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道具師ギルドソルト支部は木造二階建て。どこかファスフォリア支部と似た雰囲気の空間にジェマはホッと息を吐いた。違うところと言えば、圧倒的に道具師たちの姿が少ない。それに伴ってか、職員も少なく、広さの割にガランとした印象だ。
カウンターには白シャツにスラックスと、素朴な制服を着た女が立っていた。低い背に丸い顔。頬にはほんのりと赤みが差している。
「いらっしゃいませ。道具師ギルドソルト支部へようこそ。受付のミキ・ライフと申します」
ハナナとユウを見て愛想良く挨拶をした受付のミキは、しばらく固まって、眉を顰めた。騎士が2人と少女が1人。道具師ギルドに来るには不思議な組み合わせだ。
「えっと、道具の開発のご依頼でしょうか?」
ミキは戸惑ったように問う。ジェマは首から下げていたギルド証を提示した。それから、ハッと思い出してスイートからもらった紹介状も次元袋から取り出した。
「道具師です。ここに騎士団ソルト支部団長のスイートさんからの紹介状もあります。ファスフォリアの〈エメラルド商会〉へ商品の転送をお願いしたいのですが」
「道具師? お預かりします」
ミキは訝しがりながらも、ジェマのギルド証のデータを読み取る。その間に紹介状を確認すると、血相を変えて背筋を伸ばした。
「大変失礼いたしました。商品の転送、ですね。こちらですぐにお受けいたします。それから、えっと、ギルドマスターへの面会をお願いします」
「ギルドマスターさんに?」
「はい。こちらの紹介状に、当ギルドのギルドマスターとの面会をするようにとありますので」
「分かりました。では、面会の前に転送をお願いします」
「承知しました。それで、商品の方はどちらに?」
「ここに」
ジェマは背中に背負った大きな【次元袋】を見せる。ミキは頷いて、奥にある階段を指さした。
「あちらです」
ジェマはミキについてギルドの地下にある転送用の部屋に向かう。付き添いにはジャスパーとジェット、ユウ。ハナナは情報収集のために一階に残った。
「こちらの台に商品をお願いします」
「分かりました」
オレゴスから出て今日に至るまで。道中で作り続けた品々を【次元袋】からガラガラ、ゴロゴロと取り出す。財布やアクセサリー、大きいものなら家具までも。それを見たミキの表情は引き攣っていた。
「えっと、こちら、全て、転送でよろしい、ですか?」
声が裏返りながら聞くミキに、ジェマはなんでもないことのようににっこり頷いた。
「お願いします」
ミキは震える手で転送装置を起動させる。転送の錬金魔石が稼働して、緑色の魔法陣が浮かび上がる。すぐに緑色の光が部屋中に満ちて、商品全てが忽然とその場から姿を消した。
これで、道具師ギルドファスフォリア支部への転送が完了した。そこから〈エメラルド商会〉へ商品受け取りの依頼状が届いて、ラルドが引き取りに行ってくれる。
「それでは、これで転送は完了です。ギルドマスター室へご案内します」
「分かりました」
ジェマはミキに連れられて、一階でハナナと合流してから二階へと上がる。ミキがギルドマスター室のドアをノックすると、凜とした、けれど涼やかな女の声が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼いたします」
ミキがドアを開け、ハナナジャスパーとジェット、ハナナ、ユウの順に入室する。奥のテーブルに座っていた女。スイートよりもより鮮やかな赤髪と、バターのようなまろやかな黄色の瞳が印象的だ。
道行く人を見ながらここまで辿り着いた。その中で見る人々の髪色は、オレン村ではオレンジ色や黄色の髪の人が多かった。けれどこのアッポ村では、赤髪か金髪が多いようだった。
「初めまして。道具師ギルドソルド支部ギルドマスターのレッド・プッチです。よろしくお願いしますね」
柔らかな微笑みにジェマは微笑み返した。
「道具師のジェマ・ファーニストと申します。ファスフォリアで〈チェリッシュ〉という道具屋の店主をしています。それから、契約精霊のジャスパーと契約魔獣のジェットです」
レッドにはジャスパーは見えなかった。けれど気配は感じたようで手を小さく振る。ジャスパーは鼻をふんっと鳴らし、ジャスパーは一本の脚をヒョイッと上げて挨拶を返した。
「ギルド証にも登録がありますから、契約精霊と契約魔獣を連れて歩くことにも問題はありません」
レッドはそう言いながら、ジェマたちをソファに誘導する。任務中のハナナとユウは座らず、ジェマのそばに立った。
「アッポ村への滞在中は、騎士団詰め所で寝泊まりをするんですよね?」
「はい。騎士団に護衛をしてもらっているので、その関係で」
「騎士団の護衛、ですか。それについては姉から窺っていますよ」
「姉? もしかして、スイートさんはレッドさんのお姉さんなんですか?」
苗字が同じだからもしかしたら、とジェマも思っていた。けれどソルトには似たような苗字を持つ人が多いと聞いていた。だから不思議な偶然くらいに考えていたのだが。
「はい。騎士団長のスイートは、私の腹違いの姉です」
レッドはどこか嬉しそうに言った。腹違いの、というところには引っかかったものの、ジェマはどこか似た雰囲気の2人に納得するような気持ちだった。




