第48話 ここぞという時の演技力、そして喧嘩
「ところで、一番の美女とかお兄さんたち心当たりありませんか?
さっきこの辺に留学生…かな?
ブロンドの髪に、制服姿でめっちゃ可愛い子がいたんすよ。
お兄さんとお似合いだなって思うんで、せっかくならあの子探したいんすよねぇ」
ここまでおだてたんだ、有益な情報出してくれよ?
「おぉ!お前にもお似合いに見えたか!
そうだろ?わかる、わかるぞ!
俺もそう思うからな!!
やっぱ、お前は見る目あるな!!
ブラザーと呼ばせてくれ!!!」
東堂……違った。
とうとうブラザーとか言い始めたよ。
お前の喜びなんていらねぇから
ビビアンの情報を出せよ!
俺は内心イライラしながら
表ではヘラヘラと笑顔を作り続ける。
「どこに行ったかわかります?」
いつまでも自画自賛しているヤンキーに
痺れを切らし訊ねる。
「それがな?
残念なことにちょっとデートに誘っただけで、
俺に綺麗な回し蹴りを入れて逃げてったのよ。
それ以降は、俺もわかんねぇんだ」
ヤンキーの言葉に俺はキョトンとする。
「逃げた?」
気の抜けた声で質問を投げかける。
「あぁ、丁寧な言葉使いでお上品なのかと思ったら、
蹴り技が完璧な、じゃじゃ馬でよぉ。
あの動きは格闘技経験ありと見た!
ただもんじゃねぇ。
あの身のこなし……俺でなきゃ見逃しちゃうね。
ブラザーも、あの女を探すなら気を付けな」
噛ませ犬ヤンキーの言葉に
俺はすっかり気が抜けてしまった。
「それだけか?」
気が抜けた瞬間、
今まで抑えていたイライラが
一気に噴き出してくる。
「あ?」
今までは、こいつらがビビアンに何かしたかもしれない。
情報を引き出さなければと必死になっていた。
「彼女は逃げた。
話はそれで終わりかって聞いてんだよ」
しかし、終わってみれば大した情報はなく
時間だけが過ぎていた。
不甲斐ない自分にも腹が立つ。
「なんだ、こいつ!
いきなり態度を変えやがって」
周りをヤンキーたちに取り囲まれる。
「リーダーに、なんて態度取ってんだ!!
調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
その言葉と同時に
左頬に鈍い痛みが走る。
どうやら俺は殴られたようだ。
その勢いのまま、
近くのポップコーンのフードカートに突っ込み、
ポップコーンが通路に派手に飛び散った。
俺が異世界に行った時も、
こんな感じで野菜や果物をひっくり返して逃げたことを思い出す。
でも今は逃げるわけにはいかない。
ビビアンのために。
周りの人間は、キャーキャーと大騒ぎしている。
フードカートのスタッフが出てくると、
「お客様、大丈夫ですか?
園内での暴力はおやめください!」
と、俺へ駆け寄り、心配の言葉とともに、
ヤンキーへと注意をする。
その騒ぎを聞きつけて、
うちの高校の先生たちも走ってきた。
「やべ!セン公だ、逃げろ!」
ヤンキーたちは一目散に逃げ始め
すぐに人ごみに紛れ見えなくなる。
ここまでしておいて逃げてくとか
逃げるな卑怯者!!とでも叫びたい気分だ。
そんなことを思っていると
担任の猿橋が状況を確認するように
周辺を見回しながら俺に駆け寄ってきた。
「茂木、大丈夫か?
何があった?」
何があった?
頼りにならないお前らの代わりに
ビビアンを探してただけだ。
そう思いながらも俺はただ一言、
「何でもありません」
そう伝える。
「口から血が……誰かに殴られたのか?」
俺の心配なんかしなくていい。
今はビビアンの方が心配なんだ。
「いいえ、自分で転びました」
俺はこれ以上、時間をとられないように嘘を吐く。
すると遅れてB組の狐崎がやってきた。
「ひぇ、血!
竜崎先生から問題は起こすなと言われてるのに!」
来て早々、俺の口の端から流れる血や
周りの状況を見て騒ぎ始める狐崎。
「狐崎先生、私のクラスの問題ですから、ここで騒がないでください。
それに、帰りの集合時間まで、もう少し時間があります。
これ以上、事が大きくならないうちに見つけ出しますから」
猿橋のその言葉を聞いた俺は、皮肉たっぷりに
「だといいですね」
とだけ吐き捨てる。
大きくため息をつく猿橋。
次の瞬間、猿橋は何かを決心したように言い放った。
「帰りの集合時間までには、何とかして見付けるんだ。
万が一、時間に間に合わなくても連絡はすること。
全ての責任は俺がとる!!
探しに行け!茂木!」
俺はその言葉に驚き、
猿橋の目を真っ直ぐに見つめる。
「はい!!!」
勢いよく返事した俺は、再び走り出す。
しかし、ユニオンランドは広すぎる。
○○ワールド、○○パーク、とテーマごとに
遊園地があるような広さだ。
それに広さだけの問題だけではない。
ビビアンのチャットアプリに
メッセージを送っても既読にならない。
ユニオンランドのホームページで『迷子』で検索したが、
【お近くのスタッフにお声がけください。】
と表示されるだけだった。
スタッフに頼ってみるしかないか……?
必死に走り回るが
ビビアンのローファー以降、
有力な手掛かりを見付けられないまま時間は過ぎていった。
気付けばすでに日は傾き、
集合時間の17時になろうとしていた。
俺が一度、猿橋へ連絡を入れようと
スマホを取り出すとタイミング良く着信音が鳴り響く。
「もしもし、茂木。
猿橋だが……大丈夫か?」
様子を伺うように声をかけてくる猿橋。
「ダメです……」
走り回って探しても見つからず、
スタッフに声をかけても、迷子としての連絡どころか
それらしい子を見掛けてすらいないとのことだった。
一応、情報が入り次第、連絡が来ることになっているが、
未だに連絡はない。
「そうかぁ…………」
猿橋が何かを話していたが、園内放送にかき消され聞こえなかった。
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