第30話 再戦、そして決着
ドラゴンを見付けた場所まで戻った私は
そのままにしてあった三脚に再度スマホを取り付ける。
彼が設置していた様を思い出しながら
手際よく取り付けることが出来た。
「すぅーーーはぁーーー……」
私は大きく深呼吸をした。
「皆さまにもう一度お願いします。
わたくしに力を貸してください!」
そして改めてリスナーさんに向けて頭を下げる。
心の準備は出来ている。
頼もしい仲間もいる。
私はもう一人ぼっちの弱いビビアンじゃない。
(任せろ!)
(ガッテンでぇい!!!)
(当然!)
(ようやく私たちも役に立てるのね)
気持ちのいい返事が流れる。
(おい!何人か回復薬飲んだモブを安全な場所に移動できないか?)
(さっき確認したらギフトに『風魔法』ってあったから、それを何人かで使えば可能かも…)
(ここに来てギフトアイテムまでファンタジー!!)
(じゃあ私はそっち担当する!)
(私も!!!)
(あとの奴らはビビアンの援護だ!!!!)
(((おー――――!)))
そしてリスナーさんの頼もしさに
思い詰めていた心が軽くなっていく。
私はここにいていいんだ、と思える。
どんなに弱気になっても、どんなに絶望していても、
仲間というのはこんなにも気持ちを奮い立たせてくれるものなのね。
私は少し笑みを浮かべた後、スマホに背を向け
二、三歩離れた所でドラゴンの姿を探し始めた。
まだ濃い霧が辺り一面を包んでいる。
しかし一点だけ、霧でも分かるほどに、黒い影の中から鋭い眼光がこちらに向けられていた。
この距離でも、グルル……と威嚇するような声が聞こえる。
「……いましたわね」
もう迷わないと決めたのに、やはり本物を目の当たりにすると少しだけ怖い。
今、手元には武器もない。
私の仲間、リスナーさんの力を信じる他にないですわ……!
そのまま私は、真正面からドラゴンに向かって走り出す。
するとドラゴンは大きく口を開けた。
その様子から再び咆哮をあげようとしているのがわかる。
——来る!
また全身が硬直して動けなくなる、
私はそう思い少し身構えていたが、いつまで経ってもその咆哮は全く私に届かなかった。
いや、正確には“聞こえなかった”。
耳に違和感を覚え触れると
栓のような物が、私の耳にすっぽりと収まり、音を全て遮断していた。
そのおかげで動けなくならずに済んだようだった。
リスナーさんが守ってくれたのですわね!
走るのを止めない私を見たドラゴンは、
次の手と言わんばかりに今度は頭を低い位置に構える。
「噛みつくつもりですわね。
そうはいかなくってよ!」
私はドラゴンの攻撃を先読みし、足に力を込める。
(ビビアン!!)
(今よ!!!)
(飛べぇーーーーーーー!!!!)
ドラゴンの鋭い牙が襲ってくると同時に、私は地面を強く蹴り、高く飛びあがった。
目標を見失ったドラゴンは広げた口を閉じ、飛んだ私を追うように見上げる。
私はその見上げる動きを利用し、ドラゴンの頭を踏み台にして、さらに上空へと飛ぶ。
空中で私は、今までにないほどの大きな光に包み込まれた。
驚くほどに身体は軽く、力が漲ってくる。
リスナーさんが言っていた、極限まで怒ると金色の戦士になるとは
こういうことですのね!
そして、そのまま両手を大きく頭上に構える。
「今度は私の番ですわぁぁーー!」
その言葉と同時に光の中の物が姿を現す。
リスナーさんから送られてきたのは、
私の背丈の数倍はある、とんでもなく大きい“ハンマー”だった。
その柄を強く握り締め、ドラゴン目掛けて振り下ろす。
——と言うよりも、そのまま“落下”した。
「なんですのよこれ!重すぎですのぉぉぉぉーー!!」
体勢を立て直す事も出来ず、そのままハンマーの重さに任せて私も急降下する。
下を見ると、ドラゴンが翼を広げ後ろに下がろうとしているのが見えたが、こちらの方が圧倒的に早い。
ドラゴンの背中に到達する直前に私は思いの丈を叫んだ。
「喰らいなさい!これが“愛の鉄槌”ですわぁぁーー!」
——ドガッ!!
ハンマーがドラゴンの背中を直撃する。
鈍い音と共にそれを掴んでいた私の身体を衝撃が貫き、同時にドラゴンは悲鳴を上げる。
——グオオオオ!
そして私は落下の勢いのままドラゴンの背中に強く叩き付けられ、
転がりながら地面に投げ出される。
——ドン!ザザザザ……
激しい土埃がたつ。
全身が痛いし、息が苦しい。
辛うじて動く頭だけで、辺りの様子を窺う。
そこには先ほどまで私が握っていたハンマーに潰され、ぐったりと横たわるドラゴンの姿があった。
「や、りま……したわ……」
ドラゴンのそばに転がった巨大なハンマーは、役目を果たし光の粒となって拡散し消えた。
リスナーさんにもこの状況がしっかりと見えているようで、
私の周りには次々と回復薬らしき小瓶や包帯、中には何故か紅茶まで送られていた。
ごめんなさい……、今は動く事すら出来ませんわ……。
私がそのまま目を閉じようとしたその時だった。
グルル……という低い唸り声が鳴り響き
さっきまで横たわっていた巨体がゆっくりと起き上がる。
「っ……!?うそ…でしょ……?」
もうさすがに、戦えませんわ……。
やっぱり私なんかじゃダメでしたのね……。
悔しさのあまり拳を握り締める。
もうダメ……そう諦めかけた時、私はドラゴンの異変に気が付いた。
そこには、何やらもがき苦しむドラゴンの姿があった。
——オエッ、オエッ……
いったい何をしてるんですの……?
頭を大きく左右に振り、地面に叩き付ける動作を止めない。
——グォォォォォォーーーーーッ!!!!
しばらく続けると、
——ぽろっ
ドラゴンの口から“何か”が飛び出し地面を転がる。
光り輝くそれはまさしく、彼が必要としていた“クリスタル”だった。
私がハンマーごとドラゴンの背中に落ちた衝撃で、クリスタルが飛び出したんだわ。
つっかえていた物がようやく取れたドラゴンは、それでも相当な傷を負ったらしく、
ふらつきながらその場を離れていった。
次第に遠ざかる、ドラゴンの地面を震わせるような足音を聞きながら、
私の意識はだんだん遠くなっていく。
これで少しは、彼の役にたてたかしら。
薄れゆく意識の中で、周囲を覆っていた霧が少しずつ薄れ、
辺りには静寂が訪れていくのがわかった。
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