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第8話 待ち合わせ、そして思わぬ事件

「お嬢様、夕食のお時間でございます」


マリアの声が聞こえ目を覚ます。

私は寝てしまっていたのね。

窓の外を見ると夕日が沈みかけ、辺りは徐々に暗くなっている。

開いていたカーテンを閉めながらマリアは言った。


「何度もお呼びしたのですが、

お嬢様はとても疲れたご様子で、ずっとその椅子でお休みになられていました。

なので無理には起こさず寝かせたままにさせていただきました。

夕食ですが……」


夕食?

食堂でお父様とテーゼに会うなんて、ご勘弁いただきたいですわ。

今日は絶対に無理。

特に!あんな仕打ちをしたテーゼの顔は見たくもない。


「いえ、部屋に運んでちょうだい。

ここでいただくわ」


「かしこまりました、お嬢様」


と、マリアは口元を緩めながら返事をした。

そのニヤニヤとするような少し気持ち悪い笑い方に、

何かあったのかしら?と心配になる。


しかしすぐに

はっ、と彼のことを思い出し


「マリア、あなたなぜニヤニヤしているの?正直におっしゃい。

新しい使用人に会ったの?セバスチャンは戻ってきたんでしょう?」


私はマリアに少し早口で問いただす。


「失礼いたしました。

セバスさまに服を渡しに行った際にご紹介いただき

自己紹介程度ですが言葉を交わさせていただきました。」


やっぱり帰ってきていたのね。

マリアのこの反応、

セバスチャンったら一体どんな紹介を……

まぁいいわ。

それよりも配信のアイコンとやら作ってもらわなきゃ。

でも、お父様やテーゼに見つかったら面倒なことになりそうだわ。


考え込む私の心情を察してか

マリアはそっと耳打ちをしてくる。


「先ほど旦那様からの早馬が来て、

『私とテーゼは、今夜ヴィスコンティ邸に泊ることになった。

明日には帰るが、その間いつも以上に警備に手を抜かぬように』

とのことです。

誰に……とは言いませんが、会おうと思えば会えるのではないかと」


それを聞き、二人が帰って来ないことにほっとする。

しかし、マリアの最後の言葉に恥ずかしさを覚え


「な、何を言い出しますの。わたくしはそんなはしたない女ではなくってよ」


と焦りながら答える。


「申し訳ございません。言いすぎました」


マリアは微笑みながら返事をしてきた。

その表情に、また少し恥ずかしくなる。


とはいうものの、マリアの言う通り。

これは、アイコンとプロフィールを作ってもらえるチャンスとみた。


「マリア、よくって?

わたくしが夢中になっている趣味について、相談をしに行かなければいけません。

会いたいから会いに行くのではなく、

会いたくなんてないのですが、しかたなく行くのです」


「ふふっ、そうですね。

 承知しております」


まだ微笑みをやめず、返事をするマリア。

本当にスマホの操作がよくわからないから、しかたなく会いに行くのに……

まったく、困った侍女ね。


スマホを手に持って部屋を出た私は、

早足で廊下、階段、ロビーを抜け中庭に出る。


ここのアーチをくぐれば使用人部屋へ続く通路だ。

使用人部屋が近付いてくると、

部屋の前に立っている人物がいることに気付き、目が合う。

まさか……彼かしら?

私が来ると察知して待っ……


「困りますね、お嬢様」


セバスチャンだった。


「お嬢様の後ろに隠れている者も、出てきなさい」


私の後ろ?


「申し訳ございません。セバス様」


柱の陰からちょこんと顔を出したのは、マリアだった。


もちろん私のことを心配して付いてきてくれたのだと思う。

好奇心ではない…はず……きっと、たぶん、少ししか。

セバスチャンは私たち二人を交互に見て

大きな溜息をつく。


「わたしたちが協力しますので、直接お会いになるのはおやめください。

旦那様とテーゼお嬢様には内密にいたしますから。

マリア、お嬢様から何か要望があったら上手く計らうように」


マリアは返事の代わりに軽く頭を下げる。


「ごめんなさい、セバスチャン。マリアも」


少し舞い上がりすぎていたかもしれないわね。

自分の軽率な行動を反省し

私は素直に謝罪をする。


「今回はわたしが呼びますから、

お嬢様は中庭のガゼボでお待ちください」


セバスチャンに諭されて、私は中庭に向かった。

確かに、中庭のガゼボは待ち合わせするのにちょうどいい。

夜ならなおさら、誰かが密会していたとしても暗くて見つかりづらいうえに

貴族界隈では暗黙の了解で、皆見て見ぬふりをする。


ひっそりと会うのに都合がいい場所を、

迷いなく勧めてくるセバスチャン。

ひょっとしてセバスチャンも使って……!?

いや、深くは考えないでおこう。


少し待つと

遠くから足音が近づいてくる。

何故かしら?ドキドキしてきた。

これはいったい……


「何の用?俺忙しいんだけど」


私のドキドキを返しなさい。口の利き方がなってないわ。


「忙しいことってなんですの?今日、使用人になったばかりで」


「飯だけど?

お前、シチュー大盛りで、黒パン二枚つけるって言ったじゃないか。

 こんなにあったら大忙しだろ」


当然だろ?という表情をする彼。

呆れた。本当にお腹が空いた犬だったのね。

そんな気持ちを表には出さず優しく彼に懇願した。


「あの……配信していたら、リスナーの皆さまからアイコンないね、とか、

プロフィールないね、とか言われたので、

作っていただきたいのですが…できますか?」


彼はあからさまに嫌そうな表情になり


「そんなことで呼んだのか?

俺の飯の時間に?

だるっ!面倒くさっ!」


そう言い放つ。

まぁこう言われるのは予測済み。

でも、諦めたらそこで試合終了ですわ!


「今日の夕食は、家族の分が不要になったので

あなたの態度次第で食べ放題になるような気がしてきましたわ。」


切り札は最後まで取っておくものですの。


「見せろよ」


よし!と思いながら

私は彼にスマホを渡そうと画面を見せる。

すると急に彼の顔色が変わった。


いきなり私の身をひきよせ、耳元でささやいた。


「これはドッキリか?

ただのいたずらか?」


きゃっ…大胆ですわ。

でも何のことでしょう?


私が何のことかわからずにキョトンとしていると

大きなため息をつき彼が口を開く。


「いいか、落ち着いて聞け。

……まだ配信中になってる」


彼の言葉に驚き


「え?」


と声を上げてしまう。

スマホを見ると次から次へとコメントが流れていく画面が目に入る。

入室者が百人を超えていた。


「ありえない。スマホ渡したのは今日だよな?

もう入室者が百人超えかよ」


「百人超えって、そんな凄いことですの?」


(初心者なら多くて十人とかじゃないかな?)

(初日で百人はすごすぎだと思うよー)

(お屋敷ツアーおもしろかった!!)

(メイドさんの声可愛かったね~)

(渋いおじ様の声は執事かしら?ドストライクすぎて///)

(さっき、ビビアンを引っ張った人って転移してきた男?)

(え!何それ気が付かなかった、何してたの?まさかキス……とか?)

(リア充爆発しろ!)


配信が終わってからスマホを片付けていてよかったですわ。

寝顔なんて見られていたら私……

ってそうじゃなくて、

そういえばバツボタンを押した後の確認画面で

改めて終了に同意しなければいけなかったのを、忘れていた気がしますわ。


その画面を操作せず、ポシェットに片付けてしまったので

配信が切れておらず、今までのことはダダ漏れだった様子。

マリアとの会話、屋敷内の様子、セバスチャンに怒られたこと、そして彼の声までも。


「何ぼーっとコメント見てるんだ!早く切れ!」


「あなただって見てるじゃない!」


などと言い争いしている声も全て入っている。


(けんかはやめて~♪二人を止めて~♪)

(それ何かの曲?)

(あー誰かがカバーしてたの聴いたことあるー)

(状況がカオスすぎてww)

(めっちゃ、おもろいなこの配信w)


この状況はまずいですわ!

すぐに配信終了しないと!

バツボタンを押して

今度は間違いなく確認画面で同意!

無事に配信を…終了できましたわ。


いえ……もう無事ではありませんわね。


「まったく……

ろくなことがない。

スマホ貸せ」


彼はスマホを私から取り上げて、素早くいじり始めた。

まさか、配信できないようにしてるとかじゃないでしょうね。それはやめて。


私が祈るようにしていると


「えーっと、アイコンはこれで、

プロフは……これでいいか。はい、終わりました!」


彼が返してくれたスマホを見ると、

丸く切り取られた可愛い女の子の絵がアイコンになっている。


「誰ですのこれ?

どこからこんなかわいい子が出てきたのよ。どこの女!?」


さっきまで配信が出来なくなるかもと

ビクビクしていたのが嘘のように

ムッとなり問いただす。


「そ、それは俺が好きなゲームキャラクターだ。

なんか、あんたに似てるからさ」


この子が私に似ている?

彼にはこんな可愛く映ってますの?

少し嬉しくなりながらモジモジしていると


「じゃ、まだ飯の途中だから、これで!」


彼は私よりも夕食のほうが大事らしい。

すぐに背を向けて去っていく。


「ちょっと待ってくださいな!

プロフィールは書いてくれたのかしら?

それとげぇむきゃらくたぁって何ですの?」


使用人部屋へと駆け足で向かう彼にはもう聞こえていない様子。

頭の中は夕食のことでいっぱいのようだ。


「食~い放題♪、食い~放題♪」


と上機嫌で離れていく彼の背中を見つめながら

大きなため息をつく。


スマホに目を移し

アイコンをもう一度確認する。

先ほどの言葉を思い出すと

ニヤニヤしてしまう。


ふとアイコンの下に目をやると

何やら文章が書かれていることに気付いた。

そこにはプロフィールという文字と


『見た目だけはかわいい異世界の令嬢』


と書かれていた。

ここにプロフィールを書くんですのね。


ん?…見た目だけは?

『だけ』なんですの?

でも……かわいいと書いてある。


その言葉に私は満足した。

ま、今日のところは、これで勘弁してあげましょう。

……にやける顔はまだ少し戻らなそうですわね。


お読みいただきありがとうございます。


「面白いなっ」


「このあとが気になる」


と思いましたら、ブックマークか

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どうぞよろしくお願いいたします。

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