表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/52


 太陽が昇って空が明るくなったころ、ジェマは後ろにひっくり返るように倒れ込んだ。ガタンッと大きな音が響くと、その音に驚いてジャスパーが飛び起きた。



「ジェマ!」


「なんだ!」


「どうした!」



 隣の部屋からも飛び起きた騎士たちや部屋の入口で警護していた騎士が集まってくる。寝起きでも構わず剣を構えていた騎士たちは床に倒れているジェマに目を見開いた。シヴァリーはジェマの傍らに飛び立ったジャスパーを見て、騎士たちを手で制す。そしてジャスパーに静かに声をかけた。



「ジェマは?」


「寝ているだけだ。徹夜だったからな」



 作業机の上には完成し、シルバーの輝きを放つ1組の指輪。ハプカム構造に削り込まれた指輪の内側には依頼者夫婦の名前も彫り込まれている。



「これを、1晩で……」



 シヴァリーは信じられないという顔で首を横に振る。ジャスパーもその完成度に驚きながら、そっと指輪に蹄を翳す。



「……良かった。指輪に魔力は含まれていないな」



 ジェマが寝ぼけて魔力を注いでしまうことがなかったことに、ジャスパーはホッと息を吐いた。魔力が注がれてしまっていたら、危険性がないと言い切れない。これだけの精巧な作品を作り直さなければいけなくなってしまう。



「ハナナ、受け渡しはいつなんだ?」


「今日の結婚式が始まるまでに、式場となる噴水広場で、とのことです」



 結婚式が始まるのは太陽が中天に昇るころ。まだ少し余裕があった。



「少し寝かせてやろう」



 シヴァリーはジェマを抱き上げて布団に寝かせてやる。ジェマは布団の中ですやすやと穏やかに眠る。その姿に騎士たちはほっこりした気持ちになった。



「少ししたら起こしてやろう。朝食を食べたら出かけるだろう? 今日の警護は俺とハナナ、それから念のためナンにも来てもらう」


「分かりました」


「他のみんなは訓練と街の復興の手伝いだ。仮眠も交代で取ってくれ」



 シヴァリーの指示に騎士たちが頷く。ナンはシヴァリーの傍に駆け寄ると、眉間に皺を寄せていた。



「シヴァリー。どうして今日は俺も行くんだ?」


「私たちはボアレットの結婚式の礼儀を知らないからな。ナンなら知っているだろう?」


「なるほど。そういうことか」



 ナンは納得して、他の騎士たちと共に部屋に戻って行った。残ったのはシヴァリーとハナナ。シヴァリーはジャスパーに向かって苦笑いを浮かべた。



「本当は、街の人間が結婚式に反発をして暴徒化する危険を考えてだ。結婚式に協力したこと、街の人間ではないことでジェマに危害を加えようと考えるやつがいてもおかしくないからな」


「そうだな。そういう可能性もあるんだよな」



 ジャスパーは過去を思い出すように遠い目をした。その姿からシヴァリーは目を逸らさなかった。そうしなければいけない気がしていた。



「シヴァリー。我はこれまで人間の素晴らしさも、蛮行も見てきた。それでも人間が好きなんだ。でも、ジェマに手を出すなら、我は人間を嫌いになるやもしれない」



 ジャスパーは苦し気に言葉を紡ぐ。シヴァリーはその姿に胸が痛んだ。ジャスパーが見てきた世界は、人間には分からない。同じ時代を生きてきた他の4柱の大精霊たちも、全く同じ景色は見ていないだろう。



「我がジェマとスレートと契約をしたのは偶然だ。だけどな、ジェマもスレートも、大好きなんだ。真っ直ぐで、より良い未来を作ろうとする2人が、大好きなんだ」



 柔らかく微笑んだジャスパーは布団で眠るジェマの髪を優しく撫でる。ジェマの表情が緩んだようで、ハナナが甘く優しくその寝顔を見つめた。



「ジェマのことは私たちが必ず守る。だから、心配するな」



 シヴァリーが言うと、ジャスパーは頷いてシヴァリーの肩に飛び乗った。



「信頼している」



 ジャスパーはシヴァリーの耳元で囁くと、飛び上って部屋を出ていこうとする。



「ジェット、ジェマを頼む。我は食事の用意に行ってくる」


「ピッ!」



 ジャスパーが去り、シヴァリーも部屋に戻っていく。残ったハナナは、そっとジェマに近づいた。すやすやと安らかに眠るジェマ。ハナナはそっと手を伸ばす。



「ピピーッ!」



 ジェットが即座に威嚇すると、ハナナはパッと手を引いた。そして苦笑いを浮かべてジェットと視線を合わせるように机の前にしゃがみ込んだ。



「私はジェマさんを傷つけませんよ」


「ピピィ?」



 ジェットがぐりんっと首を傾げると、ハナナは小さく笑った。そしてジェットの頭を撫でてやる。ジェットはその優しく宥めるような手つきに満足げに丸くなって寝転がる。



「ふふっ、可愛らしいですね」



 ハナナはジェットから手を離すと、再びジェマを見つめる。相変わらず心地良さそうに眠っているジェマ。その手が布団から出てしまっているのを見て、ハナナはそっと布団を掛け直してあげた。



「良い夢を」



 小さく呟いて、ハナナも部屋に戻る。静かになった部屋にはジェマの寝息だけがすぅすぅと聞こえる。ジーッとジェマを見つめていたジェットは、ぴょんっとジェマの胸の上に飛び乗る。そしてジェマの首元から布団の中に潜り込んで身を寄せて丸くなった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ