第45話 ユニオンランド、そして謎の電話
——一時間ほど、バスに揺られると
待ちに待ったユニオンランドに到着した。
今日は平日、そんなに混んでいる様子はない。
平日に来れるとか修学旅行生の特権だな。
「よーし!
まずは乗り物を制覇するぞ!
この班の行動計画では、一番目に絶叫フライング・コースターだ!!」
班長になった有村が、旅のしおりのメモ欄を見ながら言った。
俺たちの班は有村、芹沢、狩野、そして俺の男子四人。
『絶叫』という言葉を聞き、顔が青ざめる奴が一人……
そういえば狩野も、絶叫系苦手だったな。
この行動計画は俺たちの意見を聞かず、
男だけなら思う存分絶叫マシンに乗れる!と張り切っていた有村と芹沢が
勝手に決めたものだ。
ふと、狩野が何で女子がいない班なんだ、と悔しがっていたのを思い出す。
でも意外と絶叫系は女子の方が、好きな奴多いイメージだけどな。
特にビビアンとかビビアンとか…他に例を挙げるとしたら……ビビアンとか。
あいつは絶対に絶叫系好きそうだ……これもイメージだけども。
「俺はちょっと、ここで休んでるわ。お前ら行ってこいよ」
実は俺も狩野に負けず劣らず、絶叫マシンが大の苦手。
ちょっと胃の調子が悪くて吐き気がするとか言って上手くごまかして拒否することにした。
これ以上、体調が悪化したらみんなに迷惑かけるからと言い訳し、一抜けした。
「茂木、お前ズルッ…僕だって……」
もう待ちきれない様子の有村が、
狩野の言葉を遮った。
「じゃあ俺たちだけで楽しんでくるか!
行くぞ!狩野、芹沢!
遅れずについてくるんだぞ!ここからは時間との勝負だ!」
狩野への死刑宣告がされる。
「あ…はい……今行きます……」
早く乗りたすぎて狩野の言葉は耳に入らなかったのだろう。
狩野……
こういうのはスピード勝負で言ったもん勝ちなんだよ。悪いな。
他二名に手を引っ張られ、引きずられていく狩野は、
捕らわれた宇宙人のようだ。
あの要領の悪さが狩野の魅力だと思うんだ。いやマジで。
そんなことを思いながら俺は、近くのベンチに腰掛けた。
「よっこらしょ……っと」
ん? 俺、今、『よっこらしょ』って言ったか?
あー、異世界行ってから急におっさんみたくなっちまったなぁ……。
あっちの生活濃かったもんな。
普通は何年もかけて経験するようなことを
まとめて経験したかのような日々だった……
いや、普通の人は異世界に転移したり、
神様に会ったり、ドラゴンと戦ったり、ラジバンダリしないけどね?
まぁ…まだまだおっさんになるわけにはいかない……気を付けよう。
そんなくだらないことを考えながら広場を行き交う人たちを見ていると、
他校の修学旅行生もいることに気付く。
身なりを見るだけで、学校の雰囲気は伝わるものだと感じた。
金髪、カラーシャツにピアス、この制服の着こなしは絶対ヤバい学校。
黒髪、制服のボタンをきちんと留め、ピシッとしている素朴な見た目は地方の公立校。
こういうのも人間観察というのだろうか?
学校観察?着こなし観察?
まぁ何でもいいのだが、これはこれで意外と面白いと思う。
……いや、地味すぎだろ。
「きゃーーーーーー!!!!!!」
絶叫マシンから、聞こえてくる悲鳴の中に
一瞬、ビビアンの声が混じっているように聞こえたが、きっと気のせいだろう。
あいつは女子だけの班だし、
こんな初っ端から絶叫系に乗るようなハードなことはしないとは思うが。
そういえば、ビビアンは今頃、何してるんだろ。
ふと気になり連絡が来ていないかと
スマホのトークアプリを開く。
少し前に画像と共にメッセージが届いていた。
(驚きましたわ!
たこ焼きの上にのっている薄い紙のような物が
ゆらゆら動いて、まるで生き物みたいですわ)
かつおぶしの事か。
まぁ誰でも一度は興味持つよな。
こんな他愛もないことで喜んでいるビビアンが
速攻で絶叫マシンに乗るはずないな。
根拠はないがそんな気がする。
よし、そういうことにしておこう。
ってかアトラクションより先に食いもんかよ。
花より団子ってこういうことだろうな。
——しばらくすると突然、俺のスマホが鳴った。
俺たちA組の担任、猿橋先生からだ。
何だろ?連絡なら班長である有村に行くはずだが?
間違い電話かな?
とりあえず電話に出る。
「もしもし、茂木か?」
どうやら間違いではなく
俺宛の連絡で間違いないようだった。
「あ、はい」
俺は理由がわからず
とりあえず返事だけ返す。
「茂木、今どこにいる」
どこにいる?
場所を確認するなら普通班長では?
「絶叫フライング・コースターの前です。」
疑問を持ちながらも
俺は余計なことは言わず素直に答える。
「B組のビビアンと一緒か?」
ビビアン?
何でビビアンがここで出てくる?
「いえ、一緒じゃないです。
どうしてそんなこと聞くんですか?」
さすがに疑問が山盛りポテトすぎて
俺の脳みそが登山を始めたので聞き返す。
「あ、いや一緒じゃないなら別にいいんだ。
大丈夫。念のために確認しただけだから」
一応、教師陣には俺とビビアンは知り合いで
家族間での付き合いがあることは伝えている。
日本をよく知らない外国人のビビアンのサポート役として
何かあったら俺に連絡が回ってくるようにするためだ。
「ちゃんと、俺たちは班で行動してますよ。
ビビアンに何かあったんですか?」
俺に連絡が来るということは
そういうことだろう。と少し身構える。
「そうだよな。
いや、別に何かあったわけじゃないんだ。
あの……そう!
他の班の奴らが合流して騒いでいたから
合流してそうな班に連絡しているだけだ。
それじゃあな」
プツッ
……?
ビビアンと知り合いだから
お前ら合流して騒いでないだろうなってことか?
何か監視されているみたいで不愉快だな。
少しイラッとしながらスマホを見つめる。
ビビアンと合流したら狩野が騒いでしょうがないだろ。
あ、だからか。
俺が妙に納得していると
狩野たちが絶叫フライング・コースターから戻ってきた。
噂をすればってやつだな。
「最高!マジ面白れぇ!!
もう一回行こうぜ!!!」
テンション高めの有村に対して
顔色が悪く、真っ青な狩野。
同じアトラクションでここまで真逆な反応になるもんなんだな。
俺も絶叫系が苦手だから他人事とは思えず、狩野に助け船を出す。
「いや、次の計画あるだろ?
狩野、俺と水飲み場まで行って水飲んでくるか」
俺は背中をさすってやりながら提案する。
まぁ狩野も苦手なのに俺だけ逃げたから、これくらいはな。
「ありがとう……」
狩野の返事を聞いてから
「有村と芹沢は、次のアトラクションの順番を取っててくれ。
狩野が落ち着いたら、後から追いかける」
と現状を理解できていない様子の有村と芹沢に指示を出す。
「あ、あぁ、わかった」
2人は返事をして、
何度も振り返り、俺たちのことを確認しながら歩いて行った。
俺はふらふらになった狩野を支えて、水飲み場に向かう。
水飲み場に着くと、狩野は泣き始めた。
「ごめん……次のアトラクションはパスしたいんだけど、いいかな?」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、狩野はそう言ってきた。
「あぁ、無理することはない。
修学旅行でツラい思い出作ってもしょうがないしな」
そう伝えたが、狩野の顔は晴れなかった。
「有村たちには、どうやって説明すれば……」
まぁ、あの二人は楽しみにしてたもんなぁ。
「ほっといていいんじゃないか?
あいつらはあいつらで行動させれば楽しくやるだろ。
ま、ワンチャン、最後の集合時間さえ守ればいいんだよ」
別行動してても最終的に合流して
戻れば問題はないだろう。
「ありがとう。茂木はいい人だね」
その言葉に俺は狩野に向いていた目を背ける。
「……俺はいい人じゃない」
そうだ。
俺は狩野に隠し事をしている。
狩野の推し、ビビアンと毎日一緒にいるなんて、死んでも言えない。
なんなら死んで、ゾンビ化して、聖なる魔法でチリにされても言えない。
狩野が思うほど、俺はいい人ではないのだ。
有村たちが向かったアトラクションが終わるまで、ゆっくり休憩した。
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