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 ジェマは騎士団詰め所の部屋に入ると材料を漁り始める。オレゴスの街で大量に調達してきた鉱石たち。その中にある指輪を作成するために鍛造を終えていたもの。その中でもさらに結婚指輪になり得て、耐久性の高い素材を探す。



「ジェマ、何にするつもりだ?」


「今の手持ちで合金は難しいから……」



 ジャスパーに答えながら、ジェマは2種類の素材を選び出した。ブラックの金属、タンタライズ(タンタル)とシルバーの金属タイタン(チタン)だった。



「これはどちらも耐久性が高い上に金属アレルギーでも付けられる。チタンは軽さが特徴で、着け心地の良さを追求するならこれが1番良いと思う。タンタライズの方は硬すぎるから加工が難しいけど、鉱石自体の黒を活かしているから色落ちとかもなくオシャレな感じが出るんだよね」


「ハプカム構造にするなら、タンタライズだと無理がないか?」


「そうなんだよね。彫金ならまだしも、確実に削ることになるだろうから……」



 ジェマは考え込んで、決断した。



「よし、今回はタイタンで作る。軽さはどんなときでも付けていられる利点になるし」


「素材についても希望を聞いておけば良かったな」



 ジャスパーの言葉に頷く。普通、道具師は使用用途や見た目の希望しか聞かない。素材を指定されると機能やデザインを重視した道具を作成しづらくなるからだ。ただし特注のアクセサリーなら別だ。可能な限り要望に応えることが求められる。



「まだまだだなぁ……」


「我からすれば、普通は3か月はかかる指輪の作成を1晩で終わらせようとしていることの方に呆れるがな」



 そう、ジェマは日ごろから手早くアクセサリーを作成してしまうが、普通のことではなかった。鍛造から始めれば3か月は妥当。けれどジェマには期間の短縮をする秘密兵器があった。



「これがあれば平気だって」



 ジェマが取り出したのは金槌(かなづち)だった。もちろん普通の金槌ではない。内部には火属性魔法と水属性魔法の魔石が埋め込まれ、窯がなくても鍛造が可能なお手軽仕様。さらに(たがね)にも風属性魔法の魔石を埋め込み削った金属が手元に溜まらないようにしているし、先端にはダークアラクネの糸を埋め込んで簡単に削ることができるようになっている。


 小さなことの積み重ねがジェマの作業効率を上げている。もちろんこれだけではないのだが。ジェマは魔力のコントロールが上手くいかないことがある。金槌と鏨に加工し魔石を埋め込むときに魔力が暴走していた。そのため普通ではありえない効果が付与されていた。


 時間短縮の錬金魔石を使用していると説明しても、説明しきれない、まさに魔法のようなこと。ジャスパーはそれを知りながらもジェマには何も言わなかった。国にも把握されていない未知の事象。歴史的にも類を見ないことが世間に知られることを恐れていた。全ては、ジェマのため。


 旅の途中に出会ったアイロブラウノに渡した塗料もそうだった。魔力が込められた道具や魔石付与魔道具には特殊な性能が付与される。ジャスパーは人知れずそれについて調査しているが、進展はない。



「よし、じゃあ始めるから、眠かったら寝ていて良いからね。あ、でもちゃんとお布団で寝てね?」



 心配そうに言うジェマに、ジャスパーは頬を緩ませた。



「ジェマこそ、無理はするなよ。自分の身体のことももっと大事にしてやれ」



 ジャスパーはジェマの頬にキスをして、キッチンに向かった。ジェマの夕食を用意するためだ。ジェットはいつもはジェマの傍から離れないが、今日はジャスパーについて行った。


 ジェマは1人残された部屋で形を整え始める。形を整えたら、やすりで尖りがないように削っていく。ジェマは慎重に、けれど素早く整形していく。1つ完成したら、もう1つも形を整える。ペアリングであるからには、サイズ違いで同じ形になることを目指す。ジェマは完成したものの幅や光沢を確認しながら削る。



「ジェマ、夕食だ」



 ジェマが2つのリングの土台となる整形を終えたとき、タイミング良くジャスパーが夕食を運んできた。昨日と同様にオアシスバトイデアがメインに使われている。



「今日は昨日より少し豪華にしてみた。ジェマが喜んでくれたオアシスバトイデアの煮つけサンドイッチと、オアシスバトイデアの炙りとブルーペリラ(青ジソ)の包み揚げだ」



 ジャスパーが差し出したのはいつも見るサンドイッチと、小麦粉で作られた皮で包んで揚げた料理。皮の中でオアシスバトイデアの炙りを包み込んでいるブルーペリラは青々とした葉の香草だ。夏から秋にかけて収穫され、防腐作用や殺菌作用があると有名なものだ。よく刺身に敷かれ、ジェットの皿に置かれたオアシスバトイデアの刺身の下にも敷かれている。



「美味しそう」


「煮つけの方は少し甘辛く味付けしてあるから、包み揚げの方は塩味を感じられるようにしてある。この形なら手早く食べられるだろう?」



 ジェマは頷くと、作業スペースから離れた。いつになく金属の扱いに慎重になるジェマに、ジャスパーは小さく微笑んだ。



「3人で食べよう」


「ああ、そうだな」


「ピッ!」



 束の間の休息。ジェマは刺身をガツガツと食べるジェットとその世話をするジャスパーを微笑まし気に眺めながら自分も食事を楽しんだ。



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