表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。3  作者: こーの新


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/52


 ジャスパーとシヴァリーがそんな会話をしていたころ、ジェマは宿屋〈アッポリオン〉を訪れていた。騎士団ソルト支部騎士団長スイートと、道具師ギルドソルト支部長レッドの実家。



「異母姉妹、ということは、最悪、修羅場の危機」



 ジェマはゴクリと唾を飲み込んで宿屋の中に足を踏み入れた。



「おや、騎士様でしょうか」



 宿屋の旦那と思しき中高年の男がハナナとナン、ユウに一礼する。その声に気が付いたのか、宿屋の二階から仲居風の、こちらも中高年の女が2人現れた。ジェマは咄嗟にビシッと背筋を伸ばした。



「こんにちは。ソルト支部の方ではないということは、任務でしょうか」


「長旅ご苦労様です」



 けれどジェマが想像していた以上に、2人の女性は温和に微笑む。ジェマはひとまず、修羅場ではないことに安堵して深く息を吐いた。


 そんなジェマの様子を微笑ましく見つめていたハナナが一歩前に歩み出て恭しく一礼する。



「この度、任務につきソルトを訪れました騎士団ファスフォリア支部第8小隊副隊長のハナナ・バイオレットと申します」


「同じく第8小隊所属ナン・テンと申します」


「同じくユウ・フォルビアと申します」


「そして、こちらが警護対象である道具師のジェマ・ファーニストさんです」



 急にハナナが紹介したことに驚きながら、ジェマは咄嗟に営業スマイルを浮かべて一礼する。



「ファスフォリアの道具屋〈チェリッシュ〉の店主、ジェマ・ファーニストです。それから、こっちが契約魔獣のジェットです。共々よろしくお願いします」



 ジェマが顔を上げたとき、2人の女はジェットとジェマを交互に見つめていた。その険しい顔つきに、ジェマは温和な表情を保つことに必死になる。背筋がぞわりと冷えた。


 ジェマが2人の女から視線を逸らしたとき、男が一歩前に歩み出た。ムキムキに鍛え上げられた身体つきは、どう見てもカタギではない。



「ご丁寧にありがとうございます。某はこの宿屋〈アッポリオン〉の店主ツガル・プッチと申します。こちらの長髪の者がビスタベラ。こちらの短髪の者がフジです」


「ツガルの妻の、ビスタベラですわ。よろしくお願いいたします」


「あたしもツガルの妻。フジ。よろしくお願いします」



 長髪の見るからに貴族出身らしきビスタベラの圧と、年に似合わない天真爛漫な笑顔を浮かべるフジの勢い。ジェマは2人のパワフルさにしっぽを巻いて逃げ出したくなった。けれど商売人根性で丹田に力を入れて微笑む。



「こちらへは、スイートさんとレッドさんの紹介で参りました。この村の周辺にある素材の採取についてお伺いしたいと思っています」



 ジェマの言葉に、ツガルは興味深そうに見つめる。



「良い素材屋の紹介ではなく、素材の採取についてですか?」


「はい。私は素材屋を頼ることもありますが、基本的には自分で採取をして素材の状態を確認しています」



 ジェマの言葉にツガルは眉間にシワを寄せた。



「それは、素材の品質ってことかい? 某も元は冒険者。そりゃあ粗雑な採取をするやつもいるが、この村でそんなことをするやつはいないよ」



 突然嫌悪を露にするツガルに、ユウとナンが剣の柄に手を置いた。元冒険者と言う大柄の男。恐らく大楯使いか剣士。ジェマを守るためには剣を抜く必要もあると判断した。


 ユウとナンの行動に、ビスタベラとフジも背後に手を回す。この行動から、すぐにこの2人も元冒険者で現在も武器を携帯していることは把握できた。


 ジェマもそれは分かったけれど、武器を使う必要なんて微塵も感じていなかった。ハナナと共に、あくまで対話をする姿勢を崩さずに穏やかに微笑んでいた。



「承知しています。素材屋も、粗雑な素材を買い取って正規の価格で売買することはありません。それぞれ商売仲間として互いの信頼を損ねないように気を付けていることは私も知っています」


「なら、どうしてだ」



 ツガルは嫌悪のオーラを引くが、まだ訝し気にジェマを見つめる。ビスタベラとフジの背後から何かに手をかける音が微かに響く。



「素材の状態というのは、素材をどれほど採取しても大丈夫なのかという動植物全体の状態です。素材の永続的な採取のためにそれらを調査して、現状のペースで採取を続けていたら今後の採取が難しくなる場合や、一時的な保護が必要な場合には道具師ギルドや騎士団、冒険者ギルドへ報告をする必要があります」



 ジェマの真剣な眼差しにツガルがたじろぐ。



「それは、道具師の仕事ではないようだが?」


「誰の仕事でもありません。ですが、裏を返せば誰かが意識することがなければ気が付かれることのないままに素材を消滅させ、未来の可能性を断絶させることになりかねません。それは、私の望まない未来です」



 ツガルは自分の身体の3分の2ほどしかない少女の言葉とは思えない鋭さと、その姿勢の凛々しさ、プロ根性に肩を落とした。



「すまなかった。某が間違えて解釈していたようだな。それから。君を子どもだと侮っていたようだ」


「こ、これでも一応成人してますから!」



 ジェマは必死に背伸びをしてみせる。その姿にはさっきまでの凛々しさはなく、ただ幼い少女にしか見えない。ツガルは堪えきれずに吹き出した。その後ろ、武器から手を離したビスタベラとフジも顔を見合わせて微笑んでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ