第38話 加護、そして主従関係からの解放
私は届ける術もない手紙を書いている途中で、胸がいっぱいになった。
今までの私は、どんなにセバスチャンとマリアに助けられていたことか。
でも、感謝の言葉を書き連ねても、読んでもらえないのよね。
「神様が、セバスチャンたちにこの手紙を届けてくれたら嬉しいのに」
その時、窓から風が吹き込んできた。
風は手紙を巻き上げ、遠い空へ運ばれていったかと思うと
途中で突然消えたように見えた。
不思議に思ったものの、そこまで深くは考えなかった。
「あーあ、せっかく書いたのに。
……もしかしたらこのまま神様が届けてくださるのかしら?
なーんて、そんなことあるはずないわよね」
ふと見ると、手紙が置いてあった机の上に、彼の物ではない新しいスマホが置かれていた。
「……?
先ほどまでスマホなんてなかったのに」
スマホの画面を見ると、
『メッセージが届きました』
と表示されている。
「メッセージ?
誰からかしら?」
好奇心という飼い猫を未だに手懐けられないでいる私は、
その表示を押したい衝動にかられる。
もうここまで来ると飼い猫どころかトラですわね。
猛獣ですわ。
結局抗えずに表示を押すと、『異世界チャット』というアプリが起動する。
(ビビアンお嬢様、ご無沙汰しております。
お元気でしょうか。セバスチャンです)
丸く切り抜かれたセバスチャンの画像から
吹き出し状のメッセージが表示されている。
「え?え?
これは何ですの?」
(霊峰ヘブンズ・ドアの麓の村で宿屋を借り
お嬢様をお待ちしていたところ、
突然、神と名乗る老人が現れたのです。
お嬢様からの願いで、わたしに加護を与えるとのこと。
その際、あの少年が持っていたのと似ているすまほ?なる物を賜りました)
お願いした神様の加護?
私の頭の中は混乱していた。
(なかなか操作に慣れず、扱い方も説明されなかったため
これを送るのにもだいぶ時間がかかってしまいました。
このメッセージはご覧いただけておりますか?)
追加でメッセージが飛んでくる。
と同時に、画面に新たな表示が出る。
『これは、お主がわしに頼んだ、二人にも何かを……、
という願いから付与された加護の副産物じゃ。By 神』
『音声で入力しますか?』
『はい・いいえ』
そういえば、魔法陣に入る前に神様にお願いしましたわね。
まさかこんな形になるとは思ってもいませんでしたが。
その時の願いの影響で、このスマホができたということですの?
嬉しくて泣き出しそうになりながら
音声で入力に『はい』を押すと、丸いボタンが表示される。
配信みたいに押してから喋ればいいのかしら?
何を話せば……そうだわ。
「ごきげんよう。ビビアンです。
こうしてまたお話しできて嬉しいですわ。
……え-っと、先ほど手紙をしたためたのですが、
手紙まで届いていませんよね?」
ふと先ほどの、手紙が消えたように見えたことが
気になり一応質問してみる。
(…………)
返事がない。ただのしかば……生きてますわね。
「もしもーし。反応がないですが、どうしたのかしら?」
痺れを切らし私から再度送ってみる。
(……失礼いたしました。ただ今、拝見しております)
ようやくきたセバスチャンからの返事の後に
今度はマリアの顔が文章と共に表示される。
(セバス様は今、お嬢様からのお手紙を読んで泣いておられます。
言葉にならないくらい感動しているようです)
どうやらマリアにも加護の副産物が届いていたらしい。
(余計なことは言わないように、マリア)
どうやらマリアが言っていることは本当のようですわね。
感謝が届いたことが嬉しいような
照れくさいようなそんな気持ちになる。
でも、今はそれより……
「マリア?どうしてセバスチャンのことがわかるんです?
もしかして一緒にいますの?」
いくら私に仕えた者同士とはいえ
二人でスマホを触っていられることなんて
ありえないはず……
(お嬢様、ごきげんよう。
あの……大人の事情でございます)
大人の事情……
その言葉を聞き
以前、疑問に思ったことを思い出す。
「大人の事情って、中庭のガゼボと関係あるのかしら?」
彼に初めて会いに行こうとした時、
セバスチャンに止められ、
自分も使っているかのように
迷いなくガゼボで会うように勧めてきた。
その時は昔に使っていた手段なのかとも思ったのだけど。
(お嬢様が想像している通りでございます)
意外にもすんなりと認めるマリア。
(マリア、それも余計なことですよ)
澄ました顔をしながら咳払いをしているセバスチャンが目に浮かぶ。
「あら♡、おめでとう!セバスチャン、マリア!」
心の底から祝福した。
私の大好きな人たちが
さらにお互いを大好きとか素敵ですわ。
(お嬢様、冷やかしはおやめください)
セバスチャン……文章上は冷静に返しますわね。
そう……あくまでも『文章上』は。
「マリア、セバスチャンの顔は今どうなっていますか?」
私はマリアに問い掛けた。
(そんなこと言ってしまったら叱られてしまいます。
……赤面していらっしゃいます)
セバスチャン!
残念でしたわね!
マリアは私の味方なのよ!
(な……!マリア!?)
今度のセバスチャンの文章からは焦っている様子が伺えた。
私はつい、ふふふっと声を出して笑ってしまった。
身分など関係なく私はこの二人と
ずっとこんな風に接したかった。
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