第3話 デュエル開始、そして流れのままに初配信
「わたくしも、このようになりたい……」
ぽつりと呟く。
貴族の女は家柄のために嫁ぎ、家名に恥ないように生きる……
そんな私に自由なんてあるはずがない。
でもこのスマホの中の人たちのように自由に、生き生きとしていられたら、どんなに幸せでしょう。
「これはどうやって配信しますの?わたくしにも出来るのですか?」
私の淡い夢を嘲笑うかのように彼は面倒臭そうな顔をした。
「説明してどうする…ですか?どうせお嬢様には無理で……」
私のターン!ドロー!黒パンカード!!
……特に深い意味はありませんわ。
「夕食の黒パンをもう一個追加します」
その言葉に彼の顔が一瞬ぱぁっと明るくなるが
すぐに元に戻る。
「餌で釣ろうって魂胆か…です? 言っておくが俺はそんな……」
トラップカード発動!
……深い意味は(以下略)
「プディング追加!」
そう伝えると彼は
渋っていたのがまるで嘘のように早口で説明し始める。
「今、お嬢様が触ったBのマークは、BroadCASTという配信アプリで……」
私の頭の上にたくさんの?が浮かぶ。
「待って、言葉だけで説明されてもよくわからないわ」
向かい側に座っている彼は
狭い馬車の中、ダルそうに立ち上がり
私の後ろの壁に手をついてのぞき込む体勢になった。
彼がまるで私を覆い隠すようになり、
セバスチャンが二回咳払いをする。
——ゴホン!ゴホン!
その瞬間、馬車が揺れて彼が頭をぶつけた。
「痛っ!」
ぶつけたところをさする彼に
「揺れるから立って説明は危ないですわ。わたくしの横にお座りくださいませ。
セバスチャン、向こうの席に移って」
と促す。
セバスチャンは彼を警戒しながら席を移った。
彼は私の横に座り、一緒にスマホをのぞき込みながら説明を始める。
スマホを手にした私のすぐ横に彼の顔が近付く。
ちょっと、顔が近いんですけど……
「配信アプリを開いたら、こんな画面になる。
下の丸いボタンを押すとライブ…つまり配信の準備画面になる
俺のアカウントではやらないけどな。
それで……」
「アカウントって何ですの?」
私の質問に彼は少し間をおいて
「…………説明面倒くさい。
俺の使ってないアカウントやるからそれ以上聞くな。
んで?君の名前はなんだっけ?」
そう答える。
あっ、これは彼もよくわかってないやつだ。
「わたくしの名前?名前はビビアンですけど、何をするんですの?」
「ビ・ビ・アン……ね。はいはいはいはい。
こうして名前を登録すんだよ。
それで次に、このライブ配信のタイトルを入力する。
例えば…まぁ、なんでもいいか…ツ・ン・デ・レ・令・嬢……」
私のすぐ横で彼がスマホ画面に文字を打っている。
打っている単語の意味もわかりませんし
彼の指も素早く動いていてよくわからないわ。
そんな様子を見ていたセバスチャンは彼があまりに身体を近付けるからか、
また大きく咳払いをし始めた。
——ゴホン!ゴホン!ゴホン!
それにしても、もう少し細かく丁寧に教えてくれてもいいんじゃないの?
……スマホに向かって文字を打っている彼の横顔は、
ちょっとだけ、本当にちょーっとだけ好みかもしれないけど。
「……で、あとはこの丸いボタンを押したら配信始まるけど、今は押すなよ?
はい、配信の仕方を教えました。スマホは返してください」
彼はセバスチャンからの鋭い視線に気づいて、
慌てて元の席に戻った。
「うーーーん、そうねぇ……」
私はスマホ画面と彼の横顔に夢中で、話の後半はほぼ耳に入っていなかった。
あら、丸いボタンが光ったわ。押してみよう。
話も聞かず好奇心に負けて衝動的にボタンを押す。
すると私の顔が映った。
「……!?」
私の顔が!?
しかしその後、すぐに雨に濡れて崩れた髪型に目がいく。
「わたくしの自慢の髪がぐちゃぐちゃですわ…毛先も跳ねまくり……」
手櫛で髪をいじっていると
画面の上の表示が変わっていることに気付く。
「あら?入室1?
あっ、2に増えましたわ。
入室ってことは誰か見に来たのかしら?」
ぼそぼそと独り言を呟いている私の様子を見て
ようやく彼は配信していることに気付いたようだ。
「バカ!何配信してんだ!!」
彼のそんな言葉など聞き流し
私は配信を続ける。
「皆さまいらっしゃいませ!
どうも、ビビアンでーす。」
その言葉と思わず手を振ってしまった私を見て、
入室者がいることに気付いた彼が
慌てて口パクしている。
“切れ!切れ!”
「わたくし、これが初めての配信ですの。
ご覧になれていますか?」
彼の口パクなどに気にも留めず私は夢中で表示されたコメントを読む。
(こんにちはー)
(はじめましてぇ!)
(大丈夫。ちゃんと見えてるよー)
(ヤバ!めっちゃ可愛い!!!)
「すごい!見ている人からどんどん文章が届く!
可愛いだなんて、そんな、正直な。嬉しいですわ!」
“切れ!切れ!”
彼はずっと口パクを続けている。
「なんか、外野がうるさくてごめんなさい。
せっかく来てくださったのに、残念ですわ皆さま。またお会いしましょう。ごきげんよう。
……えっと、切る時はどこを押すのかしら」
“右上のバツ!”
バツが描いているボタンを押し、
配信を終了しますか?という画面に切り替わり『はい』を押す。
すると配信は終了した。
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