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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。3  作者: こーの新


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31/52


 結界を通り抜けてアラクネ種の集落に到着すると、そこは蜘蛛の巣だらけの空間だった。中央の巨木から七つの区画に分かれていて、その一つ一つが各アラクネ種の縄張りとなっている。共同生活をしながらも、種ごとの差異を受け入れ、区分を設けている。



「それじゃあ、ジェットにはこっちに来てもらって。他の皆さんは、興味があれば集落をご案内しますよ」



 眼鏡の男が言うと、ジェマは興奮気味に頷いた。ジャスパーはその様子に苦笑いを浮かべる。ジェットはさっきから頭に乗せてくれている黒い着物の男に連れられて巨木の方に向かって行った。



「それじゃあ、まずはホールアラクネの集落か。おい、ジンクは?」



 眼鏡の男がキョロキョロしていると、その隣に立っていた虚無顔の女性が手を挙げた。



「ここにいるよ」



 その声に族長たちは全員飛び上って驚いた。ジェマたちも突然そこに現れたような気がして飛び退く。輪の中心に立っている女は白い着物を着ている。実はさっきから一緒にいて、人数としてカウントされてはいた。けれど存在感がなさすぎて存在を忘れ去られていた。



「私は、ジンクだよ。ホールアラクネの、縄張りは、こっちだね」



 抑揚のない口調で淡々と、ぬるっと案内を始めた女は、やけに無気力な雰囲気を纏っている。ジェマたち一行は、戸惑いながらもホールアラクネの族長ジンクについていく。



「ホールアラクネは、糸の、中が、空洞というだけで、他に、特徴は、ないよ。縄張りも、なんか、こんな、感じ」



 説明になっていない説明に、ジェマたちは自分の目で集落を確認する。そこは確かに、なんか、こんな感じ、としか言いようがない。特筆するような特徴も何もないような空間だった。


 木々の間に蜘蛛の巣が張られ、そこにホールアラクネたちが生活している。糸が何かに活用されることもなく、ただ、巣の上で生活したり、昇降に利用するだけ。



「別に、使うときに、注意することも、ないし。他の、種より、地味」



 ジンクはそう言いながら、すぅっと気配を消していく。存在感のなさは自信のなさからくるものらしい。ところがどっこい。この何とも言えない空間に目をキラキラさせる人物がいる。



「す、凄い。こんなに、ホールアラクネの糸がっ! 素材の宝庫だ!」



 ジェマがあまりにも目を爛々と輝かせながらキョロキョロしているものだから、ジンクは存在感を消しきれない。興味を持ってくれたジェマになんとか話しかけようと口籠もる。



「あの、その。ホールアラクネの、糸、好き?」



 たどたどしく、やっぱり抑揚のない棒読みな言葉。けれどジェマはその中から一生懸命な気持ちを汲み取って微笑んだ。



「凄く好きです。道具師でホールアラクネの糸が嫌いな人なんていないと思いますよ。使う機会は多いですし、丈夫で使い勝手が良いですから!」



 そう言いながら、ジェマは腰から下げていた【クレンズキャンティーン】を見せた。



「この【クレンズキャンティーン】の吸引用の管の部分とか、あと前に浄水機能付きのベッドに埋め込んだこともあります。他にも、糸を使いながらも害がない必要があるときにはホールアラクネの糸はとっても使いやすいんです!」



 目を輝かせながらぐいぐいと迫る勢いで話すジェマ。あまりの勢いにジンクは仰け反る。その様子をジェマの肩の上から見ていたジャスパーは、呆れた様子でジェマの頬を蹄でつついた。



「ジェマ、ジンクが困っているぞ」


「え? あっ! ごめんなさい!」



 ジェマが慌てて距離を取ると、ジンクは深呼吸をして気配を消した。急に分からなくなったジンクの気配に、騎士たちは戸惑う。ジェマもどこに行ったんだろう、と辺りを見回す。ジャスパーだけが、ジェマの目の前で胸に手を当てて平静になろうと頑張る姿を見守っていた。


 不安になるほどの時間が過ぎ、すっかり落ち着きを取り戻したジンクがまた気配を現す。もちろんジェマの目の前に。今度はジェマが驚いて仰け反ったけれど、ジェマはこの不思議な現象を体験できたことが楽しくて口角が限界まで持ち上がっている。



「凄いですね! 気配を消すことができるなんて!」


「え、あ、いや。ホールアラクネの、糸には、そういう、機能も、あって」


「そうなんですか?」



 ジェマは初めて聞く話に飛びつく勢いだ。ジンクは若干引きながらも頷いた。



「う、うん。魔力を、流すことで、ホールアラクネの、糸は、透明に、なるの」


「魔力を?」


「う、うん。やって、みる?」



 ジンクは人型に擬態したまま、背後から糸を出してそれを手に持つ。そこに緑色のオーラ、魔力を流し込んでいく。すると、確かに糸が透明になって見えなくなった。



「触って、みて」



 ジンクに促されてジェマが触れてみると、何も見えないのに糸の質感は感じることができた。ジェマはそれをぷにぷにしながら考え込む。



「どう? 役に、立った?」


「すっごく!」



 真剣な顔で真っ直ぐにジンクを見て勢いよく答える。ジンクはビクッと肩を跳ねさせたけれど、嬉しそうに、優しくはにかんだ。



「それなら、良かったよ」



 ジンクはぐるりと代わり映えのないホールアラクネの縄張りを案内すると、次のブラッディアラクネの縄張りの入り口までジェマたちを連れて行った。



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