってる気がするよ!!
じゃあまた明日!!」
そして、今朝見たような感じで、ビューンッと走り去る。
残された縮こまり雷火は1人考える。
「あれが…
胸……」
雷火は自分のストン…とした胸を見て言う……
「あれが…
胸……」
2回も。
「ふ…ふん…!
とりあえず帰るか…」
と言って立ち上がるが、スカートの浮き具合を見て、また直ぐにしゃがむ。
(忘れていた…)
胸の存在感、生理現象、意中の相手の胸、これらが巡りに巡って15分後、ようやく落ち着き立ち上がる。
そのときの雷火の思考は、
(あれは事故…ゆえにこのような現象を起こしてはいけない……あれは事故…ゆえにこのような現象を起こしてはいけない……あれは事故…ゆえにこのような現象を起こしてはいけない……あれは事故…ゆえにこのような現象を起こしてはいけない……あれは事故…ゆえにこのような現象を起こしてはいけない……あれは事故…ゆえにこのような現象を起こしてはいけない……)
ただこれだけだった。
その頃、麗はというと、下宿先のアパートに着き、1人正座で考えている。
(事故とはいえ、胸を触られた……
初めてお姉ちゃん以外が私の胸に触れた……
しかも顔で……
汗臭くなかったかな……
マネジャーの仕事体験してたし……
今日はたくさん興奮してたから……
あぁぁぁぁ!!!!
……
……
……
まだ胸に感触が残ってるよ…
不思議な感覚だ…
すごくドキドキするのに…
なんか落ち着く感じもあって…
……
……
……
…また触ってほしいって思っちゃう……)
考えた末、少し性欲が強くなった麗であった。
何だかんだで長い1日も終わりかけ…
麗は布団に入る。
(まだ1日目なのな色んなことがあったなぁ。
すごいイケメンな先輩と出会って、面白い子、かっこいい人、だと思ってたら恋敵関係に発展して、マネジャー体験して、自分の悩みを打ち明けて、胸に顔を埋められて……(ムラァ…!!)
っと…とにかく!たくさんのことがあった!
こんな日々が3年間も続くんだから楽しみで仕方ないよ!
ほんとに頑張って良かったよ……!
ふぅ……ぅ……すやぁ………………)
こうして麗の、今までで1番長い1日は終わる。
おまけ。
『幸運の代償』
学校二日目の朝、3人が向かいあって話している。
「麗ちゃん!
昨日はあの後雷火と一緒に帰ったの?」
「うん!あっ……途中まで一緒に…」
麗は昨日のことを思い出して少し勇騎から目を逸らす。
勇騎はそれを見逃さない。
「え?何かあったの…?
まさか変なことされたりした?」
「いや…変なことって言うか……事故って感じで……」
「雷火ぇッなにしたんだよ!」
「事故です……」
そう言って雷火は不自然に前を向き、椅子を前に出して手前の方に座り、下半身を机の奥へと隠す。
「麗ちゃんなにがあったの!
事故ってなに!
教えてほしいんだけど!!」
麗は胸に触れられたことを恥ずかしそうに話した。
「なにそれ!
もう!!ながらスマホのやつぶっ飛ばしたいんだけど!!
はぁ……」
勇騎はかなりしょぼくれる。
「ごめん桃凪さん…!」
それを見て麗は直ぐに謝る。
「いやいやこの件は、麗ちゃんも変喋も悪くないし、
そもそも麗ちゃんは胸を触らせたからって俺に謝る必要なんてないんだよ!!
俺は一方的に好きって言ってる立場だからね。
そんな時に麗ちゃんを束縛しないよ!!」
勇騎は、まぁほんとは束縛したいけどね!みたいな雰囲気を出しながら言う。
「そっか…!
なんか2人のやりとりを考えるとちょっと申し訳なくなっちゃって…!」
「あは!
勿論気にかけてくれても全然良いんだよ!
そしたら俺嬉しいし!」
この間、雷火はいまだに前を向いている。
それを麗が不思議に思い声をかける。
「闇花さんどうしたの?」
「いえ…!
特にどうということはないですよ…!
どうぞ2人で仲良く話してください…!」
(はぁ…お言葉に甘えて話したいところだけどさぁ、そんな態度とったら麗ちゃん気にかけるに決まってんじゃん!
もう!)
勇騎はしぶしぶ、雷火へ話しかける。
「なに~?
どうしたの変喋~。
なんでいきなり前向いたんだよ~。」
「…」
雷火はなにも答えない…
「大丈夫?闇花さん?」
「大丈夫ですッ…!
……しかしただ…1つお願いしたいことがあります…!」
「なに!なんでも言ってよ!!
私にできることならなんでもするよ!!」
麗は昨日の一件でかなり雷火に恩を感じているので、お願いという言葉に勢い良く食いつく。
(なにそれ!
麗ちゃん…!
なんなのその態度…!!
羨ましすぎだろあいつ!
もう!早く試合見せたい!!
かっこいいとこ見せたい!!
練習頑張ろ!絶対レギュラー入る!!もう!!)
勇騎は雷火に出し抜かれて、決意をより深く決める。
そしてその雷火は麗へとお願いを言う。
「こんなことを言ってしまうのは…
とても心苦しいのですが…
喋らないでほしいのです…!」
「えっ…!」
麗は雷火の意外すぎるお願いにとても驚く。
雷火は麗が考える時間を作らないようにと、すぐさま続きを言う。
「半身の声を聞くと…
収拾がつかないのです…!
今…我が身は…避けられぬ理に侵されているのです…
その理から抜け出すには半身を意識しないことが最も効果的なのですよ…」
「……?
なんか良くわかんないけど!わかったよ!
喋らないでおくね!」
「感謝します…!」
(なぁに言ってんだぁ?
まじ喋り方変すぎだろ!
しかも喋るなって言ったら俺とも喋れねぇじゃん!
さっきは2人で喋ってろって言ってただろうが!(チラッ))
勇騎色々考えながら麗の方を見る。
(完璧キュートスマイル!)
たまたま目があったので麗は無言で笑顔を見せる。
(最高じゃん!!
黙ってても可愛いとか!
(……ピキンッ!))
勇騎の脳にいきなり、ひらめきの電流が走る。
(もしかして…?
昨日の事故の話しをし始めたらいきなり前を向いた…
椅子の前の方に座って、なるべく机の中に入っている…
麗ちゃんを意識しないことが大事……
あいつ……
……
……
……
勃起してね……?)
「ギャハハハハッ!!」
勇騎がいきなり笑いだす。
麗はビックリした顔で勇騎を見る。
「あは~ごめんねいきなり吹き出しちゃって!
あはは~!
よし!
山手線ゲームしようぜ!
変喋も一緒に、そのままで良いから!」
勇騎は雷火にそっと耳打ちをする。
「生理現象は仕方ねぇよ!ハハッ!
まぁ俺に任せとけ、直ぐに萎えさせてやっから!プハッ!」
雷火は所々バカにした笑いを入れてくる勇騎に少々不安になるが、恥ずかしさの方が何倍も大きいので素直にうなずく。
「麗ちゃんもう喋っていいよ~!
てか、2人ともルール知ってる?」
「知ってる!」
(中学の時、教室でやってるのみたことある!!)
「知りません…!」
「えっとねぇ…連想ゲーム的なやつ。
まずお題を決めて、
例えば黄色いものとかね。
そしたらパンパンッて感じのリズムで黄色いものを言っていく。
そんで、言えなくなった人が負けみたいなやつ。
今のでわかった?」
「はい…理解しました……」
「おっしゃ!
じゃあ行くよ!
順番は、俺、麗ちゃん、変喋で、お題は虫!」
パンパンッ!
「ゴキブ○!」
(なるほど…
そういうことですか……
感謝します……!)
(えぇ!いきなりそんな!
まぁでもせっかくこの遊びができるんだし!
ちゃんと楽しみたいから細かいことはどうでもいいや!!)
パンパンッ!
「カブトムシ!」
パンパンッ!
「カメムシ…!」
パンパンッ!
「ミミズ!」
パンパンッ!
「クワガタ!」
パンパンッ!
「タガメ…!」
パンパンッ!
「ムカデ!」
パンパンッ!
「蝶々!」
パンパンッ!
「フナムシ…!」
(すさまじい…!
次々にでてくる虫たちが…
昨日の感触を忘れさせてくれる…!)
パンパンッ!
「うじ虫!」
パンパンッ!
「カマキリ!」
パンパンッ!
「ッ…!」
「はいー!変喋の負けー!!」
勇騎は雷火に近づき問う。
「どうよ?」
「……完璧に萎えました…
感謝します…」
雷火は恥ずかしそうに報告し礼も言う。
「仕方ないって生理現象なんだから!
プハッ!!」
「ッ…!」
雷火は感謝しているゆえに、今回の所はというような感じで黙る。
その頃麗は1人、自分が山手線ゲームをしたことが嬉しくて、ニコニコしていた。
そんなこんなでまた3人は向かい合って、先生が来るまで話を続ける……
~世界観補填~
これを読むとちょっと物語を理解しやすくなるかもしれません。
物語中に説明できることは説明しようと思ってますが、一応というやつです。
ここは女しかいない世界、しかし性器は2つともある。
ずばり!
パンツはどうなんだい!
するってぇとぉ!パンツはどうなんだい!
はい。
まぁ成人したら片方だけが残るので、我々の世界と同じようなパンツがあります。
しかし、18歳未満のパンツは!
主人公たちのパンツは!
どうなんだい!
大きく分けると三種類あります。
未成年用のパンツ。
ンルマ用のパンツ。
アルマ用のパンツ。
種類はあるけどまぁ、大体どれでも履けます。
仮経(仮の月経)とか、ちんの収納とか、それができれば良いので。
3つのイメージとしては、ンルマ用アルマ用、我々と同じようなもの。
未成年用が、可愛げもあり、仮経にも収納にも困らないやつ。
これ履いとけば間違いない的な感じです。
それでもまぁンルマ用のパンツを履く割合がちょっと高いくらいです。
大人パンツを履くというイメージです。
スポーツをやる人はアルマ用を履いて、仮経の時は未成年用を履いたり。
この世界の子供たちは、性差がない分ちょっと大人びてる子達が多いです。
なので麗や雷火などはちょっと珍しかったりします。
~制服~
麗達が通う高校は、
長いスカート
短めのスカート
ズボン
の三種類があります。
短めのスカートを履く人が多いです。
麗や雷火は短めのスカート、勇騎はズボンを履いてます。
~トイレ~
どっちからでると思いますか?
人によります。
なので、学校のトイレは個室しかないです。
それも雑に区切られた個室ではなく、完璧な個室です。
トイレの部屋があるという感じ。
それがたくさんあります。
全てが性の対象で、興奮材料になりますから。
ただ、完全個室なので、性欲を発散する人もいます。
仕方ないです。
隣でされるよりはましですから。
大人用トイレは、我々と同じような感じです。
ショッピングモールやコンビニやファミレスなどは未成年用のトイレがあります。
チェーン店は置いてあることが多いです。
警備員さんもついています。
学生証を見せることでトイレに入れます。
トイレ警備員の仕事は採用がかなり厳重です。
犯罪者になりうる人を採用してしまったら、悲惨なことになりますから。
ただそれゆえに、かなり名誉な仕事です。
トイレ警備員さんの制服をみると、この世界の人々は安心感を得るほどです。
あまり長々と語りすぎてもよくないので、今回の補填はここまでにしておきます。
まとめとして大事なことを言うと、
麗と雷火は結構レア!
パンツは色々!
トイレ警備員は神!
です。