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 ジェマによっていつものように飛ばされたウインドシールドとウォーターボール。オアシスバトイデアの頭部を明確に切り裂き、打ち抜いていく。あっという間に8体のオアシスバトイデアの遺体が転がった。



「ジェマ! まだ行くぞ! あと20ってところだ」


「分かった」



 ジャスパーの言葉にジェマはさらに魔石付与魔道具に魔力を込め始めた。今度はより多く。一気に討伐しなければ反撃されかねない。



「風よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ。水よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ」



 ジェマの呼び声に応えるように、さっきの倍近い数のウインドシールドとウォーターボールが出現した。ジェマはそれを器用に操ると再びオアシスバトイデアにぶつけていく。一撃必殺。それができなそうだと判断すると、軌道を逸らして魔法を空に打ち上げる。


 それでもほとんどは的確に打ち当てて、残りは5体ほど。ジェマは再び【マジックリング】と【マジックペンダント】に魔力を込めようとした。けれどその瞬間、2体のオアシスバトイデアが飛び込んできた。



「ジェマ!」



 シヴァリーが叫んだ瞬間、ジェットがジェマの肩から飛び上って糸を吐いた。糸は1体のオアシスバトイデアの脳のすぐ下に絡みつくと、綺麗に切断された。そのとき、もう1体のオアシスバトイデアに向かってジャスパーが魔法を放った。



「アースウォール」



 オアシスバトイデアは砂でできた土壁にぶつかって湖に落下した。柔らかな壁のおかげでオアシスバトイデアは怪我をしなかったが、勝てないと悟ったのか他の仲間と共に湖の底に逃げ出した。


 その様子を見ていたジェマは【マジックリング】と【マジックペンダント】を仕舞って湖の底を覗き込んだ。



「オスとメスが6体ずつと、幼体が数体ってところかな」


「良い具合に間引きができたんじゃないか? この湖の規模ならこれくらいじゃないと溢れるさ」


「……いただいた命はきちんと使い切らないとね」



 オアシスバトイデアの遺体を見たジェマは【次元袋】から解体のためにジェットの糸で作った糸鋸を取り出した。



「ジェット、解体を手伝ってくれる? ジャスパーは解体したものを【次元袋】に収納して。後で分配したいから、何も入っていないものに入れてね」


「分かった」


「ピッ!」



 後ろで呆然としているボアレット支部の騎士たちをよそに、ジェマはせっせと解体作業を進めていく。その姿に笑うしかないといった様子のシヴァリーは、ジェマに歩み寄る。



「ジェマ、手伝うよ」


「ありがとうございます。では、これを使ってください」



 ファスフォリア支部の騎士たちはジェマの手際に呆然としていたけれど、シヴァリーが動き出すとすぐにジェマたちを手伝い始めた。その様子を見たアトラスは、リゲルの肩を叩いてジェマの傍らに膝をついた。



「ジェマ、何をすれば良い?」


「アトラスさん。では……解体をお願いします。皮を剥いで、内臓を取り出したら【次元袋】に収納してください」


「【次元袋】?」



 聞いたことがない道具の名前にアトラスが首を傾げると、ジェマは微笑んでジェットを呼んだ。



「ジェット、【次元袋】を1つ作ってくれる?」


「ピッ!」



 ジェットは嬉しそうに片脚を上げると、シュルシュルと糸を吐いて器用に【次元袋】を編み上げていきました。アトラスはそれを興味深そうに見ていた。ジェットは完成したものを自慢げにジェマに渡す。ジェマはジェットの頭を優しく撫でた。



「ありがとう、ジェット」


「ピピッ!」



 ジェットの嬉しい感情がジェマの心に伝わってくると、ジェマは嬉しくなって笑った。アトラスはそんな2人の姿をジッと見ていた。



「これが【次元袋】です。上限はありますけど、かなり小さく軽くなるので持ち運びに便利なんですよ」


「アラクネ種の糸にはこんなことができる能力がある種がいるんだな」



 アトラスは感心しながら解体を始めた。ジェマとアトラスの会話に聞き耳を立てていたジャスパーはホッとしながら再び手を進める。アトラスが知識が豊富であれば、ジェマの秘密に辿り着かれてしまう可能性もあった。


 みんなで黙々と作業をしている中、呆然としていたリゲル。それに気が付いて、ジャスパーはリゲルの元に向かった。



「どうだ? うちのジェマは」



 ジャスパーの言葉に、リゲルは俯いた。その姿に、ジャスパーは内心勝ち誇ったような気分だった。けれど同時に、とんでもない才能を目の当たりにしたリゲルの心情を察するような気持ちもあった。



「ここまでとは、思いませんでした。でも、あの自信の理由は分かりましたよ。あれは、敵わないですね……」



 さらりと前髪を払う仕草。リゲルはいつもの調子を取り戻していた。ジャスパーはその姿に少し安堵した。ジェマをいじめる相手は嫌いでも、長くこの世界にいる身としては人間はみんな我が子のような感覚に近い。



「これからはジェマさんへの協力を惜しみません。それから、ジェマさんの言葉を、精霊たちは味方だということを、信じてみようと思います」


「そう思ってくれるのか?」


「はい。ジェマさんは証明したんですよ。精霊や魔物と、共生していることを」



 リゲルは全てが吹っ切れたように笑った。ジャスパーはぽんっとリゲルの背中を叩いて作業に戻る。リゲルもジャスパーの作業を手伝い始めた。



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