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 現場へは少数精鋭。騎士団からは剣の腕が立つシヴァリーと動物や魔物の扱いが上手いナン、遠視が可能なカポック。そして土属性魔法に長けるジャスパー、魔物の探知力に長けるジェットと通訳兼魔物素材の歩く辞書としてジェマが向かう。



「探索が難しい」


「ピピッ、ピィ―」



 カポックの言葉にジェットが鳴く。ジェマはふむふむと頷いた。



「目標個体は黄色。かつ砂の中に身を潜めながら移動しているようです」


「なるほど。それは『ワーリーを探せ』並みの難しさだな」



 子ども向けの絵本を例えに出したシヴァリーに、その場にいた全員が首を傾げた。移民かつ戦災孤児だったナンも元奴隷のカポック、そして絵本よりも道具の作り方の本ばかり読み漁っていたジェマには絵本というものに馴染みがない。


 当然生後間もない上に家に絵本がないためジェットは絵本を知らないし、ジャスパーも絵本の存在は知っていても読んだことがない。自然に生きる精霊には絵本は縁遠い。


 シヴァリーは平民出身とはいえ元騎士爵家の没落農家出身のシヴァリーは家に絵本も書物もたくさんあった。おねじ平民出身でも、財力と生きてきた世界はそれぞれだ。ジェマはかなり例外だが。


 シヴァリーは良い例えだと思ったものが不発して肩を竦めるけれど、それ以上は気にする様子もなくサラスティーズの索敵に集中する。ナンとカポックも特に気にしている様子はない。ジャスパーはそれを察知してホッと息を吐いた。


 そんなつもりがなくても、相手が傷つけば言葉を発した側が非難される。言葉に頼り切らず、その場の空気と言葉の意図を読み取る力、読み取ろうとする気持ちが大切だ。あるだろう。傍から見ればいじめでも本人たちは内輪ノリだと理解しているとか、いつもよりちょっと言い方がキツイ気がしたとか。


 結局は言葉よりも信頼とその場の空気だ。


 そして全てを言葉に任せてしまえば、言葉狩りの助長に繋がる。言葉はその国の文化であり、国そのものだ。それを自ら奪うことは自殺行為と考えてもそう変わらない。言葉には歴史がある。文化がある。言葉もその国で生まれ育った民の1人だ。


 ナンもカポックも、とっくのとうに自らの出自については受け入れていた。そしてその過去と共に全てもシヴァリーに預けた。シヴァリーに2人の無知をなじる意図がないことくらい分かっていた。全く気にしていないわけではなくても、信頼と互いへの理解が3人の間には強固に築かれていた。



「シヴァリーは本当に信頼されているんだな」



 ジェマは自らの耳元で呟かれた言葉に小さく頷いた。そしてジッと前方を見つめる。カポックのような遠視能力はないが、ジェマには生まれ持った動体視力と培ってきた知識がある。



「いました。頭部はセオリー通り丸っこい三角形、目の上には名前の由来でもある2本の角が生えています」


「角か……」



 シヴァリーが難しい声を漏らすと、ジェマはああ、と付け加える。



「角と言っても鱗なので大して硬くはありません。加工してもお財布の飾りになる程度なので、攻撃力はないです。1番危険なのは噛まれることです。噛まれると身体中の内臓や血管が破れて激痛の上死に至ります。毒矢に塗るための薬としても流通させづらいほどの猛毒です。ただ、私の【回復ポーション】なら完治可能です」



 ジェマの説明に、最初はホッと息を吐いたシヴァリーの頬が引き攣った。角を警戒するよりも噛まれないよう警戒する方がよっぽど難しい。その上、ジェマの【回復ポーション】で治るにしても、噛まれれば痛いし苦しみを味わうことにはなる。



「相手が鎌首をもたれたら距離を取れ。それから、周囲に他の個体がいないか常に注意しろ」


「飛距離は大体体長の3分の1から3分の2くらいですかね。それ以上離れてしまえば攻撃さされにくいですが、向こうも攻撃を放たずに臨戦態勢を維持します。とはいえ必ず攻撃してくるかと言えばそうでもなくて、逃げられると判断されれば逃げられます」



 シヴァリーの指示とジェマの解説にナンとカポックは深く頷いた。一方のジェマは捕獲したら何に使用しようかとウキウキと考えを巡らせていた。


 周囲を警戒しながら慎重に歩を進めると、カポックが足を止めた。耳を澄ませると、ピシッと1点を指差す。その瞬間、砂がもぞもぞと動いた。よく見ると飛び出している角。サラスティーズだ。



「サラスティーズは耳がありません。その代わり舌で情報収集をするという特性があります」


「それじゃあ、背後から近づいてもバレると?」


「はい。狙うべきはサラスティーズが縦に伸びたとき、頭と身体の後ろの方です。巻き付かれないことと噛まれないことを意識してください。噛まれるとかなり痛いですからね」



 シヴァリーたちが噛まれたことがあるのか、と表情を引き攣らせる。けれどジェマは喜々とした態度を崩さずにサラスティーズを見据えている。



「さあ、捕獲しちゃいましょう!」



 ルンルンしながら【マジックペンダント】を手に取り戦闘態勢を取るジェマ。騎士たちもそれに倣って剣を抜く。ジャスパーも魔力を集め、ジェットも糸を吐く準備をした。




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