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 翌日、ジェマが道具師ギルドへ向かう前に状況を確認しようと、朝早くから調査に出ていたハナナが騎士団詰め所に戻ってきた。ハナナからシヴァリーに報告書が手渡された。



「中心部を見ただけでは分かりませんでしたが、ボアレットでは大規模な災害があったようです」


「災害?」


「はい、地震が発生し、建物の崩壊や地割れが発生したようです」


「なるほどな……」



 災害があれば、精霊や神に見放されたと考える。それがジャスパーに対する冷遇の原因だったようだ。そして道具師ギルドで発生している事態についてもハナナは報告をした。



「災害復興のための支援で手一杯なんだな」


「はい。街中の全ギルドが総力を挙げて街の復興に取り組んでいるようです。それから、ジェマさんを宿へ案内しなかったのは、宿が倒壊してしまっているせいでした」


「そんなに大きな被害が起きてしまったんだな……」



 ジャスパーはその話を腕を組んで聞いていた。そして大きくため息を吐いた。



「あの戦争の影響で私の力が弱まったからな……各地で大規模な災害が起きていたとしても不思議はない」


「そういうものなんですか?」


「ああ。大地の変動が精霊に影響し、精霊の不調が大地の変動に影響する。力が強いほどその影響は大きくなるものだ」



 ジャスパーの言葉にシヴァリーは肩を竦めた。ジェマはそっとジャスパーを抱き締める。ジャスパーはその温もりに身を委ねると心が凪のように落ち着くのを感じた。



「ジャスパーが悪いわけじゃないのに……」



 ジェマの落ち込んだ声に、シヴァリーは頭を掻いた。確かにそもそもの原因は人間にある。けれどそれを知らない人々、そして信心深い人々には理解ができない。理解ができたとしても、安易に誰かのせいにしてしまえば心の安寧を得ることができる。



「ジェマ、この街にいる間は俺たちから離れないでくれ。精霊が見える人間がジャスパーとその契約者であるジェマに何をするか分かったものじゃない。私たちも警戒態勢を強めるから安心して良い」



 シヴァリーの言葉にジェマは頷いた。けれど同時に、自分にできることは何かないかと考え始める。ジャスパーはその姿に何か言いたげだったが、口を噤んだ。


 状況を把握したジェマとジャスパー、ジェット、シヴァリー、ユウは道具師ギルドボアレット支部へ向かった。ジェマは滞在の報告を済ませると、掲示板に向かった。そこには街の人々が作って欲しいと望むものの情報が集約されている。


 必要とされているのは、やはり街の復興に使うための道具だった。特にレンガを作成するための道具や、簡易テントや簡易トイレ。その場しのぎとこれからの長期的な復興を目指す手段の両方が求められていた。


 ジェマは受注の申請を出すとすぐに騎士団詰め所の部屋に戻った。



「よし。やりますか」



 ジェマは早速【次元袋】を開いて素材を取り出す。簡易テントや簡易トイレならばすぐに量産ができる。ジェマは必要数を確認して生地と糸、接着剤の数を確認する。



「ピッ?」


「ううん、大丈夫。今回は乾燥に強い素材をメインにやるつもり。あ、でも少し出しておいてもらって良い? 糸鋸の作成依頼もあったから」


「ピッ!」



 元気よく返事をしたジェットは必要な量の糸をシュルシュルと吐き出す。それを脚で巻き上げて束を作る。その傍らでジェマはテントのための素材を切り出していく。ジャスパーもそれを手伝いながら、1人と2匹で着々と作成を進めていく。


 普段は生活の面でジェマを支えるジャスパーも、今回は騎士団詰め所にいるためにやることがない。暇を持て余すくらいならとジェマの仕事を手伝うことにした。


 部屋の外からは騎士たちが訓練に励む声が聞こえてくる。ジェマはその声をBGMに着々と簡易テントや簡易トイレ、そして糸鋸の作成に没頭した。


 その作業は騎士たちの声が聞えなくなる夕方まで続いた。ジェマはシヴァリーに声をかけ、夜の帳が下りる前に完成した分だけでも道具師ギルドへ提出することにした。


 シヴァリーとユウに付き添われて道具師ギルドに向かうと、道具師ギルドは閑散としていた。ジェマが受付のお姉さんに声を掛けると、代金は後払いとされて商品だけを回収されて追い返されてしまった。



「それだけの非常時ということなんでしょうか」


「そういうことだろうな」



 道具師ギルドはギルド証に未払いの記載があると本部から直接支払いが発生する。そのため後払いでも生活に困っていない道具師ならば大きな影響はない。それでも生活に困っている道具師であれば死活問題だ。だから依頼を受けないものも現れる。それがより道具の集まりにくさを発生させていた。


 ジェマはギルド経営に関してはどうすることもできず、騎士団詰め所に戻った。そしてトイレに向かったとき、光が漏れる部屋を見つけた。そっと中を覗くと、頭を抱えているアトラスがいた。



「ご要人か?」



 アトラスは顔を上げることなくジェマに声を掛ける。



「は、はい。ジェマです。すみません、光が漏れていたので気になって」


「構わないさ。それより、丁重な対応もできない状態ですまないな」


「いえ……」



 アトラスはそれ以上は口を噤んで仕事に没頭する。ジェマはすぐに立ち去ろうとして、1枚の紙を見つけて立ち止まった。



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