第7話 恋バナ、そして配信終了
私が上手く発音できずに唸っていると
(あー…配信見に来ている人のことはリスナーって言うんだけどね?
異世界の人だし、難しいだろうからわたしたちをひっくるめて
『リスナー』って呼べばいいよ)
そんなアドバイスをしてくれる人がいて
申し訳ないとは思ったがお言葉に甘えさせてもらうことにした。
異世界の単語の発音って難しいんですもの。
でもなぜか、皆さまの書いている言葉はわかるのは何でかしら?
そんなことを考えているうちにも
どんどんとコメントは打ち込まれてくる。
(異世界とかヤバいなぁwミラクルだ!!友達にも教えとこw)
(ねぇねぇビビアン!転移してきた彼ってかっこいい?)
(彼とはどんな出会いだったの?)
(何をしたら転移したか聞いてる?)
口々に質問されるが、
どの質問も彼のことばかりだった。
そんな話も相まって私は彼との出会いを思い出す。
「彼との出会い……それは、運命的な出会いだったわ。
やだ、こんなこと言っちゃっていいのかしら。恥ずかしい」
私は自分の顔が赤くなっていくのがわかった。
(何?何?恋バナ?一目惚れ?w)
(聞かせてよー!彼のこと)
「一目惚れだなんてそんな……たまたま道で拾って、使用人にしただけですの」
(道で拾った!?)
(何それw犬猫みたいなw)
(ふーん、その道で拾った犬猫から配信を教わったと。なるほど、そういうことか)
「犬猫?そういえば犬に似てるかもしれないわね」
私はクスッと笑いながら、雨に濡れた彼の姿を思い浮かべた。
今頃、彼はギルドに着いたかしら。
ちゃんと夕飯に間に合うといいんだけど。
そんなことを考えていると
(ビビアン、プロフィールに何も書いてないですけど、書いた方がいいよー)
(アイコンも、ちゃんとしたの作った方がいいと思う!)
(せっかく可愛いのに、もったいないからね)
「プロフィールというのは自己紹介ですわよね?
それを書く場所がありますのね?
あと、アイコンって何ですの?彼は教えてくれませんでしたわ」
配信の仕方の他に
そんなものまであったとは知りませんでしたわ。
(大丈夫!それくらいなら俺たちが教えてあげれる!)
(んー……俺たちじゃなく道で拾った犬に教えてもらえばいいんでね?)
(そうだよ。優しい彼に教えてもらえばいいじゃない?)
「優し……くはないわよ。上から目線で怒るし、乱暴な言葉使いですし」
自分で言うのはいいが
人に言われるとムズムズして
照れながらも否定してしまう。
(でもビビアンはそんな彼に一目惚れしたんでしょ?)
(名前は?彼の名前はなんて言うの?)
(ビビアンが好きになった人の名前は気になるなぁ!)
(ほらほら教えてみ?愛しの彼のお名前!)
リスナーさんの言葉に
ついに恥ずかしさが限界を突破した。
その結果、
「そんなわけありません!あるはずないでしょう。
道で拾った犬ですのよ!?
そう!言ってしまえば駄犬ですわ!
リスナーさんたちが何を考えているのかわかりませんが
全っっっっっっっっっっっっ然お門違いですわ!!
名前もわたくしだけが知っていればいいんですの!!」
とうとう全否定してしまった。
しかし、私の顔は依然として赤いまま……
それどころかさっきよりも真っ赤になっているのが配信画面に映っていた。
(こっわ……)
(もう彼の話はやめようか)
(そ、そうね。話したくないものは仕方ないもんね)
(提案なんだけどさ…彼のことをビビアンの前で呼ぶ時は『モブ』って呼ぶことにしない?)
(『モブ』…いいな。その他大勢みたいな意味だし、コメント見て意識することは少なくなるだろうから)
(ビビアンにモブの話はこれから地雷扱いだな……)
そんなやり取りをしていると扉の外からマリアの声がした。
「お嬢様、大丈夫ですか?
独り言…にしては大きすぎると思いますが……どなたかいらっしゃるのですか?」
いけない、つい感情が高ぶって声が大きくなってしまった。
「なんでもありませんわ。
だからマリア、扉を開けてはだめよ」
(お、誰かいる?メイドさん?)
(メイドさんがいる生活、憧れるー-)
(メイド!メイド!見てみたい!!)
(可愛いメイドさん!?)
マリアとのやり取りを聞いたリスナーさんが
興奮しているのがわかった。
このまま話を続けたいのはやまやまだけど、
そろそろお開きにしないと
「皆さま、申し訳ございません。
ここで一旦終わりますわ。また遊びに来てくださるかしら?
次回までに、アイコンとプロフィールは……彼に作ってもらいますわ。
では、ごきげんよう」
先ほどまでのやり取りを思い出し、
少し恥ずかしく思いながら挨拶をする。
(メイドさんにもよろしくー!)
(また来るよ!)
(じゃあまたね~ ノシ)
前の配信を思い出しながら右上のバツボタンを押して
スマホをポシェットに片付ける。
配信……こんなに楽しいんですのね。
何かしら、この充実感は。
肩書や家柄なんて関係ない、ありのままの自分で話せる友達ができた気分だわ。
スマホ……なんて素敵なのかしら。大切にしないと。
「お嬢様、用事はまだ終わりませんか?もう入ってもよろしいですか?」
マリアの声が再び聞こえる。
「よろしくってよ、マリア。」
マリアが心配そうな顔で部屋に入ってきた。
声でもわかったがよほど気を揉んだ様子が伺える。
「あの……お話声が聞こえてきまして、
どなたかいらっしゃるのかと思ったのですが……」
キョロキョロと室内を見まわし
少し震えているようだった。
「誰もいないわよ?おかしなことを言うわね」
まぁ一人であれだけ大声出したらバレるわよね。
そこはこれから気を付けないと。
「ですよね。失礼いたしました。
セバス様の馬車がお戻りになる前に、
わたくしは服を準備させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
私が一人で反省会をしていると
落ち着きを取り戻したマリアがいつもの口調で話してくる。
この切り替えの早さもさすがマリア。
「あ、そうそう!使用人の服ね。
よろしくお願いするわ。できるだけ新品をね」
「かしこまりました」
マリアは軽く会釈をして、私の部屋から退室した。
他の配信している人たちを見ていると、
羨ましいくらいに生き生きとしている。
この人たちと同じ世界に生まれていたら、私の人生も違ったのかしら……
きっとこんな世界よりもずっとずっと楽しいんでしょうね。
椅子にもたれてそんなことを考えているうちに、
満足感からか今日の疲れからか、静かに眠りの海へ沈んでいった。
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