第42話 立ち位置、そしてスカウト
昼休みが終わりに近付き、授業前に俺と狩野はトイレへと向かう。
すると、廊下の向こうからビビアンがこっちに向かって歩いて来るのが見えた。
俺が見慣れた、ドレス姿でお嬢様のビビアンではなく、
俺も知らない、制服姿で女子高生のビビアン。
しかし、学校でブロンドはだいぶ目立つな……
「お、おい、茂木、どどどどうしよう彼女が歩いて来るぅ」
ずいぶんな動揺っぷりだな。
見ていて面白いやつだ。
絡むと面倒だが。
「別にどうもしねぇよ。
転校生でも廊下ぐらい歩くだろ」
廊下を歩いている他の生徒も、
石化でもしたかのように動きを止めビビアンを目で追っている。
みんな一斉にこんなんなって……お前はメデューサか!
学校で石化させんなよビビアン。
俺はそんなことを思いながら、お構いなしで歩き続けた。
「おい!茂木!」
狩野に腕を引っ張られて、俺は端によける形になった。
「あら、通行のお邪魔をしてしまったかしら?
ごめんなさい」
ビビアンはそう言って横を通り過ぎていく。
家でもあれだけ大人しければいいのに。
そう思いながら狩野を見ると
ゴクリと唾を飲み込んで
「話しかけられた……
夢のようだ……
なんとなく俺いい香りになった気しないか?」
と興奮気味だ。
なんで話しかけられて、横通り過ぎただけで
匂い変わるんだよ。
「そうか?」
と俺が興味なさそうに答えると
「え!なんでわからないんだよ!!
ビビアンちゃんの歩いた後にはバラの花が咲いているなんて常識だよ?」
幻覚見えるとか……
ビビアンの存在は危ない薬かなんかか?
それに、そんなのが常識なら俺は常識知らずでいい。
「重症だな。限界ヲタク」
バラの花どころか、たくさんお花が咲いてるよ……
お前の頭の中にな。
「僕のビビアンちゃんへの愛が、なぜわからないんだ。
この世にあんな美少女はいない。
僕の愛の大きさで、それはわかるだろ?」
お前の愛の大きさと、美少女かどうかは
関係ないだろ。
「まぁ確かに、そーかもしれないなー」
適当に相槌を打つと
「お前……もしかして男が……」
「断じて違う!」
狩野みたいなビビアン信者が他にもいるかと思うと、気が気じゃないのが俺の本音だ。
こんな環境でお嬢様を守れというのは、ダンジョンで戦うより難しい。
しかも、正体がバレたら、俺の命が危ないミッションだ。
命がいくつあっても足りない。
——次の日、狩野が俺にビビアンの新情報を仕入れた、と言って駆け寄ってきた。
「おい、茂木、大変だ。
さっきの休み時間にビビアンちゃんがさ……
あ、ごめん、茂木は興味なかったな」
そんな中途半端にやめられたら
いくら興味なくても気になると思うんだが……
「途中でやめんなよ」
ちなみに、その話に関しては興味津々だけども。
「僕の推しの情報なんて興味ないだろ」
お前の推しには興味ないが
ビビアンには興味あるんだよ。
「途中でやめられると、かえって気になる」
それにお前も言いたそうにうずうずしてるのが
見ててわかるからな。
さぁ、さっさと言って楽になれよ。
「あのさ、さっきB組の前を通ったら、生徒会長がビビアンちゃんをスカウトしてた」
本当にすんなり話したな。
しかし……何にスカウトしたんだ?
「生徒会長が
『君がビビアンか。噂はかねがね聞いているよ。
そこでぜひ君を生徒会にスカウトしたいんだ。』
とか言ってて、いろいろ説明してたんだけど……」
狩野が詳細説明を始める。
「ビビアンちゃんは、
『わたくしでお力になれるか……、
それに毎日お手伝いできるかもわかりませんから』って
断ってたんだ。
でも
『いや、毎日でなくてもいい。忙しい時だけ手伝ってくれれば。
それに噂通りなら、才色兼備の君が力不足なわけないだろう?』なんて
しつこく言っててさ」
生徒会へのスカウトか……なるほど。
それにしても、
「状況説明が詳しすぎる。
お前、B組の教室の前を通ったんじゃなく覗きに行ってたろ?」
普通に教室の前を通っただけにしては、
話は最初から聞いているようだし。
そんな、休み時間を丸々使うような長い話を
最初から聞いていたということは……
あっ、察し……というわけだ。
きっとセリフも寸分違わない。
「それは……ビビアンちゃんどうしてるかなぁ、とか気になるじゃん?
それに、生徒会に入ったら配信できなくなるかもしれないし、
こういう情報収集は必須だよ。
生徒会かぁ……嫌だなぁ」
ストー狩野は後で風紀委員にジャッジメントしてもらうとして、
ビビアンが学校生活に慣れるために、生徒会に入るのはいいことだろう。
いつまでも何も知らないままでいるわけにもいかないだろうし。
でもわざわざ、スカウトしにくるもんなのか?
生徒会長は、確か三年の瀬橋ってやつだったはず……
なんだか胡散臭い奴だった記憶がある。
その後、授業中もずっとそんなことを考えていた
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