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 荷造りを終えたジェマたちは城門へ向かってキャメルスに荷物を積み込んだ。そうしていると、アトラスとリゲルがやってきた。



「ジェマ」



 手を挙げて近づいてくるアトラスに、ジェマはペコリと頭を下げた。



「お世話になりました」


「いや、こちらこそ世話になった。ジェマの道具のおかげで、街の復興も災害支援も進んだ。感謝している」



 2人は握手を交わす。それを見ていたリゲルは肩を竦めた。



「ジェマさんは凄いですね。この堅物騎士団長からたった数日で信頼を得るなんて」


「そうなんですか? リゲルさんも凄く信頼されていると思いますけど」


「私は長い付き合いですから」



 リゲルはそう言うとジェマに握手を求めて手を差し出した。



「もしもまたボアレットに来ることがあったり、私たちの協力が必要な事態になったりしたら、遠慮なく声をかけてください。今回のご恩は忘れませんから」


「ありがとうございます。また来ますね」



 ジェマとリゲルは握手を交わす。ジャスパーはそれを見てふんっと鼻を鳴らした。



「全く、気持ちが良いくらいの手のひら返しだな」


「こら、ジャスパー」



 ジェマが頬を膨らませると、ジャスパーはプイッとそっぽを向いた。ジェマはジャスパーを手のひらに収めるとジーッと目を覗き込む。黄金色の瞳とサファイア色の瞳がぶつかる。



「まあまあ、ジェマさん。私の態度が悪かったことは事実ですから」


「ああ、その通りだ」



 リゲルがジェマを嗜める。未だにぷんぷんしているジャスパーに、ジェマは困ったように頭を掻いた。リゲルは少し悩んで、ジェマとジャスパーに1歩近づいた。



「5大精霊の1柱であるジャスパーさんに、とても失礼なことをしました。申し訳ありません」



 リゲルが改めて謝罪すると、ジャスパーは眉間に皺を寄せた。



「そのことを口外しないなら、許してやらないこともない」



 ジャスパーの言葉に、リゲルは腰に差していた剣を鞘ごと抜いて胸の前で握る。顔の前に鞘を配し、目を閉じる。騎士の誓いのポーズだ。



「この剣に誓って、口外しません」



 その姿に、他の騎士たちは何事かと注目する。特にハナナは何を勘違いしたのか珍しく眉間に皺を寄せている。視線に気が付いたリゲルは悪戯っぽく気障に笑いました。



「おっと。これ以上はダメですかね」



 その様子にさらにハナナの眉間の皺が深くなったが、リゲルはそれを見て楽しそうに笑ってジェマから離れた。すぐに傍に近づいたハナナは心配そうに屈んでジェマと目線を合わせた。



「何か変なことを言われていませんか?」


「ハナナさん、失礼ですねぇ。そんなこと、言うわけないでしょう?」


「そうでしょうか? リゲルさん、腹黒いので心配なんですよ」


「おっと? 心外ですねぇ。ハナナさんこそ、意外とタチが悪いでしょう?」


「何のことでしょうか?」



 ボアレット支部副騎士団長対ファスフォリア支部第8小隊副隊長の笑顔の裏でぶつかるバチバチとした静電気のような空気。ジェマはそれを間近に見て、ほんわかと微笑んだ。



「お二人って、とっても仲が良いんですね」



 ジェマの言葉にその場がシンと静まり返った。ハナナもリゲルも、他の騎士たちもぽかんとしてしまっている。



「ぷっ」


「ハッハッハッ」



 その静寂を引き裂いたのはシヴァリーとアトラスだったシヴァリーはゲラゲラと、アトラスは豪快に笑う。2人の笑い声が響くと、門を通ってボアレットに入ろうとしていた人たちも訝し気に2人を見ながら通り過ぎていった。たまたま居合わせた街の人たちは、笑っているアトラスを物珍しそうに見ている。


 ジェマが何が起きたのか分からずに首を傾げていると、シヴァリーは笑いすぎて溢れた涙を人差し指で拭った。



「悪い悪い。そうだよな。はぁ、おっかし」



 ふう、と息を吐いたシヴァリーはジェマに近づくと頭をわしゃわしゃと撫でた。



「ジェマが言うんだから、ハナナとリゲルは仲が良いんだろうな」


「そうだな。まあ、類は友を呼ぶ、ということだろう」



 アトラスまでそんなことを言いだすものだから、ジェマはやっぱりそうなのか、と満足げに頷く。そんなジェマの様子を見てしまえばリゲルとハナナは押し黙るしかなかった。



「良いことだな」



 ナンがニヤリと笑うと、リゲルとハナナは不満げにナンを見た。その視線を受けてもおかしそうに笑っているナン。リゲルとハナナは諦めたように揃ってため息を吐いた。



「ピッ!」



 突然ジェットが1本脚を上げて何かを指し示す。ジェマがそちらを見ると、背中に大きな鞄を背負ったメンカルが走ってきた。獣型獣人らしく、四本脚で走る姿は本物の獣のようだ。獣型獣人たちはそう言われることを嫌がってあまりその姿を見せないが、本当に焦っているときはこうして走る方が速い。



「すまない、遅くなった」



 急ブレーキをかけて止まったメンカルは、ジェマの前に立つ。ジェマは肩に背負っていた【クレンズキャンティーン】からコップに水を移して差し出した。



「ありがとう」



 水をゴクゴクと飲み干したメンカルはふぅっと息を吐いた。



「ジェマ、そろそろ出発するか?」


「はい、そうしましょう」



 先にシヴァリーがキャメルスに跨ると、ジェマがシヴァリーの手を借りてよじ登る。ジェマの肩にジャスパーとジェットが乗った。



「アトラスさん、リゲルさん、またお会いしましょう!」



 ジェマとジャスパー、ジェット、第8小隊の騎士たち、メンカルはキャメルスの手綱を握り、アトラスとリゲルに別れを告げてボアレットの街を後にした。



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