第53話 修学旅行後、そしてミルフィーユ
修学旅行が無事?に終わり、一週間が過ぎた。
俺たちはいつもの生活に戻っていたが、
学校では、いまだに修学旅行の思い出話に花が咲くことがある。
まぁ、楽しかったのは認めるが、俺だけずいぶん大冒険した気分なんだよなぁ。
狩野はずっと引き籠ってて楽しかったのだろうか……
あの竜崎との一戦の後、みんなと合流した俺たちは、
当然、有村と芹沢に何があったのかと事情聴取を受けた。
適当な理由をつけて誤魔化したが、
勝手な行動をしたのに、お咎めもないし、
二人には不思議そうな顔をされた。
狩野に俺…班員の二人が勝手な行動をとって
有村と芹沢も気が気じゃなかっただろうな。
今度また何か奢ってやるか……よし、ポテトにしよう。
ちなみにビビアンはというと
帰ってきて数日は楽しく思い出を語っていたのに、
最近は家にすら来なくなってしまった。
学校には来ているみたいだが……何かあったのか?と気にはなっている。
修学旅行を楽しんだ人ほどロスに陥る人がいると聞いたことがある……
もしかしてそれか?
このことに関しては母さんも心配しているらしく、
「マナブ?
ビビアンちゃん最近来ないけど。
風邪でもひいたの?」
と聞いてきた。
「学校には来てるよ」
本当に俺もこれ以上のことは知らない。
だからこれしか言えない。
俺は少し寂しさを覚えながら答える。
「あら、ならいいんだけど。
……ひょっとしてマナブ、あんた何かしたの?」
母さんのじとーっとした視線がこちらに向けられる。
「は?何かってなに。
何もしてねーよ」
何で俺が何かした前提なんだよ。
……もしかしてあれか?
俺の家に置いてあった、ビビアンのプリンを
食べたのがバレたか?
いや、それは家に来なくなる前に買い足しておいたから
バレていないはず、というかそもそも人ん家の冷蔵庫に入れるなよ。
「本当に?気付いてないだけでビビアンちゃんに嫌われるようなことしたんじゃないの?」
プリンのこと以外は
本当に全くもって心当たりがない。
「ないってば!」
あまりにしつこく食い下がる母さんに
少し強めに返す。
ってか、息子なのにこの信用の低さは何なのか。
「そう?
じゃあ何もしてないなら、
この豚バラ白菜鍋を、ビビアンちゃんに持って行けるわよね?」
透明な鍋の蓋越しに中身が見える。
そこには豚バラと白菜が綺麗なミルフィーユ状に並べられていた。
「すっげ、いつもよりもだいぶ綺麗なんだが……
こんな綺麗に並べられたミルフィーユ鍋見たことがない」
普段もたまに作っている料理だが、
今までの中でも、格段に綺麗に隙間なく埋められていた。
「当たり前でしょ。
あちらはセバスさんとマリアさんもいるんだから」
食べたら全部一緒精神のくせに
こういうとこ見栄っ張りなんだよなぁ。
まぁ人様……特にあの二人が見るとなったら
気にするのもわかる気はするが。
「ってか、鍋ならこの家に呼んで一緒に食べれば早くね?」
俺は料理の出来栄えに格差を感じながら提案する。
持っていくのが面倒とか、そんな気持ちは一切ねぇよ?
「はぁ……あんたが嫌われてないか心配で
きっかけを作ってあげてるこの親心がわからないの?
まったく、鈍いんだからこの子は!
四の五の言わずに、早く持ってけ!」
俺は鍋を持たされ、家から追い出される。
え?強制すぎない?
しぶしぶ向かいのマンションへ向かって歩を進める。
道路を渡り、オートロックの付いた自動ドアの前まで来て、少し立ち止まった。
何もしてないものの、今までこんな状況になったことなんかなかったため
どうしても不安が拭えない。
俺は大きな溜め息をつきながら、部屋番号を押す。
するとすぐに
「はい」
とマリアさんの声が聞こえた。
「あ、茂木です……」
不安を抱えつつ、恐る恐る声を出す。
「あら、モブ様。どうかなさいましたか?」
最近ビビアンの配信では、ゲストとして、
たまにマリアさんやセバスさんが、コラボしているらしい(狩野談)。
そこでリスナーが俺をモブ呼びしているとのことで
この呼び方が定着した。
……ここでもモブかぁ。
俺が主人公の世界線は、アカシックレコードにすら記載されていないらしい。
これは…どっかのマッドサイエンティストが
ゲートの選択がどうのって騒ぎ出しそうだな。
それにしてもマリアさんの反応は普通だな。
俺が何かしたならマリアさんにも話は行くはず。
やっぱりビビアンは、ただの修学旅行ロスだったっぽいな。
「いや、母さんが持ってけって言うもんで」
俺は安心して手に持った鍋を、インターフォンのカメラに映るように持ち上げてみせた。
「あら、ありがとうございます。
今、開けますね」
エントランスのドアが開き、俺はそのままエレベーターに乗る。
二階で降り、ビビアンの家の前まで進みインターフォンを押した。
ピンポーン
聞き慣れた音が鳴り響き、少しすると
ガチャッと玄関のドアが開いてビビアンが顔を出した。
「何の御用かしら?」
修学旅行ロスだと安心しきっていた俺は、突然の塩対応に面喰った。
「あー…いや、母さんがこれをビビアンにって……」
気まずくなりながらも鍋を持ち上げ、ビビアンに見せる。
「そう、ありがとう。
それでは、ごきげんよう」
鍋を受け取ってビビアンは、さっさとドアを閉めようとする。
「ちょ、待てよ!
最近、俺ん家に来ないって母さんが心配してるんだ。」
明らかに俺を避けている行動の理由を知ろうと
どこかのモノマネ芸人のようになりながら
俺は慌てて閉められかけたドアを手で止める。
「俺も心配だし」
と小声で呟き、
「何かあったなら話してくれよ」
と、言葉を続けた。
こんな状況でも恥ずかしいもんは恥ずかしい。
しかし、彼女の態度が変わる様子はなく、
「別に……何もございませんわ」
どこかの女優のような態度と発言をして
再びドアを閉めようとするのを、今度は足を入れて止める。
「まだ何か御用ですの?」
理由も話さず、永遠と態度を変えないビビアン。
「いいかげんにしろよ。
俺が何した?
気に入らないならそう言えよ!」
俺もさすがにしんどくなり、ストレートに聞く。
「自分でおわかりにならないなら、
話すことなどございません。
たらしに使う時間なんてもったいないですわ」
その言葉に、訳が分からなくなる。
「たらし……?どういうことだよ!」
そんなことを言われるようなことはしていない。
俺の頭は混乱していた。
「ご存じありませんの?
女たらしって意味に決まってますわ!
本当にあなたの考えてることは意味不明です!」
なおさら意味が分からない。
さすがに理由も話されず、一方的すぎる発言に語気が強くなる。
「意味不明なのはそっちじゃないか!」
ついつい声が大きくなり、言い争いになったところに、
マリアさんが飛んできて俺たちを制止した。
「ここでは、ご近所迷惑になりますので……
一度、お家に入っていただいてお話されてはいかがでしょうか?」
マリアさんの言葉に、不満そうな顔をしながらも
ビビアンは渋々俺を中に入れてくれた。
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