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 砂漠を歩いて、しばらく。日が傾いて来た。



「ここら辺で野営するぞ」



 シヴァリーの指示に騎士たちがその場でキャメルスを降りる。ジェマも降りようとしたけれど、後ろに座っていたシヴァリーに抱きしめられて止められた。



「俺たちが準備するから、ジェマは待っていた方が良い。彼らを見てみろ。膝くらいまで砂に埋まってしまうだろう? 野営の準備が終わるまではここにいてくれ」


「シヴァリーさんは?」


「私は……ジェマの護衛だよ」



 シヴァリーはニヤリと笑ってジェマを後ろから抱き締めたままキャメルスの上に座っている。その姿を見てハナナがため息を吐いた。



「シヴァリー。他の隊員に示しが付きませんよ」


「ハナナさん、大丈夫だ。元々シヴァリーには威厳も尊厳もない」


「せめて尊厳はあれよ」



 カポックの淡々とした声にシヴァリーは苦笑いを浮かべながら突っ込んだ。そして渋々といった様子でキャメルスから降りた。騎士たちが野営のためのテントや焚火を設置している間、暇を持て余したジェマはアクセサリーを作成していた。



「ジェマ、それはかんざしか」


「そうそう。かんざしって色々な形と種類があるからね。なるべくたくさんの種類を作ることができたら、オシャレの幅も広がるし、私の技術も上がるでしょ」



 ジャスパーが聞くと、ジェマはふふんと笑いながら作りかけのかんざしを見せた。オレゴスの街で入手した鉱石を磨いて作った宝石やマグネサイト領で拾ってきた素材を利用したものだ。ファスフォリアで入手できる素材を使用したものとは違った色と質感。これが〈エメラルド商会〉に並べば異質であることは間違いなかった。



「注目の的になることは間違いないだろうな。ボアレットの街についたらまた商品を〈エメラルド商会〉に送らないと」


「また道具師ギルドに頼むのか?」


「一応ね。ダメだったら自力で持って行って帰ってくるよ」



 ジェマの答えにジャスパーはふんっと鼻を鳴らした。



「やっぱり、こんな大それた隊列を組んで移動するのではなくて、転移魔法で街を転々とした方が良かったかもな」



 ジャスパーは苦々しく呟いた。騎士団に護衛されている状態では目立ってしまう。オレゴスではターコイズとアイオライトが権力を持っていたために街の中で不届きな行動をとるような人物はいなかった。けれど知り合いのいない街で下手に目立てば犯罪のターゲットとなってしまう。



「でも、騎士団に守られているから安全とも言えるじゃん」


「まあ、そうなんだよな」



 ジェマの言葉にジャスパーは腕を組んだ。よく考えてみれば、ジェマが目立つのは騎士団の警護を受けているからではない。その道具師としてのスキルがジェマの名を広めている。騎士に守られることで犯罪のターゲットにされても守られるのであれば、それはジェマが安全に旅をするために不可欠なことだ。



「それにね、旅の道中の出会いと素材こそ道具師にとって大きな糧となる。なんて、お父さんの受け売りだけどね」



 照れ臭そうに笑ったジェマに、ジャスパーはフッと笑った。ジェマの中でスレートの存在は大きい。スレートの背中を追いかけているから、というだけでなく、父として、人として尊敬していた。



「おーい! ジェマ、ジャスパーさん、ジェットさん!」



 駆け寄ってきたシヴァリー。沈みやすいなか、全く動じることなくいつも通りの速度で走ることができるのはシヴァリーのこれまでの訓練の成果だった。



「ジェマ、こっちに来い」



 シヴァリーが両腕を広げて待つと、ジェマは少し迷ってその腕に飛び込んだ。ジェットはその肩に、ジャスパーはシヴァリーの頭の上に座る。シヴァリーが運んで、野営のテントの1つにジェマたちを下ろした。ジェマとジャスパー、ジェットが宿泊する用に持ち運んでいるものだ。



「夕食を作るから、完成するまで休んでいてくれ。まあ、作るのは私じゃないけどな」



 シヴァリーがニシシ、と笑ってテントを出ていく。残されたジェマは有難く商品の作成に勤しむ。さっきまで作っていたかんざしは既に完成していた。次に作成しているのは凝った意匠のブレスレット。ターコイズがプレゼントしてくれたものには遠く及ばないが、これまでで一番小さな装飾を付けることを目指した。


 さすがに慣れないものを作るために集中していると、それを察したジェットはテントの外に出た。テントのてっぺんに上がってボーッと向こうを見つめる。ボーッと向こうを見つめていたジェットが、ハッと何かを見つけた。



「ピィ―ッ! ピィ―ッ!」



 ジェットの警告音にジェマはテントの外に飛び出した。



「ジェット! どっち?」


「ピピィッ!」



 ジェットが示す方に目を凝らすが何も見えない。ジェマとジェットでは視力が違う。



「猛毒? 分かった。シヴァリーさん!」



 ジェマはジェットの言葉を伝えるべくシヴァリーを呼んだ。シヴァリーが駆けつける。一緒にハナナも駆けつけると、ジェマは深呼吸をした。



「向こうからサラスティーズ(サハラツノクサリヘビ)がこちらに向かって来ています」


「サラスティーズ?」


「猛毒を持つサーペント(ヘビ)の仲間です」



 ジェマの言葉にシヴァリーとハナナの表情が硬くなった。



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