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土産屋メンカル


 ジェマたちは市場の端にある店舗に向かう。村の入り口に近い土産物屋だ。



「これはまた……良いお店ですね。あっ! これはっ!」



 ジェマは店先にあったアパンティアディ―(ウチワサボテン)の鉢植えに目を輝かせる。砂漠地帯や山岳地帯に植生している植物だ。過酷な環境に堪えるために葉に水と栄養分を蓄えている。トゲの部分に綿毛のような刺座があるのが特徴だ。



「これは挿し木をすればどんどん繁殖するので、1つの鉢植えがあればいくらでも繁殖させて素材として活用することができます! 保湿力のある化粧品を作成できるんですよ!」



 目をキラキラと輝かせるジェマ。ジャスパーたちはそれを微笑ましく見つめている。



「ジェマさん、買いたいものがあれば私が一時的にお持ちしますね」


「ありがとうございます、ハナナさん」



 ジェマはアパンティアディ―の鉢植えを1つハナナに手渡す。そしてまた次の素材を探しに店内に入っていく。



「これはっ! ガゼラマルカ(サンドガゼル)の角じゃないですか!」



 ジェマはさらに目をキラキラと輝かせる。薄茶色の身体に黒い帯のような模様と、その下に白い腹。そしてドリルの先端のような角。顔には黒い斑点がある。



「この角は砕いて調合すれば薬になるんです! あれ……でも、他の素材は……」



 ジェマが首を傾げて店内をキョロキョロと探し回る。すると店の奥からペタペタと足音が聞こえた。



「客か?」


「お邪魔しています。店主殿」



 シヴァリーが代表して挨拶をする。店主はホワイトフェリス(しろねこ)の獣人だ。見た目にはほとんどフェリス(ねこ)だ。獣人には獣型と人型の2種類がある。この店主は獣型だ。



「騎士か……それと、そこの子どもは?」


「彼女は道具師です」


「ジェマと申します。ファスフォリアで〈チェリッシュ〉という店舗を経営しています」


「道具師か。俺はこの〈ホエール〉の店主、メンカルだ。何か素材を探しているのだろう? 何を探している?」



 メンカルは値踏みするようにジェマを上から下まで眺める。逆にジェマはメンカルの手を見つめていた。メンカルの手は肉球だ。もちもち、ぷにぷに。メンカルは不快そうに手を引っ込めるとジェマを見つめる。



「早く答えろ。何が欲しい」


「あっ、そうでした。ガゼラマルカの皮や眼球、蹄はありませんか?」


「……は?」



 メンカルは固まった。そして恐る恐る指を差した。



「ガゼラマルカの角なら、そこに……」


「はい、それは見ました。買います。ですが、他の素材が欲しいんです。皮や眼球、蹄。可能なら内臓も」



 メンカルは唖然として、おずおずと手を挙げた。



「少し、良いか?」


「なんでしょうか」


「皮や眼球、蹄は、何に使うんだ? そもそも素材になるのか?」



 メンカルの疑問に、今度はジェマが首を傾げた。



「なりますよ? 皮はなめせば服飾品になります。眼球は水晶体をスライスしてレンズに、水晶体以外は回復薬の素材になります。蹄は装飾品や建築素材、他にも武具に使われることがありますね」



 ジェマが説明する間、メンカルは目を見開いていた。そして次第にわなわなと震え始めた。



「そ、そんな使い方……この街ではしませんよ!」


「どうしてですか? この街の特産品でしょう?」


「いや……そんなこと、考える人がいませんし……」


「いや、解体した素材は全て活用しなければ勿体ないでしょう?」


「えっ、あんなに大量にいるガゼラマルカに勿体ないという発想があるのか?」



 二人の間に沈黙が流れる。先に口を開いたのはジェマだった。



「精霊を崇拝するのに、自然物や生き物のことは大切にしないのですか?」


「そ、それは……」



 メンカルがたじろぐ。話を聞いていたジャスパーはふんっと鼻を鳴らした。精霊は自然と共生するものだ。動物も例外ではない。



「……この街は、考え方が極端なんだ」


「極端?」



 黙って2人の話を聞いていたシヴァリーが聞き返すと、メンカルが小さくため息を吐いた。



「この街のやつらは深く考えない傾向にある。目の前にあるものしか見ないんだ。目の前のものが何に関わるかなんて考えない。興味がない。だから精霊は大切にしても、精霊が大切にしているものを大切にする、なんて考え方をするのは一部の精霊が見えるやつらだけだ」


「なるほどな……」



 シヴァリーは苦笑いを浮かべた。ジャスパーがジェマの肩の上で不快そうに蹄を打ち鳴らしている。それが見えてしまっているシヴァリーは、下手なことを言わないようにと口を噤まざるを得なかった。



「精霊が見える人たちはその先まで見えるけれど、見えない人たちには先すら見えない、と」


「そういうことだ」



 メンカルはそう言うと、ジェマをジッと見つめた。ジェマが首を傾げると、メンカルは1歩ジェマの方へ踏み出した。



「ジェマと言ったな? これでお互いに知識を提供したことになる」


「そ、そうですね?」



 ジェマが訝しむと、メンカルは顎を上げてジェマを見下ろした。高圧的な態度にシヴァリーとハナナ、ナンは念のため構えた。メンカルはそれを気にもせずニッと笑った。



「ジェマ、俺にもっと知識をくれ。知識の分だけ、割安で素材を売ってやる」



 ジェマは一瞬ポカンとしてメンカルを見つめ返した。けれどすぐにいつもの営業スマイルを浮かべた。



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