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 朝食を完成させたジャスパーに叩き起こされたジェマは、もぞもぞと布団から這い出した。ジェットも一緒に起き出すと、ジェマと一緒にグイ―ッと身体を伸ばした。


 そして起きてすぐだというのにジャスパー作の朝食を頬張る。今日のメニューはきのことオアシスバトイデアの炊き込み麦飯。ほろほろしたオアシスバトイデアの身を堪能できる一品だ。



「これでオアシスバトイデアも最後かぁ。なんだか悲しい」


「まあ、超貴重な食材だからな。それから今日の午後には街を出るから。準備は……」



 ジェマの散乱している荷物を見て、ジャスパーは苦笑いした。その表情に、ジェマは口の中にあったものを慌てて飲み込んだ。



「だ、大丈夫だもん。帰ってきたら、すぐに準備するし」


「ここでしか買えない素材の調達もするんだろ? 時間は足りるのか?」


「大丈夫! お店はハナナさんが調べてくれたし、そこに行って急いで買うから!」



 いつも買い付けのときに時間をかけて吟味しているだろうに、とは口に出さないジャスパーだった。


 食事を終えたジェマたちは、指輪を手に待ち合わせ場所である噴水広場へ向かった。元々五大精霊の彫刻が施された噴水だった瓦礫が積み上げられているその前に、小さな花の門が設置されていた。あれの前で永遠を誓うらしい。



「ムジカさん」



 真っ白なタキシードを着てそわそわしていたムジカは、ジェマの声に気が付いてパッと振り向いた。そして駆け寄ってくると、近すぎるほど近づいた。すかさずハナナがガード。ムジカはハッとして離れた。



「すみません、つい……それで、指輪は、どうですか?」



 焦ったような声。ジェマは【次元袋】から結婚指輪が入ったリングケースを取り出した。ムジカはそれを慎重に受け取ると、そっと開いた。



「す、すごい……」



 ムジカが思わず感嘆の声を漏らす。太陽の光を控えめに反射しつつ、はっきり存在感もあるリング。透かし彫りのように彫り込まれたハプカム構造のおかげで影ができてより立体感を感じる。



「とても軽く、傷がつきにくい素材を使っています。お仕事中に付けていても壊れにくいですよ」


「ありがとうございます! いつでもつけていられるなんて、とっても嬉しいです」



 目を輝かせるムジカに、ジェマは安堵の息を吐いた。初めての一生物の道具の作成はひとまず成功と言えそうだった。



「この、不届き者が!」


「うちの子は死んだのよ! 街の人もたっくさん!」


「喪に服すべきだ!」



 散々に言われて、ムジカは俯く。ジャスパーとジェット、シヴァリーとハナナはジェマの周囲を固めてジェマに飛び火しないようにガードする。1人、ナンが街の人々の前に歩み出た。街の人々は突然目の前に立ち塞がった騎士にたじろぐ。



「こういう非常時だからこそ、皆さんに少しでも明るい気持ちになって欲しい。生き残った人が前を向いて笑って欲しい。そういう姿を見せて亡くなった人たちに安心して欲しい。その気持ちは間違っているでしょうか」



 ナンの言葉に街の人々はグッと言葉に詰まった。シヴァリーは苦笑いしながら進み出ると、ナンの隣に立って肩を叩いた。



「ナン、そこまでだ」


「シヴァリー。どうしてですか。こんなの、不当でしょう」



 奥歯を食い縛って声を漏らすナン。シヴァリーは微笑んでその肩をポンポンと叩いて街の人々の前に進み出た。



「ナンが言うことも、きっと皆さん分かっているんですよね。でも、まだ気持ちの整理、つかないですよね」



 隣に並ぶように穏やかに話すシヴァリーに、街の人々はぎこちなくも頷く。それを見て1つ頷いたシヴァリーは優しく微笑んだ。



「悲しい気持ちを忘れたり、すぐに気持ちを切り替えたり。そんなことはしなくて良いんです。でも、あなたたちが生き残って良かったと思っている人や、昔のように一緒に笑い合いたいと思っている人がいることは心に留めておいてください。きっと心が押し潰されそうになったとき、きっと心の支えになりますから」



 シヴァリーが一礼してジェマの元に戻ると、街の人たちは何も言わずにその場を離れていった。ムジカはただその言葉をジッと聞いていた。



「ムジカ!」



 そのとき辺りに響いた声。誰もが振り向いて、息を飲んだ。



「あ、アルケス……」



 真っ白なウエディングドレスを身に纏い太陽の光を浴びる天使のような女性。小柄で子ども顔。快活な笑みを浮かべているのはムジカの花嫁、アルケスだ。



「どう? 綺麗?」


「うん……綺麗過ぎて……」



 言葉に詰まったムジカはポロポロと涙を流す。それを見てアルケスは目を見開くと、ケラケラと笑ってムジカの背中を擦った。



「もう、泣かないでよ。ありがとう、ムジカ」


「僕こそ、ありがとう……」



 2人の幸せな姿に、街の人々は拍手を送ったり、口笛を鳴らしたり。もちろん目を逸らして立ち去る人も舌打ちする人もいた。それでも2人は幸せそうに笑った。その姿を見て、ジェットはジェマの肩から飛び立った。ジェマはそれを微笑んで見送り、シヴァリーは目を見開いた。


 ジャスパーは五大精霊の彫刻が施されていた噴水だった瓦礫の傍に降り立った。そしてジェットは蹄を瓦礫に翳した。



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